上 下
32 / 604

第32話【ミッション失敗】

しおりを挟む
俺たち四人のパーティーがゴブリン退治の依頼でタババ村を目指してソドムタウンを出発してから初の夜が来る。

殺風景な草原を歩いて進み、何事も無く夜が訪れたので、岩陰にキャンプを張って夜を過ごすことになった。

ここなら風だけは若干だが凌げる。

焚き火を炊いて、そこでリックがコーンスープを作ってくれたので皆で頂く。

そうこうしている間に何故かクラウドが剣技自慢を始めたのだ。

すると負けじとクララが神殿では優等生だと自慢を始めたので、俺も負けじとシミターを取り出しマジックアイテムだと自慢してやった。

その間、たいした自慢話が無いのかリックはひたすら聞き役に徹していた。

そして、夜も更けたので寝ることになる

睡眠中の見張りは交代で行うことになった。

一番手をリックが志願したので、次の順番はジャンケンで決めた。

二番目はクララ。三番目はクラウド。四番目で俺だった。

順番が最後なので俺はさっさと寝る。

そして、気が付けば朝になっていた。

朝に成り俺が目を覚ますと、異常に気が付いたが冷静に振る舞った。

皆もだ。

するとクラウドが話し掛けてきた。

「これはどう思う、キミは?」

「ああ、俺は以前にも経験があるからな。その時より状況はましだ」

俺たちの会話にクララも加わる。

「でも、これってあんまりじゃない?」

「僕もそう思うよ」

「まあ、こんなこともあるさ。俺は慣れてる」

「アスランくんは経験豊富だな。僕は冒険すら初めてだから、こんな経験も初めてだよ」

「私もよ」

「でえ、何が原因だと思う。お前らは?」

「おそらく昨日の晩の自慢話が原因じゃあないか?」

「クラウド、お前もそう思うか」

「やっぱりシミターの予想金額を述べたのが失敗だったと思うよ、アスランくん」

「お前が言ったんじゃんか」

「ああ、そうだね。すまない」

「あそこでシミターの値打ちが5000Gとか言わなければな」

「本当に、すまないと思っているよ……」

「で、アイツの名前はなんだったっけ。リックドムだっけ?」

「違うよアスランくん。リックディアスだよ」

「二人して何を馬鹿を言ってるの。ただのリックよ、リック!」

「どうでもいいや……」

「「「はぁ~~……」」」

俺たち三人は、同時に溜め息を吐いた。

その理由は、リックの野郎に全員の荷物を持ち逃げされたからである。

しかも全員がロープで上半身を縛られているのだ。

「アスランくん。キミの被害はどのぐらいだい?」

俺は縛られた状態で荷物にすりよると確認した。

「シミターとショートソードに、食料を全部持ってかれたな……」

「僕は武器と防具、食糧と現金を全部だよ……」

「私もメイスに防具、それに装飾品とお金、食糧も取られているわ……」

「お前ら二人は寝る前に防具を脱いでたからな」

「失敗だったわ……」

「それにしても全員根こそぎだな……」

俺の僅かな金だけは手の中に吸い込んであったので無事であった。

だが、目新しい物をすべて持っていかれた。

俺は火の消えた焚き火の側に放置された食器を眺めながら言う。

「多分だが、昨日の晩飯にアイツが作ったコーンスープに睡眠薬が入ってたんだろうな」

「なるほど、それで僕らは縛られても起きないぐらいに熟睡してたってわけか」

「さて、これからどうする?」

「まずはロープをほどきましょう」

「だな……」

それからしばらくしてクラウドのロープがほどけたので俺たちのロープもほどいてもらった。

クララが怖い顔で述べる。

「あの泥棒野郎を、早く追い掛けましょう!」

それを俺は止める。

「ダメだ。もう追い付かないな」

「なんでよ。泥棒を逃がすつもり!」

「アイツが食糧を全部持っていったのは、食いしん坊とか、がめついとかじゃあねえよ。俺たちに追跡させないためだ」

「なんでよ!?」

「どう言うことだい、アスランくん?」

ああ、こいつら馬鹿だな。

てか、情報社会でいろんなドラマや物語を見ていないから知識が低いのか。

俺は追わない理由を教えてやる。

「考えてみろ。もしも一日以内に、アイツに追い付けなかったらどうする。食料が無ければ飢えるだろ。今ならまだソドムタウンには引き返せる。でも追ってアイツを見つけられなかったら地獄だぞ」

「なるほど。だから食料まで持ち去ったのか……」

「そうそう、追わずに引き返せって言うメッセージなんだ」

「でも、悔しくないの!?」

まだクララがブヒブヒと怒っていた。

「あの野郎は、もうソドムタウンに戻らない覚悟で裏切ったんだ。もう二度と出合うことは無いだろうさ、多分な」

「そうなりそうですね……」

俺がトボトボと歩き出すとクラウドも続いた。

しばらくして、やっと諦めが付いたクララも続く。

俺たち三人はソドムタウンに引き返した。

ミッション失敗である。

だが、完全失敗ではない。

俺はソドムタウンに到着したら魔法のバンダナを売って資金を拵えたら、直ぐに冒険の装備を整え直して、タババ村に再出発する積もりだ。

一日二日の遅れぐらい問題無いだろうさ。

俺が二人に再出発の件を話して誘ったが、見事に断られた。

クラウドは資金もやる気も無くなったらしく、クララは裏切られたのがショックで立ち直れないとかだそうな。

まあ、元々は一人で受ける積もりの依頼だったから、二人が居なくても気にはしない。

俺は一度受けた仕事を達成したいのだ。

途中で諦められない。

例え何度も装備を失ってもだ。

前の世界では、夢もなく将来の希望もなく、自然と多くを諦めて過ごしていたのだ。

だから、この異世界では諦めない。

ここには希望が溢れているのだから───。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...