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第24話【ソドムタウン】

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俺は、走った。

兎に角、走った。

息が切れる苦しみにも耐えて、ひたすら走った。

横っ腹が痛くなったけれども、ひたすら走った。

メロスもビックリなほど、ひたすら走った。

振り返らず、何も聞かず、意地も恥もプライドも捨てて、ひたすら走った。

魔女にだけは、絶対に捕まりたくなかったからだ。

気が付けば夜になっていた。

もう、どのぐらい走り続けていたのかも分からない。

日が沈み足元も見えなくなったころに俺は走るのを止めた。

そして、振り返る。

そこには魔女の姿は、流石に無かった。

もしもまだ追いかけて来ていたら、完全にアイツは俺に惚れているとしか思えんわ。

だが、魔女の追跡は終わっていた。

安堵する俺は近くにあった大木に寄り掛かりながら休みを取る。

息を整えながら考えた。

なんで、アイツが宿屋に居たの?

だって村人は、あそこの宿屋は中年夫婦だけで営んでいるって言ってたじゃんか……。

人当たりの良い中年夫婦は、どこに行ったんじゃい!

あ…………。

いやぁ~~な予感が脳裏を過ったよ。

まさか、もう既に殺されていて、宿屋を乗っ取られていたとか……かな?

うわぁ~~、自分で思い付いて、鳥肌が立ってきたわ!

その可能性が高いぞ、きっと!

こえーよ!

やっぱ、アイツ、サイコパスじゃん!

ホラー全開じゃんか!

とんでもない魔女じゃんか!

良かった~。おっぱいを揉ませてくれるって言われた時に心がダークサイドに落ちなくてさ。

糞女神の呪いで胸が痛みださなかったら、ころっと誘惑に流されていたぜ……。

危ない、危ない……。

とりあえず、水筒の水を飲んだ。

心が随分と落ち着いて来た。

そして、冷静に考える。

てか、ここどこ?

辺りは暗いし、必死に走ってたから方向も分からないし……。

とりあえず、その辺から拾った木の枝にマジックトーチをかけて、辺りを照らす。

辺りが森か林なのは分かるが、ここがどこかまでは不明だった。

駄目だ。光が小さい。木々の奥まで見渡せない。

やべ、迷子だな……。

いや、そんな可愛いレベルじゃあないぞ……。

これは、遭難だ。

そうなんですよ!

落ち着け、俺!

まだ、深刻な遭難かは分からない。

朝になって明るくなれば、周囲も見えるから、どうにかなるかも知れない。

よし、走り疲れたから寝よう。

ここは寝て待とう。

そして、俺は逃走の疲れから直ぐに眠れた。

最近では野宿も苦じゃない。

かなり慣れてきた。

朝になると、早速行動開始である。

周りは森のようだった。

見覚えの無い森である。

どちらを見ても同じ景色に見えた。

うん、やっぱり遭難だ。

遭難中だな、俺……。

さて、どうしよう?

とりあえず、森を抜けられればどうにかなるやも知れない。

兎に角、歩くことにした。

二時間ぐらい歩くと森を出れた。ラッキーである。

森の外は平原だった。

遥か遠くに、何かが見える。

俺は目を凝らした。

町である。ラッキー!

俺ってば、超ラッキーだわ!

遭難したかと思ったら、直ぐにピンチから脱出できたぜ!

あの村の周辺にはソドムタウンぐらいしか町がないって言ってたから、おそらくあれが目的地のソドムタウンだろう。

俺はルンルン気分で平原を進んだ。

段々と町に近付くにつれて人影も見られるようになって来た。

馬車の姿も見える。

どうやら、あっちのほうにちゃんとした道が在るようだ。

俺もそちらに向かう。道無き平原を進むよりましっぽかった。

俺は徒歩で町を目指す一団に混ざりながら先に進んだ。

おそらく旅商人の一団だろう。

馬や馬車を持っていないところから、そんなに繁盛していないグループだと思った。

俺が愛想良く商人に話しかけると、むこうさんも明るく応対してくれた。

そして訊いて見ると、やはりあの町がソドムタウンらしい。

どうやら俺は無事に目的地に到着したようだ。

魔女に再会して、その後に遭難した時にはどうなるかと思ったが、これで一安心である。

ソドムタウンは、ブッとい丸太を何本もブッ刺して築かれた防壁に囲まれた町であった。

壁の高さは5メートルほどある。

その向こうに建物の屋根が、何軒も見えた。

大きな町のようだった。

あの村とは比較にならない。

モンスターの襲撃にも、ちゃんと備えている様子であった。

入り口の門前には、長槍斧ハルバードを持った警備兵も居るし、やぐらから見張っている弓兵も居る。

警備は万全だと思えた。

そして、門を通過する際に受付所があり、町に来た目的地を役人が訊いている。

商人たちが受付を終えて、順々に町の中に入って行く。

その列に並んでいると、直ぐに俺の順番が来た。

窓口の向こうに陰気臭い役人が居る。

俺も町に来た理由を訊かれたので「観光です」と答えると役人が入場料を請求して来た。

俺の前に入場しようとした商人も金を取られていたので、それが当たり前のようだった。

窓口の上に看板も在る。

【商人150G・娼婦100G・一般人50G】と書いてある。

役人が言う。

「ビジネスだと150Gだが、観光なら50G だ」

なるほどね。

更に役人が訊いてくる。

「あんた、冒険者かい?」

俺は「イエス」と答えた。

「ならば冒険で仕入れた物は、観光ビザじゃあ売れないぜ」

え、そうなの?

まだ、魔法のランタンを持ってたから売ろうと思ってたのにさ。

じゃあ、俺も商人料金なのかな。

それでランタンを売っても元が取れるかな?

更に役人が言う。

「でもな、マジックアイテムとか高価な物は別だ」

「べつ?」

俺が疑問そうな顔をしていると、役人が手を出してくる。

入場料を払えと言っているのだろう。

俺は手の平から50Gを召喚した。

ここに来るまでに吸い込んだコインの出しかたは研究して分かっていた。

ただ出したい金額を念じれば手の平に沸いて出るのだ。

ただ、他人に見られると異世界人だとばれそうなので気を付ける。

多分だが異世界人とばれれば面倒臭いことになるんじゃあないかと思ったからだ。

そして、俺が役人に50Gを渡すと、テーブルの上で枚数を数える。

数え終わってから役人が呆れ顔で溜め息を吐いた。

「違う、違うって──」

そう言いながら役人は手の平でちょうだいのポーズを繰り返した。

あー、なるぼどね。

訊きたいことがあるなら、ワイロをよこせってか。

俺は更に10Gを渡した。

どうやら満足してくれたらしい。

「マジックアイテムだけは、冒険者ギルドで買い取ってくれる。観光ビザでもな。それ以外で売買したら、牢獄行きだからな」

なるほどね。

役人が陰気臭い笑顔で言う。

「それじゃあ、たっぷり遊んで、たんまりと金を落としていってくれよ、兄さん」

そう言いながら町の中に通してくれた。

俺は役人の言葉の意味が良く分からなかったが、町に一歩踏み込んだら理解できた。

ゲートをくぐると、そこはメインストリートだった。

町の中は、凄く賑やかである。

昼間っから男たちがスケベそうな顔で闊歩して、昼間っから女たちが色っぽい服装であちらこちらに立っている。

それに客引きの声がうるさい。

漂う酒の臭いもキツくて鼻に来るが、その中に甘い官能的な匂いも混ざっていた。

そう、ソドムタウンの主な産業は、風俗であった。

この町はピンクな町なのである。

それすなわち、俺にとっては地獄の誘惑都市なのだ。

決して俺は、この町で堪能できない!

すべては糞女神の呪いのせいだ!!


【つづく】
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