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第256話【ソドムタウンの覇権とメイドたち】

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ギルマスの部屋での話が終わるとポラリスが席を立つ。

「では、お二人とも、わたくしは失礼しますわ」

そう述べたポラリスは、メイドたちを引き連れて部屋を出て行こうとする。

俺はポラリスの背中に向かって言った。

「なんだ、今日はすんなり帰るな。いつもみたいに粘着力満点にすり寄って来ないじゃあないか」

するとポラリスは振り返り、怪しく微笑んだ口元を扇子で隠しながら言い返す。

「わたくしも大人に成長したってことですわ。ただ押しているだけの年頃じゃあなくてよ、アスランさま」

俺はポラリスを睨みながら言う。

「意味が分からんな……」

「今はまだ準備期間と言えば宜しいでしょうか」

そこまで言うとポラリスは静かに部屋を出て言った。

最後にアンナが深くお辞儀をして扉を閉める。

すると俺の隣に座っていたギルガメッシュが渋い口調で言った。

「アスラン、お前さん、外堀から埋められているぞ……」

「えっ!?」

マジか!?

あの怪力娘が策を弄して俺を攻めて来ているのか!?

怖い!!

更にギルガメッシュが俯きながら語る。

「二十年ぐらい前にロズワールド卿が、当時の君主からソドムタウンの覇権を奪い取ったさいに、かなり悪いことをして、多くの金があちらこちらで動いたんだ。それはソドムタウンの内や外で嵐のような出来事だったんだ……。それが……」

「それが、なんなんだ……?」

「それがあの娘は、悪党ロズワールド卿を、嵐を起こすどころか静かに地方に追いやった。しかも辺鄙な極地にだぞ……。普通には出来んことだ……」

「マジですか……」

「これはアマデウスどころじゃあ無いかも知れんな……。冒険者ギルド以外の勢力が、どう動くかで、我々冒険者ギルドの覇権争いも決まるやも知れんぞ」

「そこまでですか……」

あの脳筋娘に何があったんだ……。

俺は立ち上がると窓から通りに止まる黒馬車を見下ろした。

丁度ポラリスが馬車に乗り込むところである。

そして馬車の中から一人の男性がポラリスに手を差し伸べた。

紳士のマナーであろうが、俺はその紳士風の男性を見て納得した。

「あいつは、兄貴のアルビレオじゃあねえか」

なるほどね。

脳筋のポラリスに代わって侵略の筋書きを書いているのは、兄貴のアルビレオなんだな。

肉体派のポラリスと、知能派のアルビレオが組んだってわけかい。

それにしてもアルビレオがそこまで切れるヤツだとは思わなかったぜ。

まあ、ゴモラタウンの将来はベルセルク坊屋が覇権を握るだろうから、あの一族的には勢力を広げたかったんだろうな。

あの一族でソドムタウンも奪いに来たってわけか……。

怖い一族ですわん……。

「じゃあ、ギルガメッシュさん。俺は行くから……」

「ああ、分かった」

「あと、冒険者ギルドは早めにポラリスに付いたほうがいいぞ」

「お前は長い物に巻かれろと?」

「違うよ。ポラリスと、その後ろに潜んでいる兄貴のアルビレオは、変態だからさ」

「なに、彼女の黒幕は、兄君のアルビレオ殿か……」

「へ~、アルビレオを知っているのか」

「彼がまだ五歳ぐらいの時にチェスを打って、こてんぱに負かされたことがあるよ」

「マジで!!」

いくらなんでも五歳のガキにギルマスレベルがチェスで負けますか!?

「しかも、全戦全敗だったよ……」

「つよっ!!」

「だがね、彼は決して目立たない日陰者だったんだ」

「日陰者?」

ギルガメッシュさん、何を語り始めますか?

話が随分と飛びましたよ?

「当時の私は直感から、彼が将来的には大物に育つと見込んでマークしていたんだ」

目を付けるのが早いな、このおっさん。

流石は変態だ。

「でも、彼は貴族学校に進んでも日陰者だったんだ。授業も部屋の目立たない隅でうけ、友達ともあまり接しなかった」

「それから?」

「だが、成績はトップクラス」

「へー、やっぱり頭がいいんだ」

「だがね、トップクラスなんだが、全てが二番なんだ……」

「二番?」

「学業の成績も二位。運動系も二位。何を競っても二位なんだ。必ず二位。一位にならないが、逆に三位にもならない。それを周りの誰も気が付かない」

き……、きら……よ……◯……か……げ……。

「彼はね、日陰から支配を企むタイプの人間じゃあないかと俺は考えていたんだ。それがこのソドムタウンで動きだしたか。いや、このソドムタウンから動きだしたかと思うべきか……」

こえーよ!!

あのボーイズラブ男君が、そんな怖いキャラだったなんて知らんかったわ!!

じゃあ、あの兄妹は何を企んでいるのさ!!

本気で、こえーーよ!!

そんなこんなで受付から依頼の報酬を貰うと俺は冒険者ギルドをあとにした。

ミイラメイドたちが待つ洋館に向かう。

まあ、気分を入れ替えて行こう。

まず俺には目的があるんだ。

旧魔王城の占拠だ。

それが先である。

そして、俺が洋館に到着すると、ロビーにはメイドたち二十一名が並んで待っていた。

全員が唐草模様の風呂敷に荷物を入れて背負っている。

俺はメイドたちの顔を見て驚いた。

「あれ、お前たち……」

ミイラメイドたちは、スベスベ艶々の顔で待っていたのだ。

全員が人間の姿をしていた。

しかも麗しく若さ溢れる十代から二十代前半の容姿である。

皆、若くて綺麗なのだ。

でも、おっきしないわ。

だって全員がミイラだもの……。

俺が唖然と驚いていると、左目に薔薇の柄の眼帯を装着した背の高いメイドさんが一歩前に出てお辞儀をする。

「お待ちしていました、アスランさま。我々メイドたちの準備は終わっておりますゆえ、引っ越しをお願いいたします」

声も艶のある女性の声色だった。

もう『』では無く、「」で話している。

「もしかして、ヒルダさんですか……?」

俺が畏まって言うと、薔薇眼帯のメイドが畏まって返す。

「はい、メイド長のヒルダでございます。アスランさまから頂いたマジックアイテムの玉で、全員容姿が変わりました」

ヒルダは言いながら薔薇眼帯を捲って潰れた眼の代わりにマジックアイテムの玉を入れた顔を見せる。

他のメイドたちも澄まし顔で胸元からペンダントに加工されたマジックアイテムの玉を取り出して見せていた。

「うわ~、想像していたよりも麗しいですね……」

「有り難うございます、アスランさま。では、引っ越しいたしましょう。異次元宝物庫を開けてくださいませ」

「あ、ああ、わかった……」

そして俺が異次元宝物庫の入り口を縦に扉のように開くと、麗しく変わったメイドたちが順々に入って行った。

ヒルダは最後に入るつもりらしくメイドたちを見送るように見守っている。

だが、二十人目のメイドがヘマをかます。

そのメイドは他のメイドより矮躯で幼く見えた。

なのに背負った唐笠模様の風呂敷には人一倍荷物を入れて、重々しく歩いていたのだ。

「ううんちょ、ううんちょ……。うわっ!!」

そして異次元宝物庫の前で転んで、背負っていた唐草模様の風呂敷から大量の荷物をばらまいたのである。

あちゃー、やっちまったな~

なに、このちびっ子メイドさんは?

ドジキャラですか?

ドジっ娘キャラですか?

「すみません、すみません、直ぐに拾いますから。あわわわわ~」

俺はソッとヒルダに言った。

「なにこの子、ドジっ娘ですか?」

「プロ子お姉さまは、少し出来が悪くて……」

「プロ子お姉さまって、どう言う意味だ?」

「彼女は我々のプロトタイプなので、プロ子お姉さまと呼ばれていますわ」

ヒルダは俺にそう言うとプロ子に近寄った。

ばらまいた物を拾ってやるのかな?

しかし──。

「プロ子お姉さま、新しいご主人さまの前ではしたない真似はお辞めくださいませ。わたくしたちの性能まで疑われるじゃあありませんか!」

怒ったぞ!?

「ご、ごめんなさい、ヒルダちゃん……」

謝ったぞ!?

「違います、プロ子お姉さま! ヒルダメイド長だって、なんど言ったら覚えるのですか!!」

「ご、ごめんなさい、ヒルダちゃ……」

「ああ~んっ!!」

「ヒルダメイド長……」

なに、このシンデレラと意地悪姉妹的な空気は!?

「プロ子お姉さま、さっさと拾って異次元宝物庫に入ってくださいませ!!」

ヒルダはそう怒鳴ると、さっさと自分だけ異次元宝物庫内に消えて行く。

一人残されたプロ子は必死に荷物をかき集めると姉妹たちを追っかけて異次元宝物庫に入って行った。

なんだろう……。

ポラリスとアルビレオの件もそうだが、メイド二十一姉妹も面白そうな展開だわな……。

今後が期待できそうだぜ!!


【つづく】
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