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第309話【黒山羊頭の姫様】
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姫様と呼ばれた化け物は、黒山羊の頭を被り、怪奇なまま猫背でイルミナルの町を闊歩していた。
その身なりはボロボロのドレスだ。
貴婦人がお城のパーティーで着て行きそうなチューリップ型のスカートである。
だが、そのパーティー用のドレスは色褪せてボロボロなのであった。
宿屋の窓から化け物と呼ばれる姫様を覗き見ていた俺は、それが少女Aの魔女と違うのが分かった。
「あれは、あの魔女じゃあないな……」
違うだろう。
あの魔女より体格が大人だ。
身長も高いし、スタイルも大人っぽい。
何よりあの魔女より乳が大きい。
あの魔女は美乳だったが、サイズはほどほどだった。
しかし、この姫様はなかなかのボリュームである。
個人的には、こっちのほうが俺の好みでぇぇええええががががかががかあ!!!
うひゃぁああああ!!!
ぐーるーじーー!!
「お客さん……、大丈夫かい……?」
店のマスターが俺を気遣ってくれた。
「き、気にしないでくれ、持病の癪が少し傷んだだけだから……」
「そ、そうかい……」
ぜぇはー、ぜぇはー……。
久々に来たわ~……。
あー、つらー……。
やっぱり呪いは痛いな……。
落ち着いた俺が再び窓から外を見直すと、黒山羊頭の姫様は宿屋の前を通りすぎて行った。
俺の隣でマスターも安堵している。
俺はマスターに問う。
「なあ、マスター。あれはなんだ?」
マスターは小声で答える。
「あれはこの町の外れに在るお城の姫様だ……」
「あれは本物の姫様なのか?」
「本物だよ。本物の姫様だ。この町の君主様の娘さんだよ……」
なんか、かなりの訳有りっぽいな。
しばらく恐怖で静まり返っていた町に、恐る恐るだが人が顔を出し始める。
姫様が過ぎ去ったのを確認すると家から出て来るのであった。
店のマスターも、町に平和が戻ると閂を外して店を再オープンさせる。
そして、マスターがカウンター内に戻ると俺もカウンター席に腰掛けた。
「オレンジジュースをくれないか」
「はい、お客さん」
俺はオレンジジュースを少し飲むとマスターから話を訊き出す。
「あの姫様は何なんだ。詳しく話を訊かせてくれないか?」
「長くなるがいいかい?」
「構わんよ。美味しいオレンジジュースなら、何杯でも飲めるからさ」
マスターはグラスを磨きながら話してくれた。
「このイルミナルって町は、二十年前まで貧乏な町だったんだ……」
今はそんな風には見えない。
ちょっとしたリゾート地のように豊かに見える。
「当時は、そりゃ~酷くてね。今は緑豊かな土地だが、昔は荒地で作物も育ちにくい枯れた土地だったんだ」
「今とは大違いだな」
「だから餓死する人や、病死する人も少なくなかった。そりゃあ過酷だったよ……」
「それと、あの姫様と何の関係があるんだ?」
「姫様は生け贄に捧げられたんだ……」
「生け贄?」
「そう、悪魔に魂を奪われたんだ……」
「誰が何のために、誰に姫様を売ったんだ?」
「姫様の魂を奪ったのは、ロード・オブ・ザ・ピットって言う邪神だって聞いている……」
やっぱりアイツか!!
ロード・オブ・ザ・ピットが絡んでやがったか!!
「姫様の魂を邪神に売ったのは、父親であり、この町の君主であるハン様です」
「でぇ、なんでハンって言う君主様は、娘をロード・オブ・ザ・ピットなんかに売ったんだ?」
「邪神とハン様は、取引をしたんだ。このイルミナルの土地を豊かにして貰う代わりに、娘のレイラ様の清い魂を捧げるとね……」
「その代償があって、この辺はやたらと豊かなんだ~」
「はい……」
語るマスターの顔は、申し訳なさそうに歪んでいた。
「数年前までは君主のハン様も健康で健在でしたが、最近は年を取ってしまい体が不自由になりましてね。それもあってかレイラ姫様が一人で城を出ることが増えました……。おそらくハン様ではレイラ様を押さえることが出来なくなっているのでしょう……」
「昔は城から出なかったのか、あの姫様は?」
「はい……。ほぼほぼお部屋に幽閉されていたとか……」
「それが最近になって出歩いていると?」
「三日に一度程度ですが……」
「それで、怪奇なこと以外に問題でも?」
それだよね。
見た目が怖いだけで、何か悪さでも働くのかな?
「話しかけても答えない。近付けば獣のように襲い掛かって来るのです。すでに化け物と化しても君主様の娘ですからね。我々も冒険者を雇って退治するわけにも行きませんから困っています……」
「まあ、なんやかんや言ってもお姫様はお姫様だもんな~」
「昔はそれはそれは可愛い姫様だったんです……。それが、長いこと幽閉されていて、十数年ぶりに見た姫様は化け物に変わってました……」
「そりゃあ~、辛い話だな……」
うし、俺の結論は、こうだ。
俺に出来ることは無い!!
これは、この町の問題だ。
俺が無理矢理にも首を突っ込む問題じゃあないわ!!
それに本物の魔女が出てきたら怖いもん!!
これはさっさと町を離れたほうが良さそうだな。
【つづく】
その身なりはボロボロのドレスだ。
貴婦人がお城のパーティーで着て行きそうなチューリップ型のスカートである。
だが、そのパーティー用のドレスは色褪せてボロボロなのであった。
宿屋の窓から化け物と呼ばれる姫様を覗き見ていた俺は、それが少女Aの魔女と違うのが分かった。
「あれは、あの魔女じゃあないな……」
違うだろう。
あの魔女より体格が大人だ。
身長も高いし、スタイルも大人っぽい。
何よりあの魔女より乳が大きい。
あの魔女は美乳だったが、サイズはほどほどだった。
しかし、この姫様はなかなかのボリュームである。
個人的には、こっちのほうが俺の好みでぇぇええええががががかががかあ!!!
うひゃぁああああ!!!
ぐーるーじーー!!
「お客さん……、大丈夫かい……?」
店のマスターが俺を気遣ってくれた。
「き、気にしないでくれ、持病の癪が少し傷んだだけだから……」
「そ、そうかい……」
ぜぇはー、ぜぇはー……。
久々に来たわ~……。
あー、つらー……。
やっぱり呪いは痛いな……。
落ち着いた俺が再び窓から外を見直すと、黒山羊頭の姫様は宿屋の前を通りすぎて行った。
俺の隣でマスターも安堵している。
俺はマスターに問う。
「なあ、マスター。あれはなんだ?」
マスターは小声で答える。
「あれはこの町の外れに在るお城の姫様だ……」
「あれは本物の姫様なのか?」
「本物だよ。本物の姫様だ。この町の君主様の娘さんだよ……」
なんか、かなりの訳有りっぽいな。
しばらく恐怖で静まり返っていた町に、恐る恐るだが人が顔を出し始める。
姫様が過ぎ去ったのを確認すると家から出て来るのであった。
店のマスターも、町に平和が戻ると閂を外して店を再オープンさせる。
そして、マスターがカウンター内に戻ると俺もカウンター席に腰掛けた。
「オレンジジュースをくれないか」
「はい、お客さん」
俺はオレンジジュースを少し飲むとマスターから話を訊き出す。
「あの姫様は何なんだ。詳しく話を訊かせてくれないか?」
「長くなるがいいかい?」
「構わんよ。美味しいオレンジジュースなら、何杯でも飲めるからさ」
マスターはグラスを磨きながら話してくれた。
「このイルミナルって町は、二十年前まで貧乏な町だったんだ……」
今はそんな風には見えない。
ちょっとしたリゾート地のように豊かに見える。
「当時は、そりゃ~酷くてね。今は緑豊かな土地だが、昔は荒地で作物も育ちにくい枯れた土地だったんだ」
「今とは大違いだな」
「だから餓死する人や、病死する人も少なくなかった。そりゃあ過酷だったよ……」
「それと、あの姫様と何の関係があるんだ?」
「姫様は生け贄に捧げられたんだ……」
「生け贄?」
「そう、悪魔に魂を奪われたんだ……」
「誰が何のために、誰に姫様を売ったんだ?」
「姫様の魂を奪ったのは、ロード・オブ・ザ・ピットって言う邪神だって聞いている……」
やっぱりアイツか!!
ロード・オブ・ザ・ピットが絡んでやがったか!!
「姫様の魂を邪神に売ったのは、父親であり、この町の君主であるハン様です」
「でぇ、なんでハンって言う君主様は、娘をロード・オブ・ザ・ピットなんかに売ったんだ?」
「邪神とハン様は、取引をしたんだ。このイルミナルの土地を豊かにして貰う代わりに、娘のレイラ様の清い魂を捧げるとね……」
「その代償があって、この辺はやたらと豊かなんだ~」
「はい……」
語るマスターの顔は、申し訳なさそうに歪んでいた。
「数年前までは君主のハン様も健康で健在でしたが、最近は年を取ってしまい体が不自由になりましてね。それもあってかレイラ姫様が一人で城を出ることが増えました……。おそらくハン様ではレイラ様を押さえることが出来なくなっているのでしょう……」
「昔は城から出なかったのか、あの姫様は?」
「はい……。ほぼほぼお部屋に幽閉されていたとか……」
「それが最近になって出歩いていると?」
「三日に一度程度ですが……」
「それで、怪奇なこと以外に問題でも?」
それだよね。
見た目が怖いだけで、何か悪さでも働くのかな?
「話しかけても答えない。近付けば獣のように襲い掛かって来るのです。すでに化け物と化しても君主様の娘ですからね。我々も冒険者を雇って退治するわけにも行きませんから困っています……」
「まあ、なんやかんや言ってもお姫様はお姫様だもんな~」
「昔はそれはそれは可愛い姫様だったんです……。それが、長いこと幽閉されていて、十数年ぶりに見た姫様は化け物に変わってました……」
「そりゃあ~、辛い話だな……」
うし、俺の結論は、こうだ。
俺に出来ることは無い!!
これは、この町の問題だ。
俺が無理矢理にも首を突っ込む問題じゃあないわ!!
それに本物の魔女が出てきたら怖いもん!!
これはさっさと町を離れたほうが良さそうだな。
【つづく】
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