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第414話【白髪オヤジ】
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青い空、白い雲、暖かい太陽。
そして清々しく澄んだ空気。
俺は村の広場で村人たちと一緒に昼食を食べていた。
広場には長いテーブルが幾つも連なり、百人ぐらいの村人たちが和気藹々と食事を楽しんでいる。
老人も子供も一緒にだ。
笑顔のボルトン男爵が言う。
「この村じゃあ皆が平等だ。外貨の稼ぎがほとんどジャイアントサンライズ牧場だからな。そこで働いている村人たちが同じ稼ぎで食っている。だから晴れた日の昼食は、一緒に食べるって言う掟なんだよ」
村長が隣に座る俺に、パンが盛られた皿を回して来る。
俺もパンを一つ取ると皿を隣に回しながら問う。
「この村の人は、全員ジャイアントサンライズ牧場で働いているのか?」
ボルトン男爵がパンを齧りながら答えた。
「ああ、ほとんどがそうだ」
俺もパンを食べながら質問を続けた。
「それで、その牧場はどこにあるんだ?」
「村の外れの盆地にある。そこは岩山に囲まれていて、段差を越えられないジャイアントサンライズを閉じ込めているんだ」
「ジャイアントサンライズは、段差を越えられないのか?」
どういうことだろう?
「お前もジャイアントサンライズの体型を見ただろ」
「ああ、見た……」
真ん丸くて大きな燃える球体に、細くて長い足が生えていた。
そんな巨体で広野をノソノソと歩いていやがった。
巨大蜘蛛にも見えたが、あれは違うな。
だが、モンスターなのは間違いない。
「あいつら、運動神経がトロイんだ。自分の足の高さ以上の山や壁を越えられないんだよ」
「それは不憫だな」
「だから村外れの盆地に土手を築いて囲ってるんだ」
「じゃあ、なんであの三匹は逃げ出せたんだ?」
誰かボンミスでもかましたか?
ドジっ子でも居るのか?
「あの雌は一番の長寿なジャイアントサンライズでな。体が大きくなりすぎて、柵を跨げるぐらいに成長したんだ。今までの新記録だ。残りの二体は雌にしがみついて、一緒に柵を乗り越えたんだと思う」
「じゃあ、柵を乗り越えただけなら、牧場の牛のように追い回して柵に追い込めばいいじゃんか?」
「無理無理、試したが駄目だった」
「それで殺処分かよ?」
「仕方無いだろ。あれは大きくなりすぎた……。それに死体の甲羅も種火になるからな。殺して終わりってわけでもないんだ。死んでも商品なのは代わらない。ジャイアントサンライズに捨てるところ無しだ」
「なるほどね~」
捨てるところ無しってクジラかよ。
「まあ、ジャイアントサンライズの繁殖にも成功しているから、牧場からジャイアントサンライズが尽きることはないってわけなんだ」
「へぇ~、そうなんだ~」
「まあ、とりあえず飯を済ませよう。まだ村人は午後の仕事が残ってるからな」
「ああ、分かった──」
俺はパンとサラダをスープで胃袋に流し込む。
あまり美味しくない飯だった。
そして食事が済むと男たちは仕事に戻り、女たちが食器の片付けを始める。
また老人たちは日向ぼっこに戻った。
俺とボルトン男爵はそのまま話を続けていた。
「ところであんたも元軍人だとか聞いたから、自分でジャイアントサンライズを狩れるんじゃないか?」
「無理無理、俺は名ばかり軍人だったからな」
「名ばかり?」
「剣もダメ、戦術もダメ、チェスすらダメだ」
「よくそれで軍人ができたな?」
「俺の親父は王国の将軍派閥で高い地位に居た人でな。俺はその三男だ」
「三男……。ってことは、家を継げずに、この辺鄙な村に飛ばされたと?」
「正解!」
なかなか貴族にしては不幸なようだな。
「まあ、もともと俺は軍人にも向いて無かったから、これで良かったんだよ」
「野心の無いジジイだな」
「誰がジジイだ!!」
「だって白髪頭じゃあねえか」
ボルトン男爵が白髪混じりの頭をかきむしりながら言う。
「まだ俺は、三十二歳だ。これは、子供の頃からの病気の一種なんだよ……」
「病気って?」
「尋常性白斑って言う髪の色素が失われる病気らしいぞ」
なんじゃい、その小難しい病名は?
あれ、でもどこかで聞いたことあるな。
「誰に診断された病気だよ?」
この異世界は医学力が低い世界のはずだ。
なのに大層な病名を並べられる医者が居るとは思えないが。
「王都に居た名医なんだが、ちょっと頭が可笑しい人でな。腕は立つ医者なんだが、自分は異世界から来たとか言っていた」
異世界転生者キター!!
「な、なるほど……」
「その医者の診察で尋常性白斑って診断されたんだ。まあ、健康に害は無いらしいから、少し安心できたよ。最初は呪いか何かかと思ったんだぜ」
確か尋常性白斑って、マイケル・ジャク◯ンも掛かってた病気名だったような?
あれ、違ったかな……。
「まあ、この病気のせいで、十代のころはイジメられたし、女の子にもモテなかったがな……」
「今はモテるのか?」
「モテモテだ!!」
糞っ!!
死ね!!
「たまにソドムタウンに遊びに行くが、夜は寝かせてもらえないほどモテモテだ!!」
殺す!!
俺がこの手で殺す!!
「まあ、話をジャイアントサンライズに戻そうか──」
勝手に戻すな、白髪オヤジが!!
「ジャイアントサンライズを討伐するなら昼間がいいぞ」
「なんでだよ!?」
「あれ、何を怒ってるの……?」
「いいから続きを話せ!!」
「じゃあ……」
ボルトン男爵は一息付いてから続きを語る。
「ジャイアントサンライズは夜行性だ。だから昼間は動きが鈍い。それと明るいと視力が低くなる。俺たち人間が、夜に目が見えなくなるのと真逆だ」
「なるほどね! 糞っ!!」
「えっ、まだ何か怒ってるの……?」
「怒ってねーよ、夜行性なんだろ、夜行性!!」
「ああ、それに……」
「それになんだよ! ハッキリ言いやがれ!!」
「あいつらは黒い物は良く見えるが、逆に白い物は良く見えないようなんだ」
「なんでだよ!!」
「だから、何を怒ってるのさ!?」
「あー、分かったぞ。それでお前ら昼前に白装束で帰って来たんだな!!」
「ああ、そうなんだけど……。なんで怒るの?」
「うるせえやい!!」
よーーし、分かった!!
ならばこの怒りを昼間の内にぶつけてやるぞ!!
これから直ぐに広野に出向いて決戦だ!!
今日中にジャイアントサンライズを三匹とも討伐して、さっさとこのムカツク村から退散してやるぞ!!
【つづく】
そして清々しく澄んだ空気。
俺は村の広場で村人たちと一緒に昼食を食べていた。
広場には長いテーブルが幾つも連なり、百人ぐらいの村人たちが和気藹々と食事を楽しんでいる。
老人も子供も一緒にだ。
笑顔のボルトン男爵が言う。
「この村じゃあ皆が平等だ。外貨の稼ぎがほとんどジャイアントサンライズ牧場だからな。そこで働いている村人たちが同じ稼ぎで食っている。だから晴れた日の昼食は、一緒に食べるって言う掟なんだよ」
村長が隣に座る俺に、パンが盛られた皿を回して来る。
俺もパンを一つ取ると皿を隣に回しながら問う。
「この村の人は、全員ジャイアントサンライズ牧場で働いているのか?」
ボルトン男爵がパンを齧りながら答えた。
「ああ、ほとんどがそうだ」
俺もパンを食べながら質問を続けた。
「それで、その牧場はどこにあるんだ?」
「村の外れの盆地にある。そこは岩山に囲まれていて、段差を越えられないジャイアントサンライズを閉じ込めているんだ」
「ジャイアントサンライズは、段差を越えられないのか?」
どういうことだろう?
「お前もジャイアントサンライズの体型を見ただろ」
「ああ、見た……」
真ん丸くて大きな燃える球体に、細くて長い足が生えていた。
そんな巨体で広野をノソノソと歩いていやがった。
巨大蜘蛛にも見えたが、あれは違うな。
だが、モンスターなのは間違いない。
「あいつら、運動神経がトロイんだ。自分の足の高さ以上の山や壁を越えられないんだよ」
「それは不憫だな」
「だから村外れの盆地に土手を築いて囲ってるんだ」
「じゃあ、なんであの三匹は逃げ出せたんだ?」
誰かボンミスでもかましたか?
ドジっ子でも居るのか?
「あの雌は一番の長寿なジャイアントサンライズでな。体が大きくなりすぎて、柵を跨げるぐらいに成長したんだ。今までの新記録だ。残りの二体は雌にしがみついて、一緒に柵を乗り越えたんだと思う」
「じゃあ、柵を乗り越えただけなら、牧場の牛のように追い回して柵に追い込めばいいじゃんか?」
「無理無理、試したが駄目だった」
「それで殺処分かよ?」
「仕方無いだろ。あれは大きくなりすぎた……。それに死体の甲羅も種火になるからな。殺して終わりってわけでもないんだ。死んでも商品なのは代わらない。ジャイアントサンライズに捨てるところ無しだ」
「なるほどね~」
捨てるところ無しってクジラかよ。
「まあ、ジャイアントサンライズの繁殖にも成功しているから、牧場からジャイアントサンライズが尽きることはないってわけなんだ」
「へぇ~、そうなんだ~」
「まあ、とりあえず飯を済ませよう。まだ村人は午後の仕事が残ってるからな」
「ああ、分かった──」
俺はパンとサラダをスープで胃袋に流し込む。
あまり美味しくない飯だった。
そして食事が済むと男たちは仕事に戻り、女たちが食器の片付けを始める。
また老人たちは日向ぼっこに戻った。
俺とボルトン男爵はそのまま話を続けていた。
「ところであんたも元軍人だとか聞いたから、自分でジャイアントサンライズを狩れるんじゃないか?」
「無理無理、俺は名ばかり軍人だったからな」
「名ばかり?」
「剣もダメ、戦術もダメ、チェスすらダメだ」
「よくそれで軍人ができたな?」
「俺の親父は王国の将軍派閥で高い地位に居た人でな。俺はその三男だ」
「三男……。ってことは、家を継げずに、この辺鄙な村に飛ばされたと?」
「正解!」
なかなか貴族にしては不幸なようだな。
「まあ、もともと俺は軍人にも向いて無かったから、これで良かったんだよ」
「野心の無いジジイだな」
「誰がジジイだ!!」
「だって白髪頭じゃあねえか」
ボルトン男爵が白髪混じりの頭をかきむしりながら言う。
「まだ俺は、三十二歳だ。これは、子供の頃からの病気の一種なんだよ……」
「病気って?」
「尋常性白斑って言う髪の色素が失われる病気らしいぞ」
なんじゃい、その小難しい病名は?
あれ、でもどこかで聞いたことあるな。
「誰に診断された病気だよ?」
この異世界は医学力が低い世界のはずだ。
なのに大層な病名を並べられる医者が居るとは思えないが。
「王都に居た名医なんだが、ちょっと頭が可笑しい人でな。腕は立つ医者なんだが、自分は異世界から来たとか言っていた」
異世界転生者キター!!
「な、なるほど……」
「その医者の診察で尋常性白斑って診断されたんだ。まあ、健康に害は無いらしいから、少し安心できたよ。最初は呪いか何かかと思ったんだぜ」
確か尋常性白斑って、マイケル・ジャク◯ンも掛かってた病気名だったような?
あれ、違ったかな……。
「まあ、この病気のせいで、十代のころはイジメられたし、女の子にもモテなかったがな……」
「今はモテるのか?」
「モテモテだ!!」
糞っ!!
死ね!!
「たまにソドムタウンに遊びに行くが、夜は寝かせてもらえないほどモテモテだ!!」
殺す!!
俺がこの手で殺す!!
「まあ、話をジャイアントサンライズに戻そうか──」
勝手に戻すな、白髪オヤジが!!
「ジャイアントサンライズを討伐するなら昼間がいいぞ」
「なんでだよ!?」
「あれ、何を怒ってるの……?」
「いいから続きを話せ!!」
「じゃあ……」
ボルトン男爵は一息付いてから続きを語る。
「ジャイアントサンライズは夜行性だ。だから昼間は動きが鈍い。それと明るいと視力が低くなる。俺たち人間が、夜に目が見えなくなるのと真逆だ」
「なるほどね! 糞っ!!」
「えっ、まだ何か怒ってるの……?」
「怒ってねーよ、夜行性なんだろ、夜行性!!」
「ああ、それに……」
「それになんだよ! ハッキリ言いやがれ!!」
「あいつらは黒い物は良く見えるが、逆に白い物は良く見えないようなんだ」
「なんでだよ!!」
「だから、何を怒ってるのさ!?」
「あー、分かったぞ。それでお前ら昼前に白装束で帰って来たんだな!!」
「ああ、そうなんだけど……。なんで怒るの?」
「うるせえやい!!」
よーーし、分かった!!
ならばこの怒りを昼間の内にぶつけてやるぞ!!
これから直ぐに広野に出向いて決戦だ!!
今日中にジャイアントサンライズを三匹とも討伐して、さっさとこのムカツク村から退散してやるぞ!!
【つづく】
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