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第208話【掲示板の依頼書】

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俺は完熟フレッシュ亭の一部屋に居た。

四方向下駄箱のような無数の棚に囲まれた部屋だった。

小さな扉が付いた複数の棚はロッカー見たいな物かな?

スーパー銭湯見たいに板の鍵が付いている。

付いてないところは使用中なのだろう。

部屋の中央にはテーブルが在り、上にはセーラー服が何着も置かれていた。

「どれ、着替えるか」

俺はロッカーの一つを空けた。

中は空である。

俺はそこに服を仕舞うとテーブルからセーラー服を一着取って着こんだ。

黒いセーラー服にミニスカートだ。

「よしっ!」

セーラー服を纏った俺は勇気を持ってホールに出た。

これで俺もセーラー服野郎の仲間入りだぜ!!

俺もセーラー服反逆同盟だ!!

まあ、それはさて置いて、晩飯だわ。

「女将さん、おすすめの晩飯はなんだい?」

俺が問うとカウンター内のハウリングおばさんが答えてくれた。

「今日は蜥蜴のスープだよ、食べるかい?」

「蜥蜴って、珍しくないかい?」

「この辺の森にはジャイアントリザードが多く巣くってるからね。名物に近いのかね~」

「へー。じゃあそれとパンをくれないか」

「あいよ、ちょっと待ってな。先に飲み物はどうする?」

「水で」

「水? 酒は飲まないのかい?」

「俺はゲコだ」

「そうかい……。それは人生の半分を無駄にしているよね~」

「よく言われるよ」

しばらく俺が待っているとユキちゃんが蜥蜴のスープとパンを持って来た。

「はいよ、お待ちどうさ~ん」

「サンキュー」

俺は目の前に置かれたスープの皿を見て仰天する。

そこには俺の頭と同じサイズの蜥蜴の頭と、長い尻尾らしき物が入っていた。

煮込まれているが、グロテスクである。

長い尻尾なんて皿からはみ出してやがった。

「グ、グロ……。そうか、ジャイアントリザードなのね……」

ユキちゃんが俺の背中を叩いて言う。

「頭が入ってるなんてラッキーだな。うちのママの料理はピカイチだから、食ってみろよ」

俺はユキちゃんの満面な笑みに押されて蜥蜴のスープを口に運んだ。

恐る恐る食べる。

んっ!?

案外と旨いな。

蜥蜴の肉も軟らかいぞ。

これはなかなかだわ。

俺はユキちゃんに親指を立ててグッドサインを送る。

するとユキちゃんは清々しい笑みを返してくれた。

「だろ~。見た目以上に旨いだろ」

なんとも輝いた爽やかな笑みである。

「じゃあ、ゆっくりと食べていってね」

ユキちゃんは手を振ると仕事に戻る。

なんだろう。

すげーマッチョガールだけど、ユキちゃんって、けっこう可愛いじゃんか。

もっと身体を鍛えて無ければモテモテなんじゃあね?

と、俺は思った。

俺は飯を食いながら酒場を見回した。

酔っぱらったセーラー服野郎どもが楽しそうに騒いでやがる。

そして、俺は階段手前に設置された掲示板に目が止まった。

ここにも冒険者用の掲示板が在るな。

何枚か依頼書が貼られている。

飯を食べ終わったら、見に行こう。

そう俺が考えていると、カウンターの下からハウリングおばさんに話しかけられた。

「掲示板が気になるのかい?」

俺が前を向きなおすとカウンターの中に頭だけを出しているハウリングおばさんと目が合った。

普通にカウンター席に座っていれば、ウエイターさんと同じぐらいの目線になるのが酒場の法則なのだが、矮躯なハウリングおばさんは頭しか見えない。

それが凄く違和感を持っていた。

俺はハウリングおばさんを見下ろしながら言う。

「この辺は冒険が盛んなのかい?」

「いや、全然だ」

ハウリングおばさんも掲示板のほうを見ながら言う。

「あれもほとんど人足や護衛の依頼書ばかりだよ。あとはジャイアントリザード退治ぐらいかね」

「ジャイアントリザードって強いのか?」

「陸に居るワニよりは強いんじゃあないのかね」

うむ、ワニとも戦ったことが無いから参考にならないな。

俺は蜥蜴のスープをたいらげると掲示板に歩み寄った。

流石に蜥蜴の頭は残す。

俺が掲示板を覗いて見れば、確かに人足や護衛の仕事が多い。

あとはジャイアントリザード退治かな。

ジャイアントリザードを退治して遺体を持ち帰ると重量で報酬が決まるらしい。

ほとんど食料確保の仕事だわ。

もしかして、ジャイアントリザードをバンバン狩って、異次元宝物庫でドンドン待ち帰れば、ガンガン儲けられるかな?

それよりも、興味を引かれる依頼書が一枚あるぞ。

「ミノタウロス退治かぁ~」

それはヒュンダイって村からの依頼だった。

その村がどこに在るかは分からない。

あとでマップを見て調べよう。

依頼書の内容はこうである。

ミノタウロスを退治してくれたら報酬として15000Gを払うと書いてある。

なかなかの報酬量ではないか。

俺は近くを通ったユキちゃんを捕まえて訊いてみた。

「なあ、ユキちゃん。このミノタウロス退治って、いつから貼ってあるん?」

「う~……。確か三日ぐらい前からかな」

「誰か依頼を受けたヤツは居るのか?」

「この辺の冒険者でミノタウロスに敵うヤツらは居ないだろうさ。何せヘタレが多いからな」

この辺の冒険者はレベルが低いのかな?

「なるほど。じゃあ、やってみるか」

「あんた、ミノタウロスに勝てるのかい?」

「たぶん勝てるだろ」

「一人で?」

「俺は昔っからソロだからな」

「ミノタウロスって私より大きいと聞くぞ……」

「どのぐらい?」

「身長2メートル30センチは有るって聞いたわよ。しかもゴリゴリのマッチョだとか……」

「へー」

「それに棍棒とか斧とかの武器を武装しているんだってさ……」

「へー」

「あんた、やれるのか……?」

「やれるだろ」

俺はさぞ当たり前のように答えたが、ユキちゃんは心配そうに俺を見下ろしていた。

俺はその心配を振り払えるように言ってやった。

「そんなに信用できないなら、ミノタウロスの首をお土産に持って来てやるよ。剥製にして、店に飾ればいいさ」

「あ、ああ……。期待しないで待ってるぞ……」

あー、これは信用して無いな。

ならば尚更張り切っちゃうぞ。

必ずミノタウロスの首を持ち帰ってユキちゃんにプレゼントしてやる。

それとも今日出会ったばかりの野郎にミノタウロスの首なんてプレゼントされたら困るかな?

ユキちゃんは、案外とシャイっぽいもんな。


【つづく】
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