上 下
405 / 611
【第十四章】太陽のモンスター編。

14-15【ヒューマンキラー】

しおりを挟む
レイピアの先を手首でクルクルと回しながら威嚇するニューハーフのレッサーデーモンが体躯を横に向けて構えを取っていた。

レイピアを持つ右手が前で、腰に左手を当てている。

右肩が前で左肩が後方だ。

背筋を伸ばして姿勢は正しい。

フェンシングの構えだろう。

紳士的なイメージが強いスタイルではあるが、その構えを取るのは蝙蝠の羽を有した赤い悪魔だ。

しかも、オカマの口調である。

更に言うならビキニアーマーがキモイわ~……。

ルイレアールが蕩けた眼差しで述べた。

「久しぶりの人間だから、残さず全部食べてあげるわ。どうせなら後ろの貞操も食べちゃおうかしら♡」

どっと俺の顔から血の気が引いた。

俺は両手で確りと黄金剣を構えながら言う。

「遠慮します。俺にはそげん趣味がなかとですから……」

俺の肛門に力が入る。

「遠慮しなくっていいのよ。殺したあとに私が勝手に楽しむんだから、うふん♡」

「尚更遠慮するぞ……」

グイグイと来るな……。

これだから語尾にハートマークを付けるヤツは嫌いだぜ。

さて、フェンシングと戦うのは初めてだ。

その腕前がどのぐらいか試させてもらおう

よし、まあ、戦いに集中しようか。

俺から先手を仕掛ける。

それじゃあまずは魔法攻撃だ。

「食らえ、ファイアーボール!!」

俺は室内にも関わらず爆裂魔法を撃ち込んだ。

15メートル四方の部屋で爆風が吹き荒れると部屋の中の家具が揺れて激しく荒れた。

「あっま~いわ~。火球ごときで私の熱いハートは焦がせなくてよ!」

やはり効いてない。

爆炎の中からルイレアールが飛び出して来た。

無傷だ。

髪の毛ひとつ燃えていない。

おそらく炎耐久のスキル持ちだろうさ。

だって全身真っ赤だもんな。

そりゃあ炎に強そうだよ。

「今度は私から行くわよ!」

強い踏み込みからの突き。

ルイレアールが鋭いレイピアの先で俺の顔面を狙ってきた。

針のような剣先が俺の眼前に迫る。

速い!

かなりの疾風だ!

しかし──。

「おっと!!」

俺は頭だけを横に振ってレイピアの突きを躱した。

いや、躱しきれてない。

「いてっ!」

レイピアの刀身が頬を掠めた。

横一文字に頬を刻まれる。

すると傷口から鮮血が飛んだ。

少し深いかも。

だが、俺も反撃を繰り出していた。

中段の胴斬り。

横水平に振られた黄金剣がルイレアールの腹部を狙う。

「うらっ!!」

「なんの!!」

ルイレアールが高く跳ねて俺の一振りを回避した。

剣を飛び越え宙を舞う。

いや、飛んでいた。

背中の羽を煽り空を飛ぶように滑空すると離れた場所に着地する。

「なかなかの腕前ね。ならば今度は地味に攻めるわよ!」

「いや、派手に戦おうぜ!」

「ふっ!!」

ルイレアールが速くて長い一歩で飛び込んで来る。

そして、俺の前で無音の震脚を踏むとレイピアで腹を突いて来た。

「おっと、危ねえ!」

体を捻り回避。

しかし躱されたレイピアの切っ先が流れる水面のように俺の太股を狙う。

変則的な連携技。

「マジで危ねえ!!」

俺は右足を引いて回避する。

すると今度はレイピアが跳ね上がる。

「くっ!!」

三段攻撃か!?

閃光が俺の眼前を走った。

痛い!?

また顔を切られた。

右頬から上って左の額までザックリと斜めにだ。

だが俺は怯まず袈裟斬りに黄金剣を振るう。

しかし、躱された。

またレイピアが閃光と化して走って来る。

もう回避出来ない。

俺は黄金剣を返して防御を築く。

だが、目を疑うことがおきた。

横に振られたレイピアが防御に立てた黄金剣をすり抜けたのだ。

ガード不能な一撃である。

「マズッ!?」

俺は全力で背を反らした。

黄金剣のガードを透化して抜けてきたレイピアの切っ先が俺の喉を切る。

浅い!?

助かった!!

俺は血が出る喉を押さえながら、ヨタヨタと後方に退避した。

ルイレアールがレイピアの先を∞の型に回しながら言う。

「あらあら、躱すのもやっとね」

事実。

「いやいや、これからだよ……」

「強がる姿も可愛いわ。早く前も後ろも食べたいわね」

「それはゴメンだってばよ……」

「殺っ!!」

強い殺気から攻め込んで来るルイレアールがレイピアを真っ直ぐ伸ばした。

長い距離を速く進み、切っ先が槍のように突っ込んで来る。

俺は左腕のバックラーを立ててガードする。

しかし、バックラーを透化してレイピアの先が俺の胸に突き刺さった。

またガード不能な透化攻撃だ。

「なんでだ!?」

俺の口から痛みよりも驚きが先に出た。

レイピアが小盾を貫通している。

そのまま俺の左胸の鎖骨の上に突き刺さっていた。

急所は外れている。

だが痛いぞ。

レイピアを引き抜いたルイレアールが続いて横振り攻撃を振るう。

俺は大きく飛んで、また逃げた。

距離を保って俺は傷口を黙視で確認する。

「なんだ、これは……?」

可笑しい?

俺の肩は突かれて痛みがあるが、レザーアーマーには傷が無い。

刺された穴が無いのだ。

バックラーを見たが、バックラーにも穴が無いのだ。

だが、傷は痛む……。

俺が腹のほうを見てみれば、ベルトの辺りから血が流れ出ていた。

やはり刺されている。

体に傷はあるんだ。

痛いし出血しているもの。

なのに防具には傷が無い。

俺はルイレアールを睨みながら質問した。

「なんだ、そのレイピアは?」

「これが私の愛刀ヒューマンキラーよ~」

「ヒューマンキラー……?」

「そうよ~」

するとレイピアを逆手に持ち変えたルイレアールが切腹するように自分の腹を突き刺した。

「何してる!?」

レイピアは深々と確かに突き刺さっていた。

間違いなくルイレアールの腹から背中にかけて貫通している。

「なーーんてね~」

「えっ……?」

ルイレアールがケロッとした表情で腹からレイピアを引き抜く。

そのシックスパックは無傷だ。

「今、切腹したよな……」

「ええ、したわよ」

すると今度は立てた自分の腕をレイピアでスパリと切り落とすように振るった。

しかし刀身と腕が確かに交差したが、ルイレアールの腕は切り落とされていない。

それどころか傷ひとつ付いていない。

俺は自分の顔に刻まれた傷から鮮血を拭った。

「なぜっ……?」

俺は切られている。

間違いない。

だが、ルイレアールは自分を刺しても切っても傷付かない。

「その武器は、切れる対象を指定できるのか?」

ルイレアールは手に在るレイピアを舐め回すように眺めてから返答した。

「これはそんな便利なマジックアイテムじゃあないわ。でも、とっても便利なマジックアイテムよ」

「どっちなんだよ……」

「これは人間しか切れないレイピアなのよ~」

「人間しか切れない?」

俺はこの隙に左胸の傷にセルフヒールを施す。

こいつがおしゃべりで助かった。

「このレイピアは人間しか切れない代わりに、その他の物に阻害されないのよ。唯一阻害されるものは柄と鞘ぐらいなの」

「へぇ~、そうかい。それは凄いマジックアイテムだな。だからヒューマンキラーなのか」

これはマジで欲しいぞ。

鎧を無視して中身だけを傷付けるレイピアだろ。

人間にしか効かないが、それでも十分なマジックアイテムだな。

「まあ、タネが分かれば対策もできるぜ」

「本当にそうかしら~、うふん♡」

いちいちキモイな……。

マジで早く殺したいわ。

「よし、仕切り直しだ!」

俺は凛と黄金剣を構えた。

改めてレッサーデーモンと向かい合う。

戦いの続行だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!

青空一夏
ファンタジー
 婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。  私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。  ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、 「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」  と、言い出した。  さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。  怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?  さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定) ※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です) ※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。 ※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。

転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす

のりのりの
ファンタジー
木から降りれなくなった子猫を助けようとした侯爵令嬢の次女フレーシア・アドルミデーラは、木から落ちて、池で溺れた。池に落ちた勢いで、水底の石に頭をぶつけ、高熱にうなされた挙げ句、自分が腐女子OLだった前世の記憶をとり戻す。 転生先は、前世でやり込んでいた乙女ゲーム『君に翼があるならば、この愛を捧げよう』(略してキミツバ)の世界だった。 フレーシアは攻略キャラに出会うごとに、前世で課金しまくったキミツバの内容を思い出していく。 だが、彼女は、ヒロインでも、悪役令嬢でもなく、侯爵の次女に転生していた。 ただのモブ、と思ったら、異母兄は、キミツバで一番大好きだった(貢いだ)攻略キャラだった。 だが、フレーシアは、キミツバの本編が始まる前に、池で溺れて死んだという、攻略キャラにトラウマを与えるために設定されたキャラだった。 たしかに、池で溺れたけど、なぜか生きてます? トラウマ発生しませんでした? フレーシアが死ななかったことにより、攻略キャラたちの運命が微妙に変わっていく。 ただ、このキミツバの世界。 乙女ゲームとしては異色ともいえる廃課金ユーザーターゲットのハードなゲームだった。 選択肢を間違えたら、攻略キャラは簡単に死亡するのは当たり前。恋愛シーンスチルよりも、死亡シーンスチルの方が圧倒的に多いという阿鼻叫喚なゲーム。 うっかりしてたら、侯爵家は陰謀に巻き込まれ、兄以外は使用人もろとも全員が死亡して、御家断絶。 他の攻略キャラも似たような展開なのだが、異母兄は自分の家を滅ぼした連中の復讐のために、国を滅ぼし、他の攻略キャラを惨殺する。 家族が惨殺されるのを防ぐため、 推しキャラの闇落ちを阻むため、 死亡絶対回避不可能といわれている最難関攻略キャラを助けるため、 転生腐女子フレーシア・アドルミデーラは、破滅フラグを折りまくる!

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...