上 下
466 / 611
【第十六章】死海エリアのクラーケン編。

16-6【ネモ船長とノーチラス号】

しおりを挟む
俺が死海を天井に見ながらタラップに掴まっていると、突然眼前に船が現れたのだ。

鋼鉄の船である。

海天から下りてきて船底が海面に現れると、幾つかあるハッチの一つが開いてバンダナを被ったスケルトンが顔を出した。

ハッチから逆さまに顔を出したスケルトンは眼球すら無かった。

まさにTHEスケルトンである。

しかし、邪悪な気配は感じられない。おそらく普通のアンデッドではないのだろう。

「おやおや、本当に人が居るずら」

黒いバンダナの正面には白い髑髏マークが飾られているスケルトンが俺に話し掛けてきた。

「あんた~、冒険者ずらか?」

口調が少しなまってるな。

「ああ、そうだけれど……」

「まさかこの死海エリアで船にすら乗っていない冒険者に出合うなんて久々だずら」

ここは船が標準装備なのかな?

「おまえ、誰よ?」

「あっしか?」

「そう、スケルトンなのは分かるが、何者だ?」

「この船のクルーでやんす」

「船?」

船と呼ぶより潜水艦にも見えた。

あ、潜水艦も船って呼ぶんだっけ?

まあ、よく分からんが──。

「この船の名前はノーチラス号でやんす。この死海を駆け巡ること500年の歴史を刻む戦艦でやんすがな」

「ノーチラスって、もしかして船長はネモ船長とかなのか?」

「あれ、ネモ船長をご存じでやんすか?」

「ああ、まあ、知ってる」

知ってると言っても面識があるわけではない。物語の登場人物として知っている程度だ。

俺の返答を聞いたスケルトンクルーが船内に向かって声をかけた。

「ネモ船長、どうやら船長の知り合いのようでやんすよ~。どうしやす~?」

いや、知り合いではない。

ただノーチラス号のネモ船長って言ったら、海底2000マイルで有名だから知っているのだ。

あれ、20000マイルだっけな?

「へい、分かりました~」

スケルトンクルーが何か船内と話を纏めあげると、こちらに向かってフックを投げた。

フックにはロープが括られており、そのフックがタラップに引っ掛かる。

「ネモ船長が乗船をお許しになりやした。どうぞお上がりください」

「えっ、いいの?」

「どうぞどうぞ、遠慮せずに」

「それじゃあ……」

俺はなんだかわけが分からないままにロープを渡ってノーチラス号のハッチをくぐった。

船内に乗船する。

「こりゃあ、すげーなー……」

狭い通路だった。

船内は配管やらバルブやらが複数走っている。

よく分からんがメーターやらランプやらも光っていた。

これはこの異世界の化学力では有り得ない水準の技術に思えた。

俺が生きていた世界の超ハイテク潜水艦レベルではないが、少なくとも第二次世界大戦レベルの潜水艦だろう。

そのぐらいの性能はありそうだ。完全に異世界には場違いである。

「この船は、いったい……」

「まあまあ、そんなことよりこちらにどうぞでやんす」

俺はスケルトンクルーに連れられて船内を進んだ。

スケルトンクルーが着ている服は軍服のようだった。

黒い手袋をはめて、黒いロングブーツを履いている。

そのスケルトンクルーがタラップを登って上の階に顔を出す。

上の階と会話を始めた。

「ネモ船長、お客人をお招きしやしたぜ」

「よし、通せ──」

「どうぞ、お客人。ここからコックピットでやんすよ」

上の階のハッチから下を覗き見るスケルトンクルーが下の階に居る俺に言った。

俺もタラップを登ってコックピットに入る。

俺はコックピットに上がると辺りを見回した。

コックピット内部も狭い。

前を見れば幅3メートル半、長さ7メートルほどしか無い狭苦しいスペースだ。

そこに座席が五席在る。

正面に三席が並び、その正面に三画面の45インチのブラウン管モニターが並んでいた。

残りの二つの座席は左右の壁に向いている。

窓ガラスらしい物は無い。

こいつらの装備は案外とハイテクなのか、それともローテクなのかが判断がつかない。

俺がキョロキョロと辺りを見回していると、真ん中の席がグルリと回ってこちらを見た。

座席には帽子を被り軍服を纏ったスケルトンが座っているが、他の連中より軍服の胸元に提げた勲章やらが豪華である。

「よう、冒険者とは久しぶりだな~」

「えっ?」

ネモ船長と思われるスケルトンが座席を立つと俺に近づいてきた。

そのまま俺に抱きついてハグする。

「俺、お前のことなんて知らんぞ……」

「あれ、やっぱりそうだよな。私もなんか見覚え無いよな~って思ってたんだ」

「じゃあなんでハグまでしたんだ?」

「ほら、もしかしたら私の勘違いとか、顔を忘れているだけとかあるじゃんか。それだと失礼だから知ってるふりをしたのだが……。やっぱりなんど見ても記憶に無い顔だよな」

「だよな。俺も成り行きに任せてついてきちゃったけれどさ」

「がっはっはっはっ、まあいいさ。キミをクルーとして迎えてやるから頑張りたまえ!」

「えっ、マジ……」

「だが最初は炊事当番と便所掃除からだがな~。各号しろよ!」

「便所掃除した手を洗わずに炊事当番をやってもいいならOKだぞ」

「がっはっはっはっ、キミは海男のジョークを理解しているな。気に入ったぞ!!」

ええ~……。

今のが海の上だとジョークで通るのかよ……。

俺は率直に話した。

「まあ、クルーになる話は無しとしてだ」

「えっ、なに、無しなの?」

「俺は死海エリアを通過してテイアーが仕切るエリアに行きたいんだが、そこまで乗せて行ってくれないか?」

「がっはっはっはっ、そりゃあ無理だ~」

「なんで?」

「この死海エリアを通過して、下のエリアに進むには、クラーケンが巣くう洞窟を通過しないとならんからな。それは、不可能だ」

おー、やっぱりそうなるよね……。

「こっそり寝ているクラーケンの横を通り抜けるとかじゃあ駄目なのか?」

「それも無理だな」

「何故だ?」

「私がクラーケンを見つけたら、魚雷を発射せずにいられないからだ!!」

「うわ、血気盛んだな……」

「それが海の男だからな!!」

「そこをこっそり俺を運んでくれないか?」

「無茶言うな。魚雷は沢山予備があるからな!」

「弾数の問題かよ……」

「そもそもあんなにセクシーな魔物を見て、なんでもかんでも撃ち込みたくなるのが男ってもんだろ。それは海も陸も関係ないぞ!」

「えっ、クラーケンってセクシーなの?」

「そりゃあ~、もぉ~、セクシーだぜ。超エロエロだぞ!!」

「どのぐらいエロイんだ。詳しく濃厚に説明してくれ!?」

ネモ船長が遠くを見ながら語り出す。

どこを見てるんだろ?

「あれは500年前の話だ。私が大戦に敗北して、この船と一緒にこの世界に逃げてきたばかりの話である……」

えっ、こいつも異世界転生者なのか?

「私はアトランティス軍が作り出した高性能潜水艦ノーチラス号の艦長に選ばれていきり立っていた。だが、戦争は敗退。行き場を失った我々は船と一緒に転生することを女神に誓ったのだよ」

「その女神って、女神アテナか?」

「ああ、そうだよ。アテナ様をよく知ってるね?」

「まあ、俺にも色々とあってな。あの糞女神には手を焼いている」

「あー、やっぱりあの女神って糞なんだ。なんだかワシも糞じゃあないかと薄々思ってたんだぁ。そんなことよりも」

ネモ船長が話を戻す。

「そして我々が出たのは、この死海エリアの逆さ海だったのだよ」

「いきなりヘンテコな海に出てしまったな……」

「そして、その時から我々とクラーケンとの戦いが始まったのだ!」

「どんな戦いを500年間も続けていたんだ?」

ネモ船長は両拳を強く握り締めながら語る。

「時には激しく魚雷を撃ち合い、時にはタコ墨を吐かれ、時には長い触手で巻き取られ、吸盤でスッポンスッポンされたり、恥ずかしい体勢で縛られたりともしたさ!」

「なんだか余裕な対決を繰り広げているように聞こえるんだが……。ところどころ楽しそうだしさ」

「だが、ある日の朝に、私は悟ったのだ……」

「何を悟った?」

「これは、この戦いは、もしかしたら、恋なんではないのかと!!」

うん、馬鹿だ。

久々に出てきた剛腕ストレートな純粋天然馬鹿だな、こいつは……。

「その日以来私はクラーケンと出会っても本気で攻撃が出来なくなっていた……」

「今までも本気で戦ってるようには聞こえなかったぞ」

「魚雷を撃ち込んでも急所を外し、タコ墨を吐かれてもわざと全身で浴びて、触手で巻き付かれてもされるがまま、吸盤でわざと乳首をスッポンスッポンされて、恥ずかしい体勢でチ◯コとアナルをほじられる……。もうされるがままだ!!」

「ヨダレが垂れてるぞ、ヨダレが……」

「だからクラーケンを見たら、ほってはおけないんだ……。もう私はクラーケンの魅力に狂ってしまったのだよ」

「分かってるじゃあねえか。頭が可笑しくなってる自覚だけはあるんだな」

これは厄介な展開になってしまったぞ。

テイアーのエリアまで進むのに、この死海エリアが最難関だと思っていたが、こんなにハードルが高い変態キャラが出てくるとは予想もしなかったぜ。

クラーケンよりも、この触手プレイ好きな船長のほうがヤバイだろ。

この変態船長を、どうあしらうかだな。

それが問題だ……。

大問題だ……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!

青空一夏
ファンタジー
 婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。  私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。  ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、 「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」  と、言い出した。  さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。  怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?  さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定) ※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です) ※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。 ※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...