上 下
151 / 604

第151話【幻術のグレイス】

しおりを挟む
俺は黒馬にまたがりゴモラタウンに帰って来た。

勿論ながら人目につかない場所で黒馬をトロフィーに戻す。

それから俺は、防壁のゲートを潜ると露店街に向かって足を進めた。

ワイズマンの母ちゃんがやっている店を目指す。

ワイズマンが述べた通りならば、俺は幻術で騙されていたことになるのだ。

それが屈辱である。

俺にはワイズマンの母ちゃんがヨボヨボの婆さんに見えた。

だが、あれが偽の姿で、本物は50歳ぐらい、豊満でエロエロのボディーを有した超セクシーマダムだというじゃあないか。

これは一回ぐらいちゃんと拝見しておかねばならないだろう。

騙されたままでは男が廃るってもんだ。

そして今俺は、裏路地の前に居る。

この路地の奥にワイズマンの母ちゃんがやっている店が在るのだが、なんだか今日はとんでもない霊気が流れ出ていた。

なんだよ、これ?

今日は有名な心霊スポット並みの強い霊気が漂ってやがるぞ。

奇怪過ぎて俺の全身に鳥肌が立っていやがる。

何があった?

俺は全身に浴びせられる霊気を堪えながら路地に足を進める。

緊張……。

寒気……。

が、我慢だ!

これも習得した霊体感知スキルが感知しているのかな?

なんだかビンビンに感じやがるぞ。

今日はとんでもない霊体が来店しているのだろうか?

一歩一歩足を進めるたびに威圧感が押し寄せて来る。

とんでもないヤツがいるようだ。

俺は我慢に我慢を重ねて扉の前まで進んだ。

たかが10メートルちょっとの距離が、途方もない距離に感じられた。

まるでガンダーラを目指した三蔵法師の気分である。

だが扉まで到着はした。

俺が扉のノブに手を伸ばしたが、それすら重たく感じられる。

磁石のS極とS極が近付いているような反発力を感じてしまうのだ。

もしくはN極とN極でも良い。

まあ、どちらでも同じか……。

そのぐらい俺の手が扉のノブから弾かれるのだ。

まるで扉を開けてはいけないと告げられているようだった。

それでも俺は、自分の警戒心に抵抗しながら扉のノブを握りしめる。

「熱い! いや、冷たいか!?」

扉のノブから極度の冷気が伝わって来た。

錯覚だ。

これは錯覚である。

俺はそう考えながら、ノブを捻って扉を開けた。

ゆっくり開かれる店の扉。

店内は薄暗い。

しかし、来客の姿は見られなかった。

居るのはカウンターに老婆が一人だけである。

俺は鉛が括り付けられたかのような重い足を引きずりながら店内に入った。

「あら、いらっしゃいな」

「糞婆……。俺に幻術をかけやがったな……」

俺が表情を歪めながら言うと、ワイズマンの母ちゃんが涼しそうに答えた。

「おや、まあ、分かったかい」

「分かるぜ、ばばあ……」

「本物の幻術は、本物以上の感覚を体験させられるわ」

「それがここまでだとは思わなかったぜ……」

今までのはすべて幻術だったのだろう。

達人の幻術は怖いな……。

「ふふふぅ」

ワイズマンの母ちゃんは、銀のプレートネックレスを人差し指でクルクルと回しながら言う。

「ここは会員制のお店だって言ったでしょ。だから会員証を貰っておけば良かったのよ」

「何度も来るとは思わなかったもんでね……」

「なに、私の息子に何か聞いたのかしら?」

「あんた、俺に嘘をついたな?」

「まあ、嘘が趣味みたいなもんだからね~」

俺はワイズマンの母ちゃんから銀のネックレスを奪い取る。

「もう、幻術はいいだろ。感覚だけでも戻してくれないか?」

「分かったわ、お客様~」

薄く微笑んだ婆さんが霧と化して消えていくと、次にはセクシーなおばさんに変化した。

クールビューティーな顔立ち。

パーマのかかった長い黒髪。

胸は豊満でかなり大きい。

それでいてクビレはキュッと絞られている。

そのナイスボディーを、エロイスリットがきわどく入ったチャイナドレスで包んでいた。

50歳と言われれば50歳なのかも知れないが、それ以上に何よりもセクシーである。

高齢者なのに俺のストライクゾーンにズッポリと入り込んでやがるぞ。

まさに美の女神かもしれないな。

「初めまして、お客さん。私がワイズマンの母のグレイスよ」

うん、セクシーでエロエロなマダムだわ。

見ているだけで呪いが発動しぢゃあううぅがななあなぁが!!!!

ぐーるーじーいー!!

「あらあら、どうしたの、何か可笑しなペナルティーを受けているようね」

笑ってやがる!?

感づいてやがるな、このババア!?

俺の呪いに感づいてやがるな!!

「畜生、なんでそんなにボンッ、キュン、ボンなんだよ!!」

「私の真の姿を見れるのは、会員の特権なのよ。私の喜ぶ姿を見たくて来店するお客さんだって少なくなくてよ」

「だ、だろうな……。ち、畜生……。オッパイを揉ませてくれ!!」

「え、なんで……?」

「いいじゃんか、そんなにセクシーなら揉ませろよ。俺はお前の息子のオッパイだって揉んだことがあるんだぞ!!」

「いやいや、そんなの関係ないでしょ……」

「畜生、苦しい……。でも、オッパイを揉ませて貰うまで帰らないぞ!!」

「いや、帰れよ。商売で来てないなら帰れよ」

「てめー、客を粗末にするな!!」

「だからお客さんじゃあないだろ!」

「い、いいから、オッパイを、も、揉ませてくれよ!!」

「苦しいなら諦めな、坊や……」

「馬鹿野郎、ここまで意味もなくやって来て、オッパイの一つも揉まないで帰ったら、あんたに失礼だろうが!!」

「いやいや、ただで揉んだほうが失礼極まりないわ!」

「なーーにを、寝ぼけてやがる!!」

「寝ぼけてるのは、あんただよ!!」

「何を、乳を揉むぞ!!」

「いいから、帰れ!!」

「えっ、いいの? じゃあ揉むね」

「良くないよ!!」

「なんで!?」

「営業妨害なのよ!!」

「そうかいそうかい、じゃあもうこねーよ!!」

心臓の痛みが引いた俺は、ドタドタしながら店を出た。

扉をバタンと音を鳴らして閉めてやる。

畜生!

もう少しでセクシーエロエロマダムのオッパイが揉めたのにな!!

絶対に押せば倒れるタイプだと思ったのによ!!

ちっ、ナンパは失敗か!!

ふんだっ!!

もう、帰る!!


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

処理中です...