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第192話【変態の勝利】

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突然ながらメガロの幽霊が現れた。

見るからにレイスですね。

『ぁあぁァあァあアああぁアアア』

「ジャンヌちゃんはさがってて!!」

「は、はい!!」

うわ~、キモイ……。

意気込んでみたけれど、なんだかメガロの亡霊はエグいな。

身長2メートルはあるよね。

巨大化してねえか?

変形してるって言ったらいいのかな。

灰色のローブから伸び出た両腕は、細くて異様に長いしさ。

長い足なんかローブから出てさ、膝の当たりから見えてますよ。

手も足も、爪なんて猛禽類のように伸びてますしさ。

何ですか、こいつは?

魔法使いの霊には見えませんがな。

『ぁあぁァあァあアああぁアアア!!』

しかも、すげー錯乱してないか!?

それとも発狂なのかな!?

俺がメガロを観察していると、メガロのほうから動いた。

フワリと浮き上がると天井に、背中を合わせて貼り付く。

「ちっ、上を取られたか!」

俺が愚痴るとメガロはカサカサと素早く動いて天井を前進した。

なんかキモイぞ!!

本当にキモイぞ、こいつ!!

巨大なゴ◯ブリみたいだわ!!

そして素早い移動で俺の背後に回ると床に下りて来る。

『しゃしャシャ!!』

着地したメガロはジャンヌの背後を取っていた。

「しまった、ジャンヌちゃん逃げて!!」

俺が叫ぶとメガロは長い身体を曲げてしゃがんでいやがった。

足元に居る黒猫のジルドレの顎を撫でている。

『しゃしャシャ~~♡』

「なぁ~~ご♡」

ジルドレはされるがままだった。

顎を撫でられて気持ち良さそうにしている。

それを見て俺は気付く。

「なるほど、そうだったのか!」

「ど、どうしたんですか、アスラン殿!?」

「ダグラスの猫たちがメガロに殺された理由が分かったぞ!」

「な、なんですか!?」

「メガロは猫好きだったんだ。そして猫たちを可愛がった!」

「ええ、そんなバカな!?」

「だから、可愛がり過ぎて、精気を吸い取ってしまったんだ!!」

「はぁ~?」

「その証拠に、ジルドレが弱りだしたぞ……」

「ニァ…………」

黒猫がフラフラしている。

「ジルドレ!!!」

使い魔を心配したジャンヌが剣を抜いてメガロに斬りかかった。

ジャンヌがジルドレを亡霊から救いだす。

しかし、ジャンヌの剣はメガロの頭部をすり抜けて床に当たる。

「なぜ!?」

剣を振り抜いたジャンヌが驚いていた。

あー、この子の剣はマジックアイテムじゃあ無いのね。

ノーマルウェポンじゃあ霊体を傷付けられないぞ。

よし、やっぱり俺がカッコいいところを披露しなければなるまい!!

「退いてくれ、ジャンヌちゃん!!」

俺はジャンヌを押し退けると黄金剣でメガロに斬りかかる。

「そら!!」

『しぁァあ!!』

メガロは身体を滑らせるように後退すると俺の剣を躱した。

やるな、こいつ!?

しかし今の動きは魔法使いの体術じゃあなかったぞ!?

そして間合いを築いたメガロが魔法を撃ってくる。

『しゃシャあアアア!!』

マジックアローだな!

レジストできない!!

魔法の矢が俺の頬をかすって過ぎて行くと、後方でジャンヌが「きゃ!」と叫んだ。

「ジャンヌちゃん!?」

どうやら俺が回避したマジックアローがジャンヌに当たってしまったらしい。

「大丈夫か!?」

「大丈夫です。このぐらいならヒールで治りますから!」

ちっ、やっぱりソロとは感じが違うな。

俺には仲間は無用だぜ。

邪魔に等しいわ。

とりあえず、ここはすんなりとメガロを討伐しなければなるまい。

「うらぁぁああ!!」

俺が黄金剣を振りかぶりながら前に出ると、メガロも前に出て来た。

何故に魔法使いが接近戦の間合いに入って来るんだ!?

いや、今は考えてる場合じゃあないぞ。

斬る!

「どらっ!!」

『しュ!!』

えっ!?

パンチ!?

目眩!?

俺は殴られたのか??

眼前がチカチカとしてやがる。

顎先を殴られた。

メガロの長い手が、剣の間合いの外から飛んで来て俺の顎を殴りやがったぞ。

こいつは──!?

更に鞭で叩かれたような派手な音が鳴った。

メガロのローキックが俺の太股に食い込んでいた。

俺の全身に激痛の稲妻が走る。

こいつは、武道家だ!!

「ぐっぐぅ……!!」

俺の身体がローキックの痛みに硬直して止まっていた。

そこにメガロの追撃が放たれる。

フックからのストレートパンチが連続して俺の顔面をぶん殴った。

フックとストレートの勢いに俺の身体が後方に飛ぶ。

「なぁろ!!」

だが、俺は踏み止まった。

倒れない。

『しゃあアアしャアあアシャ!!』

メガロが威嚇の声を上げていた。

高い背を丸めながら顔を付き出すと、大きく口を開けて掠れ声を叫んでいる。

「忌々しい!!」

俺はペッと床に唾を吐いた。

その唾に赤い物が混ざっている。

けっこうな強打だったから、口の中がザックリと切れてやがるぞ。

こりゃー、しばらくは熱いコーヒーが飲めないだろう。

いや、ヒールで治るかな。

「なろう、容赦しねえからな!」

俺は強く黄金剣を握り締めた。

もう隙は見せられないぞ。

ジャンヌちゃんに恥ずかしいところは見せられない。

次で決めてやる。

そう俺が心中で決意すると、真横の扉が開いた。

そこはダグラス・ウィンチェスターが寝ているはずの部屋だ。

あの糞爺が出てきやがった!!

俺とメガロが同時に横を向く。

不味い!!

「なんじゃ、さわがしいな?」

都合の悪いことに、メガロのターゲットが直ぐ真横に出て来てしまったのだ。

しかし───。

あれーーーー!?

「なんじゃ、お前ら。戦ってたのか?」

そのダグラスの格好は、ピンク色のスケスケネグリジェで、頭には金髪のカツラを被っていた。

下着はブラもパンティーも、黒い女性用だ。

それだけじゃあなく、顔にはキモイぐらいの化粧が施されている。

それを見た俺とメガロは背を向けてゲロを吐いた。

「げろげろげろ~~……」

『ゲロゲロケロ~~……』

そしてゲロを吐き終わった俺は、メガロより早く振り返っていたのだ。

「あ、隙あり」

俺は背後からメガロの身体を黄金剣で貫いた。

『ギィァァァあァあアアア!!!』

悲鳴を上げたメガロの霊は霧となって消えて行く。

【おめでとうございます。レベル22に成りました!】

わーい、やったー……。

レベルアップだぁ~……。

おそらく勝利の鍵は、どちらがより多く変態に慣れていたかだろう。

そう、俺のほうがより多く変態に触れ合っていたから、嘔吐から早く回復できたのだ。

これは、変態の勝利である。


【つづく】
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