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第392話【ビキニアーマーダンジョンの住人たち】

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掃除されたエリアは迷路だった。

複雑に入り組む通路や階段。

マップを築けば上と下とで通路が交差するポイントも幾つかあった。

そんな複雑な迷路がすべて綺麗に掃除されている。

これだけ広い迷路をここまで綺麗に掃除するとは歓心な仕事だな。

塵の一つも無い。

ある意味で頭が可笑しいヤツが住んでいるのだろう。

埃も無いから足跡も無い。

だからまったくもって何が何匹住んでるか見当も付かない。

兎に角迷路を進んで掃除している輩の住家を見つけ出さなければなるまい。

それにしてもイライラするな、この迷路……。

もう三十分は放浪しているぞ。

「どこまで続くんだ、この迷路は……」

そんな感じで俺がイライラしていると、足元でカチッと音が鳴った。

「あー……、トラップの作動ボタンだな。うん、踏んじゃったよ……」

するとゴゴゴゴっと音を響かせながら足場が動く。

自動で通路全体が傾いた。

俺が来た通路が縦に上がり、進もうとしていた先が下りとなる。

通路が坂道になったのだ。

「な、なんだ……?」

すると、後方の上のほうでドンっと音が轟いた。

何か大きく重い物が落ちた音である。

俺の足元まで振動が届くほどの重低音だった。

その重低音が続いてゴゴゴゴっと近づいて来る。

「これは……」

俺は後方の坂道をランタンで照らしたが暗くて見えない。

だが重低音は迫って来る。

俺は魔法でウィル・オー・ウィスプを召喚した。

【魔法ウィル・オー・ウィスプ。光の精霊を召喚して、簡単な指示を与えることができる。一日にレベルが10おきに一体召喚できる。召喚時間は術者レベル×かける3分程度】

ウィル・オー・ウィスプは野球のボールサイズの光玉だった。

光は大きく周囲を照らし出す。

俺はウィル・オー・ウィスプに指示を出した。

「後方に飛んで奥を照らすんだ!」

ウィル・オー・ウィスプはクルリと回った後に奥に飛んで行く。

そして、15メートルほど進んだところで転がって来た巨大なローラーを映し出した。

それは通路全体を隙間無く平に出きるほどの大きなローラーだ。

トラップは地獄のローラーである!!

「マージーでー!?」

ウィル・オー・ウィスプは巨大ローラーを映し出した瞬間に潰された。

俺はウィル・オー・ウィスプを心配することなく坂道を全力で走って逃げる。

「のわわわわーー!!」

あの巨大ローラーに追い付かれたらペシャンコになるのは間違いないぞ。

鉄球と違って両隅に僅かなスペースすらない。

閉鎖ダンジョンの時のように逃れる術が無いのだ。

「うほーーー!!!」

俺は全力で走って下った。

久々のランニングにスキルが有ることを本当に感謝しています。

「なろーーーう!!!」

もう追い付かれる!!

真後ろでローラーが転がる振動が伝わって来るほどに近い。

あっ、真っ直ぐ下る通路の横に右に逃れる通路が有るぞ。

「そらっ!!」

俺は何も考えずに、その通路に飛び込んだ。

「ぐほっ!!」

通路に飛び込んだ俺は壁に身体を激突させて止まった。

すると横の通路を地獄のローラーがゴゴゴゴっと過ぎて行く。

「助かった……」

俺が溜め息をつくとローラーが最終地点に行き着いたのかドシンっと大きな音を鳴らしていた。

俺は尻餅をつく。

「やべーレベルのトラップも有るじゃあねえか……」

俺が愚痴りながら周囲を見ると、そこは3メートルほどの幅がある通路だった。

奥を見れば10メートルほど先に鉄の扉がある。

俺はトラップを探り、扉の奥の気配を探った。

「異常無しだ」

俺は鍵を開けて扉を開く。

奥に上りの階段が有る。

俺はスタスタと階段を上った。

「行き止まりだ」

階段は天井が木の板で塞がれている。

「扉かな?」

俺が手で天井を押すと木の板が持ち上がる。

部屋だ。

狭い部屋で四畳半ぐらいの倉庫である。

部屋の中にはタンスや木箱が幾つも置かれていた。

その奥に細い通路が一つ見える。

「物置かな?」

俺はタンスの引き出しを一つ開けて見た。

中にはビキニアーマーがたくさん入っている。

「これは……」

更に近くに在った木箱も開けてみた。

やはり中はビキニアーマーだ。

他のタンスや木箱も調べたが、ビキニアーマーしか入っていない。

しかも、どれもこれもマジックアイテムではない。

「近いな……」

俺は察する。

これだけのビキニアーマーが保存されているのだ、このビキニアーマーの元凶が近くに巣くって居るのだろう。

俺は横に有る細い通路に入って行った。

その通路は人が一人通れる程度の細い道である。

その細い道を抜けると広い部屋に出た。

直ぐに目に入って来たのは巨大な石像だった。

部屋は長方形で横15メートル縦25メートルほど。

天井は高い。

教会なのか長椅子が並んでおり、その奥に祭壇が有る。

更にその後ろに巨大な石像が建てられていた。

巨大石像は男性の石像だったが、当然ながらビキニアーマーを身に付けている。

「ここが、本拠地だな」

気配がする。

教会内の隅々から複数の気配がするのだ。

だが、殺気まで感じられない。

敵ではないのかな?

俺は声を張った。

「居るんだろ、分かってるんだ。出てきやがれ!!」

俺が叫ぶと、しばらくして小人が長椅子の陰から複数の頭を出した。

萎れた三角帽子を被った小人が二十匹ほど居やがる。

小人のサイズはゴブリンより少し小さいぐらいで、肌は土色なのに顔は艶やかで優しそうな顔付きだった。

そいつらは怯えた表情でこちらを覗き見ている。

ネーム判定では【ノーム】と出た。

ノームっていやあ、大地の精霊だよな?

この世界だと、ドワーフやホビットに近い亜種だろう。

それにしても、なんでここに?

俺はノームたちに声を掛けた。

「お前らノームだろ?」

長椅子に隠れるノームたちは怯えた眼差しで俺を警戒しながら覗き見ているだけだった。

そりゃあそうだろうな。

突然武装した冒険者が自宅に押し掛けて来たんだ。

弱い妖精ならば警戒だってするさ。

「しゃあねえか……」

仕方無いとランタンを長椅子に置いた俺は防具を脱ぎ捨てて衣類も脱いだ。

そして、全裸になった俺は倉庫から一着のビキニアーマーを取って来ると、それを裸体に着込んだ。

「久々のビキニアーマーだな。股間がスースーするぜ」

すると怯えていたノームたちが長椅子の陰から出て来る。

少し不思議そうな表情をしていた。

そして、ノームたちの姿はやはりビキニアーマーだった。

小人のサイズにマッチした子供用のビキニアーマーを着込んでいやがる。

ビキニノームの一匹が言う。

「お前もビキニアーマーか……?」

俺は満面の笑みで言ってやった。

「そうだ、俺はビキニアーマーだからお前らの仲間だ!」

「仲間……」

ノームたちは各々の顔を見回して確認を取る。

そして、何かを理解したようだ。

「ビキニアーマーは皆仲間だ~!」

万歳をしながらビキニノームたちが飛び出して来た。

俺を囲むと下半身にハグして来る。

「なーかま、なーかま!」

「こらっ、股間に顔を押し付けるな!!」


【つづく】
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