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第359話【町作りに必須な物】

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ソドムタウンの町外れに聳える大洋館に集いし者たち──。

それら全員が、それなりの権力や財力の持ち主だ。

ゴモラタウンの元君主ベルセルクの孫娘で現在のソドムタウン君主、ポラリス嬢。

同じくゴモラタウンで幅を効かせる大商人の元締めワイズマン。

ソドムタウンの冒険者ギルドの変態マスター、ギルガメッシュ。

同じくソドムタウン魔法使いギルドの若き幹部、ゾディアック。

同じくソドムタウン盗賊ギルドの若頭、バーツ。

同じくソドムタウン神官長、マリア。

そして、王都から派遣された建築家、ハドリアヌス。

どいつもこいつも曲者だ。

俺たちは洋館の食堂で集い、長テーブルを囲んで座っていた。

正面席にポラリス。

その両サイドに面々が座り。

俺はポラリスの前方に腰かけていた。

席の位置からして今日の主役が分かる。

俺とポラリスだ。

その他の脇役的な人物たちは、各自の主の後ろに控えるように立っていた。

俺の後ろにはドレス姿のスカル姉さんが立っている。

本日はスカル姉さんですら脇役扱いなのだ。

そして、俺から切り出した。

「でえ、これからなんの話をするんだい、ポラリス?」

「おや、アスラン様は聞いてないのかえ?」

「何を?」

「今日話す内容を」

「知らん」

「では、率直に言いましょう。あなたが立てている魔王城の町化計画ですよ」

「それは俺個人の企画だ。お前らには関係無いだろ?」

そこで今まで大人しかったギルガメッシュが言葉を挟む。

「それは無責任な話だな、アスラン」

「何故だい、ギルマス?」

「お前は俺に魔王城の権利を取得できるように計らってくれと頼んだだろう。それがこの結果だぞ」

「あー、なるほどね……」

俺が考えていた異常に大人の話になってるのね。

更にギルガメッシュが言う。

「兎に角だ。俺もドクトルも、そのように動いたのだ。今さら大袈裟だとか言わせんぞ」

「分かった。じゃあ、この面子は何のためだ?」

ポラリスが答える。

「全員が、もしくは彼らの所属する組織が、アスランの話に加わりたがっているのじゃ」

「俺の町作りにか?」

「そうじゃ」

ワイズマンが言う。

「我々ワイズマン商会は、君に大量の資金提供を申し出たい。その代わりに魔王城の貿易を我々ワイズマン商会が仕切りたいのだよ」

続いてゾディアックさんが言う。

「我々魔法使いギルドも少なからず資金提供を申し出ます。その代わりに新しい町に魔法使いギルド支部を作らせてもらいたい」

マリア神官長が言う。

「我々教団も同じです。資金提供を条件に神殿を築かせてもらいたいの」

更にバーツも言う。

「俺たち盗賊ギルドは裏社会や娼婦を仕切らせてもらいたい」

最後にポラリスが言う。

「ソドムタウンの君主としては、新しい町との姉妹都市契約を結んで、貿易などで交友したいのじゃ」

俺は鼻の穴を小指でホジリながら言った。

「要するに、利権に群がるハエってことかい?」

後ろからスカル姉さんに頭をひっぱたかれた。

パチーーンっと音が響く。

「いたぁ~~……」

「アスラン、口を慎め。本当のことだが正直すぎるぞ」

あんたもな……。

バーツが長テーブルに頬杖を付きながら言った。

「まあ、ぶっちゃけそうだわな。新しい町とソドムタウンは転送アイテムで結ばれるんだろ。ならばどんなに離れていようとも隣の町と同様だ。そうなれば利権争いは当然だぜ。俺たちは盗賊ギルドとして、新しい島が隣に出来たら、それは俺たちの島だ。仕切りたがるのは当然だろう」

ヤクザな言い方だな。

しかし──。

「正直だな、あんたは」

「回りくどいのは嫌いだ。シンプルに行こうぜ」

俺は天井を眺めながら考えた。

おそらく町を築けば必要な物ばかりだろう。

人、物、建物、組織──。

人が集まれば貿易が生まれる。

それを上手く回すのはプロに限る。

俺では貿易なんてチンプンカンプンだ。

それをワイズマンに任せたら楽だろうさ。

それに人が集まれば必要な施設が当然ある。

神殿は神を崇める人々には必須の施設だ。

病院の代わりにもなっている。

俺には神官の真似事は100%無理だしな。

そして、人が集まれば闇も生まれる。

闇こそ確実に制御せにゃあならない危険な代物。

それは極道のプロが最適だ。

正義のスーパーヒーローじゃあないんだから、勧善懲悪ってわけにも行かない。

世の中じゃあ必要悪も大切だろう。

そうなれば、ある意味で盗賊ギルドも必要さ。

それを言うなら荒くれ者を纏め上げる冒険者ギルドや、文学を広める魔法使いギルドも必要だろう。

どれもこれも俺では作れない代物だ。

俺に人を集める力や町を作る力があったとしてもだ。

それらは俺に無い才能である。

おそらくそれらがバランス良く継続できなければ、その町も衰退して行くだけだろう。

おそらく町は崩壊だ──。

「分かった、各々の願いは聞き入れよう」

俺がそう述べると室内に安堵の空気が流れる。

「しかしだ。どんな町を作りたいかの方針は俺が決めるからな」

それを聞いたポラリスが鉄扇で口元を隠しながら言った。

「それは、アスラン様が君主に成るとの宣言でいいのじゃな?」

「んー、まあー、そうかなー」

まあ、ここらで完全に覚悟せにゃあならんかな。

でも、君主か……。

重たいな……。

「ならば、早速取り掛かろうぞ!」

「焦るな、ポラリス」

「何故じゃ!?」

「まだ俺が魔王城を占拠していないからだよ」

「そんなもの、人員を送ればすぐだろうて?」

「それは、俺のやりかたじゃあ無いな」

皆が黙った。

あれ、理解してくれてるのかな?

ギルガメッシュが問う。

「あと、どのぐらいだ?」

「魔王城がある湖に巨大ワニが巣くってるから、それを退治するのと、魔王城にリッチが居るらしいから、それを退治してからかな。本格的に人を招き入れられるのは」

ギルガメッシュが言う。

「ならば冒険者ギルドから冒険者を派遣しようか?」

「それは俺の道じゃあない。俺はソロ冒険者だぞ」

「そうだったな……」

ギルガメッシュは大人しく引いた。

流石理解してくれてるぜ。

ポラリスが問う。

「そのワニとリッチを倒すのに、どのぐらい時間が掛かるのじゃ?」

「分からんが、二週間から一ヶ月ほどは見てもらいたい」

それだけあれば討伐後に魔王城を探索して宝物庫を見付けられるだろう。

もしも見付けられなければ、それまでだ……。

宝物庫は諦めるしかない。

ポラリスが鉄扇で長テーブルを叩いた。

ドンっと重い音が響く。

「分かったぞ。ならば一ヶ月待とうではないか!」

その言葉を聞いてバーツが椅子から立ち上がる。

「ならば各自それまで準備ってことだな。俺は早速ギルマスに報告するぜ」

ポラリスが力強く言った。

「構いません!」

「じゃあな~」

そう言いバーツと子分たちが食堂を出て行った。

ここで今まで他人事のように眺めていたハドリアヌスが言う。

「では、それまで私はどうしていろと。流石に王都に帰ると、こちらに戻って来るまで一ヶ月以上かかるぞ?」

「ハドリアヌス殿は、それまで我が町ソドムタウンでゆるりとしていてくださいませ。費用はこのポラリスが保証しますわ」

「ポラリス殿、それは助かりますぞ」

俺が訊いた。

「ところでこのクルクルパーマは、なんでここに居るんだ?」

「誰がクルクルパーマだ!!」

ゾディアックさんがクルクルパーマのことを語ってくれた。

「こちらのハドリアヌス殿は王都で認められた建築家で、町の構成、城の建築や防壁の建築にまで秀でた建築家だよ」

建築のスペシャリストかな。

ポラリスが言う。

「魔王城はかなり傷んでいると聞いたからな。だからわたくしが呼び寄せたのじゃ」

「まあ、確かに城は廃墟だし、防壁も必要だしな。居ないよりましか」

「うわ、有名建築家を居ないよりましって酷いな!!」

「不満か、クルクルパーマ?」

「ふざけるな! ワシは王都に帰るぞ!!」

ポラリスが独り言のように呟いた。

「このソドムタウンには、国で一番の娼館があるのにのぉ~。美少年も選り取り見取りなのにのぉ~……。勿体無い話じゃ……」

「はーーーい!! 一ヶ月ぐらい平気で待てます!! ゆっくり待ちますぞー!!」

うん、強欲だな、このクルクルパーマオヤジは……。

いや、色欲かな?


【つづく】
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