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【第九章】アンデッドなメイドたち編

9-16【ミイラメイド】

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俺はミイラメイドの群れに囲まれていた。

屋敷のエントランスロビーのド真ん中で、クロスボウを構えた複数のミイラメイドたちにだ。

完全に囲まれている。

数は……。

丁度二十人かな。

いや、彼女たちは死んでいるから二十体なのかな。

そうだよ、忘れてた。

たしかミーちゃんは、この屋敷に憑いているのはメイドたちと人形たちの霊と述べていた。

要するに複数だ。

メイドたちが複数いるのを忘れていたぜ……。

それでこの失態だ。

一人戦えるメイドが居るのだ、他のメイドたちも戦えると考えるのが基本だっただろう。

ついつい俺の眼前にいるメイドさんとの戦いに夢中で、正確な判断ができていなかったわ。

これは完全に俺のミスだ。

だが、反省ばかりもしてられない。

この状況を打開しなければならないぞ。

こんなところでマミーのメイドさんたちに矢を沢山撃ち込まれて、穴だらけになって死んでなんていられないぜ。

さあ、どうする──。

同時一斉射撃をされたら不味いぞ。

俺のマジックアイテムで矢は合計四本だけ逸らせる。

残るは十六本……。

目の前の負傷したメイドさんを盾に使って三割は防げるだろう。

そうすると残るは十本ぐらいが飛んで来るか……。

あと、せいぜいバックラーで防げるのは一本ぐらいだろうな。

まだ九本は飛んで来る。

それを避けられるかな?

無理だな──。

それを耐えられるかな?

キツイよね──。

一回目の一斉射撃を耐えられればクロスボウは弓矢と違って再装填に時間が掛かる。

クロスボウの利点は非力な人でも簡単に撃てるだ。

だが、欠点は再装填に時間が掛かることだ。

最初の一斉射撃さえ耐えられれば屋敷から逃走するチャンスだってありそうだ。

でも、そのチャンスはあるかな……?

難しいかな……。

そんな感じで俺が悩んでいると、眼前のミイラメイドが周りを囲むメイドたちに言う。

『皆さん、少々お待ちになってください』

その言葉を周囲のメイドたちは聞き入れたのか、クロスボウの発射を待ってくれた。

しかし、狙いは定めたままだ。

クロスボウの銃口はいつでも放てるように下がっていない。

眼前のミイラメイドさんが、今度は俺に話し掛けて来る。

『御客様、死ぬ前に一つ訊かせてもらっても構わないでしょうか?』

えー、やっぱり俺は殺されますか……。

じゃあ最後に何でも答えようかな。

「なんだい、メイドさん?」

『何故にあなたは私との戦いで、最後の最後で躊躇しましたの?』

「躊躇……」

『そう、私のブレイドを封じて、足を蹴り砕いた。あとは私の頭部をショートソードで貫くだけでした。それをあなたは何故か躊躇しました。ショートソードを捨てずに私だけでも殺せたはずです』

「あー、なんだろうな。ただ、無駄にメイドさんを殺したくなかったのかな」

『私は既に死んでいます』

「そうだよね。死んでるか」

でも、なんだかメイドさんを殺めるのは心に引っ掛かる感じが強いんだよね。

ほら、メイドさんって聖職者じゃんか。

神の使いの天使じゃんか。

ミイラだからってさ、それを簡単に殺せないよ。

俺が悩んでいるとミイラメイドが言う。

『分かりました。では、あなたの命をお助けしましょう』

「えっ、マジで?」

『だから屋敷をお去りくださいませ。帰る際には、外に捨てた鳥の骨は拾って帰ってくださいね』

「本当にいいのか?」

『はい、構いません』

俺は周りのミイラメイドたちを見回しながら彼女たちにも問う。

「あんたらもいいのか?」

すると周囲のメイドたちが無言でクロスボウを下げた。

眼前のミイラメイドが答える。

『私がメイド長ですから、彼女たちも私の指示にしたがってくれますわ』

ああ、確かに従ったよね。

クロスボウを下げたもの。

それにしても、こいつがメイド長なのか。

強いわけだ──。

「じゃあ……」

俺は肩に刺さっているブレイドを抜くとセルフヒールを自分に掛けて傷を癒した。

それからショートソードを拾い上げると異次元宝物庫に片付ける。

もう武器は使いそうにないな。

あー、それにしてもだ。

なんだか拍子抜けしたな。

でも、これじゃあ終われないよね。

このままではミッション失敗だもの。

そんなこんなしていると、メイド長に一体のミイラメイドが駆け寄って来て肩に手を貸す。

片足が折れているメイド長は、ミイラメイドの支えで立っていた。

俺は一息ついてからメイド長に話し掛ける。

「命を助けてもらって悪いんだけどさ……」

『なんでしょうか?』

「俺さ、この屋敷からお化けたちを退治するように言われているんだよね。悪いけどさ、あんたらこの屋敷から出て行ってもらえないかな。どこか別の屋敷で働いてもらえないか。再就職先を探すのを、俺も手伝うからさ」

『別で雇われるのは私たちもやぶさかではないのですが……』

「えっ、本当に!?」

駄目元でも、言ってみるもんだな。

普通なら怒られそうな感じだけれどさ。

『ですが私たちはこの屋敷に縛られておりますから、別に就職するのは無理なのですよ』

「地縛霊的な感じなのね」

『違います。我々は魔法の力でこの屋敷の敷地内から出れないのです』

「魔法の力って?」

『私たち二十一人のメイドは、作られたマミーなんですよ』

「作られたの?」

『そうですわ』

メイド長は淡々とした声色で言った。

『ならば、お話になるなら奥の部屋に移動しましょう。長話になるので、お茶ぐらい出しますわ』

呑気だな……。

まあ、いいか。

「じゃあそうするよ……」

『その前に、失礼します』

そう言いながらメイド長さんが俺の首筋に手を伸ばして来た。

そして触れている手が緑色に光った。

「ななななっ!!」

なんだ!!

体の力が抜けるぞ!?

『エナジードレインですわ』

ええっ!?

俺の生気を吸ってますか!?

チューチューと吸ってますか!?

『このぐらいでいいかしら』

そう言うと、メイド長はミイラメイドの支え無しに一人で立っていた。

俺に蹴り折られた足が修復してやがる。

メイド長は爪先をトントンとしながら感触を確かめていた。

『すみません。私たちマミーはヒールが毒で、エナジードレインが回復魔法なのです』

エナジードレインて傷を癒したのか、なるほどね。

「あ、ああ、そうですか……」

なんか少し痩せた気分ですわ。

眩暈も少しするしさ。

これはダイエットとして流行りそうだな。

エナジードレインダイエット。

なかなかイケてない?

「あれ、でも矢が目に刺さったままだぞ?」

俺に言われてメイド長が矢に触れようとする。

しかし露骨に躊躇した。

どうしたのかな?

『これはマジックアイテムで撃ち込まれた矢なので、魔力が消えるまでは、私では抜くことすら出来ません。それどころか今は触れもしませんわ。魔力が弱まり矢を抜いても、もう傷はエナジードレインでも癒せませんの』

「そのぐらい魔法の攻撃は、アンデッドにとってアウトなのか……。すまん……」

なんか悪いことしちゃったな……。

女の子を傷物にしちゃったよ。

でも、俺では責任が取れませんわ……。

掃除洗濯家事手伝いが完璧でも、流石にマミーと結婚とか無理だわ。

『すみません。ならばわたしに変わって矢を抜いてもらえませんか。生きた人間が抜くなら抜けますから』

「ああ、分かったよ」

そのぐらいならば、罪滅ぼしとしてやってやるさ。

俺は真っ直ぐに立つメイド長の肩を掴んで、反対の手で矢を握った。

彼女を押しながら矢を引けば、簡単に抜けるだろうさ。

それにしても彼女の肩を掴んで思う。

けっこう華奢だな。

小さいや──。

「じゃあ行くぞ」

『はい、いつでも』

俺が矢を抜こうと力を込めた。

すると──。

『あんっ』

ぐはっ!!

なんで色っぽい声を出すんだ!!

いや、声じゃないか、テレパシーか!

『す、すみません。少し痛かったので……』

「あ、ああ……。こちらこそごめんな……」

なんだろう。

俺の妄想が暴走しそうだった。

直立のメイド長は、顎をしゃくらせ目を閉じている。

その姿勢が、まるでキスを望むあどけない乙女に見えてきた。

矢を抜くという普段では有り得ないシュチェーションが、これからファーストキスを交わす無垢な男女に見えてきた。

矢を握る俺の心臓が速く鼓動し始める。

何故にドキドキしますか、俺!?

相手は干からびたミイラですよ!!

漢字で書くと【木乃伊】ですよ!!

『さあ、一思いに』

「う、うん……」

『あっ……』

だからそう言う声を出すんじゃあねえよ!!

俺の心臓が痛みだしたわぁぁあがあただただだあだ!!!

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