372 / 604
第371話【投獄されし者】
しおりを挟む
今度は縦格子の扉だ。
一枚目の鉄扉を開けてから縦格子の扉が三回続いている。
人が一人やっと通れそうな通路に、鉄扉に続いて縦格子の扉が三回も続いた。
そのどれにも鍵が付いていた。
今俺の前に在る三枚目の縦格子の扉には、錠前が三つも並んで付いている。
厳重だ──。
螺旋階段の最下層で、鉄扉に続いて三枚の鉄格子──。
厳重過ぎる。
この熱風が吹き出す通路の奥に、何が投獄されているのだろうか?
熱風に混じって霊気も飛んで来ることから、奥に居るのはアンデッドだろう。
だが、差程強い霊気ではない。
上の謁見室で出合ったマミーレイス婦人に比べれば小者だ。
なのにここまで厳重に投獄するのだろうか?
俺は覚えたてのロックピッキングで三つの錠前を上から順々に外して行った。
あっ、トラップも有るぞ。
危ないなー。
扉を開ける寸前でトラップ感知スキルが発動したぜ。
でも、どんな仕掛けのトラップかは分からない。
んー、ここにフックが在る。
扉が引かれたら発動するのかな?
ならば……。
俺は鉄格子の扉に紐を括ると3メートルほど離れた。
「このぐらい離れればいいか?」
そこで紐を引いてみた。
ガタンっと扉が開くと同時に壁から矢が飛び出した。
左右の壁から複数のボルトが飛び出したのだ。
なるほど、壁の中にクロスボウでも埋まっていたのだろう。
よし、まあこれでトラップは無くなった。
安心して先に進もう。
そんなこんなあって俺が通路の先に進んで行くと、薄暗い広い部屋に出る。
その部屋の半分から先には鉄格子の壁が列び、その奥には鍛冶屋の作業場が広がっていた。
轟々と燃える釜。
石の台座に並ぶ金床。
大小様々なハンマー。
そして、鉄格子のこちら側の壁には複数の武器が立て掛けられていた。
その鉄格子には強い魔力を感じる。
この鉄格子自体がマジックアイテムだ。
誰か居るな?
鉄格子内の鍛冶屋スペースを見れば、木の椅子にスケルトンが一体だけ座っていた。
熱風の正体は釜戸の熱で、霊気の正体は、このスケルトンだろう。
『おや、人間か?』
しゃべった。
このスケルトンは知能が有るぞ。
「あんたは誰だい?」
『その昔、魔王に仕えた罪で囚われた、哀れな魔族だよ』
「魔族のスケルトン?」
するとスケルトンの背後から骨の翼が広がった。
羽の有る悪魔か──。
俺はネーム判定を試みたが反応しない。
おそらく俺たちの間に在る魔法の鉄格子が妨害しているのだろう。
スキルを阻む鉄格子か……。
厄介な檻だぞ。
『昔はレッサーデーモンだったが、死しても探究心が収まらなかったせいで、今ではこの姿だ』
「何を探究したんだ?」
『この住まいを見て分からんか?』
「鍛冶屋仕事か?」
『正解』
「何故、囚われ続けてる?」
『それより戦後何年が過ぎた。俺も三百年までは数えていたんだがな……』
「五百年ぐらいって聞いてるぞ」
『そうか、五百年か……。思ったより時間が過ぎてないな。忘れられるには早すぎだろう』
おっ、出た。
悪魔ジョークだよ。
「それで、忘れられたって?」
『昔、ここに投獄されるさいに言われたんだ。覚えてたら出してやるってな』
「でぇ、忘れられたと?」
『人間との約束だ。約束した人間も、もう死んでいるんだろ』
「なるほどね」
『それで、お前さんは誰だい。新しい魔王か?』
「ただのソロ冒険者だ。名前はアスラン」
『そうか、アスランか。これでもデーモンの端くれに、本名を名乗るなんて愚行だぞ』
「あっ……」
まずったかな?
『まあ、アンデッドに落ちた俺に、もうそんな悪魔らしい力は無いがな』
よし、安心!
「でぇ、あんたの名前は?」
『プロフェッサー・クイジナート。鍛冶仕事にはまった悪魔の教授だ』
あー、カシナートの元ネタね。
『それで、お前は俺の救いか?』
「場合によるな。何が出来て何が出来ない?」
『鍛冶仕事以外、何も出来ない。ここから一人で出ることも出来ないし、スケルトンだから弱いぞ』
「確かに強い霊気は感じられないな」
『炊事洗濯掃除も苦手だ』
「本当に何も出来ない駄目亭主みたいだな……」
『それで、俺を出してくれるのか?』
「出たいか?」
『もう外の世界に興味が無い。だが、ここには鉱物が無いんだ?』
「鉱物?」
『鍛冶仕事をするのに鉱物は必須だが、もう武具を溶かし直しても作る鉄が無い。溶かし直して作り直すと少しずつ蒸発して減っていき、いずれ無くなるんだ』
蒸発して鉱物が無くなるほど、何度も作り直しているのかよ。
俺は周りを見て言う。
「まだこっちには武具がたくさん在るぞ?」
『手が届かん……』
「なるほど……」
俺は黙って数本の剣を檻の中に放り込んだ。
『おお、優しいな、お前は!?』
「しばらくそれで我慢しろ。この檻は魔法の鍵で閉じられているから、俺じゃあ開けられない。だから、しばらくしたらどうにかしてやるよ」
『いや、鉄さえ在れば、それで結構だ。これで百年ぶりに仕事が出来るぞ!』
スケルトンレッサーデーモンのプロフェッサー・カイジナートは釜戸の火を煽る。
室内が更に熱くなった。
あの釜戸はマジックアイテムだな。
だって燃料が何百年も尽きないわけがない。
でも、こいつには他にも秘密が有るはずだ。
でなければ、こんなに厳重に投獄する分けがない。
こんな地下に鍛冶屋の仕事場を作ってまでの投獄だぜ。
絶対に何か有るぞ。
まあ、いいさ。
いずれ分かるだろう。
こうして俺は引き返した。
螺旋階段を上って今度は魔王軍のエリアを目指す。
【つづく】
一枚目の鉄扉を開けてから縦格子の扉が三回続いている。
人が一人やっと通れそうな通路に、鉄扉に続いて縦格子の扉が三回も続いた。
そのどれにも鍵が付いていた。
今俺の前に在る三枚目の縦格子の扉には、錠前が三つも並んで付いている。
厳重だ──。
螺旋階段の最下層で、鉄扉に続いて三枚の鉄格子──。
厳重過ぎる。
この熱風が吹き出す通路の奥に、何が投獄されているのだろうか?
熱風に混じって霊気も飛んで来ることから、奥に居るのはアンデッドだろう。
だが、差程強い霊気ではない。
上の謁見室で出合ったマミーレイス婦人に比べれば小者だ。
なのにここまで厳重に投獄するのだろうか?
俺は覚えたてのロックピッキングで三つの錠前を上から順々に外して行った。
あっ、トラップも有るぞ。
危ないなー。
扉を開ける寸前でトラップ感知スキルが発動したぜ。
でも、どんな仕掛けのトラップかは分からない。
んー、ここにフックが在る。
扉が引かれたら発動するのかな?
ならば……。
俺は鉄格子の扉に紐を括ると3メートルほど離れた。
「このぐらい離れればいいか?」
そこで紐を引いてみた。
ガタンっと扉が開くと同時に壁から矢が飛び出した。
左右の壁から複数のボルトが飛び出したのだ。
なるほど、壁の中にクロスボウでも埋まっていたのだろう。
よし、まあこれでトラップは無くなった。
安心して先に進もう。
そんなこんなあって俺が通路の先に進んで行くと、薄暗い広い部屋に出る。
その部屋の半分から先には鉄格子の壁が列び、その奥には鍛冶屋の作業場が広がっていた。
轟々と燃える釜。
石の台座に並ぶ金床。
大小様々なハンマー。
そして、鉄格子のこちら側の壁には複数の武器が立て掛けられていた。
その鉄格子には強い魔力を感じる。
この鉄格子自体がマジックアイテムだ。
誰か居るな?
鉄格子内の鍛冶屋スペースを見れば、木の椅子にスケルトンが一体だけ座っていた。
熱風の正体は釜戸の熱で、霊気の正体は、このスケルトンだろう。
『おや、人間か?』
しゃべった。
このスケルトンは知能が有るぞ。
「あんたは誰だい?」
『その昔、魔王に仕えた罪で囚われた、哀れな魔族だよ』
「魔族のスケルトン?」
するとスケルトンの背後から骨の翼が広がった。
羽の有る悪魔か──。
俺はネーム判定を試みたが反応しない。
おそらく俺たちの間に在る魔法の鉄格子が妨害しているのだろう。
スキルを阻む鉄格子か……。
厄介な檻だぞ。
『昔はレッサーデーモンだったが、死しても探究心が収まらなかったせいで、今ではこの姿だ』
「何を探究したんだ?」
『この住まいを見て分からんか?』
「鍛冶屋仕事か?」
『正解』
「何故、囚われ続けてる?」
『それより戦後何年が過ぎた。俺も三百年までは数えていたんだがな……』
「五百年ぐらいって聞いてるぞ」
『そうか、五百年か……。思ったより時間が過ぎてないな。忘れられるには早すぎだろう』
おっ、出た。
悪魔ジョークだよ。
「それで、忘れられたって?」
『昔、ここに投獄されるさいに言われたんだ。覚えてたら出してやるってな』
「でぇ、忘れられたと?」
『人間との約束だ。約束した人間も、もう死んでいるんだろ』
「なるほどね」
『それで、お前さんは誰だい。新しい魔王か?』
「ただのソロ冒険者だ。名前はアスラン」
『そうか、アスランか。これでもデーモンの端くれに、本名を名乗るなんて愚行だぞ』
「あっ……」
まずったかな?
『まあ、アンデッドに落ちた俺に、もうそんな悪魔らしい力は無いがな』
よし、安心!
「でぇ、あんたの名前は?」
『プロフェッサー・クイジナート。鍛冶仕事にはまった悪魔の教授だ』
あー、カシナートの元ネタね。
『それで、お前は俺の救いか?』
「場合によるな。何が出来て何が出来ない?」
『鍛冶仕事以外、何も出来ない。ここから一人で出ることも出来ないし、スケルトンだから弱いぞ』
「確かに強い霊気は感じられないな」
『炊事洗濯掃除も苦手だ』
「本当に何も出来ない駄目亭主みたいだな……」
『それで、俺を出してくれるのか?』
「出たいか?」
『もう外の世界に興味が無い。だが、ここには鉱物が無いんだ?』
「鉱物?」
『鍛冶仕事をするのに鉱物は必須だが、もう武具を溶かし直しても作る鉄が無い。溶かし直して作り直すと少しずつ蒸発して減っていき、いずれ無くなるんだ』
蒸発して鉱物が無くなるほど、何度も作り直しているのかよ。
俺は周りを見て言う。
「まだこっちには武具がたくさん在るぞ?」
『手が届かん……』
「なるほど……」
俺は黙って数本の剣を檻の中に放り込んだ。
『おお、優しいな、お前は!?』
「しばらくそれで我慢しろ。この檻は魔法の鍵で閉じられているから、俺じゃあ開けられない。だから、しばらくしたらどうにかしてやるよ」
『いや、鉄さえ在れば、それで結構だ。これで百年ぶりに仕事が出来るぞ!』
スケルトンレッサーデーモンのプロフェッサー・カイジナートは釜戸の火を煽る。
室内が更に熱くなった。
あの釜戸はマジックアイテムだな。
だって燃料が何百年も尽きないわけがない。
でも、こいつには他にも秘密が有るはずだ。
でなければ、こんなに厳重に投獄する分けがない。
こんな地下に鍛冶屋の仕事場を作ってまでの投獄だぜ。
絶対に何か有るぞ。
まあ、いいさ。
いずれ分かるだろう。
こうして俺は引き返した。
螺旋階段を上って今度は魔王軍のエリアを目指す。
【つづく】
0
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる