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第243話【水晶と金庫室】
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俺はミイラのメイド長に案内されて、応接間に通された。
ここまで来る廊下も、通された応接間も完璧に清掃されている。
散らかったところどころか、埃の一つも無いのだ。
俺は応接間に入ってから棚の上を姑のように人差し指でツツーとやって見た。
指先には塵の一つも付いていない。
拭き掃除も完璧だな。
そして、応接間の室内は豪華だった。
ふかふかのソファーに大理石のテーブル。
棚の上には主が死んでいるのに装飾品が幾つも飾られている。
屋敷内には、未だに金目の物が豊富に有るのだ。
おそらく、このメイドたちが守っていたのだろう。
ホラーたっぷりな外見で脅したり、クロスボウで脅したりしたんだろうな。
屋敷にお化けが出るって噂されても仕方ないよね。
そして俺が、メイド長と向かい合ってソファーに腰かけると、ミイラメイドたちが次々とお茶を運んで来る。
あっと言う間にテーブルの上はティーカップで一杯になった。
『あの子たちったら、もう……』
流石のメイド長も呆れている。
『すみません。何せ久々の御客様だったので、あの子たちも奉仕したかったのでしょう』
だからって二十人全員でお茶を入れることは無いだろうさ。
まさに奉仕の鬼だな……。
俺はテーブルに広がるティーカップの一つを手に取るとお茶を啜った。
「旨いな」
ここもまた意外だった。
温かいお茶がやたらと旨かったのだ。
『少々古い茶葉になりますが、まだまだ飲めるはずですわ』
「ところで自己紹介からしようか」
『そうですね』
「俺は冒険者ギルドから派遣されてきたソロ冒険者のアスランだ。よろしく」
『私はこの屋敷のメイド長を勤めておりますヒルダと申します。今後とも宜しくお願いします』
早速仕事の話に移ろうかな。
「でだ、さっきも言ったが俺はこの屋敷からお化けを排除しに来たのだが……」
『お化けに、我々メイドたちも含まれているのですね』
「そうなる」
『ですが、我々メイドたちは、この屋敷に魔法で束縛されてます。そう作られたメイドたちなのです』
「魔法で束縛って、どういう仕組みなんだい?」
『詳しくは分かりませんが、この屋敷の主は魔法使いでした』
「その魔法使いがキミらを作ったと?」
『はい』
ヒルダは淡々と話し出す。
『我々メイドたちは近隣で亡くなった娘たちの遺体を元に作られたマミーです。ですが我々には前世の個人的な記憶は御座いません。残っていた記憶は家事手伝いの知識だけでした』
「生まれ変わってから、メイドになるように作られていたと?」
『そうなります。そして、それに関しては、我々の全員が、不満の一つも御座いませんでした』
俺は部屋の中を見回してから言う。
「それで主が死んでも屋敷内を綺麗に保っていたと?」
『はい。ですが窓は全部大工に塞がれてしまいましたがね。それより話を戻しましょう』
「はいはい」
『我々は魔法に縛られていると述べましだが、もっと分かりやすく言いますと、我々メイドたち全員が、一つのマジックアイテムと表現したほうが正しいと言えましょう』
「一つのマジックアイテム?」
メイドたちは、普通のアンデットじゃあないのね。
『我々の行動範囲をコントロールしているのは、地下の金庫室に保管されている水晶が中核となっています。その水晶を移動できれば、どこの屋敷にも御使いできますのですが……』
そこまで言ってヒルダは言葉を濁らせた。
何か問題でも有るのだろう。
「その中核の水晶に、何か問題でも?」
『水晶に問題があるのではなくて、水晶が置かれている金庫室に問題が有りまして……』
「金庫室は地下に有るんだよな?」
『地下は小さなダンジョンになっています』
「地下がダンジョンなのか?」
『その地下に御主人様が作られたガーディアンドールたちが警護しています。その警護は死んだ御主人様しか解除不可能』
なるほどね。
これで今回の話の全体図が見えてきましたぞ!
メイドさん、水晶、ダンジョン、ガーディアンドール。
これですべてのパーツが揃ったぞ。
「要するに、その地下ダンジョンの金庫室に行ければ、あんたらを自由に出来ると?」
『そうなります。ですが、私たちは地下に入れません。死んだ御主人様が、水晶にそう命じたからです。水晶は触れた人間の支配下になるようになっています。だから誰も触れられないように金庫室に仕舞われているのです』
「なるほどね。じゃあ俺が金庫室に入って水晶に触れれば、それだけで問題の解決ってわけか」
『そうなります。この仕事を貴方に頼めますか、アスラン様?』
「頼むも頼まれまいも、そもそもそれが俺の目的だ。キミたちが邪魔していても地下に向かっていただろうな」
『有り難う御座います、アスラン様』
「で、地下ダンジョンってのはどこだい?」
『早速向かわれますか?』
「ああ、仕事は早いほうがいいだろうさ」
『それよりも、まずは御風呂にしませんか?』
「はあ……?」
『それともお食事になさいますか?』
「へぇ……?」
『今現在メイドたちが御風呂の準備も食事の準備も寝室の準備もいろいろな準備も行っていますから、是非にゆっくりとして行ってもらいたく!!』
「それはあんたらが奉仕したがってるだけじゃあないのか!?」
『その通りですわ!!』
「当たりかい!!」
『いつも来客される方は、我々を見ると悲鳴を上げて逃げていくのです。お茶の一つも出せずに我々は奉仕に飢えているのですよ!!』
こいつら生まれついての御奉仕天使かよ!!
メイドの鏡だな!!
『だから地下ダンジョンに入られる前に、我々に御奉仕させてください。もしもアスラン様が地下ダンジョンで亡くなられたら、次はいつ来るか分からないチャンスなのですから!!』
「ええっ! なに!? あんたら俺が死ぬかもしれないって考えてますか!?」
『はい!』
「はい、じゃあねえよ!!」
このメイドさんは正直だな、おい!!
【つづく】
ここまで来る廊下も、通された応接間も完璧に清掃されている。
散らかったところどころか、埃の一つも無いのだ。
俺は応接間に入ってから棚の上を姑のように人差し指でツツーとやって見た。
指先には塵の一つも付いていない。
拭き掃除も完璧だな。
そして、応接間の室内は豪華だった。
ふかふかのソファーに大理石のテーブル。
棚の上には主が死んでいるのに装飾品が幾つも飾られている。
屋敷内には、未だに金目の物が豊富に有るのだ。
おそらく、このメイドたちが守っていたのだろう。
ホラーたっぷりな外見で脅したり、クロスボウで脅したりしたんだろうな。
屋敷にお化けが出るって噂されても仕方ないよね。
そして俺が、メイド長と向かい合ってソファーに腰かけると、ミイラメイドたちが次々とお茶を運んで来る。
あっと言う間にテーブルの上はティーカップで一杯になった。
『あの子たちったら、もう……』
流石のメイド長も呆れている。
『すみません。何せ久々の御客様だったので、あの子たちも奉仕したかったのでしょう』
だからって二十人全員でお茶を入れることは無いだろうさ。
まさに奉仕の鬼だな……。
俺はテーブルに広がるティーカップの一つを手に取るとお茶を啜った。
「旨いな」
ここもまた意外だった。
温かいお茶がやたらと旨かったのだ。
『少々古い茶葉になりますが、まだまだ飲めるはずですわ』
「ところで自己紹介からしようか」
『そうですね』
「俺は冒険者ギルドから派遣されてきたソロ冒険者のアスランだ。よろしく」
『私はこの屋敷のメイド長を勤めておりますヒルダと申します。今後とも宜しくお願いします』
早速仕事の話に移ろうかな。
「でだ、さっきも言ったが俺はこの屋敷からお化けを排除しに来たのだが……」
『お化けに、我々メイドたちも含まれているのですね』
「そうなる」
『ですが、我々メイドたちは、この屋敷に魔法で束縛されてます。そう作られたメイドたちなのです』
「魔法で束縛って、どういう仕組みなんだい?」
『詳しくは分かりませんが、この屋敷の主は魔法使いでした』
「その魔法使いがキミらを作ったと?」
『はい』
ヒルダは淡々と話し出す。
『我々メイドたちは近隣で亡くなった娘たちの遺体を元に作られたマミーです。ですが我々には前世の個人的な記憶は御座いません。残っていた記憶は家事手伝いの知識だけでした』
「生まれ変わってから、メイドになるように作られていたと?」
『そうなります。そして、それに関しては、我々の全員が、不満の一つも御座いませんでした』
俺は部屋の中を見回してから言う。
「それで主が死んでも屋敷内を綺麗に保っていたと?」
『はい。ですが窓は全部大工に塞がれてしまいましたがね。それより話を戻しましょう』
「はいはい」
『我々は魔法に縛られていると述べましだが、もっと分かりやすく言いますと、我々メイドたち全員が、一つのマジックアイテムと表現したほうが正しいと言えましょう』
「一つのマジックアイテム?」
メイドたちは、普通のアンデットじゃあないのね。
『我々の行動範囲をコントロールしているのは、地下の金庫室に保管されている水晶が中核となっています。その水晶を移動できれば、どこの屋敷にも御使いできますのですが……』
そこまで言ってヒルダは言葉を濁らせた。
何か問題でも有るのだろう。
「その中核の水晶に、何か問題でも?」
『水晶に問題があるのではなくて、水晶が置かれている金庫室に問題が有りまして……』
「金庫室は地下に有るんだよな?」
『地下は小さなダンジョンになっています』
「地下がダンジョンなのか?」
『その地下に御主人様が作られたガーディアンドールたちが警護しています。その警護は死んだ御主人様しか解除不可能』
なるほどね。
これで今回の話の全体図が見えてきましたぞ!
メイドさん、水晶、ダンジョン、ガーディアンドール。
これですべてのパーツが揃ったぞ。
「要するに、その地下ダンジョンの金庫室に行ければ、あんたらを自由に出来ると?」
『そうなります。ですが、私たちは地下に入れません。死んだ御主人様が、水晶にそう命じたからです。水晶は触れた人間の支配下になるようになっています。だから誰も触れられないように金庫室に仕舞われているのです』
「なるほどね。じゃあ俺が金庫室に入って水晶に触れれば、それだけで問題の解決ってわけか」
『そうなります。この仕事を貴方に頼めますか、アスラン様?』
「頼むも頼まれまいも、そもそもそれが俺の目的だ。キミたちが邪魔していても地下に向かっていただろうな」
『有り難う御座います、アスラン様』
「で、地下ダンジョンってのはどこだい?」
『早速向かわれますか?』
「ああ、仕事は早いほうがいいだろうさ」
『それよりも、まずは御風呂にしませんか?』
「はあ……?」
『それともお食事になさいますか?』
「へぇ……?」
『今現在メイドたちが御風呂の準備も食事の準備も寝室の準備もいろいろな準備も行っていますから、是非にゆっくりとして行ってもらいたく!!』
「それはあんたらが奉仕したがってるだけじゃあないのか!?」
『その通りですわ!!』
「当たりかい!!」
『いつも来客される方は、我々を見ると悲鳴を上げて逃げていくのです。お茶の一つも出せずに我々は奉仕に飢えているのですよ!!』
こいつら生まれついての御奉仕天使かよ!!
メイドの鏡だな!!
『だから地下ダンジョンに入られる前に、我々に御奉仕させてください。もしもアスラン様が地下ダンジョンで亡くなられたら、次はいつ来るか分からないチャンスなのですから!!』
「ええっ! なに!? あんたら俺が死ぬかもしれないって考えてますか!?」
『はい!』
「はい、じゃあねえよ!!」
このメイドさんは正直だな、おい!!
【つづく】
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