上 下
95 / 604

第95話【鷹の馬】

しおりを挟む
どんどんとトリンドルの化けの皮が剥がれて行った。

俺はそれが面白くて更に剥がしてやろうと奮闘する。

「でぇ、なんでアンタは冒険者の俺にヒッポグリフを倒して貰いたいんだ?」

「だ、だから私じゃあ倒せないから……」

俺はわざとらしく冷たい目でトリンドルを見詰める。

トリンドルが翻弄されていた。

「ほ、ほら、私は茨の管理の魔法使いだからさ、戦闘とかは論外なのよね~」

「意味が分からねえよ」

「私は魔法使いギルドにこの茨の森の管理を依頼されているだけなのよ!」

あー、なんか興奮し始めたぞ。

面白いな~。

「なんで魔法使いギルドが、こんな茨の森なんて管理しているんだ?」

「ここの茨は魔法の触媒に使われているの。ポピュラーな触媒品なのよ!」

「で、お前がそれを管理していると?」

「そうですのよ、えっへん」

なんで威張る?

罰を与えよう。

「じゃあ、お前がヒッポグリフを倒せばいいじゃあないか?」

「そ、それが出来ないから、貴方を依頼で呼んだんじゃないですか!?」

「なんで?」

「私が大した攻撃魔法を使えないからですよ!」

それはさっき聞いたな。

「それでも魔法使いギルドに頼んだらいいんじゃあないか?」

「ほら、新しくここの管理人に任命されたばかりなのに、そんなこと本部に頼めませんよ~」

「お前、もしかして新人なの?」

「そんな新人なわけが無いですよ。こう見えても先代の管理人に十年ばかり弟子入りしていたんですから!」

「先代はどうした?」

「先月亡くなりました……」

「なるほどね」

大体分かってきた。

そして、ハッキリと分かったことは、このトリンドルたる魔法使いはヘッポコだ。

自分が管理を任された場所の防衛すら出来ない魔法使いなのだ。

でも、金だけは持っているらしいな。

ヒッポグリフの討伐に1500Gも出してくれるんだもの。

「分かった、引き受けるよ」

「本当ですか、有り難う御座います。ところで、お仲間さんは?」

「居無いぞ。俺はソロだ」

「え、本当に一人……?」

「ああ、一人だ」

「た、倒せますか、ヒッポグリフを……?」

「分からんが、やるだけやってみる」

「そ、そうですか……」

こいつ、俺を信用していないな。

まあ、しゃあないか。

「でも、こんな茨だらけだと移動もままならないな」

「それなら御安心あれ」

言いながら席を立ったトリンドルが戸棚からランタンを一つ持って来る。

「これを持って行けば茨が避けてくれますわ」

「避ける?」

「はい、このランタンの灯りが茨の蔓を退けるのですよ。魔法のアイテムですわ。お貸ししますとも」

「ありがとう。じゃあ借りるぜ」

「油が切れたら、ここから入れてくださいな」

「え、どこ?」

「ここです」

「開かないぞ?」

「あ、間違えました。こちらですね」

大丈夫かな、このランタンとこの魔法使いは……?

「で、どの辺にヒッポグリフは現れるんだ?」

「この塔から見て、北のほうから飛んで来ます」

「それ以外に詳しい情報は無いのか?」

「これと言って何も」

「じゃあ仕事は調査からだ。調査中はここを拠点にするからいいよな?」

「それは構いませんが、寝床と水ぐらいしか提供できませんよ?」

「それだけあれば十分だ」

「私のベットはお貸ししませんからね。十年ぶりのベットなんですから」

「お前さん、先代にベットすら貰えなかったのか?」

「はい、先代は大変厳しい方でしたから……」

「もうそれはパワハラだな」

「そうですよね!」

こうして俺はヒッポグリフ討伐の依頼を承諾した。

しかし、しばらく俺はトリンドルに捕まりお茶をするはめとなる。

ほとんどトリンドルの愚痴を一方的に聞かされていた。

その愚痴が嫌になったので俺は仕事に出ると述べて塔の部屋を出た。

かなりメンタルがやられたぜ……。

他人の愚痴話は苦手である。

兎に角マイナス話は苦手かな。

それから俺は、塔の一階で立っている朧気な人物に挨拶をすると外に出た。

まだ空は明るかったが、魔法のランタンに火を灯した。

ランタンの灯りをつけるとワサワサっと茨が逃げて行く。

俺を中心に直径10メートルぐらいの範囲だろうか。

なるほどね。

俺はランタンを床に置いて茨に近付いた。

根本を良く見れば、根は足のようになっており、深く土には食い込んでいない。

ここの茨はこうして移動する魔法植物なのだろう。

これを食べれる猛者ならば、栄養満点なのだろうな。

ヒッポグリフもパクパクムシャムシャと行くわけだ。

ランタンを拾った俺は北のほうに向かって歩いてみる。

すると1キロぐらい進んだところで茨の森から抜けた。

そこからは普通の森となる。

そこで幸運なことにヒッポグリフの姿を見つけた。

西の空からこちらに飛んで来ると、ヒッポグリフは眼前の森の中に身を落とした。

おお、ラッキーだぜ。

この辺の森に巣くって居るのかな?

空を見上げれば太陽がオレンジ色に変わり出していた。

ヒッポグリフって頭が鷹だから、おそらく鳥目だろう。

暗闇には慣れていないはずだ。

だからこの辺に巣くって居るのだろう。

ならばこのままもう少しヤツのいどころを探してみるか。

そう考えて俺は森の中に足を進めた。

しばらく歩くと高い岩場を見付ける。

上のほうを見ると、モッサリとした巨大な鳥ノ巣のような物が見えた。

あそこがヒッポグリフの巣かな?

てか、巣くってるってことは、卵でも産んでるのか?

だとすると、つがいなの?

二匹居るのか?

二匹なら厄介だな。

さて、二匹居るかだけでも確認したいな。

もう少し巣の様子が見える場所を探そうか。

おっ、あそこの岩場なら巣の様子が良く見えそうだな。

よし、上がってみるか。

そう思い俺は向かいの岩場によじ登って行った。

岩の陰から向かえの巣を覗き込む。

すると可笑しな光景が目に入った。

一匹のヒッポグリフが巣の中で大きな鏡を覗き込んでいた。

女性が使う化粧鏡のようだ。

その鏡をヒッポグリフはひたすら覗き込んでいる。

化粧鏡の前には茨の蔓や花が飾られていた。

んー、これはなんだ?

もしかして、嫁さんは鏡に映った自分ですか?

そんなパターンですか?

なんともナルシストなの?

いやいや、鏡の中の自分を別の牝だと思っているのなら、ナルシストとは違うよな。

まあ、このまま夜になるのを待とうか。

夜になったら夜襲かな。

んんー、また夜襲か……。

なんか俺は不意打ち魔神化してないかな……?

なんだか、どんどんと理想から離れて行ってないか……。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...