上 下
338 / 604

第338話【サイクロプスとの激戦】

しおりを挟む
サイクロプスのミケランジェロは、よろめきながら立っていた。

右足のアキレス腱を俺の一太刀で切られている。

本来ならば立ち上がるのもやっとのはずだ。

なのにまだ戦う意思がある。

片足をダラリと下げながらミケランジェロが戦意を告げて来た。

「さあ、続きを始めようじゃあないか、アスラン!!」

俺は黄金剣を肩に担ぎながら面倒臭そうに言い返す。

「やれんのぉ~、ミケランジェロさんよ~。だって片足だよ。機動力がゼロだよ。本当にやれるのぉ~?」

「試して見ろ。まだ私は戦えるぞ!!」

ミケランジェロは両手で持ったスレッジハンマーを頭の高さに振り上げた。

真っ直ぐな姿勢だ。

上段の構え。

左足だけで巨漢を支えて、背筋を伸ばして、両手でスレッジハンマーを振り翳している。

痛々しい姿だな。

諦めていない。

しかし、俺との距離は遠い。

俺が間合いに踏み込んだらスレッジハンマーを振り下ろすつもりだろう。

もーさー、見え見えだわ。

「はぁ~~……」

俺は肩の力を落としながら溜め息を吐いた。

「やれるって意思は分かるよ。うん、分かるよ……」

「何が言いたい!?」

「でも、待ってるでしょう?」

「待つ……」

「そう、俺があんたの間合いに入るのを待ってるでしょう。俺が間合いに入ったらハンマーを振り下ろすんでしょう。戦う意思は有るけれど、攻める意思は無い。むしろ攻められないだろぉ~?」

「ぬぐぐぐぅ……」

ミケランジェロが悔しそうに奥歯を噛み締めている。

図星だね。

俺は嫌らしい笑みを浮かべながらジリジリと後ずさる。

「貴様、逃げるか……」

「今逃げたら追って来ないよね~」

「お、おのれ……」

「でも、逃げないから安心しな」

「なにっ!?」

十分な距離を作ってから俺は武器をチェンジする。

黄金剣を異次元宝物庫に仕舞うと、代わりに魔法のスタッフを取り出した。

【エクスフロージョンスタッフ+2。爆発系魔法の範囲向上。爆発系魔法の破壊力向上】

「ス、スタッフだと……。貴様、魔法も使えるのか!?」

「こう見えても俺は魔法戦士でね~」

「それは、困った……」

「食らえ、ファイアーボール!!」

俺の掌から魔法の火球が放たれる。

火球はミケランジェロの上半身に命中すると爆発した。

チュドーーーンと爆音が轟く。

更に俺は爆炎が上がる中に次々と火球を撃ち込んだ。

「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!!」

初弾から含めて計六発の火球が撃ち込まれる。

ラッシュだ。

爆音が轟くにつれて爆炎が大きく膨らんで行く。

魔法を放った俺のところまで爆熱が届いて衣類を靡かせた。

「どうだい、ざま~みろってんだ!!」

徐々に爆炎が収まると、爆煙の中から巨大な人影が姿を現す。

「あら、無事……?」

「うん、無事」

ミケランジェロは直立しながら立ち尽くしていた。

火傷の一つも無い。

その巨漢の前には大きな魔方陣が輝いている。

「魔法の盾ですか……」

「そう、魔法の盾だ」

「ずっけぇ~……」

「私も防御魔法なら得意でね!」

「そう言うのは先に言ってよ……」

「最初に投擲されたマジックアイテムは意外で防御魔法が間に合わなかったが、次のは別だ!」

「じゃあ、魔法攻撃は効かないの?」

「ほぼ無効!!」

「ずっけぇ~……」

「ズルくない!!」

「じぁあさ~」

俺は更に武器をチェンジする。

異次元宝物庫に魔法のスタッフを仕舞うと代わりの武器を取り出した。

「ジャジャ~ン! 次の武器はラージクロスボウ+2でぇ~す!!」

「うわ、ズル~……。そのクロスボウは弾丸が曲がるのかよ……」

「おいおい、早々にアイテム鑑定するなよな……。矢が曲がるのを見て、ビックリするところが見たかったのにさ! もー、台無し!!」

「すまんな、反省している、っぞ!!」

突然だった。

ミケランジェロが手に有るスレッジハンマーを投擲して来た。

「ちょっと!?」

縦に回転しながら飛んで来たスレッジハンマーを俺は半身を返して寸前で躱す。

狙いを外して見送ったスレッジハンマーが俺の後方の地面に突き刺さった。

危なかった!!

まさかあっちが武器を投げ放って来るとは思わなかったぜ。

そして、俺が振り返り前を向き直すと、そこには巨大な拳が迫っていた。

「えっ!?」

「ぬぅらぁぁあああ!!!」

いつの間にか接近していたミケランジェロが、アンダースローアッパーを打ち込んで来るところだった

わぉ、躱せない……。

俺はモロに巨拳を食らった。

上半身で受けたアッパーに掬われて宙に舞う。

「ぐふぅ!!」

「ぜぇぁあああ!!」

白い世界の中にアッパーカットを振り切ったミケランジェロの姿が見えた。

なに、あいつ?

股を広げて両足で踏ん張ってるじゃあねえか?

アキレス腱はどうした?

切れたんちゃうんか?

なんで踏ん張ってるんね?

俺は5メートルほどの高さから落下して、背中から地面に落ちた。

「受け身っ!!」

俺は地面に激突する寸前に柔道の受け身で衝撃を逃がした。

だが、直ぐには立てない。

拳を食らったダメージが残っている。

胸が詰まる。

頭がクラクラする。

首が痛いわ~……。

あっ、鼻血が出てるやん。

「畜生……」

俺はフラフラと立ち上がる。

手にしていたクロスボウが離れた場所に落ちていた。

ミケランジェロのほうを見たら、右の爪先を地面にトントンとしながら違和感を確認しているようだった。

「どうなってるんだ……。アキレス腱を切っただろ……」

ミケランジェロは足首を回しながら答える。

「リジェネレーションだ」

「リジェネって、自己再生能力かよ……」

「お前が余裕の態度でチンタラしているから、すっかりアキレス腱も繋がってしまったぞ」

「ずっけぇ~……。そんなの聞いてねぇ~よ……」

「言ってないからな!」

「確かに!!」

畜生、これで振り出しに戻っちまった……。

俺は再び異次元宝物庫から黄金剣の大小を引き抜く。

再び二刀流で構えた。

ミケランジェロがノシノシと迫って来る。

だが、スレッジハンマーは投擲して無手だ。

素手の間がチャンスかも知れない。

「こうなったら、とことんやるぞ!!」

「同感だ! アスラン、戦いを楽しもう!!」

「おうよ!!」


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...