上 下
443 / 604

第442話【炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟】

しおりを挟む
謀反軍ハイランダーズアジト内にある二の間での戦い。

二刀を構える俺と向かい合うは、同じく二刀のバームとクーヘン兄弟だ。

バームとクーヘン兄弟は二人で一つのアーマーを操り、炎剣と氷剣の二刀流である。

片や俺は、タピオカ姫とエクレアを両手に持って兄弟たちと向かい合っていた。

右手のタピオカ姫はロングソード、左手のエクレアは細身のレイピアだ。

俺が微笑みながら前に一歩出た。

「じゃあ、始めようか、勇ましい兄弟さんたちよ!」

曇った声でバームとクーヘン兄弟が述べる。

「「貴様、卑怯だぞ……」」

こいつ、察してるな。

「はぁ~~ん。何が卑怯なんたよ?」

俺はわざとらしく演じると訊いた。

「「おなごたちを盾に取るとは……」」

「盾になんか取ってねーーよ。武器に使ってるだけだよ」

エクレアが言う。

「バームとクーヘン兄様、私たちを気にせずに戦ってくださいませ!」

「「だが、しかし……」」

バームとクーヘン兄弟は気付いているのだが、知らぬは人質となってる当人か──。

更にエクレアがバームとクーヘン兄弟に声援を飛ばす。

「兄様たちの力強い剣技なら、こやつに勝てますわ。だから我々を救いだしてくださいませ!!」

だから、その力強い剣技が問題なんだよ。

今度はタピオカ姫が述べた。

「ちょっとエクレア。あんたはどっちの味方なの!?」

「いや、どっちのって……」

「私たちはもうアスラン様の配下なのですよ。それなのに敵を応援するなんて筋が通らないですわ!?」

「いや、でも……」

「えー、なにー。また謀反ですか。また裏切るのですか!?」

「いや、そうじゃあないけれど……」

喧嘩する剣娘たちに俺が言う。

「まあ、二人とも黙ってろ。ここからは男同士の戦いだからよ」

「畏まりました、アスラン様!」

「御意……」

タピオカ姫は快く俺の言葉を受け入れたが、まだエクレアは納得しきっていないようだ。

それでも黙り込む。

「じゃあ、始めるぜ!」

「「むむっ!!」」

俺は先手を取るとアシンメトリーな甲冑に切り掛かった。

右手のタピオカ姫を振りかぶると袈裟斬りに振るう。

しかしその一打を氷剣が容易く受け止めた。

そこからの反撃。

炎剣が俺の腹部を狙って水平に振られた。

しかし俺はエクレアを盾にガードを築く。

だが、炎剣はエクレアと激突する前に止まった。

寸止めだ。

「「ぐぐっ!」」

その隙に俺は二打目と三打目を繰り出す。

タピオカ姫で下半身を狙い、氷剣でガードされると、弾かれる力を殺さずにロングソードで頭部を狙った。

しかし、それも炎剣で防がれる。

そこで氷剣の反撃が飛んで来た。

上段の兜割りで振り下ろされる氷剣だったが、俺がエクレアで頭部を庇うと剣と剣が接触する前に攻撃が止まる。

その隙に俺はタピオカ姫で胴を狙って振るった。

バームとクーヘン兄弟は、後方に後退すると紙一重で俺の斬打を回避した。

一連の攻防を見ていたエクレアが興奮気味に叫ぶ。

「バームとクーヘン兄様、何故に打ち込みを止めるのですか!?」

そう、二人は攻撃を躊躇している。

俺の作戦通りだが、やはりエクレアだけが気付いていない。

一早く俺の作戦に気が付いたタピオカ姫が述べた。

「アスラン様、ナイスな兵法ですわ!!」

「ナイスな兵法?」

「あら、エクレアはアスラン様の作戦に気付いてないのかえ?」

「作戦……?」

おしゃべりなタピオカ姫が俺の作戦を分かりやすく解説をする。

「細身のレイピアである貴女の身体を盾に使って、バームとクーヘン兄弟の攻撃を防いでいるのよ。あの二人の剣力ならば、貴女の身体を容易くへし折れるからね」

「なんと、私が人質!!」

ここで初めて俺の意を知るエクレアが驚きの声を上げていた。

「アスラン殿、なんと卑怯なり!!」

「わりーなー、エクレア。抗議は受け付けてないからさ~」

「それでも戦士ですか!? それでも武士ですか!?」

「いやいや、俺は戦士でも武士でもないからさ」

「それでは、何者!?」

「冒険者だ。ソロ冒険者だよ!」

「こんな卑劣な冒険者なんて見たことがございませんぞ!!」

「あー、もー、面倒臭いな~」

言いながら俺は壁際に向かって歩き出した。

「「貴様、何処に行く!?」」

俺はバームとクーヘン兄弟に背を向けたまま返答した。

「何処にも行かねーよ」

そして、エクレアを壁に立て掛けた。

それからレイピアの腹にロングソードを当てる。

「「ぬぬっ!?」」

「まさか……」

エクレアと兄弟たちが目を剥いて驚いていた。

分かってくれたらしいな。

自分たちの状況がさ。

「まさか、私を……」

「そう、正解──」

俺はエクレアに剣を翳した状態でバームとクーヘン兄弟に述べる。

「二人とも、武器を捨てて降伏しろ。降伏しなければ、彼女をへし折るぞ~」

「「貴様!!!!」」

「人質っ!?」

「アスラン様、ナイスな作戦ですわ!!」

この卑劣な状況に歓喜しているのはタピオカ姫だけであった。

「さあ、どうするバームとクーヘン。武器を捨てるか、彼女をへし折られるかだぞ?」

壁に立て掛けられた姿勢でエクレアが叫ぶ。

「アスラン殿、あなたはそれでも人間ですか!?」

「黙ってろ、アマちゃんのアマはよ。さあ、バームとクーヘン、どうするよ?」

俺の質問にアシンメトリーな甲冑を怒りに震わせながら、兄弟の二人は憤怒に堪える声を絞り出した。

「「我らが武器を捨てたら、彼女を助けるのか……」」

俺は満面の笑みで答えた。

「それは約束しよう」

「いけません、バームとクーヘン兄様。このような外道の言いなりになっては!!」

人質のエクレアが止めたがバームとクーヘン兄弟は、本体である炎剣と氷剣を床に捨てた。

床の上を跳ねた二本の剣が俺の足元まで滑り来ると、アシンメトリーなアーマーが崩れ落ちる。

勝敗が決まった。

「やりましたは、アスラン様。これでまた謀反軍の兵力が減りましたぞ!!」

タピオカ姫が歓喜の声を上げていたが、その他三本の剣は無言を貫く。

「はぁ~……」

俺は溜め息の後に炎剣と氷剣を蹴飛ばした。

二つの剣が床を滑って元の鎧に接触する。

「お前らは、馬鹿か!?」

「「!?」」

「もしも俺が腐れ外道だったら、全員皆殺しだぞ」

トーンを下げた口調でタピオカ姫が問う。

「ア、アスラン様、何をおっしゃっているのですか……?」

俺はタピオカ姫を無視して語る。

「人質を取るような卑怯ものは、勝利したら人質を殺してしまうぞ」

これは現実だ。

「人間世界には人質誘拐事件って犯罪があるんだよ」

「「人質誘拐……」」

「人質を取って金品を要求する犯罪だ」

「「それが、なんだ!?」」

「人質身代金要求誘拐事件で、身代金が犯人に払われた場合、その殆どの人質は殺される」

「「………」」

「何故なら、人質を取られた側は人質を助けるために身代金を払ったつもりでも、誘拐犯からしたら身代金を奪い取るのが目的だ。目的を達成されたら、人質を生かしとく理由が無くなる。逆に自分たちの足が付くかも知れないので、人質は生きていないほうが特である」

「「ぅ……」」

兄弟は察し始めている。

「だから、人質を取った側は、勝利した段階で人質を生かして置く理由が無くなるのだ。俺が言ってる意味が分かるか?」

「「我ら兄弟は、判断を謝ったと……?」」

「そうだ。お前らが取るべき行動は、人質が殺されても敵を打つべきだった」

「「だが、それでは人質が殺されてしまうぞ!!」」

「もう人質は、人質に取られた段階で死亡が確定しているんだ。それを覆したくば、降参するんじゃあなく、戦って勝ち取るしか道はない!」

シンメトリーな甲冑が動き出して炎剣と氷剣を握り閉める。

「どうだい、勉強になったろ?」

立ち上がったバームとクーヘン兄弟が答えた。

「「はい……」」

俺はエクレアを手に取ると異次元宝物庫に投げ込んだ。

「お前は俺に敗北したんだ。約束通り、俺の下に付いてもらうぞ」

「「…………」」

俺は異次元宝物庫を扉サイズまで開いてから言う。

「中で妹が待ってるぞ。次はちゃんと守ってやれ。それには俺も協力してやるからよ」

「「御意!」」

背筋を伸ばして歩むバームとクーヘン兄弟は、そのまま異次元宝物庫内に入って行った。

どうやら味方になってくれるようだ。

そして、俺の手にあるタピオカ姫に言った。

「お前は、結構糞女だな……」

「アスラン様ほどではございませぬよ~♡」

俺は全力投法でタピオカ姫を異次元宝物庫内に投げ込んだ。

「糞っ!!」

あの三人は心強いが、こいつはマジで糞だな……。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...