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第203話【謎の覆面】

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「だ、れ、に、し、よ、う、か、な、な、ら、く、の、お、う、さ、ま、の、い、う、と、お、り~」

魔女は吊られた人々を包丁で指差しながら最初に捌くだろう被害者を選んでいた。

やば~い!!

あの女、マジで人を捌く気だよ!!

また悪魔に捧げたあとに美味しく頂くつもりですかぁ!?

こえーーよ!!

マジであの女は、こえーーよ!!

どうする、俺!?

助けるのか!?

あの吊られてる人々を助けますか!?

それとも逃げますか!?

逃げちゃいますか!?

どーーせ、知らない人々ですよ!!

助ける義理も理由も無いですよね!!

でーもー、それって目覚めが悪いよねぇ……。

絶対に今晩から夢に出てきますよね……。

あー、もー、どーしよう!!

助けるのは怖いが、助けたい!!

怖い、怖い、怖い、怖いよーー!!

こーわーいーよー!!

どうしよ、どうしよ、どうしよ!?

戦ったら勝てますか!?

そもそも勝てますか!?

俺だってあれから冒険をしまくって強くなってますよね!?

成長してますよね!?

勝てる……??

勝てるかな──??

あれ、もしかしたら勝てるんじゃあね?

だって俺はエクスフロイダー・プロミスにも黄金剣のセルバンテスにも勝ってるんだぞ。

勝てるんじゃあねえの?

でも、あの魔女は怖い……。

俺の無意識に恐怖心が刻まれている。

そうだ、その恐怖心を乗り越えれば俺は今以上に強くなれるんだ。

そう、変われるんだ!!

これは試練か!?

試練なのか!?

俺にアイツを倒せと天が言っているのか!?

神が告げているのか!?

そうだ、そうに違いない!?

だが、俺にはアイツの前に立つ勇気が無い……。

兎に角トラウマが酷いんだよ……。

心にザックリとパッカリと深い深いそれはそれは深い生傷が刻まれているんだよね!!

それが克服できないんだよ……。

それさえクリアすれば……。

クリアできれば……。

俺は異次元宝物庫から二枚のタオルを取り出して、顔と頭に巻いた。

顔を覆面状態のタオルで隠す。

これで俺は俺じゃあ無くなるぞ。

俺は正義の覆面レスラージャギ様だ!!

俺はもう別人だ!!

よし、これで行けるぞ!!

俺はコソコソと納屋の入り口に移動した。

登場のタイミングを窺う。

ここは正義の味方らしく格好良く登場するのだ。

演出は大事だ。

ムード作りが勝利の鍵になるだろう。

俺は万全のタイミングを演出するために中の様子を窺った。

「よーし、決めたわ。まずはこの子から捌いてあげるわよ~♡」

おお、さっそくチャンスかな。

ここで格好良く──。

「でも~、眠っている間に殺すのは勿体無いわよね~。もっと恐怖心を煽りたいわ」

おっとっと、危ない危ない……。

タイミングを間違えるところだったぜぇ。

もうちょっとで恥ずかしい思いをするところだったかな。

よし、人質が目覚めて包丁で刺される瞬間に助けに入ろう。

うん、それが一番いいだろう。


それから一時間が過ぎた──。


な、なにしてるのー!!

なんで人質たちは目を覚まさないのさ!!

それより魔女さんよ!!

人質を叩き起こせばいいじゃんか!?

なんでのんびりと待ってるのさ!?

アイツは何してるの!?

なんかずっと床に何か書いてますよね!?

落書き!?

落書きに夢中ですか!?

早く悪魔に人質を捧げましょうよ!!

あんた悪魔の巫女でしょう、魔女でしょう!?

さっさとやれよな!!

人質をちゃんと悪魔に捧げましょうよ!!

何をのんびり落書きしながら待ってるのさ!?

わけ分かんないわ!?

早く殺せよな!!

なんなら俺が人質を殺してやろうか!?

いやいやいや、それじゃあ俺が格好良く登場できないじゃんか!?

やっぱり待つしかないのかな?

あー、もー、じれったいなー!!

あ、そうだ。もー、こうなったらいつも通り不意打ちで行こうかな。

そうだよね、そのほうが討伐率は格段に上がるよね。

そうだよ、なんでそのことに気が付かなかったんだ!!

俺には俺の得意な戦術があるじゃあないか!!

よし、不意打ちを仕掛けるぞ!!

俺は異次元宝物庫からロングボウ+1を取り出した。

そして弦を引こうとしたところで人質が目を冷ましてしまう。

「あら、やっとお目覚めかしら~♡」

「んんーんーんんんん!!!」

あー……、不意打ちを仕掛けるタイミングを見失ったかな……。

これはプランAに戻そう……。

そうだよ、不意打ちなんて男らしくないよね。

男ならヒーローらしく派手に登場するべきだよね~。

よーーし、タイミングをはかるぞ~。

「そこに居るのは誰!?」

「えっ!?」

「マジックバズーカ!」

「どわっ!!」

突然の魔法攻撃だった。

俺の横の壁が砕けて吹き飛んだ。

風系の魔法だろうか。

凄い風圧系の魔法だった。

木の壁が木っ端微塵である。

ちくしょう、もう出るしかない。

ここはクールに登場じゃあ!!

俺は一歩横に踏み出した。姿を現す。

「誰だい!?」

「名前を訊いてるのか?」

「そうよ!」

「俺の名前は!」

考えて無かったわー!!

いや、待てよ?

さっき適当に考えてなかったっけな?

確か~……。

「俺の名前は!!」

「名前は!?」

えーと、えーと……。

たーしーかー……。

あっ、思い出したぞ!!

「覆面レスラージャギ様だ!!」

「なに!?」

「さあ、悪党め、俺の名前を言ってみろ!?」

「覆面レスラージャギだっけ?」

「うん……」

なんだろう、この間の抜けた空気は?

もしかして、滑ったかな?

滑ってるのかな?

滑ってるのね……。


【つづく】
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