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【第20章】喧嘩祭り編

20-20【オーガ】

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「きゃぁああああ!!!」

女性の叫び声が上がった。路上の人々が皆して振り返る。

俺が喧嘩祭りの会場からゴリの家に帰る道中での話だ。俺が祭りの屋台が並ぶストリートを歩いていると、背後から女性の叫び声が聞こえたのだ。俺が振り返ると、周囲の人々も足を止めて悲鳴が飛んできた方向を見ていた。なんだなんだと周囲がざわつき出す。

すると「ぎゃあ!」とか「うわっ!」とか男性の悲鳴も聞こえ始めたのである。なんか道の向こうが騒がしい。トラブルなのかな?

「なんだ……?」

人混みの向こうで人が跳ねた。人の頭よりも高い位置まで飛んでいる。宙に舞う全身が見えた。ジャンプした様子とは違う。まるでダンプカーに牽かれて待ったかのようだった。そんな風に人が次々と跳ね上がる。

次第に大通りの人々がこちらに向かって走り出した。混乱した人の波が俺に押し寄せる。

「逃げているのか……?」

追われているんだ。道の向こうから迫り来る何かから逃げているのだろう。

「うわぁぁあああ!!」

「きゃ~~~!!」

「皆逃げろ!!!」

逃げる人々の表情は必死だった。恐怖に怯えながら走っている。

「何から逃げているんだ?」

俺が問うたが誰も答えない。民衆は逃げるのに必死だった。

道の真ん中で立ち止まる俺を避けて町の人々が逃げて行くと、追い立てている輩が見え始めた。

「巨人……?」

それは巨漢だった。逃げる人々よりも一回り大きい巨漢だった。

推測するに、身長2メートル30センチは有りそうだ。サイズ的にはミノタウロスクラスだろう。

上半身裸で肌色は日焼けした赤茶いろ。

ズボンを履いているがズタボロだ。爪が尖った足は裸足である。

まるで人型の獣の形相で唸っていた。

「理性が無いのか……?」

だが、頭は人型だ。しかし、頭は身体並みにデカイ。それに、ボサボサヘアーの額から二本の角が生えていた。

堀が深い、鋭い白眼、牙が生えている、耳が尖っている、額に角がある。

総合するに、鬼だ。見るからに鬼である。

その巨漢の鬼が人々を突き飛ばしながら俺に迫って来る。

「やばい、真っ直ぐこっちに来るぞ……」

鬼気迫る俺も踵を返して走り出した。その背後を巨鬼が追いかけて来る。殺気と狂気が強く背中で感じられた。捕まったら食われるんじゃないかと思ってしまうほどだ。

「俺、追われてるのか!?」

まーさーかー。

この鬼は俺を追ってきてるのか?

俺はこんな野郎しらないぞ?

「確認するか……」

俺は咄嗟に道を曲がり狭い裏路地に入り込んだ。二階建ての建物と建物の間の小道である。

すると巨鬼も道を曲がり裏路地に入って来る。巨鬼は両肩を壁に擦り付けながらも狭い路地を走っていた。

「やっぱり俺を追ってるのか!?」

いや、まだ分からんぞ。俺の前には逃げる町の住人が何人か居るからな。そいつらを追っているのかも知れんぞ。

淡い来たいを抱きながら俺は再び小道を曲がった。するとやはり巨鬼も道を曲がって追って来る。

「嘘だろっ!?」

俺は何度かジグザクに道を曲がりながら逃げたが、やはり巨鬼は俺を徹底的に追って来る。

「畜生、間違いね~ぞ。あの鬼は俺を追いかけて来ていやがる!!」

でも。何故だ?

俺にはあんな鬼な知人は居ないぞ。そりゃあ、サイクロプスとかの知人は居るけれどさ~。

走る俺は裏路地を飛び出して見覚えがある場所に出た。

「ここは……。こうなったら広い場所に」

俺が走り出たのは喧嘩祭りの会場の側だった。俺は、まだ人々が残る観客席を横切って喧嘩祭りのステージに飛び乗った。

『おお~~っと、ここでアスラン選手の乱入だ~!!』

俺がステージに上がると、リング中央でグフザクの野郎が大の字で伸びていた。情けなく白目を剥いている。

気絶してるのかな?

その横に腕を組んだグゲルグ嬢が凛々しく立っていた。どうやら決勝戦の結末はグゲルグが勝ったようだな。まあ、そんなことはどうでもいいや。

「おい、お前ら、危ないからステージから降りてろ。誰かグフザクも運び出せ!」

俺が言うとグゲルグが呆れた表情で述べた。

「なんだ貴様は、いきなり乱入してきて何を言い出してるんだ?」

「いいから、逃げろよ!!」

「何故だい?」

殺気!!

上からだ!!

俺は俊敏に横へと飛んだ。すると俺が立っていた場所に空から降って来た巨鬼が拳を突き立てた。

その拳は石造りのステージを真っ二つに粉砕する。激音が轟、周囲の空気すら揺らした。

拳の衝撃はステージを割っただけでなく、グゲルグや倒れていたグフザクを1メートルほど高く跳ね上げた。

そして、着地に尻餅を付いたグゲルグが驚きの表情で述べる。

「な、なんだ、こいつは!?」

俺は巨鬼を睨み付けながら答える。

「知るか、誰かこいつが何者か知らないか?」

誰も俺の質問には答えない。答えるどころか会場は大パニックだ。観客たちが悲鳴を上げながら逃げ惑っている。

だが、巨鬼は、そんな観客たちに目もくれず俺を凄い表情で睨んでいた。まさに鬼の形相だ。

鬼がしゃべる。

「ア~ス~ラ~ン、俺と勝負しろぉぉおおおお!!!」

何こいつ、人語がしゃべれるのか?

それよりも、俺をご指名ですか!?

俺、人気者?

完全に俺がターゲットなのね!!

巨鬼は股を開いて腰を落とした。全身を力ませる。

すると両肩、両肘、両足膝から角が生え出て来る。六本の角か生え出て額と合わせて八本になった。

否──。

更に額の角と角の間に長い一角が生え出て来た。計九角だ。

「九本鬼なのね……」

「ア~ス~ラ~ン、俺と勝負しろぉおおおおあおおお!!!」

俺は異次元宝物庫から黄金剣の大小二本を両手に取り出した。X字に一振りすると自然体に構える。

「喧嘩祭りのせいで、防具は何も付けていないが、武器は使わせてもらうぜ。武器有りでいいなら、勝負してやるよ!!」

唸る巨鬼。

「俺が、今度は、勝つぅぅううう!!!」

叫ぶなり巨鬼が身体を捻りながら拳を振りかぶった。ド級のテレホンパンチで俺に背を見せる。

「そのスタイルは……。もしかして、お前はジオンググか!?」

「うがぁぁあああああ!!!」

怒闘を唸らせ巨鬼が拳を全力で繰り出した。

速い!

圧力も凄い!

リーチも長くなっている。

以前のテレホンパンチじゃあない。明らかにランクがアップしている。

「ぞらぁぁぁあああああ!!!」

巨鬼のテレホンパンチが俺の顔面と胸を一撃の元で同時に殴り付けた。俺の身体が後方に殴り飛ばされる。

否、俺から飛んだのだ。ガードをせずにダメージを殺すために自分から飛んだのである。

振りきられるパンチの勢いに飛んだ俺は空中で膝を抱えながらクルクルと回ると、地面を黄金剣で突き上げて跳ねるように回ってから可憐に着地した。

俺は巨鬼を睨み付けなから脅すように言う。

「上等だ、やるならやるぞ、この鬼野郎が!」


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