上 下
332 / 604

第332話【ドワーフの宴】

しおりを挟む
俺が低い出入り口を潜って店内に入ると、天井の高い店内にはドワーフの客が数人ほど早くも飲んだくれていた。

そして、俺を招き入れたドワーフの親父が低いカウンターの後ろで鍋を掻き回している女性のドワーフに声を掛ける。

「母さん、外で人間がうろちょろしていたから客引きしてきたぞ」

おや、こいつの母親なのか?

奥さんかと思ったぜ。

「あ~~ら、珍しいわね。人間のお客さんなんてさ。ささ、好きなところに座ってよ。酒かい?お 肉かい? それとも女かい?」

畳み掛けて来る女将さんだな……。

ウザそうな予感……。

そんでもって俺は、椅子が低すぎるのでテーブルに腰かけた。

だって好きなところに座っていいって言ったもん!

「じゃあ、お肉をくれ。酒と女は要らないよ」

「おや、じゃあ男が好みかい?」

「いや、男も要らないわ……」

「じゃあ、酒とお肉だね!」

「人の話を聞いてないな……。肉だけでいいんだよ。俺は子供だから飲めないんだ」

「ええ??」

女将さんが俺の言葉を聞いて不思議そうに顔を傾げていた。

周りの賑やかだったドワーフのお客たちも不思議そうな顔を見せている。

「俺、なんか可笑しなことでも言ったかな……?」

ドワーフの女将さんが答える。

「いやね……。人間の子供って、お酒が飲めないとは知らなかったからさ。不憫な話だね~……」

「ドワーフの子供は酒を飲むのかい?」

するとさっきまで薪を背負っていた店の店員ドワーフが、ジョッキでエールを煽ってから言う。

「ワシの年は五十歳だが、酒は飲んでいるぞ」

「五十歳なら、いい歳のジジィ~じゃあねえか」

「ドワーフの五十歳って言ったら、人間だと十歳ぐらいだわい」

「十歳って、あんた老けすぎ!!」

俺がツッコミを入れていると女将さんが肉が大量に盛り付けられた皿とジョッキを俺が座っているテーブルの上にドシンっと置いた。

「まあ、いいから肉をお食べ!」

「サ、サンキュー……」

すげー量だわ……。

女将さんが俺の背中をバシバシと豪快に叩きながら大声で言った。

「兎に角だ、たらふく食って、たらふく飲みなさい。そうしたら明日も元気モリモリだからさ!!」

肉の山の隣に置かれたジョッキにはエールが注がれていた。

人の話を聞いてねえな、このドワーフマダムはよ。

「だから、酒は要らねえってばさ……」

まあ、いいか……、兎に角晩飯だ。

俺は何の肉か分からないが皿の上の肉を鷲掴みにして口に運んだ。

モグモグと焼け糞のように食べる。

そして、腹が一段落付いた。

しかし、皿の上の肉は三割も減っていなかった。

お肉を残したら怒られるかな?

ここは話を逸らそう。

俺は近くのドワーフに訊いた。

「なあ、訊いてもいいか?」

俺に話しかけられたドワーフは酒で顔を真っ赤にさせながら返答する。

「なんだい? なんでも訊いてくれ!?」

「なんでも答えられるか?」

「知ってることなら、なんだって答えるぞ! それが鯔背なドワーフの飲んだくれってもんだ!!」

「じゃあ、名前と年齢と住所と職業と年俸と貯金残高を教えてくれ」

ドワーフは衣服の胸元からはみ出た胸毛部分をドンっと叩いてから気合いを入れて語り出す。

「ワシの名前はロダンじゃあ! 年齢二百五十三歳で、職業は彫刻家だ! 年俸は定まらないし貯金も無いわい! 更に言うなら花も恥じらう独身貴族じゃぞ!!」

「随分と陽気に告白したな」

「さーー、ワシのすべてを晒し出したんじゃ、酒を奢りやがれってんだ!!」

「分かったよ、一杯奢るよ」

「女将さーーん、エールを樽でくれ!!」

「ざけんな、ドブドワーフ!!」

俺はドワーフの両目をチョキで突いてやった。

「ぎぃぁあああ!!!」

ドワーフの飲んだくれロダンは、しばらくのたうち回ると席に戻って飲みかけのエールを煽りながら言う。

「人間って恐ろしいな……。酒の席でのジョークが分からねえのかよ……」

「何を言う。人間の間では、酒の席での目潰し攻撃はジョークの内だぞ」

「マジかいな!?」

「ああ、マジだ」

「人間って、意外と怖いんだな……」

「ところで訊きたいんだが、あんたも彫刻家なら知ってるだろう。外の不恰好なドワーフ像はなんだい?」

「不恰好?」

店内のドワーフどもが全員首を傾げた。

もしかして、このドワーフたちには外の石像が不恰好には見えないのかな?

するとロダンが答えた。

「人間には、外のドワーフ像が不恰好にしか見えないのか?」

「ああ、なんだかアンバランスにしか見えないぞ」

「何を言うか、あのアンバランス感が芸術的なのではないか!」

「えっ、そうなの?」

「あの数々の芸術的ドワーフ像は、百年前ぐらいに、この村で一代ブームを巻き起こした彫刻家であるピカソさんの作品だぞ!!」

あー、作者の名前を聞いて、なんだか納得できたわ……。

ピカソなのね。

そう言うことですか~。

更にロダンは語る。

「ピカソさんは、その芸術的な腕を生前に渡って発揮して、死する直前までに数百の石像を作っては無料で村に寄付してくれたんじゃあ。あまりもの数を寄付しゃがるから、邪魔で邪魔でしゃあないから町の外に投げ捨てたり防壁の修復材料として使ったりしたんだが、まだまだ余ってて困っているんだ。良かったら五個か六個ぐらいお土産に持って帰ってくれないか?」

「要らねーよ……」

なるほどね……。

下手くそな石像の謎が解けたぜ。

そんなこんなしていると、俺は壁に張られた張り紙に気が付いた。

ドワーフの文字で書かれているから読めないが、挿し絵で内容が予想出来た。

その挿し絵には、ハゲの天辺に一角で、顔の真ん中に大きな眼球を有したマッチョマンが描かれている。

俺はそれを指差しながらロダンに訊いた。

「これは?」

「これはバイトでワシが描いた絵だ。上手いだろ。ワシは画力も高いのじゃ」

「いや、下手だぞ」

「なぬっ!?」

「かろうじてサイクロプスだと分かるぐらいだ」

「サイクロプスだと分かれば十分だろ!?」

「すまないが、俺はドワーフ語が読めないんだ。これはなんて書いてあるんだい?」

「村長が出したサイクロプスの討伐依頼だわい。だが、もう十年近くも放置されているから、まだ有効かは知らんぞ」

「この依頼が十年も放置されているのはいいとしてだ。サイクロプスを村の側で十年も放置してて大丈夫なのか?」

「サイクロプスも気を使って、家畜の牛や山羊をたまにしか襲わないからな」

「たまにでも襲われてるんじゃんか……」

「そんなのワシは知らん! 何せワシは家畜の主じゃあないからの! 彫刻家のロダンだからの!」

「あー、そうですねー……」

無責任全開の飲んだくれだな。

まあ、いいか。

明日にでも村長さんの家でも訪ねてみるかな。

この村がサイクロプスの被害に困ってるか否かよりも、俺がサイクロプスと戦ってみたいわ。

それだけが興味深いぜ。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...