上 下
52 / 604

第52話【主】

しおりを挟む
拘束の誤解が溶けた俺たちは森の中に入って行った。

二人で一つずつの樽を転がしながら運んでいる。

目指すは森の中の沼地だ。

リバーボアが巣くっているかも知れない場所である。

俺たちが採取する目標の水草は、タールロータスと呼ばれる蓮の葉だった。

沼地に生えている蓮は、そのタールロータスぐらいしか生息していないらしいから間違うことはないそうだ。

そしてタールロータスは乾燥してしまうと使い物にならなくなるらしく、樽に水と一緒に入れて運搬するとのことだ。

ちょっとばかり重労働になるが仕方ない。

それより問題は、やっぱりリバーボアらしい。

狂暴で人間は勿論のこと、大型の動物ですら襲うモンスターらしい。

普通サイズで10メートルほどに成長するらしく、十年以上生きると20メートルほどまで成長するらしいのだ。

兎に角、大きな蛇だ。

攻撃的な性格は、空腹時では逃げても追いかけてくるらしく、その速度は人間の足では逃げ切れない速度だそうな。

蛇なのに兎に角速いらしい。

なのでリバーボアと出合ってヤツが鎌首を傾げたら、それがヤツの空腹時の合図だそうな。

そうなったら、もう戦闘を覚悟しなくてはならない。

「俺一人で勝てるかな?」

俺が未知のモンスターに臆した台詞を吐くとスバルちゃんが言う。

「今まで冒険者ギルドに依頼して派遣されてきた人たちは、面接済みで派遣されたと言ってたから、だからリバーボアに負けないだけの実力が、アスランさんにも備わっていると思いますよ」

「なるほどね。ここに巣くってるモンスターの強さを知ってて派遣するのだから、派遣される冒険者の強さなら負けないってか」

「それに私も魔法で援護しますから大丈夫ですよ」

「スバルちゃんは、どんな魔法が使えるの?」

「魔法に関してはポピュラーですよ。基本は錬金術アルケミーがベースなので、支援魔法エンチャントが少々です」

「なるほどね」

俺は樽を転がしながら覚悟を決めた。

「でも、リバーボアが現れたら俺一人で戦うから大丈夫だよ。スバルちゃんは安全な場所に退避して見ていてくれ」

「はい、そうするつもりです」

あっさり言われた。

まだ縛ったことを怒っているのかな?

そんなこんなで俺たちは樽を転がしながら沼地に到着した。

なんか雰囲気の悪い場所だった。

草木の形がおどろおとろしている。

沼地と聞いていたから、もっと泥が凄いヘドロの溜まりかと思ったけれど、思ったより普通の池っぽい。

そして、目の前の水辺には黒々とした蓮の葉がみっしりと浮いていた。

水面から水中が見えないぐらいにだ。

「これがタールロータスなの?」

「ええ、そうですよ。この葉と水を樽に入れて帰ります。水の中に入る時はリバーボアに気をつけてください。ヤツらは水面を泳いで近づいて来ますから」

「え、俺が池に入るの?」

「はい、お願いします。そんなに真ん中まで行かなければ浅いので心配ないですよ」

「どのぐらいの深さなの?」

「アスランさんの身長なら膝ぐらいですかね」

そのぐらいなら安心かな。

「ああ、分かったよ」

俺はブーツを脱いで、ズボンの裾を出来るだけ上に上げてから水の中に入って行った。

武器は外していない。

ショートソードを腰に下げ、バトルアックスを背負ったままだ。

「うわぁ……。ヌルッとするな……」

水の底はヘドロが溜まっているのかヌルッとした。

でも、確かにそんなに深くなさそうだ。

「じゃあ、これにタールロータスの葉を水と一緒に入れてください」

スバルちゃんが空樽を俺のほうに流す。

ぷかぷかと浮かんだ樽が俺の側に到着すると、周囲を警戒しながらタールロータスの葉を樽の中に放り込む。

足がヘドロに取られているせいか、警戒心が過敏になっていた。

いつ水中からリバーボアが襲ってくるか分からないのだ。

もしも、ここで襲われたら、フットワークが失われている分だけ不利になる。

兎に角それが怖かった。

俺は両手で一生懸命に蓮の葉を掬っては樽の中にぶち込んだ。

早く済ませて陸に上がりたい一心でだ。

そして、一つ目の樽が満タンになると、水を加えてから丘に上げる。

するとスバルちゃんが次の樽をこちらに渡してくれる。

彼女は俺が新しい樽に蓮の葉を詰めている間に、前の樽の蓋を閉めて運べる準備をしていた。

「よーし、もう少しで終わるぞ!」

俺がそう行き込んだ時である。

スバルちゃんが叫んだ。

「アスランさん、リバーボアです!」

なに!

やっぱり来ましたか!

俺は素早く背中からバトルアックスを取ると、リバーボアの姿を探した。

すると水辺の奥から蓮の葉を掻き分けて、何かが水中を進んで来るのが分かった。

あれだな!

そして、それは、俺の数メートルまで近づくと水中から頭を出した。

蛇の頭部だ。

間違いない、噂のリバーボアだ!

どんどんと鎌首を上げて水面から首を伸ばすリバーボアの高さは2メートルほどあった。

大きいな……。

首と言いますか、体と言いますか、とっちか分からないけれど、かなり太い。

こりゃあ、10メートル有るのは間違いないな。

そして、俺を睨んでいるってことは、お腹が空いてるのかな?

捕食する気なのかな?

どっちだろう?

俺の視線とリバーボアの視線が合う。

意外とつぶらな可愛い瞳だな。

そして、俺と心が通じ会ったのか、リバーボアは鎌首を返して水中に戻ると右に去って行った。

どうやら戦闘は免れたようだ。

なーんだ、拍子抜けしちゃうなって思っていたら、更に水面から別のリバーボアが頭を出した。

どんどんと鎌首を伸ばして行く。

その長さは5メートルほどだ……。

おそらく水中に隠れている分を合わせると、20メートルはある巨体だろう。

「うわぁ~~。もっと大きいのが来たよ……」

そして新たなるリバーボアは、シャーーっとか言って威嚇して来る。

前のヤツと違って、明らかに攻撃的な本能を剥き出しにしていた。

「この子が多分さ。ここのぬしだよね……」


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...