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第412話【種火の元】

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うむ、何度目の茶番だろうか。

まあ、いつものことかな。

「奥様、アスラン様、お茶が入りました」

俺とマヌカハニーさんが向かい合い裏庭のテラスに腰を下ろしていると執事の爺さんが紅茶と茶菓子を持って来てくれた。

カップは三つあるがワイズマンは壁際でまだくたばっていやがる。

まあ、俺には見えてないがな。

「ありがとう」

マヌカハニーさんが礼を述べると執事の爺さんは後ろに下がる。

「旨そうな茶菓子だな。頂くぜ~」

「どうぞ、頂いてくださいませ」

甘いマカロンのようなお菓子だった。

この異世界にも甘い食べ物はあるにはあるが、なんとも雑な食べ物が多い。

デザート気分で食べられる上品なお菓子は僅かで貴重なのだ。

「あま~~~い。旨いなこれ!」

「昨晩行われたお城のパーティーで出していたワイズマン商会の新作ですわ」

「へぇ~~、ワイズマンのところってお菓子もやってるんだ」

「貴族用は手広くね。何せ儲かりますから」

俺は手にあるマカロンを一口で食べてからお茶を啜った。

本当に旨い旨い。

それから問う。

「で、改めて訊くけれど、俺に依頼したいって言う仕事の内容はなんだい?」

「弟から既に聞いていると思いますが、ゴモラタウンから西に行った地域を統治している男爵様からの依頼です」

「ジャイアントサンライズ退治だってマヌカビーさんから聞いていたが」

「はい、討伐対象は雌のジャイアントサンライズになります」

「雌?」

「どうやら産卵期が近いらしくて、産卵が始まる前に討伐してもらいたいとか」

「えっ、産卵するの……」

「それはまあ生き物ですから、子供だって産むのではないでしょうか」

まあ、当然か……。

モンスターだって生き物だ。

交尾もすれば子作りだってするよな。

「ところでなんでゴモラタウンの冒険者や兵隊に討伐を依頼しないんだよ?」

マヌカハニーさんは溜め息のあとに語り出す。

「対象が極秘な依頼条件なのですよ」

「極秘? 何故だ?」

「いかがわしいからでしょうね……。城や巷に知られたくない事情があるのでしょう」

「それをマヌカハニーさんは知ってて依頼を受けているのか?」

「当然です……」

「なんだ、理由を聞かせてくれ」

「理由を知るってことは、依頼を受けるってことになりますよ?」

「ああ、もう仕事は受ける気満々だからさ、さっさと理由を聞かせてよ」

ならばとマヌカハニーさんが語り出す。

「依頼人の名前はボルトン男爵と言いまして、小さな領土を授かってる軍人あがりの貴族です。その方が領土内でジャイアントサンライズを囲っているのですよ」

「囲ってる?」

「そう、分かりやすく言えば、飼っている。飼育しているのほうが正しいでしょうか」

「珍獣のマニアか?」

「いえ、利益のためです」

「金儲けなの?」

「はい。その利益は我々ワイズマン商会に繋がっています」

なるほどね。

ワイズマンと組んで何かで儲けているってことか。

マヌカハニーさんが執事の爺さんに言う。

「ここに種火の小瓶を持ってきてくれませんか」

「既にこちらに──」

そう答えた執事の爺さんが小瓶をテーブルの上に置いた。

瓶の中に小さな火が燃えている。

その火の大きさはマッチの火よりも小さい。

とても夜の明かりとして頼るには小さすぎるだろう。

うっすらだが魔力感知に反応している。

小さく青く光っているが、その光りも小さい。

マジックアイテムと呼べるかも怪しいレベルだ。

「なんだい、この火は?」

「ただの種火です」

「種火?」

「この種火は、大体一ヶ月は燃え続けます」

「長持ちだな」

「これをワイズマン商会で、民衆に一つ10Gで販売しています。瓶はリサイクルされて、中の種火だけが商品として売られていますわ」

「えっ、買う人がいるの?」

「アスラン様は、キャッチファイアーやライト系の魔法が使えますか?」

「ああ、どちらもあるぞ」

「なるほど、凄いですね。ですが、この世界ではどちらも使えない民衆がほとんどです」

「えっ、そうなの?」

「まず魔法は使うのに素質が必要となります。その素質をほとんどの人間が持っていません。更にコンビニエンス魔法を習得できるかできないかと、更に更にと幅は狭まります」

あー、そうか。

魔法使いがそもそもレアなんだっけ。

自分が何でもかんでも魔法を習得できるから、その辺の感覚が麻痺していたよ。

更にマヌカハニーさんの話が続く。

「この種火があれば、部屋のランプに明かりを灯したり、料理の釜戸に火を付けたりする際に、火口を使わなくてすみますからね」

火口って石と石でカンカンってやって火を付けるヤツだよな。

あれって、大変そうだよね。

やったことないけれどさ。

「容易いは金になるってか」

「その通りです。たかが一月10Gでも千人に売れれば10000G、一万人に売れれば100000Gですからね。我々ワイズマン商会は、これを近隣の町と言う町全てに流通させています」

「もしかして、この種火を取ってるのが、その男爵で、元がジャイアントサンライズなのか?」

「察しの通りですわ。この種火はジャイアントサンライズの脱皮した殻から作られているのですよ」

「脱皮の殻……」

ええー……。

ジャイアントサンライズって脱皮するんだ~……。

「でえ、ならば何故にジャイアントサンライズの討伐に繋がる?」

「ボルトン男爵は、密かに地下でジャイアントサンライズを複数飼っているらしいのですが──」

ええーー……。

複数も居るのかよ~……。

ジャイアントサンライズ牧場があるのね……。

「そこから数体が逃げ出したらしくて。その中には雌も居るとか。しかも産卵期が近いと来てます」

「完全な管理ミスだな」

「その逃げたジャイアントサンライズを討伐願いたいとの依頼です。できるだけ秘密裏に……」

「ジャイアントサンライズの牧場があることも、そこから逃げたしたことも、種火がジャイアントサンライズから取れることも秘密なのね」

「この話は、アスラン様が夫の親友だからこそ話した内容です。他言せずようお願いしますわ」

「ワイズマンの親友ではないが、マヌカハニーさんのお願いなら秘密にしとくよ」

「ありがとうございます」

マヌカハニーさんが頭を下げた。

俺は真面目な顔で言う。

「その代わりにお願いがあるんだ」

マヌカハニーさんがキョトンとしながら訊く。

「なんでしょうか?」

「オッパイ揉ませて!」

ぐっぐっぐっ……。

心臓が痛む!!

だが、まだ耐えられる!!

「わたくしめと不倫がしたいと……」

マヌカハニーさんの目が怖くなる。

瞳孔が小さく狭まり白目が光る。

こわっ!!

一瞬で心臓の痛みが消えたわ!!

しかし、次の瞬間である。

マヌカハニーさんが頬を赤くしながら横を向いてボソリと言った。

「夫のテクニックはお粗末で、正直なところ物足りなかったのです。乳ぐらいならば、構いませんよ……」

マーージーーでーーー!!!

ぐぎゃぁああああ!!!

心臓が爆発寸前だぁぁあああ!!!

人妻パラダイスだぁぁあああ!!!

恥ずかしがるマヌカハニーさんが、豊満な胸を両腕で抱え上げるように抱き寄せながら言う。

「どうぞ、アスラン様。主人は気絶していますし、執事は口が固いですから、思う存分お揉みくださいませ……」

マーージーーかーーー!?

マジですかーーー!?

畜生ぉぉおおおお!!!

心臓が破裂しそうだ!!!

マジやべーーー!!!

死ぬ!!!

「マ、マヌカハニーさん。冗談ですよ……。新婚ほやほやの新妻のオッパイなんて揉めませんがな……」

マヌカハニーさんがクスリと笑ってから言う。

「あら、何を本気になされているのですか、アスラン様。冗談ですよ。私はアスラン様に体を許すほど変態ではありませんわ。夫と違うのですから」

マヌカハニーさんがニコニコしながら言っていたが、俺は心の中で血の涙を流していた。

何故に俺は乳も揉めないぐらい呪われているんだ!!

巨乳だぞ、巨乳!!

畜生っ!!

糞女神が!!!


【つづく】
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