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第240話【闇に巣くう物】
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俺はソドムタウンの直ぐ西に在る洋館前で昼食を取っていた。
屋敷の玄関前でだ。
テラスのような屋根付きの玄関前から10メートルほど離れて、地面に胡座をかきながらコカトリスの肉にかぶり付いていた。
屋敷の両開きの扉が片方だけ、僅かに開いている。
ほんの5センチぐらいだ。
いつ開いたのか分からない。
ミーちゃんが扉の鍵を開けた時にはちゃんと閉まっていたはずだ。
おそらく俺が、ミーちゃんを見送るのに背を向けている間に開いたのだろう。
まあ、いつ開いたかは問題点じゃあないのだ。
それよりも、何故に開いたかが問題だ。
扉の建て付けが悪くて、鍵を開けたら勝手に開いたのならば、問題無い。
問題なのは、それ以外の理由で開いたのなら問題だ。
何せここは問題のお化け屋敷だからな。
俺はコカトリスの肉を咥えながら扉の隙間を凝視していた。
一瞬も目を離さない。
僅か5センチの隙間から見える闇に集中していた。
何かが居るのではないかと疑いながらだ。
だが、闇は静かだった。
しかし、黙視とは別に、俺の霊体感知スキルが疼いていた。
あそこに何かが居ると言っている。
【霊体感知スキル。パッシブで霊体を感知する確率が向上する】
俺はコカトリスの肉を食べ終わると、残った骨を後ろにポイっと放り投げた。
それから扉の隙間を睨み付けながら言う。
「分かってるんだぞ、そこから見ているのは……」
そう、間違いなく何かが居るのだ。
扉の隙間からこちらを見ていやがる。
そして、やっと扉の奥で動きが見えた。
何かが闇の中で僅かに動いたのだ。
ほんの一瞬だが、俺は見逃さなかった。
「やっぱり居やがるな!!」
俺が凄んだ瞬間であった。
扉の隙間に何かが光る。
俺が何かと凝視してみれば、人の顔が隙間からこちらを除き見ていた。
血走った丸い眼球が、こちらをジィーーーっと見ていやがったのだ。
こーえーーー!!!
見てるよ、見てるっ~~!!!
やっぱり居ますよ、この屋敷!!!
やばいお化けが憑いてますがな!!!
畜生!!
ここで臆して堪るか!!
俺は異次元宝物庫からロングボウ+2を取り出した。
狙う先は10メートル先の5センチの隙間だ。
「食らえ!!」
俺は慎重に狙いを定めて矢を放った。
放たれた矢は狙い通りに扉の隙間に飛び込んで行った。
すると───。
『ィィイアアアッ!!!!』
なに!?
女性の悲鳴!?
当たったの!?
矢が当たったの!?
マジックアイテムから放った矢だから効いたの!?
お化けにも効いたの!?
そんな感じて俺が呆気に取られていると、扉の隙間から矢が飛んで来た。
「なぬっ!?」
俺は咄嗟に左腕に装着していたバックラーでなんとか矢を防いだ。
「あぶね……」
俺が弾かれて地面に転がった矢を見ると、それは俺が放った矢とは違っていた。
ロングボウとかで放つ矢よりも少し小さな矢である。
「クロスボウ用の矢か……」
俺が視線をトビラに戻すと、そこからは霊体反応が薄くなっていた。
先ほどまでの霊気が感じられない。
「居なくなった? 立ち去ったのか……?」
俺はロングボウを異次元宝物庫に仕舞うと代わりにショートソードを取り出した。
この前、ゲットしたばかりの宝剣だ。
【ゴールドショートソード+3。攻撃力向上。命中率向上。魔法サンダーエンチャントウェポンが掛けられる武器。武器に雷属性の効果を与える。効果時間は5分。回数は一日一回。発動条件は魔法名を口に出す】
よし、今日はちょっぴり怖いから、これで行こうかな……。
俺は宝剣の先にマジックトーチを掛けると扉に近寄った。
扉の隙間からは霊気が流れ出ていたが、直ぐ側に霊が居るって感じではなかった。
俺はゆっくりと扉を開ける。
建て付けの悪い扉がギィーーっと耳障りな音を鳴らした。
こんな時にはテンションの下がる音である。
「ちっ……」
意味もなく舌打ちを溢した俺は、薄暗い屋敷内を見回した。
そこは広いロビーだった。
空気が埃っぽい。
天井は高い。
左に二階へ上がる階段がある。
床は大理石だった。
「これは……」
俺は床に埃が積もって無いか見た。
それは足跡が無いか探ろうとしてだ。
しかし、可笑しい──。
空気は埃っぽいのに、床には埃が溜まって無い。
溜まっているどころか、散り一つ無いのだ。
まるでモップ掛けを毎日しているかのように綺麗である。
艶々のピカピカなのだ。
可笑しいな、これは可笑しいぞ。
この屋敷はしばらく人が住んで居なかったはずだ。
なのに、何故、こんなに掃除が行き届いているんだ?
これは、隈無く探索する必要がありそうだな。
それよりも、根本的な権化が出て来て貰えればらくなのだが……。
『お客様、勝手に入られますと困ります』
でーたーーー!!
権化が出たーー!!
俺が声の主を探すと、ロビーの隅にクロスボウをぶら下げた人物が立っているのに気付く。
それはロビーの隅に立っているために、マジックトーチの光が届かず顔までは見えないが、黒い服に黒いスカートを穿き、白いカチューシャに白いエプロンを締めているのが分かった。
その成りは、どこから見てもメイドさんだ。
ただ、メイドに合わないクロスボウを持っているのだけが違和感である。
おそらく先ほど矢を打ち返して来たのは、このメイドなのだろう。
『すみません。御客様が御訪問なされるとは聞いてなかったので』
言いながら彼女が闇の中から歩み出て来た。
そして、俺はメイドの顔を見て、驚愕に近い驚きを感じる。
「嘘だろ……」
俺が驚いた理由は単純だった。
メイドの顔が干からびたミイラだったからだ。
そして、それ以上に驚いたのは、その左目に、俺が放った矢が刺さっていたからである。
「当たってたんかい!!」
しかも失明してないか!?
【つづく】
屋敷の玄関前でだ。
テラスのような屋根付きの玄関前から10メートルほど離れて、地面に胡座をかきながらコカトリスの肉にかぶり付いていた。
屋敷の両開きの扉が片方だけ、僅かに開いている。
ほんの5センチぐらいだ。
いつ開いたのか分からない。
ミーちゃんが扉の鍵を開けた時にはちゃんと閉まっていたはずだ。
おそらく俺が、ミーちゃんを見送るのに背を向けている間に開いたのだろう。
まあ、いつ開いたかは問題点じゃあないのだ。
それよりも、何故に開いたかが問題だ。
扉の建て付けが悪くて、鍵を開けたら勝手に開いたのならば、問題無い。
問題なのは、それ以外の理由で開いたのなら問題だ。
何せここは問題のお化け屋敷だからな。
俺はコカトリスの肉を咥えながら扉の隙間を凝視していた。
一瞬も目を離さない。
僅か5センチの隙間から見える闇に集中していた。
何かが居るのではないかと疑いながらだ。
だが、闇は静かだった。
しかし、黙視とは別に、俺の霊体感知スキルが疼いていた。
あそこに何かが居ると言っている。
【霊体感知スキル。パッシブで霊体を感知する確率が向上する】
俺はコカトリスの肉を食べ終わると、残った骨を後ろにポイっと放り投げた。
それから扉の隙間を睨み付けながら言う。
「分かってるんだぞ、そこから見ているのは……」
そう、間違いなく何かが居るのだ。
扉の隙間からこちらを見ていやがる。
そして、やっと扉の奥で動きが見えた。
何かが闇の中で僅かに動いたのだ。
ほんの一瞬だが、俺は見逃さなかった。
「やっぱり居やがるな!!」
俺が凄んだ瞬間であった。
扉の隙間に何かが光る。
俺が何かと凝視してみれば、人の顔が隙間からこちらを除き見ていた。
血走った丸い眼球が、こちらをジィーーーっと見ていやがったのだ。
こーえーーー!!!
見てるよ、見てるっ~~!!!
やっぱり居ますよ、この屋敷!!!
やばいお化けが憑いてますがな!!!
畜生!!
ここで臆して堪るか!!
俺は異次元宝物庫からロングボウ+2を取り出した。
狙う先は10メートル先の5センチの隙間だ。
「食らえ!!」
俺は慎重に狙いを定めて矢を放った。
放たれた矢は狙い通りに扉の隙間に飛び込んで行った。
すると───。
『ィィイアアアッ!!!!』
なに!?
女性の悲鳴!?
当たったの!?
矢が当たったの!?
マジックアイテムから放った矢だから効いたの!?
お化けにも効いたの!?
そんな感じて俺が呆気に取られていると、扉の隙間から矢が飛んで来た。
「なぬっ!?」
俺は咄嗟に左腕に装着していたバックラーでなんとか矢を防いだ。
「あぶね……」
俺が弾かれて地面に転がった矢を見ると、それは俺が放った矢とは違っていた。
ロングボウとかで放つ矢よりも少し小さな矢である。
「クロスボウ用の矢か……」
俺が視線をトビラに戻すと、そこからは霊体反応が薄くなっていた。
先ほどまでの霊気が感じられない。
「居なくなった? 立ち去ったのか……?」
俺はロングボウを異次元宝物庫に仕舞うと代わりにショートソードを取り出した。
この前、ゲットしたばかりの宝剣だ。
【ゴールドショートソード+3。攻撃力向上。命中率向上。魔法サンダーエンチャントウェポンが掛けられる武器。武器に雷属性の効果を与える。効果時間は5分。回数は一日一回。発動条件は魔法名を口に出す】
よし、今日はちょっぴり怖いから、これで行こうかな……。
俺は宝剣の先にマジックトーチを掛けると扉に近寄った。
扉の隙間からは霊気が流れ出ていたが、直ぐ側に霊が居るって感じではなかった。
俺はゆっくりと扉を開ける。
建て付けの悪い扉がギィーーっと耳障りな音を鳴らした。
こんな時にはテンションの下がる音である。
「ちっ……」
意味もなく舌打ちを溢した俺は、薄暗い屋敷内を見回した。
そこは広いロビーだった。
空気が埃っぽい。
天井は高い。
左に二階へ上がる階段がある。
床は大理石だった。
「これは……」
俺は床に埃が積もって無いか見た。
それは足跡が無いか探ろうとしてだ。
しかし、可笑しい──。
空気は埃っぽいのに、床には埃が溜まって無い。
溜まっているどころか、散り一つ無いのだ。
まるでモップ掛けを毎日しているかのように綺麗である。
艶々のピカピカなのだ。
可笑しいな、これは可笑しいぞ。
この屋敷はしばらく人が住んで居なかったはずだ。
なのに、何故、こんなに掃除が行き届いているんだ?
これは、隈無く探索する必要がありそうだな。
それよりも、根本的な権化が出て来て貰えればらくなのだが……。
『お客様、勝手に入られますと困ります』
でーたーーー!!
権化が出たーー!!
俺が声の主を探すと、ロビーの隅にクロスボウをぶら下げた人物が立っているのに気付く。
それはロビーの隅に立っているために、マジックトーチの光が届かず顔までは見えないが、黒い服に黒いスカートを穿き、白いカチューシャに白いエプロンを締めているのが分かった。
その成りは、どこから見てもメイドさんだ。
ただ、メイドに合わないクロスボウを持っているのだけが違和感である。
おそらく先ほど矢を打ち返して来たのは、このメイドなのだろう。
『すみません。御客様が御訪問なされるとは聞いてなかったので』
言いながら彼女が闇の中から歩み出て来た。
そして、俺はメイドの顔を見て、驚愕に近い驚きを感じる。
「嘘だろ……」
俺が驚いた理由は単純だった。
メイドの顔が干からびたミイラだったからだ。
そして、それ以上に驚いたのは、その左目に、俺が放った矢が刺さっていたからである。
「当たってたんかい!!」
しかも失明してないか!?
【つづく】
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