上 下
154 / 604

第154話【閉鎖ダンジョン最終日】

しおりを挟む
深夜である。

俺は自室のベッドで横になっていた。

テーブルの上の蝋燭に、マジックトーチで明かりを灯している。

魔法の継続時間からして、そろそろ切れそうなころであろう。

マジックトーチが切れたら眠りに付こうと思う。

まあ、ベッドに潜り込んで天井を眺めているだけなので、明かりも勝手に消えるし、いつ眠りに落ちても構わないだろうさ。

今日一日は、暇で呑気に過ごしたのだ。

休日の最後まで、こんな乗りのまま過ごしても構わないだろうさ。

明日が本番だろう。

閉鎖ダンジョンの七日目──。

テイアーから貰ったダンジョンのマップだと、そろそろドラゴンの体が眠っているポイントまで探索が終わりそうだ。

明日にダンジョンを探索すれば、おそらくドラゴンの体まで到達できるだろう。

そうなればだ。

その道中に、必ず居るだろう最強の英雄亡霊が──。

黄金剣のセルバンテス。

随分と昔の冒険者らしいが、強敵なのは間違いないだろう。

武道家の英雄に、エクスフロイダー・プロミスも強かったが、こいつが一番の問題だ。

黄金剣は間違い無くマジックアイテムだろう。

その他の防具もマジックアイテムだろうさ。

だから倒すのは困難だろうが、逆に倒せたらボロ儲けだ。

絶対に倒してやる。

そして、決着を付けてやるぞ。

ああ、マジックトーチの明かりが消えたな。

寝るか……。

ぐぅ~~……。

そして、あっと言う間に朝が来た。

俺はピーターさんが作ってくれた朝食を食べ終わると、パーカーさんにダンジョンの入り口を開けて貰った。

パーカーさんとピーターさんの二人が、見送りに来てくれる。

スパイダーさんは休みで家に帰って行ったから居ないのだ。

まあ、あの人はどうでもいいや。

俺はダンジョンの入り口を潜る際に二人に言う。

「たぶん今日でミッションが終わるかも。ラストだわ」

パーカーさんが述べる。

「そうか、久々に楽しい日々だったぜ」

ピーターさんも述べる。

「今日が最後なら、油断しないでね。無事に帰って来るんだよ」

「うん、分かった」

俺は明るく微笑むとダンジョンに潜って行った。

螺旋階段を下りながらランタンに明かりを付ける。

メイドたちのお風呂に繋がる謎の穴がある場所を通過して、レイス夫婦の部屋で線香を上げると奥を目指した。

そして、空手家アンデットが居た部屋を横切る。

それからエクスフロイダー・プロミスが遺言を残してあった迷路を通過して、更に奥を目指した。

道中で数体のスケルトンを倒したが、これといって強敵レベルのモンスターとは遭遇しなかった。

そして長く広い廊下に入る。

この広い廊下を突き進めばドラゴンの体が眠っている大部屋が在るはずだ。

要するに、この広い廊下の道中に黄金剣のセルバンテスが居るはずなのだ。

廊下は広く損害もほとんど見られない。

身を潜められそうな物も見当たらない。

これは潜伏などは無理だろうな。

そう考えた俺はランタンを異次元宝物庫に入れるとショートソードを抜いてマジックトーチを剣先に灯した。

ここからは、正面堂々と挑んでやろうじゃあないか。

まあ、最後の最後だし良いかと思った。

俺は慎重に足を進める。

トラップにも気を払う。

ここで詰まらないトラップでテンションを汚されたくないからな。

そんな感じで俺が慎重に進んでいると、廊下の中央に人影が現れる。

15メートルほど先に、胡座を組んで人型の何かが座っていた。

俺は目を凝らす。

その人物は男性で全裸のミイラだった。

素っ裸で何も身に纏っていない。

髪はボサボサで、体はガリガリに痩せている。

「なんだ?」

こいつがセルバンテスか?

でも、黄金剣を持っていないぞ。

それどころか装備品の一つも無いじゃんか?

なによりだ、こいつは動くのか?

そもそもモンスターですか?

ただの置物か?

トラップか?

まあ、調べてみるか……。

そう考えながら俺が足を進めると、残り10メートルの距離を残して動きがあった。

胡座を組むミイラの周りで空気が渦巻き始める。

周囲の温度が僅かに下がった。

渦巻く空気が床に溜まった埃を巻き上げる。

するとミイラがバギバギと乾燥した体から音を鳴らして立ち上がった。

あら、まあ、チ◯コまで萎れていやがるぞ。

可愛そうにな……。

そして、ミイラの双眸が赤く光だした。

半開きの口から何かが聴こえた。

『あ▩♯っぃ+……』

呼吸音なのか言葉だったのか分からない。

するとミイラの右手に黄金剣が召喚された。

ミイラは黄金剣をガッチリと掴んで構える。

一目で分かった。

それは剣技を極めた構えである。

やっぱりこいつがセルバンテスか!

俺は異次元宝物庫からロングボウを出すと矢を引いた。

狙いを定める。

すると、セルバンテスのミイラは次々と装備を召喚し始めた。

左腕には丸い盾。

ガントレットにプレートのブーツ。

頭には銀の王冠。

そして体には、やたらとセクシーなチャイナドレス。

えっ?

チャイナドレス!?

マジで!?

胸元がパッカリと開いてて、可愛らしいミニスカートのチャイナドレスですな……。

えーと、なんと言いますか、ミイラが着て居なければ、かなりプリティーでセクシーなコスプレですよ……。

是非ならこのチャイナドレスをグレイスママに着て貰いたいぐらいだわ。

あの豊満婆さんなら絶対に似合うぞ。たぶんさ。

ぐふっ!

や~べ、ちょっと胸が痛んだわ……。

さて、そんなことよりも、攻撃を仕掛けますかね。

俺は引いていた弦から矢を放った。

プシュンと音を奏でながら滑空する矢が、真っ直ぐにセルバンテスミイラに飛んで行く。

しかしセルバンテスミイラは素早い袈裟斬りで矢を撃墜させてしまった。

やるな、おい!

ならば、二発目だ!

今度はスキルを乗せて撃つ。

「スマッシュアロー!」

しかしスキルを乗せた二発目の矢も、黄金剣で斬り落とされた。

なに、こいつ!?

すっげえ、やるじゃんか!!

でも、盾を持ってるんだから使えよな。

俺がそんなことを考えていると、更にセルバンテスミイラの周りで冷気が強く渦巻いた。

すると盾の表面から白銀の狼が続々と三体現れる。

あーーらーー……。

なに、召喚魔法ですか?

ずるいな~。

てか、その盾はそう使うのね。

それにしてもさ。

なんか怖い顔でシルバーウルフたちが俺を睨んでますわ。

鼻の頭に深い皺を寄せながら敵意満点ですよ……。

これで四対一になってもうたわ。

「多勢に無勢だわ……」

狼はやっぱり嫌いだな~。

俺は後ずさる。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...