上 下
292 / 604

第292話【シルバーウルフファミリー】

しおりを挟む
アキレスの手綱を引いている俺の後ろには、カンパネルラ爺さんが乗っていた。

俺たちはニケツで移動しているのだ。

「すげ~な~、お前さん。これも魔法の馬かえ?」

「ああ、そうだ」

「あの異次元から出て来るメイドちゃんや魔法の馬か~。お前さん、もしかして、相当リッチな高レベル冒険者なのか?」

「たぶん俺は、普通の冒険者より恵まれた装備を有していると思うぞ。ただ、ソロだからいろいろと大変だがな」

「なるほどね~。確かに凄い装備だわ。こんなマジックアイテムは、なかなか見たことないぞ」

やはり俺のハクスラスキルは恵まれているようだな。

冒険者仲間で比べてもだが、本当にカンパネルラ爺さんが転生者だとしたら、それと比べてもだ。

「カンパネルラ爺さん、ところでさ……」

「なんだい?」

「抱きつくのやめてくれないか? キモイよ……」

ニケツするカンパネルラ爺さんは、俺の腰に両腕を回し、頬を背中にペッタリとつけて、密着しながら乗っていた。

これが女の子ならムハムハなのだが、糞爺が相手だと、ただただ気持ち悪い。

「照れるなよ、若いの。こんな機会そうそう無いぞ」

「頻繁にあったら困るわ!」

「まあ、いいじゃあないか、たまになんだから。それにしても、背中が温かぁ~~い」

温かぁ~~いじゃあねえよ!!

気持ち悪いだけだわ!!

畜生、早くログハウスに到着せねば!!

俺はそんなわけでアキレスを全速力で走らせた。

アキレスは二人を乗せているのに疾風の如く平原を駆けた。

「はぇ~~な~~。鼻水が垂れてきたぞ……」

「汚いな! 俺の背中に付けるなよ!!」

「もう手遅れだ」

「クソっ!!」

そして直ぐにログハウスに到着した。

俺がアキレスから降りるとカンパネルラ爺さんが言う。

「アスラ~ン、抱っこで降ろして~」

「甘えるな、糞爺!!」

俺はまだカンパネルラ爺さんが股がっているのにアキレスをトロフィーに戻した。

すると空中に残されたカンパネルラ爺さんがドスリッと落ちる。

高い位置から落下して尻餅を付いたカンパネルラ爺さんが騒いでいたが俺は無視を決め込んだ。

「マジでうぜージジイだな……」

「ひでーなー。ケツが二つに割れるかと思ったぜ……」

「もう割れているだろ……」

「ああっ、本当だ!」

俺たち二人が話していると、ログハウスからオアイドスが出て来る。

安心してください。

オアイドスはちゃんと服を着ています。

俺が拾った服をプレゼントしたからさ。

「あ~、アスランさん。その爺さんは誰ですか?」

「ああ、こいつは、シルバーウルフの子供たちを仕付けて貰うために連れて来たテイマーだ。あの子供たちにも人間慣れしてもらって、町に連れていけるようになってもらいたいからな」

「それなら問題無いっすよ~」

「えっ、そうなの?」

「だってあの子たち、もう俺に馬鹿みたいに慣れてますよ」

「マジか?」

「じゃあ証明しますから、ちょっと見てくださいな」

「ああ……」

俺たち三人はシルバーウルフたちが居る納屋に向かった。

納屋に入ると藁の上でシルバーウルフ雌たちが子供を暖めるように囲っている。

「おお、これがシルバーウルフかい。本当にカッコいいな!」

カンパネルラ爺さんが感動していると、オアイドスが言う。

「じゃあ見ていてくださいよ。この子たちが俺にどれだけ慣れているかお見せしますから」

「おおう……」

するとオアイドスが服を脱いで全裸になる。

そしてシルバーウルフたちに近寄ると添い寝した。

「ほぉ~~ら、赤ちゃんたち、オッパイですよ~」

オアイドスが自分の乳を差し出すと、赤ちゃんウルフがしゃぶりつく。

「あんっ!」

あんっ、じゃあねえよ!!

なに、この変態プレイは!?

「負けてられるか!!」

今度はカンパネルラ爺さんが服を脱ぎ始める。

「お前も脱ぐんかい!?」

「ワシだって乳ぐらいあげられるわい!!」

「乳で競うな!!」

だが、カンパネルラ爺さんが全裸で近付くとシルバーウルフ雌が喉を唸らせて威嚇した。

「ぬぬっ……」

カンパネルラ爺さんの足が止まる。

ビビってるよ、このテイマーは。

それにしてもシルバーウルフたちだって、やっぱり慣れてない人間を、子供たちには近付けられないのね。

ママの防衛本能かな?

まあ、オアイドスはずっと一緒に暮らしてたもんな。

しかしそのオアイドスがカンパネルラ爺さんを煽るように挑発した。

「あれれ~、テイマーなんでしょう。なんで狼に威嚇されちゃいますか~? 可笑しくね~?」

「ぬぬぬぬぬ………」

全裸のカンパネルラ爺さんは、全裸で乳を子供狼にしゃぶられているオアイドスを睨み付けた。

全裸爺と全裸青年の間で嫉妬の火花が弾け合っている。

なに、この醜い争いは!?

マジでキモくて醜いぞ!!

「ま、まあ、そりゃあファミリーならば慣れていてもしゃあないよね。ならばワシもテイマースキルを使うしかないだろうさ」

ほほう、テイマースキルか。

ちょっと見てみたいもんだな。

カンパネルラ爺さんが全裸のまま両腕を上げてスキル名を唱える。

「スキル発動。アニマルフレンドリー!」

「おおっ!」

一瞬だがカンパネルラ爺さんの全身が輝いた。

スキルが発動したのは間違いないだろう。

「このスキルは如何なる動物ともフレンドリーになれるテイマー固有のスキルなんじゃい!」

そう説明しながらカンパネルラ爺さんがシルバーウルフたちに近付いた。

今度は喉を鳴らして威嚇されない。

スキルが成功しているのかな。

おお、凄いな、テイマースキル。

「どうじゃあ、テイマーも舐められないだろう~」

そして全裸のカンパネルラ爺さんがシルバーウルフ雌の頭を撫でようと手を伸ばした。

しかし──。

「ばうっ」

ガブリと手を噛まれた。

「痛いーーーーー!!!!!」

カンパネルラ爺さんが絶叫するがシルバーウルフ雌は噛んだ手を放さない。

なかなかやるな、シルバーウルフもよ。

ナイスだぜ。

「放して放して、ギブギブ、ギブアップだから!!」

カンパネルラ爺さんが騒ぎ立てると、やっとシルバーウルフ雌は噛み付きから解放する。

「痛い痛い痛い、指が!!」

「ほら、ピュアヒールだ……」

情けないので俺がヒール魔法で傷を癒してあげる。

「す、すまん。ありがとうよアスラン……」

「あんた、マジで大丈夫か?」

「あ、ああ……。まだこれからだ……」

「てか、子供を仕付けるどころか親にすら近付けないじゃんか」

「じゃあ今度はもっとレベルの高いテイマースキルを使うぞ……」

「本当に大丈夫かな?」

「任せろって言ってるだろ!」

気合いを入れ直したカンパネルラ爺さんが高レベルスキルを発動させる。

全裸のまま両腕を上げてスキル名を高々に叫んだ。

「ビーストフレンドリー!!」

んん?

ただアニマルがビーストに替わっただけじゃあね?

てか、単語の違いでスキルアップなのね。

「これでどんなモンスターだってフレンドリーだぜ!」

再びカンパネルラ爺さんがシルバーウルフに近寄った。

手を伸ばしてシルバーウルフ雌の頭を撫でる。

おお、今度は接触に成功か。

「ど、どうよ……。俺も、な、なかなかだろ……」

うわー、かなりビビってるじゃんか。

たぶん自分でも噛まれるんじゃあないかとドキドキだったんだろうさ。

そんなこんなしていると、俺は背後から僅かな殺気を感じ取って振り返った。

なんで、こんなところで殺気感知スキルが発動するんだ?

俺が振り返ると狩りから帰って来たシルバーウルフ雄たちが立っていた。

三頭の雄たちだ。

「なんだ、お前らか」

そして、そこには一回り体格が大きなボスのアーノルドも居た。

「あら、アーノルド、お帰り……」

アーノルドは俺の横を過ぎるとカンパネルラ爺さんの背後に歩み寄った。

しかし、足音も無く忍び寄るアーノルドにカンパネルラ爺さんは気が付いていない。

「あ~、よしよしよしよしよしよしよし!」

ひたすら上機嫌でシルバーウルフ雌の頭を撫でている。

「あー、ヤバイかな……」

俺が心配していると、アーノルドがカンパネルラ爺さんの頭をガブリと咥え込んだ。

「ガル!」

そこから吊り上げる。

「あたたたっ! なに、何が起きてますか!!?」

「ガルル」

「痛い痛い痛い、死ねる死ねる死ねる!!」

そして暴れる全裸のカンパネルラ爺さんの頭を咥え込んだまま歩いたアーノルドが、納屋の外まで運んで行くとポイっとカンパネルラ爺さんを投げ捨てた。

全裸のカンパネルラ爺さんは、屍のようにバタリと転がる。

ピクリとも動かない。

「マジであいつはテイマーか?」

戻って来たアーノルドは全裸のオアイドスごとファミリーを抱え込むように丸まった。

うん、優しいお父さんだな。

よしよしだわ。

俺たちがそんなこんなしていると、納屋にゴリがやって来る。

ゴリは倒れている全裸のカンパネルラ爺さんをチラリと見たあとに俺に言った。

「なあ、アスラン」

「なんだ、ゴリ?」

「いまソドムタウンで面白いことが起きてるぞ。皆に知らせようと思って戻ってきたんだ」

ゴリもカンパネルラ爺さんを無視か……。

まあ、いいけれどさ。

それより──。

「面白いことってなんだよ?」

「ハンパネルラって言うテイマーが、ヘルハウンドを生け捕りにして運んできやがったんだ」

ゴリの話を聞いて、カンパネルラ爺さんの体がピクリと反応していた。

おそらく間違い無いだろう。

ハンパネルラって名前からして、カンパネルラ爺さんの身内だろうさ。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...