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第190話【すれ違いラブ】

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俺は猫に顔面を引っ掻かれて血だらけになっているダグラス・ウィンチェスターに家の中を案内されてビックリした。

このダンジョンハウスは、かなり広くて複雑な構造になっている。

まず、ソドムタウンの郊外に建てられたウィンチェスター家の敷地は広大であった。

もともとゴモラタウンでもウィンチェスター家は有数の大地主らしく、ゴモラタウン周辺の畑を一割程度所有しているらしい。

大工は副業で、農業から得る収入のほうが多いらしいのだ。

だから屋敷を改築するだけの土地は余っている。

それも有ってか、メガロの騒ぎが始まってから五年経つが、その間に増築された屋敷のスペースは、少し大きめな屋敷から見ると、十軒分にも値するらしい。

だから寝室の数だけでも数百あり、階段の本数や、廊下の数だけでも、数えきれないほどに存在しているらしいのだ。

その寝室や階段、廊下に扉が入り乱れながら複雑な迷路のように配置されている。

しかも、扉を開けても行き止まりだったり、窓からしか入れない部屋があったりと、住居としての理が破綻した構造も複数存在しているのだ。

俺は案内されながら呟いた。

「この屋敷は冒険のしがいが有りそうだな。すげー面白いぞ」

俺の呟きを聞いたダグラスが血だらけの顔で微笑みながら言った。

「流石に五年間も改築を続けていると、だいぶネタも尽きてきたが、そう考えて適当に作れば作るほどに、可笑しな構造が増えてきてな。訪問してきた客には楽しんで貰っているよ」

ダグラスの述べた通り、この屋敷は面白いぞ。

しばらく遊べそうな感じがする。

俺は徐にあったドアを引いて開けてみた。

すると、またドアが出て来る。

「二重ドアか?」

しかしそのドアは引いても押しても開かなかった。

すると、先を歩いていたダグラスが振り返ると言う。

「次の扉はスライド式だ」

俺は襖を開けるようにドアを横にずらして開けた。

ドアの奥は寝室である。

しかし、天井にベッドやテーブルが貼り付いていた。

室内が逆さまであるのだ。

「面白いな……」

「だろ~」

「それにしても、どの寝室も殺風景だな?」

「ああ、屋敷が広すぎて泥棒対策が追いつかないんだわ。だから家には金の物は置いてない。家具すら間に合ってない部屋が多いんだ」

「なるほどね~」

「それに、寝床は毎晩変えている。それもメガロがワシを見付けられない理由の一つだろう」

「確かにこの広い迷路の寝室から当たりの部屋を見つけ出すのは難しいかもな」

だが、それだけでは五年間も見つからずに、毎晩毎晩安心に睡眠を取るのは難しいだろう。

まだ、何か秘密が有りそうだな。

「なあ、ダグラス」

「なんだ、若いの?」

「しばらくこの屋敷に住んでいいか。メガロ討伐のためにだ」

「構わんが、夜になると召使いたちは一人も居なくなるぞ。全員メガロを恐れて屋敷には残らないからな」

なるほどね。

ダグラスはメガロの幽霊を怖がっていないが、召使いたちは別なのね。

まあ、当然か~。

殺人幽霊は、誰だって怖いよな~。

「俺は万が一に備えて、あんたの側に居たいのだが、いいか?」

「構わん」

ジャンヌが小さく手を上げて言う。

「あの~、私もご一緒しても構わないでしょうか?」

「ワシは構わんぞ」

俺はジャンヌに問う。

「それは、メガロ退治に同行したいと?」

「はい、ギルマスにも言われてますから」

「それは、今晩、俺と行動を共にしたいと?」

「はい、ギルマスに討伐を確認するように言われてますから」

「それは、俺とぉぉおぉぁががあがかがぐがぐううう!!!」

しまったぁぁあああ!!!

エロイことを考えてしまったぁぁあああ!!!

だって! だって! だってぇぇえええ!!!

こんな可愛子ちゃんと二人っきりで夜を過ごすなんて健全な若者たちなら交通事故が勃発しないわけが無いじゃあないかぁぁあああ!!!

もうそれは対物事故どころか人身事故ですよ!!!

下手すりゃあ俺が死ぬから死亡事故ですがなぁぁあああ!!!

ぐぁぁああぁああがががああが!!!

おーさーまーれー!!!

おーちーつーけー!!!

ぜぇはー、ぜぇはー、ぜぇはー……。

よ、よし、落ち着いてきたぞ……。

「ど、どうかしましたか、アスラン殿?」

呪いの痛みに苦しむ俺を見てジャンヌちゃんが心配そうに見つめて来る。

潤んだ瞳で眉をハの字に曲げて顔を近付けて来た。

心配そうに潤んだ瞳と、艶やかな唇が俺に迫る。

健気だ……。

か、可愛いぞ……。

うわ、なんかいい匂いがするな~。

「ぐぅぁあああがかあががあがが!!!!」

しまったーー!!

まーたーのーろーいーがー!!

俺は揉んどりうって苦しんだ。

床の上をのたうち回る。

「大丈夫ですか、アスラン殿!!」

ジャンヌが暴れる俺の両肩を掴んで動きを止めようとした。

「アスラン殿、どうなさいました!?」

「くぅそぉーー!!!」

俺は歯を食い芝って耐え忍んだ。

心が泣いていた。

何故にこんな可愛い女の子が俺の両肩を掴んでくれているのに、俺は応えてやれないのか。

それが悔しい。

血の涙を流すほどに悔しいぞ。

糞、呪ってやる!

糞女神を呪ってやるぞ!!

「ちくしょう、ちょっと落ち着いてきたぞ……」

俺は少し痛みが和らぐと、大人しく横になって深呼吸をした。

すーはー、すーはー……。

するとジャンヌちゃんが横になる俺の片手を両手でしっかりと握り締めながら言う。

「大丈夫ですか、アスラン殿。ヒールでもお掛けしましょうか!?」

あ~、この子はいい子だな~。

本気で俺を心配してくれているよ。

手が柔らかいな。

あー、もー、すげー可愛いじゃあねえか!!

でも、こんなーにぃぃ、ちぃいかいとぉおお、のーろーいーがぁぁああ!!

「糞っ!!」

俺はジャンヌちゃんの手を振りほどいて立ち上がった。

「だ、大丈夫だ……。ちょっと発作が起きただけだ……」

俺は必死に耐えていた。

その顔がジャンヌちゃんに対して敵意を持っていると勘違いされているとは、この時の俺は気付いてもいなかったのだ。

「アスラン殿……」

「だ、大丈夫だから、ちょっと一人にしてくれ……」

「でも、つらそうですよ……」

「いいから、あっちに行けよ!」

「は、はい……」

冷たくあしらわれたと思ったジャンヌちゃんは、しょんぼりとしながら後ずさる。

元気を無くしたジャンヌちゃんの顔はとても暗い。

俺に嫌われたと勘違いしているのだ。

そう、ジャンヌちゃんが勘違いしていることに、俺は気付いていなかった。

そしてこれが、すれ違いラブストーリーの始まりだとは、誰も気付いていないのだ。

俺も、ジャンヌちゃんも、黒猫のジルドレも、顔面血だらけのダグラスもだ。

突然だが、ラブストーリーは止まらないのだ。(意味不明)


【つづく】
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