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【第七章】魔王城へ旅立ち編

7-19【アスランの節約法】

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スダンの町を朝に出た俺は、その晩のうちにゴモラタウンへ到着した。

辺りは暗いが、まだまだ人々が寝る時間帯でもない。

まだ、ゴモラタウンのゲートをくぐり抜ける旅人の姿も少なくなかった。

俺はゴモラタウンのゲートをくぐらずワイズマンの屋敷を目指す。

今は銅貨の一枚でも節約したいのだ。

宿賃すらケチりたい。

だから今日は無理矢理にでもワイズマンの家に泊めてもらおうと思っている。

そうすれば、宿賃どころか食事代も浮くだろう。

出来るならば、お小遣いすら貰いたいぐらいだ。

お小遣いが無理でもエロ本の一冊ぐらいは手土産に貰いたいのが正直なところである。

そして俺はワイズマンの屋敷の前に到着すると、アキレスから下りて玄関を目指す。

俺が玄関の扉をノックすると執事の爺さんが顔を出した。

「これはこれはアスランさま。ワイズマンさまにご用事ですね」

「ああ、繋いでくれないか」

「はい、少々お待ちを──」

執事の爺さんは、そう言うと俺をロビーに入れてくれた。

あの爺さんはちょくちょく見る顔だから、俺の顔や名前を覚えたのだろう。

なんども遊びに来すぎたかな。

そして俺が待っていると二階から、渋いガウンを纏ったワイズマンがワイングラスを片手に姿を現す。

普通にしててもキモイな。

あのタプタプな顎と腹がなんだかムカつくんだよね。

モッチリ人生全開ですよってのが腹正しい。

そして、二階からワイズマンが話しかけて来た。

「こんばんは、アスラン。ソドムタウンに帰ったんじゃあなかったのかね?」

「よう、ワイズマン。ちょっと仕事でな、また立ち寄ったんだ。悪いが今晩さ、泊めてくんないか?」

「納屋で良ければいいぞ」

「なんで納屋なんじゃい。客として豪華な客間に泊めやがれ。そしてご馳走でもてなせよ」

「何故に?」

「友達じゃあないか」

「えっ、友達なの?」

「えっ、違うの?」

「いや、私は小さなころからキモイとか言われてて、友達の一人も居なかったんだ。だからアスランくんを友達だと考えたことがない……」

何こいつ……。

キモイのは知ってたけど、友達が一人も居ないのは知らんかったわ。

それで良くも巨乳な秘書系ガールのマヌカハニーさんと結婚できたよな。

異世界にも奇跡っておきるんだ~。

いや、異世界だから起きた奇跡なのかな?

それよりも……。

って、ことは──。

「じゃあ、俺がお前のファーストフレンドなのか!?」

「そ、そうなるな……」

やーーべぇーー……。

考えただけでキモイわぁ~……。

鳥肌が立ってきたぜ……。

こんなモッチリ野郎の初めてなんて要らんがな。

それを考えると急に悪寒が走って足がすくみだした。

「わ、悪いな、俺は町で宿を取るよ……」

「待ってくれ、ベストフレンド!!」

ええ、何それ!?

ファーストフレンドからベストフレンドに、瞬間的に昇格してませんか!!

キモイよ!!

超キモイよ!!

俺は踵を返して逃げるように屋敷を出ようとした。

「待ってくれ!!」

そう叫んだワイズマンがヒラリと手すりを飛び越えると、二階から一階のロビーに音もなくスチャリと着地する。

そして俺のほうに物凄い形相で駆け寄った。

「まーーーってくれーーー!!」

ワイズマンは両手を突きだして、指先をワシャワシャと気持ち悪く動かしながら駆けて来る。

殺気にも似た危機を感じ取った俺は、振り返ると同時に、突進して来たワイズマンの腹部に中段回し蹴りを打ち込んでやった。

「おらっ!」

「ごっぱぁ!!」

水月を蹴られたワイズマンが俺の脚力に吹き飛ばされて転がった。

「キモイな、おまえ!!」

するとワイズマンがムクリと立ち上がる。

そして、叫んだ。

「それは昔からだ!!」

こいつは俺のキックが効いてないのか?

「やっぱり俺は帰るぞ!」

「何でだよ!?」

「なんか怖いの、凄く怖いのよ!」

「大丈夫だよ、何もしないから泊まって行けよ。触ったりもしないからさ!」

「本当に何もしない……?」

「うん、何もしないからさ」

「触りもしないの……?」

「しないから、泊まっていきなよ」

「それなら、一晩ぐらい泊まって行こうかしら……」

「うんうん、泊まりな、泊まりな~」

「部屋はどこ?」

「二階の私の自室を使えばいいさ」

「自室……?」

「大丈夫だよ。私はソファーで寝るから、キミはベッドで寝ればいいさ」

「そんな、悪いわ。私がソファーで寝るわ」

「いいんだよ。キミはお客さんなんだ。ベッドを使ってくれよ」

「でも、それだと、あなたが風邪をひいちゃうわよ……」

「でも、ベッドは部屋に一つしかないからさ」

「分かったわ。それじゃあ一緒に寝ましょう……」

「一緒にって……」

「一つのベッドで寝ましょうって言ってるのよ……」

「二人でかい?」

「そうよ……」

「いいのかい……?」

「し、仕方無いじゃない……。だってベッドは一つしかないんだもの……」

「わ、分かったよ。一緒に夜を過ごそうじゃあないか!」

「もう、ワイズマンったら……」

ここまで演じるとワイズマンが抱きつこうと飛び掛かって来た。

「アスランくん、嬉しいぞぉぉおおお!!」

「キモイ!!」

俺が上段回し蹴りでワイズマンの頭部をパワフル&スピーディーに蹴り飛ばしてやった。

「ううらぁ!!」

「ごっぱあっ!!!」

蹴られたワイズマンは、風車のようにグルリと回ると、床に頭から激突させた。

床に頭を叩きつけられる瞬間に、ミシリと聞き心地の悪い音が僅かに俺の耳に届く。

「わお、ちょっと力が入りすぎたぜ……」

ワイズマンは首と体が変な方向に曲がった鯱のように逆立ちしていた。

ちょっと強く蹴りすぎたかな?

そこに執事の爺さんが現れる。

その光景を見ていたはずの執事の爺さんは、沈着冷静に言った。

「アスランさま。お部屋の準備が出来ましたので、こちらにどうぞ」

「ああ、すまないな……」

俺は執事の爺さんに案内されて客間を目指す。

絶命状態のワイズマン一人がロビーに残された。

俺は廊下を進む爺さんの後ろで呟きながら振り返る。

「ちょっと力を入れて、蹴りすぎたかな」

すると俺の呟きが聞こえたのか、前を歩く執事の爺さんが振り向かずに言う。

「大丈夫ですとも。ご主人さまなら、三分もすれば復活します。小さなころから丈夫な御方ですから」

「なるほど……」

分かってるな、この爺さん……。

昔っから仕えているのかな。

どうやらワイズマンの良き理解者らしい。

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