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第211話【奇襲を去れることもある】

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俺は早朝から行動を起こしていた。

まずはバンリさんの家に立ち寄って見た。

まあ、掘っ立て小屋だな。

ここにバンリさんとアンリさんが二人で住んで居たのかと思うと、なんとも貧しい生活を送ってたんだなと感じる。

俺は立て付けの悪い扉を開けて小屋の中に入った。

「狭いな……。ここに兄妹二人で過ごしていたのか……。さぞ貧しかったんだろう」

薄暗い部屋の中で、壁や天井から木漏れ日のように明かりが入って来ていた。

隙間風と雨漏りが酷そうである。

俺は部屋の中を探るように見回した。

確かバンリさんが居なくなって数ヶ月だっけな。

まだ小屋には生活感が残っている。

でも、食器が無いな。

ベッドには毛布が無い。

身支度を整えた痕跡があるな。

これはバンリさんは生きてるぞ。

村を出て行ったのかな?

まだ、結論は出ないけれど可能性は濃厚だ。

「よし、朝飯を食いながら山にでも入るか──」

俺はコカトリスの手羽先を咥えながら山に入った。

小屋の裏は直ぐ山である。

細い道もあった。

まずはその道を辿って山を進もう。

この山道をコカトリスの肉を咥えながら進んでいれば、曲がり角で食パンを咥えた可愛い子ちゃんとぶつかって、ラブストーリーが始まるかも知れない。

いや、ごめん……。

こんなド田舎の山道で、そんなときめくハプニングなんて無いよね……。

可能性はゼロだろうさ……、グスン。

まあ、気を取り戻してっと。

俺は追跡スキルを使って足跡を探す。

【追跡スキル。足跡などを見つけて、対象を追跡や探索ができる】

初めて使うスキルだが、こんな時こそ役に立つスキルだね。

さっそく山道に足跡を見付ける。

人間の足跡が複数あるが、それとは別にハッキリとした蹄の跡が残っていた。

馬とか鹿じゃあ無いよな、これはミノタウロスだよな。

まだ山に入って差程たっていないのに、もうミノタウロスの痕跡を発見しちゃったわ。

てか、こんな人里間近にミノタウロスが下りて来ていいのかな。

駄目だろ……。

こりゃあアカンな。

こんなところまでミノタウロスが来ているようなら、村人に被害が出るのも時間の問題じゃね。

兎に角早めにミノタウロスを退治しないとならないだろう。

俺はいつミノタウロスと出会してもいいように、周囲を警戒しながら山道を進んだ。

さて、でも、この道はどこに通じているのだろう。

ローマかな?

オートマッ◯スかな?

それにミノタウロスの足跡もハッキリと残ってやがるな。

なんどもこの道を通っているのが分かるぞ。

俺は山道を上に上にと登って行った。

振り返れば随分と景色の良い高さまで上がっていた。

山道の疲労に、少し息が上がっている。

これだとレベルアップしたときに、登山スキルを覚えそうだぜ。

まあ、それも有りかな。

そして俺は山の頂上に到達していた。

そんなに標高が高い山でもなかったのか、あっという間だったぜ。

でも、疲れたわ……。

「んん?」

一息付いた俺が山の裏側を見下ろせば、山の麓から煙りが上がっているのが見えた。

「煙り?」

森の中から煙りが上がっているから、何故に煙りが上がっているか詳しく状況が分からない。

「狼煙ってほどでは無いが、人が火を使っているのは確かだな……」

俺は少し休憩を取ってから山の裏側に下りて行った。

煙りが上がるポイントを目指す。

そして、もう道は無い。

ショートソードを振り回して藪を切り裂きながら進んだ。

たぶん一時間ぐらい歩いただろうか、そろそろ煙りのポイントに到着するころだろう。

俺が藪の中をガサガサと進んでいいると、開けた場所に出た。

小さな広場だった。

奥に雑な作りの小屋が在る。

煙りはその小屋から上がっていた。

「ここに人が居るのか?」

バンリさんの家と変わらないサイズのボロ屋だった。

最初はマタギや木こり用の山小屋かと思ったが、更に近付いて周囲の様子を窺うと俺は驚いた。

畑である。

山小屋の周辺が耕されて、畑に成っていた。

いろいろな野菜が育てられている。

「こんなところに農家が?」

山の中に人が住んでいるなんて聞いて無かったぞ。

バンリさんが村の最果てに住んでいるはずだ。

に、しても……。

迂闊であった。

俺が山小屋や畑に気を取られていて、ヤツの接近に気が付かなかった。

そもそも、そんなことは無いと思っていたからだ。

まさか巨漢のミノタウロスに、気が付かれずに接近を許すなんてあり得ないと考えていた。

いや、そんなことは考えてもいなかった。

だからだ──。

俺の背後から気配を感じる。

獰猛で巨大な気配を……。

鼻息が荒いよね……。

「まずったぜ……」

『モーーーー!!!』

俺は瞬時に前へ飛んだ。

俺の居た場所に大きな斧が振り下ろされるとドスンっと衝撃が轟く。

俺は地面を転がると振り返りながら立ち上がった。

「出やがったな、ミノタウロス!!」

『モーーーー!!!』

雄叫びを上げるミノタウロスは、頭が牛で、身体は人間だった。

巨大な身体は身長2メートル30センチほどある。

噂通りに大きい。

まさにミノス王国の野獣王子の成りである。

そして、片手に錆びれた戦斧を持っていた。

上半身には継ぎ目が多い革の服を纏い、腰にはミニスカートサイズの腰巻きを身に付けていた。

手には革の手袋、足には革の靴まで履いていやがる。

全身革製の衣類を身に付け、その隙間から見える肌は褐色で筋肉質だった。

腹筋なんて見事なシックスパックですがな。

こいつがここに暮らして居るのか?

ミノタウロスが服を作って纏い、家を作り、畑を育てて、火まで起こしているのか?

もしかして、このミノタウロスはとても賢いのか?

それなら俺が背後を取られたのも理解できる。

こいつは蛮族的なミノタウロスじゃあねえな。

こいつは文化人系ミノタウロスだ。

ならば話せば分かるかな?

「あの~、ちょっと話をしないか?」

『モーーーー!!!』

ミノタウロスは俺の言葉も聞かずに襲い掛かって来た。

双眸が鬼畜の如く血走ってやがるぞ。

そして、ブルンブルンと戦斧を振り回しながら、逃げる俺を追いかけて来る。

「ひぃぃぃーーー!!」

『モーーーーー!!!』

駄目だこりゃあ!!

逃げる俺。

話が通じるタイプじゃあ無いぞ!!

説得は無理だ!!

戦うしか無いのか!?

走りながら逃げ回る俺は異次元宝物庫からロングソード+2を取り出すと足を止めた。

振り返ると同時に横一線の剣技を繰り出す。

「斬っ!!」

『モーーーーー!!』

だが、俺の剣をミノタウロスは飛んで躱した。

俺の頭の上を飛び越えると、空中で可憐に身体を捻りながら俺の背後に着地する。

「ムーンサルトだと!?」

俺は着地直後のミノタウロスに斬りかかった。

だが、すぐさまミノタウロスも攻撃を繰り出して来る。

『モーーーーー!!』

「なに!?」

俺の剣とミノタウロスの戦斧が激突した。

しかし、力負けした俺は、衝撃で後方に飛ばされる。

「打ち負けたのか!?」

俺は転倒を免れたが、心が動揺していた。

このミノタウロスは普通じゃあ無い……。

てか、獣では無いぞ……。

こいつは戦士だ……。

手練れの戦士である………。

『モーーーーーーっ!!』


【つづく】
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