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【第十六章】死海エリアのクラーケン編。

16-7【海中の開戦】

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俺はとりあえずだが、しばらくノーチラス号でお世話になることになった。

少なくとも安全な陸地まで運んでもらうためだ。

こんな死海のド真ん中で放置されたらたまらない。

そんな俺を変態ネモ船長は快く受け入れてくれた。

そして今俺は厨房に居る。

「いや~、新人さんなんて久しぶりだよ~」

俺と厨房に居るのはスケルトンなコックだった。

彼は50年ほど前に拾われて以来、ずっとノーチラス号内でコックとして働いているらしい。

俺とコックは暖炉の前に二人で並びながら魚を網で焼いていた。

魚は目が三つある怪魚だった。

死海の海で釣り上げた小魚だと述べていたが、その大きさは半メートルはある大物だ。

ここではこのサイズでも小魚扱いのようである。

俺はスケルトンコックに訊いてみた。

「この船に新人って、よく来るのかい?」

怪魚の焼き加減を眺めながらスケルトンコックが答えた。

「十年単位ぐらいで、何人か拾われるな~。私も五十年ぐらい前に拾われた元冒険者なんだよね~」

「へぇ~、あんたも閉鎖ダンジョンに挑んだ冒険者だったんだ」

「閉鎖ダンジョンにパーティーで挑んで壊滅ですよ。生き残った俺は生き延びるために逃げ回った結果、この死海エリアに迷い込んだんだ。そこでノーチラス号に拾われたってわけよ」

「地上には帰ろうと思わなかったのか?」

「その時にはもう手遅れでね。この船に乗った時には、俺は死んでいたんだ」

「死んでいた?」

「そう、アンデッドになってたんだよ。でも意識があったから、この船に残った」

「それでも普通なら地上に帰りたいと思うだろ?」

「ダメダメ。一度はノーチラス号を降りたんだけど、しばらくしたら体が崩れだした。自分でも分かるぐらい弱ったんだ」

「なんでさ?」

「この船にはアンデッドとして人間を活かす機能があるんだよ」

「機能……」

そう言えば、ノーチラス号からはマジックアイテムに近い気配を感じる。

って、もしかして、この船ってマジックアイテムなんじゃあないか?

俺は魔力探知で船内を見回した。

案の定である。

ノーチラス号の厨房全体が青白く輝いて見えた。

「この船は……。この船全体がマジックアイテムなんだ……」

俺は壁に手を当てるとアイテム鑑定を試みた。

【ノーチラス号+6】
船内の空気、食糧、水の自動生産。設備の自動再生。燃料無限。魚雷や弾丸の自動無限製作。人間のアンデッド化。アンデッドの自動再生能力。

「うわっ、凄いぞ!!」

なに、この船は!?

プラス6とか平気でぬかしてやがるぞ!!

まあ、なるほどね……。

これだけ凄いマジックアイテムならば、船長が変態スケルトンになるわけだわ。納得納得……。

「ところで俺は船長にトイレ掃除とか厨房の手伝いを言われたんだが、お前らクルーって全員スケルトンだよな?」

「ええ、そうですよ。何せ身体の肉なんて一年もしないで腐り落ちますからね」

「じゃあホネホネなアンタに問う」

「なんでしょうか?」

「スケルトンって、飯を食ったり、トイレでオシッコとかするの?」

「食べるフリです。トイレもフリです」

「ふり?」

「人間として生活しているフリでもしないと、こんな海底の狭い潜水艦の中で、何年、何十年、何百年も生きて行けませんからね。飯もトイレも娯楽ですよ」

「侘しい娯楽だな……」

「じゃあ、食堂にお皿を並べましょうか。貴方を入れて十人分のお皿をテーブルに並べてください」

「今この船には九人のクルーが居るのか?」

「古株はコックピットの四人だけです。残りは俺と同じで拾われた冒険者たちですよ」

俺は皿を厨房から食堂に運びながらスケルトンコックに訊いた。

「ネモ船長は異世界から来たって訊いたが──」

「昔は古株も二十人居たらしいですよ。ネモ船長と一緒に来た面々ですな。それが今では四人です。みんなリタイアですわ」

「リタイア?」

「長く続かないんですよ。潜水艦生活なんてさ」

そう、何せ五百年も死海を徘徊してるんだもんな。

そりゃあ精神的にも耐えられまい。

「あんたは、どうなんだ?」

「私はまだキャリアが短いですからね。まだまだ十年ぐらいは正常でいられますよ」

「なるほどね。精神力が続かないと、長く持たないのか……。船長も変態になるわけだ……」

納得納得だわ~。

「あなたも長続きするといいですね」

「俺は直ぐに船を降りるぞ。たまたま、この船に拾われただけだから。別の目的が俺にはあるからな」

「あら、そうなんですか。生きてるって希望に溢れていて喜ばしいですな」

俺は話を変えた。

「ところであんた、クラーケンを見たことあるか?」

「ええ、何度もノーチラス号で戦ってますからね」

「大きさって、どのぐらい?」

「デッカイですわ~」

「デカイのか……」

「ノーチラス号の数十倍の大きさですよ。もしかしたら数百倍かもしれません。クラーケンの足一本でノーチラス号がグルグル巻き状態にされますからね」

「それはスーパーヘビー級だな……」

その時である──。

ドォーーンっと大きな轟音と共に船体が激しく揺れた。まるで大地震だ。

俺は立っていられず床に尻餅をついてしまう。

「なんだっ!!」

焦る俺とは違ってスケルトンコックが冷静に述べる。

「何かの巨大魚と激突したのでしょうね」

「冷静だな、お前!?」

「まあ、日常的ですからね」

これがノーチラス号の日常なのかよ。

そして俺が戸惑っていると船内放送が鳴り響く。

『全員戦闘態勢。全員戦闘態勢。魚人マーマンと遭遇!』

えっ、マーマン?

マーマンって人魚の男バージョンだよな。

女がマーメイドで男がマーマンのはずだ。

俺は食堂から飛び出すと廊下に設置された丸くて小さな窓から外を見てみた。

海底をマーマンの群れが泳いでいやがる。

下半身は魚で、上半身は鱗肌の人間だ。

平目でエラが張り、鶏冠のような鰭が頭から背鰭に繋がっていた。

そのような半魚人が複数体、ノーチラス号と並走して泳いでやがる。

十や二十の数じゃあない。

海の果てまで見える数は百を越えているだろう。

そのマーマンの腕にはトライデントや大砲のようなハープーンガンが握られていた。

「うわっ、人魚だ。初めて見たぞ!」

海中を泳ぐ一匹のマーマンと目が合った。

すると海中のマーマンは手に持つハープーンガンの銃口を俺が覗き見ている窓ガラスに向けた。

「まさか、撃つの?」

ドンっ!!

「撃って来たーー!!」

だが、ハープーンガンから放たれた銛を窓ガラスが弾き飛ばす。

「防御力がスゲー!!」

スケルトンコックが俺の背後から言う。

「大丈夫ですよ。彼らの火力では、ノーチラス号を傷付けられませんからね」

「じゃあ、さっきの大きな衝撃はなんだったんだ!?」

「あれですか。その辺に見えませんか?」

スケルトンコックは海中を良く見て回れと述べている。

俺は角度を変えて窓ガラスから周囲を見渡した。

「あれか……」

見付けた……。

巨大な鯨だ。

全長20メートルほどの鯨だ。

頭の先端にドリルのような太くて長い一角が付いている。

その一角鯨の背中には、何体かのマーマンが股がっていた。

「さっきの衝撃は、あれがぶつかって来たのか……」

「一角鯨の体長は、ノーチラス号とほぼ同じぐらいですからね。体当たりされたらかなり揺れますよ」

「大丈夫なのか?」

「ええ、問題ありません。あの程度で沈むぐらいなら、とっくの昔にノーチラス号は沈んでますよ」

俺はスケルトンコックの話を聞きながら一つ疑問を抱いた。

それを訊いてみる。

「ところで、なんでマーマンはノーチラス号に攻撃を仕掛けて来るんだ?」

「あー、それは簡単な理由ですよ」

「なんなんだ?」

「その昔に、ネモ船長がマーマンの財宝を略奪したからですよ」

「それって、海賊じゃんか……」

「海の男ってヤツは、漁師か海賊のどちらかですからね~」

片寄ってやがる。

こいつらの脳味噌は片寄ってやがるぞ。




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