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第340話【青いポーション】

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顔面に神封じの短刀が刺さったままのミケランジェロは、体を硬直させながら立ち尽くしていた。

短刀の効果で動けないのだ。

その足元で俺は、ヒルダに膝枕をしてもらい寝転んでいた。

両足が折れていて立てないのだ。

ヒルダは頭からローブを被って太陽光を避けていた。

フードの陰から俺を見下ろしている。

冷たく無表情だ。

でも、綺麗な顔である。

アイパッチを付けた美しい顔だが、これは幻術なのだ。

本当はカビカビのミイラである。

俺は騙されないぞ。

それにしてもローブに関しては、アンデッドなのでしゃあないよね。

俺もソドムタウンを闊歩するさいは、ローブで視線を隠さないとならないから、気持ちは良く分かる。

ローブで視線を隠してると、本当に怪しまれるんだよね。

困った困っただわ~。

そして、膝枕で寝そべる俺の脇には、転送絨毯が敷かれていた。

プロ子がソドムタウンに帰って、スカル姉さんを呼びに行ったのだ。

スカル姉さんのヒールで骨折した俺の両足を治癒してもらうためである。

俺のヒールだと骨折までは完全に治せなかったのだ。

お陰で歩くどころか立つことすらできない。

俺の頭を膝枕してくれているヒルダが訊いてきた。

『アスラン様、お加減は大丈夫ですか……』

「ああ、痛みは俺のヒールで和らいでいるから大丈夫だ。ただ動けないだけだよ」

ヒルダは冷たい表情のままだが、優しく俺の頭を撫でていた。

それなりに心配してくれているようだな。

「な、なあ、アスラン……」

動けないミケランジェロが話しかけてきたので俺は視線を上に向けた。

「なんだよ、ミケランジェロ?」

「すまないが、そのお嬢さんに私の顔に刺さっている短刀を抜いてもらえるよう言ってくれないか」

「断る!!」

「なんでだよ!?」

「俺だって両足が折れて動けないんだ。お前だけ動けるようになるなんて不平等だぞ!!」

「なんやねん、それ!?」

「それに俺が動けないことを良いことに、踏み殺されたら堪らんからな!!」

「するか、そんなこと! もう対決は終わったのだ!!」

「兎に角今さ、ヒーラーを呼びに行ったから、しばらく待てよ。俺の治療が済んだら顔の短刀を抜いてやるよ」

「約束だからな……」

「ああ、約束する」

そんな感じで俺たちが話していると、横に広げてある転送絨毯の魔方陣が輝いた。

どうやらプロ子が帰って来たようだ。

『ただいま帰りました、アスラン様~』

プロ子の他にゴリとカンパネルラ爺さんが一緒に転送されて来た。

しかし、肝心のスカル姉さんは居ない。

そして、何故かカンパネルラ爺さんは全裸である。

「うわ、サイクロプスだ!!」

「デカ……」

ゴリとカンパネルラ爺さんはミケランジェロを見上げながら驚いている。

当然ながらミケランジェロも全裸の人間を見て驚いていた。

「な、なんで、この人間は裸なんだ……?」

俺もカンパネルラ爺さんに問う。

「なんでだよ、カンパネルラ爺さん?」

「あー、今、シルバーウルフたちを調教中だったんだよ」

「なんでさ、テイム作業で全裸になるんだ……?」

「えっ、当然じゃあないか?」

カンパネルラ爺さんは、さぞ当たり前のように言いながら首を傾げていた。

まあ、いいか……。

「ところでプロ子、スカル姉さんはどうした?」

ローブを被ったプロ子は敬礼しながら言う。

『居ませんでした!』

「えっ?」

ゴリが代わりに説明してくれた。

「スカル姉さんは新君主に呼ばれて外出中だったんだよ。夜まで帰らないって言ってたぞ」

「ええっ、マジかよ!」

困ったな……。

まさかスカル姉さんが居ないとは思わなかったぜ……。

更にゴリが言う。

「でも今さ、事情を聞いたスバルちゃんが、高価なポーションを取りに家に帰っているから、しばらく経ったらここに来るはずだ」

「えっ、スバルちゃんに、このことを言ったのか?」

「ああ、たまたまガイアちゃんと遊んでて、家に居たんだよ」

「んん~……」

あまりスバルちゃんには迷惑を掛けたくないんだよね。

しかも高価なポーションを取りに行ったって、なんだよ。

そのポーションは骨折を治せるレベルのハイポーションだろう?

いくらするんだろうか?

凄く高価じゃあないだろうな……。

ミケランジェロを殺していないから討伐依頼の報酬が貰えないかも知れないし、そんなポーションを飲んだら赤字になるんじゃあないのか?

まあ、しゃあないか……。

そして、しばらくすると、青い液体が入ったポーションを持ったスバルちゃんと、四つん這いで歩行するパンダにまたがったガイアが転送して来た。

「うわ、デカっ!!」

スバルちゃんの第一声はそれだったが、ガイアはサイクロプスを見ても動じていなかった。

見慣れたかのようにケロっとしている。

「スバルちゃん、悪いな、手間掛けてさ」

スバルちゃんは俺に声を掛けられて我を取り戻す。

「ああっ、アスランさん、大丈夫ですか!? 骨折ぐらいなら直ぐに癒せる高価なポーションを持ってきたので使ってください!!」

慌てた感じのスバルちゃんは、俺に青い液体の入った瓶を手渡す。

それにしても高価と言われると飲みずらいな……。

いったいいくらするのだろう?

「スバルちゃん、これ、いくらするの?」

「ゴリさんの五年ぶんの年収と同じぐらいです!」

それを聞いたゴリが「たかっ!!」っと声を上げた。

俺は瓶の蓋をはずしながら言った。

「なんだ、お手頃価格なんだ」

ゴリが更に「なに、こいつ、ブルジョアなの!?」っと声を張る。

そんなゴリのリアクションを無視して俺は手渡された青いポーションを一気に飲んだ。

ドロっとした感じが喉に絡み付く感覚を残して気持ち悪い。

「うー、不味い……」

するとスバルちゃんが焦りながら言う。

「ちがいます、アスランさん! それ、塗り薬ですよ!!」

「ぶぅーーーーーー!!!」

俺は飲んだばかりの青い薬を勢い良く吹いた。

ほとんど飲んじゃったよ!!

おぇーー、おぇーー!!

吐かんと!!

そんな俺を見て皆がクスクスと笑っている。

ミケランジェロまで笑ってやがるよ……。

畜生どもめ……。


【つづく】
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