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第292話【シルバーウルフファミリー】

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アキレスの手綱を引いている俺の後ろには、カンパネルラ爺さんが乗っていた。

俺たちはニケツで移動しているのだ。

「すげ~な~、お前さん。これも魔法の馬かえ?」

「ああ、そうだ」

「あの異次元から出て来るメイドちゃんや魔法の馬か~。お前さん、もしかして、相当リッチな高レベル冒険者なのか?」

「たぶん俺は、普通の冒険者より恵まれた装備を有していると思うぞ。ただ、ソロだからいろいろと大変だがな」

「なるほどね~。確かに凄い装備だわ。こんなマジックアイテムは、なかなか見たことないぞ」

やはり俺のハクスラスキルは恵まれているようだな。

冒険者仲間で比べてもだが、本当にカンパネルラ爺さんが転生者だとしたら、それと比べてもだ。

「カンパネルラ爺さん、ところでさ……」

「なんだい?」

「抱きつくのやめてくれないか? キモイよ……」

ニケツするカンパネルラ爺さんは、俺の腰に両腕を回し、頬を背中にペッタリとつけて、密着しながら乗っていた。

これが女の子ならムハムハなのだが、糞爺が相手だと、ただただ気持ち悪い。

「照れるなよ、若いの。こんな機会そうそう無いぞ」

「頻繁にあったら困るわ!」

「まあ、いいじゃあないか、たまになんだから。それにしても、背中が温かぁ~~い」

温かぁ~~いじゃあねえよ!!

気持ち悪いだけだわ!!

畜生、早くログハウスに到着せねば!!

俺はそんなわけでアキレスを全速力で走らせた。

アキレスは二人を乗せているのに疾風の如く平原を駆けた。

「はぇ~~な~~。鼻水が垂れてきたぞ……」

「汚いな! 俺の背中に付けるなよ!!」

「もう手遅れだ」

「クソっ!!」

そして直ぐにログハウスに到着した。

俺がアキレスから降りるとカンパネルラ爺さんが言う。

「アスラ~ン、抱っこで降ろして~」

「甘えるな、糞爺!!」

俺はまだカンパネルラ爺さんが股がっているのにアキレスをトロフィーに戻した。

すると空中に残されたカンパネルラ爺さんがドスリッと落ちる。

高い位置から落下して尻餅を付いたカンパネルラ爺さんが騒いでいたが俺は無視を決め込んだ。

「マジでうぜージジイだな……」

「ひでーなー。ケツが二つに割れるかと思ったぜ……」

「もう割れているだろ……」

「ああっ、本当だ!」

俺たち二人が話していると、ログハウスからオアイドスが出て来る。

安心してください。

オアイドスはちゃんと服を着ています。

俺が拾った服をプレゼントしたからさ。

「あ~、アスランさん。その爺さんは誰ですか?」

「ああ、こいつは、シルバーウルフの子供たちを仕付けて貰うために連れて来たテイマーだ。あの子供たちにも人間慣れしてもらって、町に連れていけるようになってもらいたいからな」

「それなら問題無いっすよ~」

「えっ、そうなの?」

「だってあの子たち、もう俺に馬鹿みたいに慣れてますよ」

「マジか?」

「じゃあ証明しますから、ちょっと見てくださいな」

「ああ……」

俺たち三人はシルバーウルフたちが居る納屋に向かった。

納屋に入ると藁の上でシルバーウルフ雌たちが子供を暖めるように囲っている。

「おお、これがシルバーウルフかい。本当にカッコいいな!」

カンパネルラ爺さんが感動していると、オアイドスが言う。

「じゃあ見ていてくださいよ。この子たちが俺にどれだけ慣れているかお見せしますから」

「おおう……」

するとオアイドスが服を脱いで全裸になる。

そしてシルバーウルフたちに近寄ると添い寝した。

「ほぉ~~ら、赤ちゃんたち、オッパイですよ~」

オアイドスが自分の乳を差し出すと、赤ちゃんウルフがしゃぶりつく。

「あんっ!」

あんっ、じゃあねえよ!!

なに、この変態プレイは!?

「負けてられるか!!」

今度はカンパネルラ爺さんが服を脱ぎ始める。

「お前も脱ぐんかい!?」

「ワシだって乳ぐらいあげられるわい!!」

「乳で競うな!!」

だが、カンパネルラ爺さんが全裸で近付くとシルバーウルフ雌が喉を唸らせて威嚇した。

「ぬぬっ……」

カンパネルラ爺さんの足が止まる。

ビビってるよ、このテイマーは。

それにしてもシルバーウルフたちだって、やっぱり慣れてない人間を、子供たちには近付けられないのね。

ママの防衛本能かな?

まあ、オアイドスはずっと一緒に暮らしてたもんな。

しかしそのオアイドスがカンパネルラ爺さんを煽るように挑発した。

「あれれ~、テイマーなんでしょう。なんで狼に威嚇されちゃいますか~? 可笑しくね~?」

「ぬぬぬぬぬ………」

全裸のカンパネルラ爺さんは、全裸で乳を子供狼にしゃぶられているオアイドスを睨み付けた。

全裸爺と全裸青年の間で嫉妬の火花が弾け合っている。

なに、この醜い争いは!?

マジでキモくて醜いぞ!!

「ま、まあ、そりゃあファミリーならば慣れていてもしゃあないよね。ならばワシもテイマースキルを使うしかないだろうさ」

ほほう、テイマースキルか。

ちょっと見てみたいもんだな。

カンパネルラ爺さんが全裸のまま両腕を上げてスキル名を唱える。

「スキル発動。アニマルフレンドリー!」

「おおっ!」

一瞬だがカンパネルラ爺さんの全身が輝いた。

スキルが発動したのは間違いないだろう。

「このスキルは如何なる動物ともフレンドリーになれるテイマー固有のスキルなんじゃい!」

そう説明しながらカンパネルラ爺さんがシルバーウルフたちに近付いた。

今度は喉を鳴らして威嚇されない。

スキルが成功しているのかな。

おお、凄いな、テイマースキル。

「どうじゃあ、テイマーも舐められないだろう~」

そして全裸のカンパネルラ爺さんがシルバーウルフ雌の頭を撫でようと手を伸ばした。

しかし──。

「ばうっ」

ガブリと手を噛まれた。

「痛いーーーーー!!!!!」

カンパネルラ爺さんが絶叫するがシルバーウルフ雌は噛んだ手を放さない。

なかなかやるな、シルバーウルフもよ。

ナイスだぜ。

「放して放して、ギブギブ、ギブアップだから!!」

カンパネルラ爺さんが騒ぎ立てると、やっとシルバーウルフ雌は噛み付きから解放する。

「痛い痛い痛い、指が!!」

「ほら、ピュアヒールだ……」

情けないので俺がヒール魔法で傷を癒してあげる。

「す、すまん。ありがとうよアスラン……」

「あんた、マジで大丈夫か?」

「あ、ああ……。まだこれからだ……」

「てか、子供を仕付けるどころか親にすら近付けないじゃんか」

「じゃあ今度はもっとレベルの高いテイマースキルを使うぞ……」

「本当に大丈夫かな?」

「任せろって言ってるだろ!」

気合いを入れ直したカンパネルラ爺さんが高レベルスキルを発動させる。

全裸のまま両腕を上げてスキル名を高々に叫んだ。

「ビーストフレンドリー!!」

んん?

ただアニマルがビーストに替わっただけじゃあね?

てか、単語の違いでスキルアップなのね。

「これでどんなモンスターだってフレンドリーだぜ!」

再びカンパネルラ爺さんがシルバーウルフに近寄った。

手を伸ばしてシルバーウルフ雌の頭を撫でる。

おお、今度は接触に成功か。

「ど、どうよ……。俺も、な、なかなかだろ……」

うわー、かなりビビってるじゃんか。

たぶん自分でも噛まれるんじゃあないかとドキドキだったんだろうさ。

そんなこんなしていると、俺は背後から僅かな殺気を感じ取って振り返った。

なんで、こんなところで殺気感知スキルが発動するんだ?

俺が振り返ると狩りから帰って来たシルバーウルフ雄たちが立っていた。

三頭の雄たちだ。

「なんだ、お前らか」

そして、そこには一回り体格が大きなボスのアーノルドも居た。

「あら、アーノルド、お帰り……」

アーノルドは俺の横を過ぎるとカンパネルラ爺さんの背後に歩み寄った。

しかし、足音も無く忍び寄るアーノルドにカンパネルラ爺さんは気が付いていない。

「あ~、よしよしよしよしよしよしよし!」

ひたすら上機嫌でシルバーウルフ雌の頭を撫でている。

「あー、ヤバイかな……」

俺が心配していると、アーノルドがカンパネルラ爺さんの頭をガブリと咥え込んだ。

「ガル!」

そこから吊り上げる。

「あたたたっ! なに、何が起きてますか!!?」

「ガルル」

「痛い痛い痛い、死ねる死ねる死ねる!!」

そして暴れる全裸のカンパネルラ爺さんの頭を咥え込んだまま歩いたアーノルドが、納屋の外まで運んで行くとポイっとカンパネルラ爺さんを投げ捨てた。

全裸のカンパネルラ爺さんは、屍のようにバタリと転がる。

ピクリとも動かない。

「マジであいつはテイマーか?」

戻って来たアーノルドは全裸のオアイドスごとファミリーを抱え込むように丸まった。

うん、優しいお父さんだな。

よしよしだわ。

俺たちがそんなこんなしていると、納屋にゴリがやって来る。

ゴリは倒れている全裸のカンパネルラ爺さんをチラリと見たあとに俺に言った。

「なあ、アスラン」

「なんだ、ゴリ?」

「いまソドムタウンで面白いことが起きてるぞ。皆に知らせようと思って戻ってきたんだ」

ゴリもカンパネルラ爺さんを無視か……。

まあ、いいけれどさ。

それより──。

「面白いことってなんだよ?」

「ハンパネルラって言うテイマーが、ヘルハウンドを生け捕りにして運んできやがったんだ」

ゴリの話を聞いて、カンパネルラ爺さんの体がピクリと反応していた。

おそらく間違い無いだろう。

ハンパネルラって名前からして、カンパネルラ爺さんの身内だろうさ。


【つづく】
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