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第125話【変身して悪巧み】

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俺が目を覚ますと全身の傷は、すっかりと治っていた。

部屋の中を見回したが、ドラゴンの幽霊は居ない。

よし、立ってみるか?

ベッドから立ち上がり屈伸運動をしてみたが、どこも痛くないぞ。

完璧に治ってるな、よし!!

んん~~、俺の荷物はどこだ?

この部屋には無いようだ。

俺は扉を開けて部屋を出た。

扉から出ると階段だった。

眼前に下りの階段が在る。

階段の壁には明かりが埋め込まれていたので、便利そうだったから俺は悠々と下の階を目指した。

直ぐに広い部屋に出る。

そこは15メートル四方の大きな部屋だった。

部屋の高い天井には、大きな太陽を真似た明かりが燦々と輝いている。

温かいな、この部屋は。

俺が室内を見回せば、なんだかいろんな荷物が置かれた部屋だった。

でも、生活感が溢れている部屋だな。

人が暮らしている感覚が見えていた。

大きな丸テーブルの上には飲み掛けのティーカップが置かれている。

注がれたお茶からは湯気が上がっていた。

あの野郎はさっきまでここに居たな。

どこに行きやがった?

あ、俺の荷物発見~。

俺は荷物を漁って持ち物の確認をした。

異次元宝物庫に入れてなかったアイテムはすべてあるな。

毎回なのだが、大概は気絶した後に荷物を全部消失するパターンが多い。

まあ、今回はそれが無かっただけましである。

「喉が乾いたな~」

俺は異次元宝物庫から水筒を取り出すと水をガブ飲みした。

ああ、腹も減ってる。

死の窮地から脱出した直後なのだから、当然なのかも知れないな。

でも、俺が持っている食料は異次元宝物庫内の保存食ばかりだ。

正直、不味くて食べ飽きている。

だが、この部屋の暖炉には鍋がぶら下がっていた。

その鍋から、とてつもなく良い匂いが流れて来ている。

空きっ腹に刺激的な香りだな。

俺は暖炉に歩み寄り鍋の蓋を開けた。

モワッと湯気と共に凄く良い匂いが俺を襲う。

鍋の中には、なんだか分からないが赤いスープに肉料理が詰まっていた。

チゲ鍋なのか?

俺は食欲に流されお玉でスープを掬った。

そして、少しだけ口に運ぶと音を立てて啜る。

ズッズズズズぅ~~~。

「旨い!?」

慌てる俺は、周りの棚から皿を取り出すと、そのチゲ鍋からスープと肉を注ぐ。

それから盛り付けた皿をテーブルに運ぶとスプーンを片手にガツガツと食べ始めた。

何これ、マジで旨いぞ!!

うーまーいーぞー!!

あのムキムキマッチョマンの癖にマジで旨い料理を作りやがるな!!

なんだかテンションがマックスに上がってきたぞ!!!

うひょーーー!!

今ならレイスの十匹や二十匹ぐらい容易く倒せるぜぇ!!!

間違いないわ!!

あぁぁ…………。

な、なんだろう……?

急にテンションがダウンし始めたぞ……。

あ~~、なんかやる気が無くなったわ。

お腹が一杯になったからかな?

周りの物も大きくなったような気がするしよ。

なに、このテーブル?

やっぱり巨大化してね?

いやいや、これは、このパターンは、俺が小さくなってるパターンですか?

よくあるよね~。

俺が縮んでるパターンだわ。

って、ことは?

このチゲ鍋スープが原因?

どうして?

それにしても俺は子供にでもなったのか?

あっ、鏡がある。

あそこに化粧台があるから、どんな可愛らしい子供姿になっているか見てみるか?

チョコチョコチョコっとな。

あー、走りかたも可愛らしいよ。

どれどれ、どんな感じのお子ちゃまかな~~。

「ぅ……………」

な、何これ……。

俺……。

ゴブリンじゃんか?

ちょっとまてや!!

なんでゴブリンなの!?

これってゴブリン転生ストーリーの始まりですか!?

ここからゴブリンで頑張れとかですか!?

まあ、ゴブリンだろうと何だろうと俺は頑張るけれどね!!

でも、ゴブリンはないわ~!!

せめてホブゴブリンとかにしてくんない。

そうしたら俺も「オラ、ゴブリンキングになるずら!」とか言っちゃって天下取りの旅に出ちゃうのにさ!?

そんなことより、どうやったら人間に戻るのさ!!

これは呪いを掛けたヤツを倒すとかか!?

あのドラゴン幽霊をぶっ倒せばいいのか!?

よーーし、殺ったろうじゃあねえか!!

あいつが帰って来たら、即不意打ちだわ!!

ひっひっひっ~。

物陰に隠れて潜んでまってやるぞ。

あいつをぶっ殺したら、腸を引きずり出してムシャムシャと喰らってやるわい。

待ってろよ~~。

ひっひっひっ~~。

…………。

じゃぁぁぁああねえよ!!!

なんで俺は怪しげなことを企んでるんだよ!!

頭の中まで邪悪なゴブリン頭脳に変貌しちゃってますか!?

まー、落ち着け!!

落ち着いて考えろ!!

本当に不意打ちであのドラゴン幽霊を倒せるのか?

そもそも、俺がドラゴン幽霊に勝てるのか?

腕力武力で勝てないなら、騙し討ちかな?

上手く口で言いくるめて、隙を付いて後ろからバッサリの不意打ちか?

うし、不意打ち作戦で行こう。

ひっひっひっ~。

必ず上手く騙してやるわいな。

ひっひっひっ~~。

…………。

って、なんだ!!!

なんで俺はあいつを騙そうと企んでるんだよ!?

脳味噌まで下等なゴブリン化してないか!?

わっ!?

なんだ、急に部屋の隅に光る扉が現れたぞ。

ヤバイ、あいつが帰ってきたな!

か、隠れないと!?

ゴブリンの俺がタンスの影にひそむと光の扉が開いて、あのムキムキマッチョマンが帰って来た。

全裸でブラブラのあいつは、片手に大きな荷物袋を抱えていた。

その荷物袋を暖炉の側に置くと中身を確認し始める。

ヤツはこちらに背中を向けている。

あっ、しまった!

テーブルの上には俺の食事あとが残ってやがる!?

もしもあいつが振り返ったら、バレてしまうじゃあないか!!

食器から俺の存在がバレてしまうぞ!!

バレる前に、食器を流しに運んでから丁寧に洗わなければ!?

いや、食器を丁寧に片付けなくても、あいつを丁寧に片付ければいいんじゃあないか!?

そうだよ、丁寧に不意打ちだ!!

俺ってば丁寧なぐらい頭が良いな!!

それ、ダッシュだ!!

背中にダガーで斬りかかる。

あれ!?

俺の攻撃があいつの背中をすり抜けた!?

何故だ!?

「ふふふ、それは幻影よ」

「にゃにぃ、イリュージョンか!?」

俺が振り返るとヤツが立っていた。

騙してやったぞと、ドヤ顔だった。

畜生!

騙してやるつもりが容易く騙されたわい!?

「こんなところまでゴブリンが入り込んで来るとは思わなかったわ。でも、ゴブリンぐらいなら私でも容易く殺せるわね」

ち、畜生!!

こうなったら正面から戦ってやるぜ!!

「キィーーー!!!」

「と、言いますか。あなたアスランじゃあないの?」

「な、なんで俺の名前を知ってやがる!?」

「やっぱり、そうよね?」

ドラゴン幽霊はテーブルの上の食器を見てから言う。

「もしかして、あれを食べたのかしら?」

「くっ、食ってねえよ。俺は鍋の中身を美味しくガツガツと摘まみ食いなんかしてないからな!!」

「あー、してるわね。間違いなく摘まみ食いしてるわ~」

「してないって!!」

やべーー、完全に疑ってるぜ!!

どうしよう。どう騙そうか!?

もしかして食事代を払えば許してもらえるかな?

「はいはい、落ち着いてね。スリープクラウド」

俺の周囲に眠りの霧が立ち込めた。

「ヤバイ、これを吸ったら眠って……しま……う……」

バタン、キュー……。

すやすや、すやすや………。


【つづく】
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