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第132話【ジャイアントアンデッド】

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床に転がるウォーハンマーがマジックトーチの明かりで映し出すミイラの巨漢は不自然だった。

両拳が大きい。

身体のラインも可笑しい。

薄汚れた包帯でグルグル巻きにする身体はゴツゴツとしていた。

こいつは包帯の下に、甲冑を身に付けてやがるな。

この野郎はアンデッドかも知れないが、マミーじゃあないぞ。

「食らえ、ファイアーシャード!」

俺は試しに炎の魔法を放った。

乾燥していた包帯が一気に燃え上がる。

だが、ジャイアントマミーは狼狽えない。

炎にも平然としていた。

耐火防御かな?

多分そうだろう。

そして、燃え上がった包帯が焼き落ちると、中からはフルプレートを完全武装した大男が現れた。

鎧の隙間からは冷気を放っている。

『ぐるぐるぐるぅ~』

唸る巨漢。

ヘルムの覗き穴から赤い双眸が輝いていやがる。

なんなんだ、こいつは?

「ネーム判定!?」

【グール】

へっ?

グールなの?

こいつが?

じゃあ、楽勝じゃあねえの?

グールってさ、レイスよりも下等なアンデットですよね?

スケルトンやゾンビの一個上程度のクラスですよ。

ならば身長が2メートル以上でも関係ないわ。

それなら前にも戦っているし、パワーで増しているゴーレムだって倒しているんだ。

やっぱり楽勝だぜ。

よし、斬りかかるぞ。

「とーーーりや!!」

『ぐるっ!!』

ドゴーーーーン!?

「うぷっ!!!!」

俺がロングソードを翳して飛び込むと、長くて速い前蹴りに蹴り返された。

モロにグールの爪先を腹に食らい、見事に俺は蹴り飛ばされてしまう。

後方に飛んだ俺はゴロゴロと三回ぐらい転がってから止まった。

な、なんでっ!?

速くね、あの蹴り!?

俺はロングソードを杖代わりに立ち上がる。

うえっ、吐きそうだ……。

胃液が登って来たわ……。

俺が前を見るとジャイアントグールがカチャリカチャリと音を鳴らしながら歩み寄って来る。

こいつは、本当にグールか!?

凄く速いぞ……。

重々しいプレートメイルを着込んでいるのにさ!

ならば、膝を貫く!!

「マジックアロー!」

俺の手から発射された魔法の矢がグールの膝を狙うが、魔法の矢が露骨に逸れた。

「ええっ~!!」

畜生!!

攻撃魔法防御か!!

俺は慌てて魔法感知をしてみた。

やっぱりあのフルプレートが輝いている。

手元に無いからアイテム鑑定はできないけれど、おそらくあの鎧が魔法を防いでいるのだ。

耐火防御だけじゃあねえや、耐魔法防御もだわ!

ならば剣で斬るのみか!?

相手は武器無しだ。

素手だ。

なのにあの蹴り技ってことは、武道家か?

武道家なのにフルプレートですか!?

わけが分からんぞ!?

道理を無視してやがる!?

『ぐるっ!!』

あ、ジャイアントグールがダッシュで間合いに入って来たぞ!!

ならば武器の一撃で勝負だ!

俺はロングソードで突きを放つ。

狙いは頭部。

あれ、消えた!?

違う、下か!?

しゃがんでいる!?

背中!?

尻!?

蹴り!!??

「げふっ!!!」

また蹴られた!?

腹への強打がヒット!!

なにそれ!?

下からの海老反り蹴りだと!?

俺の身体が、また後方に飛んだ。

しかし、今度は倒れない。

堪えたぞ!

ぐぅ~~……。

腹の中が、胃袋が踊ってやがる……。

気持ち悪いぞ……。

吐きそうだわ……。

俺はノタノタと後退しながら息を整えた……。

そしてセルフヒールを一回使う。

「セルフヒール……」

ちょっと落ち着いたかな。

それにしてもだ──。

畜生、グールがノシノシと近付いて来るぞ。

『ぐるるっ!』

また前蹴り!

下から顎を狙って来る。

俺はロングソードを横にして顔を守った。

『ぐるっ!』

「あらっ!?」

カクッンって膝から横に曲がって上段廻し蹴りに変化したぞ!?

下から来るはずの前蹴りが、横からの廻し蹴りに急な軌道変化をした!?

フェイント攻撃だと!?

ガードが間に合わない!!

俺は身体を大きく反らした。

「くっ!!」

廻し蹴りの爪先が鼻をかすったぞ!!

目眩!?

当たってる!?

だが、耐える!!

鼻血が舞った。

しかし、蹴りを振り切ったグールは片足立ちで姿勢が悪い。

斬りかかるならば今だ。

俺が逆水平に斬りかかる。

あれっ、空ぶったはずの蹴り足が、高い踵落としの構えに変化してるじゃんか!?

これって、踵落としがドンピシャリのタイミングじゃあねえ!?

攻撃中断だ!?

引く!?

間に合え!?

「ひぃ~~~!!」

俺の眼前を大きな足の裏が猛スピードで下って行った。

躱せたぞ!!

えっ!?

続くジャイアントグールの連続攻撃。

空ぶった踵落としの足を踏み込みにしてのパンチだ。

腰から真っ直ぐに伸び出た拳が螺旋を捻るように俺の顔面に迫る。

俺のバックステップ!?

間に合わない!!

拳が顔面に直撃!!

浅い、か!?

俺はよろめきながら後退した。

目の前がチカチカするぞ!?

俺は星が舞う頭を揺する。

霧が覚めて前を見れば、ジャイアントグールは大拳を撃った形で固まっていた。

畜生めが!!

鼻が曲がってないか、俺!?

「セルフヒール!」

俺は曲がった鼻を元に戻した。

それにしても、今のは正拳突きだぞ。

こいつは武道家じゃあないぞ。

こいつは空手家だ。

完璧に空手家じゃあねえか。

どれもこれも空手の技だぞ。

しかも、魔法防御が施されたフルプレートを着こんだ空手家だぞ!!

こいつが───。

こいつが、やっぱり英雄クラスのアンデッドなのか!?

英雄クラスの一体なのか!?

その時である。

カチャリ……。

えっ?

何か踏んで、足元が僅かに沈んだ。

俺が踏んだ物を見ると、何かのボタンのような物だった。

なに、これ?

ゴトンっ!!

ええっ、なになになに!?

凄い地鳴りが響き増したよ!?

ゴォゴォゴォゴォゴォコォォオオオ!!

何だ、何だ、何だ!!??

ジャイアントグールさんも慌ててますよ!?

これはこいつの仕業じゃあないみたいだわ!!

なに、地面が動いている!?

いや、通路ごと動いているのか!?

俺が入って来た通路側が下に動き、反対側が上になって坂道を作る。

通路が急斜面を築いた。

ゴォゴォ、ゴォゴォ、ゴォゴォ……。

なに、坂の上から地鳴りが少しずつ迫って来るぞ??

ゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォォオオオ!!!

速くなってきた!!

何あれ!?

闇の中から巨大な玉が転がって来ましたよ!!

縦横15メートルの通路一杯サイズの大玉が、ゴロゴロと轟音を鳴らしながら転がって来ましたよ!!

あれ、鉄球じゃんか!?

転がる先の岩を踏み潰して砕いてますわよ!!

「ひぃーーーー!!」

『ぐるぐるぐる!!』

俺が下に向かって走り出すと、ジャイアントグールも俺に倣って走り出した。

俺たち二人は戦いを忘れて全力で坂道を下る。

その背後から転がって来た大玉が迫って来た。

あんなのに潰されたらペシャンコどころじゃあ済まないぞ!!

内臓が口から全部出ちゃいますわ!!

「あわあわあわーーー!!」

『ぐーーーるぐるぐる!!』

ヤバイ、大玉に追い付かれる!!

そうだ!!

通路は四角い、大玉は丸いんだ!!

四隅には若干の隙間があるはずだ!?

そこに飛び込めれば、どうよ!?

もう、追い付かれる。

試すしか無い!!

「とーーりや!!」

俺は部屋の隅に身体を伸ばして飛び込んだ。

俺の背中に若干ながら大玉が触れたが、何とかやり過ごせる。

大玉は轟音を響かせながら下って行った。

闇の中に消えて行く。

あぶねぇ~~……。

俺は立ち上がると薄暗い通路を下って行く大玉を見送った。

しばらくしてドスーーンと、暗闇に轟音が響く。

その一撃でダンジョン内が激しく揺れた。

どうやら大玉が終点の壁に激突したようだ。

俺が改めて周囲を見回すと真っ暗だった。

ランタンが壊れて僅かに油が燃えているだけである。

ウォーハンマーの明かりが見当たらない。

大玉に踏まれて壊れたのかな?

それに空手家グールの姿も見当たらなかった。

あいつは大玉に踏まれててください。

お願いします……。


【つづく】
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