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第103話【キルケのお茶】
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見えない出入り口を抜けると、そこはお花畑だった。
四方を山に囲まれた広場だ。
その広場には、赤、青、黄色に桃色と、色鮮やかなお花が咲き乱れている。
花の種類は良く知らない。
でも──。
なんだろう~。
とってもメルヘンだ~。
俺は踊る気分で野を駆けた。
ホップ、ステップ、ルルルルル~だ。
うふふふ~♡
はっ!!!
なに、今の感覚は!?
なんで俺はメルヘンなんてしてるんだ!?
ついつい暖かい温もりに心が踊ってしまったわ。
そんなことよりマヌカビーを探さねば……。
んん、なんかあっちに在るな?
俺は浮かれる心を押さえながら歩いて進んだ。
やがて見えて来るそれは、古びた小さな家だった。
なんだか小ぢんまりしていて可愛らしい家である。
煙突からはうっすらと煙りが上がっていた。
人が住んでるのか?
俺は窓から中を覗いて見た。
なんかいろいろと物が置かれた窮屈な部屋に窺える。
それに猫が数匹寝転んでいた。
その内の一匹が俺に気が付き頭を上げた。
猫がニャーニャーと鳴き出すと、他の猫も俺に注目した。
猫しか居ないのか?
しかも結構な数が居るな。
俺が首を傾げていると、背後から影が重なる。
影は俺の身体をスッポリと包み込んだ。
俺は慌てて振り返る。
「でか!!」
俺は思わす声に出してしまった。
背後から俺に近付いたのは、ドデカイおっさんだった。
「でかいって、失礼ねぇ~」
いや、ドデカイおっさんじゃあないぞ。
声を聞いて分かった。
このドデカイおっさんは、ドデカイババァ~だ!
でけーババァ~だな!!
唖然とする俺を見下ろすドデカイババァ~は、素朴なドデカイ服装で、手にはハチェットを持ち、肩には薪の束を担いでいた。
おそらく身長は2メートルほど有るだろう。
驚異のドデカイババァ~だった。
「あんたは、誰だい?」
「と、通りすがりの冒険者です……」
「あら、そうなんだ~」
ドデカイババァ~は柔らかい笑みで答えた。
その笑顔が怖い。
「それじゃあ、お茶でも飲んで行くかいな?」
「い、頂きます……」
思わず答えてしまった回答に、俺も驚いた。
まあ、飲むと述べたのだ、飲んでやろうじゃあないか!
「じゃあ、こちらにいらっしゃいな」
そう述べたドデカイババァ~はノシノシと歩いて家の玄関前に移動して行く。
そして、玄関の軒先に薪と斧を置くと、狭い入り口から家の中に入って行った。
俺は恐る恐るドデカイババァ~の後を追うと、広い入り口から家の中に入って行く。
狭い家の中を進むドデカイババァ~は、暖炉前のテーブルの横に在る大きな専用席に腰かけた。
「さあ、ここに座りなさいな」
そう言いながら手招きするドデカイババァ~は、自分の前の席に俺を促した。
「は、はい……」
俺はドデカイババァ~が座っている椅子とは違って、普通サイズの椅子に腰かける。
するとニャーニャーと鳴く猫が俺の足元にやって来た。
猫は俺を見上げながらニャーニャーとひたすらに鳴いていた。
うるさい猫だな。
俺が足先で猫を突っつくと、猫はトボトボと他所へ行った。
なんどか振り返る猫の姿は、なんとも言えなかった。
とても寂しげである。
「は~い、お茶ですよ。お飲みになってね~」
満面の笑みのドデカイババァ~が、お茶の注がれたティーカップを俺に差し出した。
俺はお茶の匂いを少し嗅ぐ。
怪しいぐらいな甘い香りがした。
俺はティーカップを口元まで運んだが、お茶を口に付けなかった。
俺はティーカップの水面を眺めながらドデカイババァ~に話しかける。
「なあ、ばあさん?」
「なにかしら?」
「あんた、名前はなんて言うんだい?」
「私はキルケって申しますわぁ」
「へぇ~、奇遇だね」
「奇遇とわ?」
「俺の名前はオデュッセウスってんだ」
「ぬっ!?」
巨漢が動いた。
片手でテーブルを卓袱台返ししてきた。
「のわぁ!!」
俺は椅子から跳ね飛ぶと家の入り口まで下がった。
まだ、手にはティーカップを持っている。
お茶を僅かにも溢していない。
「どらぁーーー!!」
キルケが転がったテーブルをこちらに蹴り飛ばす。
ビックリするほど凄い勢いでテーブルが飛んで来た。
俺は下がって家の外に出ると狭い入り口にテーブルがブチ当たって止まる。
出入り口をテーブルで塞がれた家の中から埃がうっすらと涌き出ていた。
その隙間からキルケが語り駆けて来る。
「あんたの名前はオデュッセウスじゃあないね?」
「ああ、勿論だ」
俺は答えながらティーカップのお茶をゆっくりと溢した。
「このお茶を飲むと猫になるんだろ?」
言ってからティーカップをポイっと捨てる。
「若いのによく知ってるね~」
ローマの将軍さんがトロイ戦が終わってから故郷に帰る道中に、船で立ち寄った島に居た魔女の話だ。
お茶を飲ませた相手を猫に変えてしまう魔女のね。
魔女の名前がキルケで、その魔女を退治したのがオデュッセウスだ。
転生する前に読んだラノベの元ネタだった。
本当の話は良くは知らない。
「猫になっていれば良かったと思わせてあげるわよ!」
キルケは言うなり出入り口ごとテーブルを蹴り破る。
テーブルが砕けて木片やら何やらが飛んで来た。
のぉわぁ~~!!
すげーパワーだな!!
小さな家から出て来た巨漢の魔女は先程置いた薪割り斧を手に取った。
「ぐふふふふ~。魔女キルケの名において、貴方を捻り潰してあげるわよ」
魔女なら呪い殺せよな!
【つづく】
四方を山に囲まれた広場だ。
その広場には、赤、青、黄色に桃色と、色鮮やかなお花が咲き乱れている。
花の種類は良く知らない。
でも──。
なんだろう~。
とってもメルヘンだ~。
俺は踊る気分で野を駆けた。
ホップ、ステップ、ルルルルル~だ。
うふふふ~♡
はっ!!!
なに、今の感覚は!?
なんで俺はメルヘンなんてしてるんだ!?
ついつい暖かい温もりに心が踊ってしまったわ。
そんなことよりマヌカビーを探さねば……。
んん、なんかあっちに在るな?
俺は浮かれる心を押さえながら歩いて進んだ。
やがて見えて来るそれは、古びた小さな家だった。
なんだか小ぢんまりしていて可愛らしい家である。
煙突からはうっすらと煙りが上がっていた。
人が住んでるのか?
俺は窓から中を覗いて見た。
なんかいろいろと物が置かれた窮屈な部屋に窺える。
それに猫が数匹寝転んでいた。
その内の一匹が俺に気が付き頭を上げた。
猫がニャーニャーと鳴き出すと、他の猫も俺に注目した。
猫しか居ないのか?
しかも結構な数が居るな。
俺が首を傾げていると、背後から影が重なる。
影は俺の身体をスッポリと包み込んだ。
俺は慌てて振り返る。
「でか!!」
俺は思わす声に出してしまった。
背後から俺に近付いたのは、ドデカイおっさんだった。
「でかいって、失礼ねぇ~」
いや、ドデカイおっさんじゃあないぞ。
声を聞いて分かった。
このドデカイおっさんは、ドデカイババァ~だ!
でけーババァ~だな!!
唖然とする俺を見下ろすドデカイババァ~は、素朴なドデカイ服装で、手にはハチェットを持ち、肩には薪の束を担いでいた。
おそらく身長は2メートルほど有るだろう。
驚異のドデカイババァ~だった。
「あんたは、誰だい?」
「と、通りすがりの冒険者です……」
「あら、そうなんだ~」
ドデカイババァ~は柔らかい笑みで答えた。
その笑顔が怖い。
「それじゃあ、お茶でも飲んで行くかいな?」
「い、頂きます……」
思わず答えてしまった回答に、俺も驚いた。
まあ、飲むと述べたのだ、飲んでやろうじゃあないか!
「じゃあ、こちらにいらっしゃいな」
そう述べたドデカイババァ~はノシノシと歩いて家の玄関前に移動して行く。
そして、玄関の軒先に薪と斧を置くと、狭い入り口から家の中に入って行った。
俺は恐る恐るドデカイババァ~の後を追うと、広い入り口から家の中に入って行く。
狭い家の中を進むドデカイババァ~は、暖炉前のテーブルの横に在る大きな専用席に腰かけた。
「さあ、ここに座りなさいな」
そう言いながら手招きするドデカイババァ~は、自分の前の席に俺を促した。
「は、はい……」
俺はドデカイババァ~が座っている椅子とは違って、普通サイズの椅子に腰かける。
するとニャーニャーと鳴く猫が俺の足元にやって来た。
猫は俺を見上げながらニャーニャーとひたすらに鳴いていた。
うるさい猫だな。
俺が足先で猫を突っつくと、猫はトボトボと他所へ行った。
なんどか振り返る猫の姿は、なんとも言えなかった。
とても寂しげである。
「は~い、お茶ですよ。お飲みになってね~」
満面の笑みのドデカイババァ~が、お茶の注がれたティーカップを俺に差し出した。
俺はお茶の匂いを少し嗅ぐ。
怪しいぐらいな甘い香りがした。
俺はティーカップを口元まで運んだが、お茶を口に付けなかった。
俺はティーカップの水面を眺めながらドデカイババァ~に話しかける。
「なあ、ばあさん?」
「なにかしら?」
「あんた、名前はなんて言うんだい?」
「私はキルケって申しますわぁ」
「へぇ~、奇遇だね」
「奇遇とわ?」
「俺の名前はオデュッセウスってんだ」
「ぬっ!?」
巨漢が動いた。
片手でテーブルを卓袱台返ししてきた。
「のわぁ!!」
俺は椅子から跳ね飛ぶと家の入り口まで下がった。
まだ、手にはティーカップを持っている。
お茶を僅かにも溢していない。
「どらぁーーー!!」
キルケが転がったテーブルをこちらに蹴り飛ばす。
ビックリするほど凄い勢いでテーブルが飛んで来た。
俺は下がって家の外に出ると狭い入り口にテーブルがブチ当たって止まる。
出入り口をテーブルで塞がれた家の中から埃がうっすらと涌き出ていた。
その隙間からキルケが語り駆けて来る。
「あんたの名前はオデュッセウスじゃあないね?」
「ああ、勿論だ」
俺は答えながらティーカップのお茶をゆっくりと溢した。
「このお茶を飲むと猫になるんだろ?」
言ってからティーカップをポイっと捨てる。
「若いのによく知ってるね~」
ローマの将軍さんがトロイ戦が終わってから故郷に帰る道中に、船で立ち寄った島に居た魔女の話だ。
お茶を飲ませた相手を猫に変えてしまう魔女のね。
魔女の名前がキルケで、その魔女を退治したのがオデュッセウスだ。
転生する前に読んだラノベの元ネタだった。
本当の話は良くは知らない。
「猫になっていれば良かったと思わせてあげるわよ!」
キルケは言うなり出入り口ごとテーブルを蹴り破る。
テーブルが砕けて木片やら何やらが飛んで来た。
のぉわぁ~~!!
すげーパワーだな!!
小さな家から出て来た巨漢の魔女は先程置いた薪割り斧を手に取った。
「ぐふふふふ~。魔女キルケの名において、貴方を捻り潰してあげるわよ」
魔女なら呪い殺せよな!
【つづく】
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