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第386話【懐かしのグレートプレーン平原】

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俺たち三人は見習い魔法使いたちがマジックアイテムを修復していた大部屋を出ると、更に魔法使いギルドの地下を目指して進んで行った。

魔法使いギルドは広い塔の中にあるのに、更に地下まで深く根を伸ばしているとは恐れ入る構造だった。

上にも下にも進めるのだ。

そして、幾つかの階段を下りた俺たちはヒュパティア婆さんに狭い部屋へと通される。

そこは四畳半ぐらいの地下室で、何やらいろいろな荷物がところ狭く積まれていた。

当然地下なので窓も無い。

だから空気も淀んでいた。

スバルちゃんが問う。

「先生、ここはなんですか?」

「見て分からない。倉庫よ」

ヒュパティア婆さんは質問に答えると部屋の中央にある白い布に手を掛けた。

その白い布は、2メートルほどの高さが有る本棚サイズの家具に掛けられた風呂敷だった。

「それ~」

ヒュパティア婆さんが掛け声と共に布を剥ぎ取った。

布の中から姿を現したのは、ただの扉である。

勿論建物には接地されていない扉だ。

扉の後ろには荷物が積まれている。

再びスバルちゃんが問う。

「何ですか、このドアは?」

「これに魔法を施せば、私の自作ダンジョンに繋がるのよ」

「ゲートマジックですね!」

「そうよ、ゲートマジックよ」

予想するにゲートマジックとは、この扉を何処でもドアに変える魔法だろう。

ファンタジーには有りがちなアイデアだな。

「じゃあ、魔法で繋ぐわよ」

ヒュパティア婆さんがドアに手を当てると何やら魔法を唱え始める。

するとドアの隙間から目映い光が漏れ出た。

その光は直ぐに消える。

「はい、終わり。じゃあグレートプレーンのダンジョンに向かうわよ」

「はい、先生!」

「了解」

ヒュパティア婆さんが扉を開くと、薄暗い部屋の向こうが目映い平原に繋がっていた。

これはこれで凄いな。

転送絨毯とは違う仕組みだが便利そうだ。

そんな感じで俺が感心していると二人が先に扉を越えて平原に進む。

「扉の裏側って、どうなってるんだろ?」

俺は扉の裏側を覗いたが、結構詰まらない結果にがっかりする。

ただの闇だった。

「ほれ、小僧。早く来なさいな」

「へいへい」

急かされたので俺も扉を越える。

そこは狭い倉庫とちがって、だだっ広い平原だった。

遠くに山脈が見えるばかりだ。

日差しが眩しく、風が埃っぽい。

「あれ、ここって……」

「どうしました、アスランさん」

「いや、なんでもない……」

スバルちゃんが訊いてきたが、俺は本心を答えなかった。

ここは、俺が全裸で初めて転生させられて来た平原だ。

間違いない、懐かしいな。

ここってグレートプレーンって言うんだ。

「ところで先生、ダンジョンはどちらですか?」

周囲を見回しながらスバルちゃんが訊いた。

確かに見渡す限り建物らしい影は見えない。

ただただ平原が広がっているばかりだ。

ヒュパティア婆さんが長いスタッフをスバルちゃんの顔に近付けながら言う。

「じゃあ、授業です。魔法使いが研究成果を保ったまま転生するのに必要な埋葬時間は何年ですか?」

スバルちゃんはサラリと答える。

「最低でも百年。すべてを得たまま転生するには千年は掛かるとか」

「正解よ。千年間、自分の研究成果を漁られずに保てれば、すべてを次の転生に持ち越せると言われていますわ」

言われている?

曖昧な言いようだな。

ヒュパティア婆さんの話は続く。

「ならば、その遺産を守るためにダンジョンを作って防衛するのですが、その防衛で最大の防御方法は何かしら?」

スバルちゃんが答える。

「遺産を守ってくれる強いモンスターの確保ですか?」

「ハズレ」

ヒュパティア婆さんが意地悪げに舌を出した。

「強いモンスターも効果的だけど、それ以上の防衛方法は、ダンジョンが発見されないことよ」

「発見されない……?」

スバルちゃんは首を傾げていたが、俺には直ぐに理解できた。

ピラミッド以外のエジプト王家の墓がなかなか発見されなかったのは、砂漠の真ん中に、砂に埋もれていたからだ。

俺は地面を見回した。

「ここが怪しいな」

俺はしゃがみこんで砂を払う。

すると平たい石が出て来る。

明らかに人の手で加工された石面だ。

「正解よ、鋭いわね」

「それほどでも有るがな!」

「このぐらいで威張らないの」

「へいへい……」

唖然としながらスバルちゃんが言った。

「もしかして、ここがダンジョンの入り口ですか……?」

「そうよ。ダンジョンの入り口が見つからないのが一番の防衛なのよ」

だだっ広い平原のド真ん中に、こんな感じで入り口を隠されたら、普通は見つからないだろう。

「でもよ──」

俺はふと思ったことを口に出す。

「これだとダンジョンが熟さないだろ。入り口が塞がっていればモンスターが入って来ないだろ?」

ヒュパティア婆さんがドヤ顔で答える。

「その対策も打ってあるわよ」

「どんな対策だ?」

「異次元落とし穴よ」

「落とし穴……?」

「一方通行の異次元転送魔方陣をモンスターの生息地にセットしてあるの。そこからモンスターが落ちて来るって仕掛けよ」

「一方通行の異次元転送か……。なかなか考えてやがるな」

ヒュパティア婆さんが目を三日月型に微笑ませて言う。

「伊達に五百年以上も生きてないわよ。舐めないでね」

こりゃあ、こいつの作ったダンジョンは舐められないかも知れないぞ……。

「じゃあ、石扉を開けてちょうだいな。そこからは貴方一人で行ってね」

するとスバルちゃんが声を張った。

「私も行きます!!」

俺はその言葉を無視して石扉を隠す砂を手で払い除ける。

スバルちゃんはなかなか俺が答えないのでソワソワし始めた。

「よし、開けるぞ!」

俺は力任せに石扉を開けた。

重かったが一人でなんとか開けられた。

すると石作りの階段が姿を現す。

それから俺はスバルちゃんに言った。

「スバルちゃんは足手惑いになるから、ここで待っててくれ」

「大丈夫です。私も行けます!」

「いや、邪魔だから」

「邪魔……?」

「うん、すげー邪魔」

「そんなに邪魔ですか……?」

「だってスバルちゃんが一緒に来たら、怪我させられないじゃんか。そうなると俺が思いっきり戦えないだろ」

「私も戦えます!!」

「リストレイントクロス!」

「きゃーー!!」

俺はスバルちゃんを束縛魔法で拘束した。

スバルちゃんは踠くが束縛魔法から逃れられない。

「更にリストレイントクロス!」

「何故私にぃいい!!」

今度はヒュパティア婆さんに束縛魔法を掛けた。

しかし──。

「なんのこれしき!!」

ヒュパティア婆さんは俺の束縛魔法を容易くレジストした。

十字の魔法が砕け散る。

「この程度の魔法が私に効くと思うたか!!」

「いや、これっぽっちも思ってないぞ」

「じゃあ何故じゃ!? また老人虐待か!?」

俺は怒るヒュパティア婆さんを無視して動けないままのスバルちゃんに話し掛けた。

「なあ、見たろ。こんな婆さんが作ったダンジョンだぞ。俺の魔法もレジストできないスバルちゃんかついてきても、怪我をするだけだ」

「だけど……」

「だけども糞もねえよ。スバルちゃんは俺が冒険から帰ってくるのをいつでも待っててくれればいいんだよ」

「そ、それって、あなたが舟で私が港ってことですか……?」

舟?

港?

えっ、何を言ってるの、この子は?

よく分からんが、そう言うことにしておけば納得してくれるのかな?

「まあ、そういうことだ」

「はい、分かりました!!」

あれ、すげー目が輝き出したぞ……?

「私は、いつでもどこでもあなたの帰りを待っていますわ!!」

「あ、ああ……」

なんか少し違う気がするが、まあいいか……。

これで心置きなく一人で冒険が楽しめるぞ。


【つづく】
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