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第80話【見えない敵】

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俺は矢で撃たれた腕を見た。

貫通はしていない。

幸い矢尻には返しが付いていないようだな。

俺は力任せに矢を腕から引っこ抜いた。

「いてぇ~~……」

身体に刺さった物を抜いたんだ、当たり前か……。

うわっ!!

血が吹き出したー!!

こんなの初めてー!!

らーめーー!!

畜生が!!

転生してから初めて怪我らしい怪我をしたけど、こんなに痛いなんて聞いてないよ~!

この転生は、お気楽転生じゃあないの!?

痛いの怖いよ!!

ああー、血が止まらないよ!!

とりあえずセルフヒールだ!

「ふぅ~……」

よし、血は止まったぞ。

まだ違和感は残っているけど痛みは消えたかな。

ちっ、それにしても厄介な敵だな。

本当にアンデットかよ?

あれから姿を微塵も見せないぞ。

人喰いアンデットならばさ、新鮮な肉だ肉だって、ホイホイと飛び掛かって来るんじゃあないのかよ。

なんで、こそこそしやがる。

いくらなんでも賢すぎるだろ!

俺は木の陰から横に落ちているロングソードを見た。

手を伸ばせば届かない距離でもない。

ちょっくら試しに取ってみるか。

俺は素早く動いてロングソードを手に取るとすぐさま木の陰に戻ろうとした。

そこに矢が飛んで来る。

あぶね!

矢は僅かに外れた。

俺は逃げるように木の陰に戻る。

あの野郎、狙ってやがったぞ!

ずっと弓矢を構えたまま待っていやがったんだ!

俺がロングソードを取りに出て来ると考えて、辛抱強く待っていやがったんだ!

やっぱりスナイパーだな、こいつは。

さて、どうするかな。

まず相手の居場所が分からんことには手も足も出せないぞ。

こんな展開は、お気楽なラノベでは読んだことがないぞ。

スナイパーとかってさ、かなり渋い洋画ぐらいじゃあね。

しかもそれは戦場でライフルを持った現代ファンタジーが舞台だろ!

こんな超ローテク世界の異世界ファンタジーじゃあ居ませんよ!

やーべえは、参考にできる模範を知らねえぞ!

どう戦えば良いのですか!

まずは冷静になろう。

とりあえず俺はロングソードを異次元宝物庫に収めた。

代わりにショートスピアを取り出す。

剣でも弓矢でもないな。ましてや斧なんてもってのほかかな。

ここは手槍ショートスピアだな。

突いて良し、投げて良しだもんね。

俺は胸元に盾代わりのバトルアックスを翳すとショートスピアを片手に走り出した。

敵が居ると思われる方角に向かってだ。

だが、数歩走ったがスナイパーは矢を撃ってこない。

「あの野郎~……」

この状況で初段を防がれたら自分の位置がばれると思って攻撃を止めやがったな!

確実に俺を一撃で仕留めたいらしい。

隙を突いてしか、攻撃を仕掛けない積もりらしいな。

頭がよすぎね!?

俺はヤツが居ると思われるほうを向いたまま方位磁石を見た。

俺が進むべき方向は右手だ。

俺はしばらくヤツが居ると思われる方向を向いたまま歩いた。

こうなったら意地だぜ。

絶対に隙を見せないからな。

しばらく歩くと幸運なことに錆びたカイトシールドを見つける。

拾ってみると、汚れてはいるが強度はまだまだ生きていた。

俺はカイトシールドを背中に背負って防御を強化する。

これで背中から撃たれても少しは安心だ。

ヒューーン、ズブッ!

ギィァァアア!!

とかなんとか言ってる最中に脚を撃たれましたわ!!

矢が脹ら脛に刺さってる!!

俺はすぐさま近くの木に隠れた。

刺さった矢を引っこ抜いてセルフヒールで傷口を塞いだ。

あーのーやーろーうーー!!

深追いせずに、時間を掛けて俺を狩るつもりだな!!

ネチネチと陰険な!!

マジでどうしてやろうかな!!

畜生、畜生、こん畜生が!

いやいやいや、落ち着け、俺!!

怒りとイラつきに任せて行動したら相手の思う壺だぞ!

ここは落ち着かなくては……。

この野郎は、完全に俺を時間を掛けてでも仕留めるきだな。

どうしたらいいんだ!?

さっき矢が飛んで来た方向は左手側からだ。

ヤツは俺と平行して動いているのかよ。

このまま進んで他のゾンビと遭遇したら厄介だな。

他のゾンビを相手にしながら、あのスナイパーの攻撃は凌げないぞ。

やっぱり、正攻法で挑むしかないか……。

俺はカイトシールドを腕に嵌めるとバトルアックスを代わり背負った。

こっそりと隠れていた木から出るが、弓矢は撃ってこない。

盾に防がれると思って撃ってこないんだ。

確実に自分の位置が知られないタイミングでしか撃ってこない気だろう。

「仕方ねえか……」

俺は先を目指して歩き出す。

スナイパーは切っ掛けが無ければ撃ってこないだろうさ。

ならば切っ掛けを作ってやるしかない。

矢を放つ切っ掛けをだ。

そして、その切っ掛けにふさわしいヤツらが現れた。

五体のゾンビたちだ。

俺は戦うしかないのだ。

スナイパーは最善のタイミングで撃ってくるだろう。

それで居場所が別れば良し。

分からなくても大体の場所ぐらいは分かるだろうさ。

どちらにしろ、こちらからアクションを起こしてやるしかないのだ。

俺はショートスピアとカイトシールドでゾンビ五体と戦闘を始めた。

一体目のゾンビの頭をショートスピアで串刺しにする。

更に二体目三体目と続けてショートスピアで頭を刺して行く。

まだ、スナイパーは撃ってこない。

四体目を串刺しにしたところで、五体目に飛び掛かられた。

それを何とか盾で食い止める。

四体目に刺さったショートスピアを抜いている暇がなかったので、代わりに腰からダガーを抜いてゾンビのこめかみに突き刺してやった。

その時である。

俺の背中に矢が刺さった。

「うぎゃ!」

背負っていた斧の横からスブリと刺さった。

俺は倒したばかりのゾンビともつれ合うように倒れ込んだ。

しかし、上手い具合にゾンビの身体を矢が飛んできた方向に向けて倒して、俺の身体を陰に入れたぞ。

あとは死んだふりだ。

俺はピクリとも動かない。

ヤツが出て来るのを待つ。

ヤツが出てきたらダガーを投げて仕留めてやるぞ。

しかし……。

あーれー、出てきませんね~。

待てど暮らせど出てきませんね~。

ばれてるのかな?

どっちだろう?

なんか、カサカサって音がしますね。

あれれ、もしかしてさ。

スナイパーの野郎、移動してますか?

今までと反対側に移動してますか?

回り込んでるの?

それはヤバくね!?

俺が丸見えになるじゃんか!?

それはアカンだろ!!

音が止まったぞ……。

うぐっ!!!

撃たれた!!!

太股を撃たれたぞ!!!

だが、我慢だ!!!

死んだふりだ!!!

うぎゃ!!!

また、撃ちやがった!!!

今度は背中を撃ちやがったぞ!!!

死んじゃうじゃんか!!!

すげー痛いわ!!!

すげーピンチだぞ!!!

でも、バトルアックスにかすったお陰でダメージが低いや。

しかし、これ以上確認しないでね!!

撃たないでね!!

あ、近寄って来るな……。

地面に耳を当ててるお陰で、足音が僅かに聞こえるぞ。

あ、でも止まった。

また撃たれるな、こりゃあ……。

いっ、せー、のー、で!!

俺は身体を起こしてゾンビの死体を前に返した。

そのタイミングでスナイパーの矢も撃たれた。

放たれた矢がゾンビの頭に刺さる。

ナイスベストタイミングだぜ!

俺は最後の力を振り絞って立ち上がると、手に有るダガーを投擲ホームに振りかぶった。

この一撃で決めてやるぞ!

「食らえっ!」

しかし、俺はダガーを投げようとした際に、スナイパーの正体を見てしまう。

俺の動きが一瞬止まってしまった。

スナイパーグールの正体は、ビキニアーマーの若い女性の死体だったからだ!

ナイス、セクシーボディー!!

すげー、おっぱいが大きいのね!!

俺の中の呪いが反応してしまう。

「あだっだっだっぁだあああ!!!」

その隙にビキニアーマーグールは矢の再装填をすませていた。

「畜生!!」

俺が痛みを堪えながらダガーを投擲するのと、ビキニアーマーグールが矢を放つのが同時になった。

俺の眼前に矢が迫る。

俺はベタなマトリックス風回避術で身体を反らせると矢をギリギリで躱した。

やーべ!

背中から倒れたら、背中に刺さっている矢が身体を貫通しちゃいますよ!!

俺は必死に倒れるのを堪えて身体を前に起こした。

セーフ!

倒れませんでしたよ!

そして前を見れば、ビキニアーマーグールが倒れている。

俺の投げたダガーが額のド真ん中に突き刺さっていた。

「やったぜ……。当たったのね、ダガー……」

流石はダガー+1の投擲命中率向上だぜ。

助かったわ……。

こうして俺はスナイパービキニアーマーグールに勝った。


【つづく】
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