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第440話【四の間に報告】

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謀反軍ハイランダーズの支配するエリア。

そこは、四の間。

広い石畳の部屋に複数のハイランダーズが控えていた。

部屋の奥には一段高い場所が有り、そこには石の玉座が置かれている。

石の玉座はシンプルな装飾が施されており、背後から見たら墓標にも見えた。

その玉座に体格の良いフルプレートを纏ったハイランダーが腰掛けていた。

謀反軍リーダー、剣豪のティラミス。

年齢的には中年剣士だが、その剣技はハイランダーズの中でも一番だ。

異名は剣豪──。

力強い剣筋に、磨かれた剣技の数々。

その上に兵法も他者より一段ほど上だ。

そして何よりも野心が強い。

その野心は先代リーダーを失脚させてまでも新リーダーの座を奪うほどである。

名実ともに暗闇のハイランダーズエリアのナンバーワンだ。

そして、その外観も気取ったフルプレートを纏っていた。

ヘルムは獅子の面に銀の鬣を靡かせ、背中には赤いマントを勇ましく背負っている。

右肩のパーツは熊の頭部を象っており、左の肩は狼の頭部を象っている。

胴体は漆黒の分厚い装甲だが、腹筋部分が割れたデザインを採用しており、その下に大きな獅子面のバックルが輝いている。

更に膝から下には獣の皮が足に巻かれてルーズに飾っていた。

明らかに他のハイランダーズとは違う豪華絢爛な甲冑である。

そして、更に特徴的なのは本体である長剣だ。

他の者らはロングソードかショートソードサイズで腰から鞘に下げている。

なのにティラミスだけは腰には収まりきらないサイズの長剣だった。

鞘を長い杖のように立てながら柄の顔を皆に向けている。

長剣のサイズはグレートソードだ。

長さは豪華なフルプレートの背丈とほぼ同じ、おそらく180センチを越えているだろう。

剣幅も10センチ以上あるだろう極太だ。

この剣をティラミスは軽々と振るい、岩おもバターのように切り裂く。

敵ならば、馬上の騎兵を馬ごと両断できる腕前だ。

まさに剣豪の字が恥ずかしくない怪物剣士である。

その怪物剣士が自慢のグレードソードを抱えながら石の玉座に腰掛けていた。

その冷たい視線の先には配下のハイランダーズたちが控えている。

室内は静かだ。

ティラミスが沈黙を愛するクールなキャラを気取りたがるから他のメンバーが気を使って口を開かないのだ。

ただし、ティラミスも話し出すと饒舌な男である。

根はだいぶ明るい。

そんな静かな部屋に甲冑を弾ませて騒音を奏でるキャラメル師範が駆け込んで来る。

駆け足のキャラメル師範は部屋に入るや否や声を張った。

「ティラミス殿! ティラミス殿はおられますか!?」

「なんだ、騒がしい!」

玉座前に駆け寄ろうとしていたキャラメル師範が止められた。

眼前に長槍が割り込み先を塞ぐ。

「どうなされた、キャラメル師範?」

長槍をバリケード代わりにキャラメル師範を足止めしたのは長槍使いのパンナコッタだった。

長槍のパンナコッタはハイランダーズの中で唯一本体が剣でなく槍な男だ。

それは我が身を剣から槍に改造したけっかであるが、このパンナコッタたる男も曲者である

ハイランダーズの中では切れ者でしれわたり、ティラミスの参謀役を気取っているぐらいだ。

キャラメル師範が槍を払いながら言う。

「パンナコッタ殿、今は冗談に付き合っている暇は御座いませんぞ。事を急ぎますゆえ!」

「何事ですか?」

キャラメル師範は訊いてきたパンナコッタを無視して玉座に腰掛けるティラミスに言葉を飛ばした。

「ティラミス殿、敵襲でございますぞ!」

「敵襲?」

ティラミスが呟くように小さな声を漏らした。

だが、リアクションの薄さの割には間違いなく興味を抱いている。

「パンナコッタ、下がれ」

「ははっ!」

槍を収めたパンナコッタが一礼の後に後ずさる。

それを確認したティラミスが訊いた。

「その慌てかたからして、攻めて来たのはタピオカ姫では無いな?」

「はい!」

「誰じゃ?」

「人間のソロ冒険者でアスランと名乗って降りましたぞ」

「人間のソロ冒険者?」

言葉を反芻しながら首を傾げるティラミスは次の言葉を紡ぎ出す。

「ソロとは一人と言う意味だよな?」

「はい……」

「たった一人で、この閉鎖ダンジョンに挑んでいるのか?」

「左様で……」

「豪気な話よのぉ」

「しかも中々の使い手で、一騎討ちでエクレア殿を撃破しております」

室内がどよめいた。

「サシの勝負でエクレアに勝ったか」

「はい」

「それで、使うは剣か?」

「剣と体術の使い手でありました」

「体術?」

「柔です」

「これはこれは面白い。柔か──。しかもエクレアを倒すレベルの」

「その者の話では、タピオカ姫たちも打ち破り、配下に加えたとか」

「あの雑魚どもはどうでもいいわい。それで、エクレアは死んだのか?」

「エクレアも囚われました」

「生きておるか──」

その話を聞いていた男が一人動き出す。

その甲冑はアシンメトリーカラーだ。

右半分が赤く、左半分が青い。

腰には二本のロングソードが下げられている。

二人で一つの甲冑を操る炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟だ。

その動き出した背中にティラミスが声を掛けた。

「どうした、バームにクーヘン兄弟。どこに行く?」

シンメトリーな甲冑の男は足を止めたが振り返らずに答えた。

「「我らが出向いて、そのソロ冒険者を撃ち取ろうぞ」」

奇怪。

声が二つ重なっている。

「一人で行くか?」

「「相手が一人ならば、こちらも一人で十分でござる」」

他のハイランダーズが心中で突っ込みを入れていた。

(いや、二人だろ)

「相手はエクレアに勝ってる人間だぞ?」

「「我らもエクレアには何度も勝っております。幼少期ならまだしも、成人後は遅れを取るどころか、余裕の勝利を続けておりますぞ」」

「確かに、お前らはエクレアの二倍以上強いな」

(だって二人だもん)

「「我に取ってエクレアは妹も同然の娘。捨て置けませぬ」」

「勝手にせい。ただし兵は貸さんぞ」

「「御意!」」

そう述べるとアシンメトリーな甲冑を纏ったバームとクーヘン兄弟が部屋を出ていった。

するとティラミスがキャラメル師範に指示を出す。

「キャラメル師範。悪いがまた末路を見届けてもらえませぬか?」

「御意!」

「バームとクーヘン兄弟に何があっても手を貸さなくてOKぞ。結末だけの報告を優先なされ」

「畏まった!」

一礼したキャラメル師範も部屋を飛び出した。

バームとクーヘン兄弟を追う。


【つづく】
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