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【第六章】閉鎖ダンジョン後編

6-19【ホワイトドラゴン】

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激戦が終わった。

「つ、疲れた……」

俺が胡座をかいて尻を床につけると、セルバンテスミイラの遺体が砕けてパッサパサの粉に変わる。

【おめでとうございます。レベル21になりました!】

ああ、レベルが上がったわ……。

ラッキー……。

でも、疲れたぞ。

相当疲れたぞ……。

もうしばらくは立てやしねえ。

それに一回死んだしさ……。

俺は異次元宝物庫から身代わりの置物を取り出した。

あーあ、見事に壊れてますわ。

木っ端微塵ですな。

もう、魔力の欠片も残ってないぞ。

このマジックアイテムが、代わりに死んでくれたから、俺はセルバンテスに勝てたんだ。

有り難いアイテムだったよ、マジ感謝だわ。

まあ、壊れたマジックアイテムでも、亡骸はちゃんと葬ってやるからな。

詰所の裏にでも埋めといてやるよ。

よし!

お前の死は無駄にしないぜ!!

キラッーーン☆

さてさて、元気が戻って来たぞ。

アイテム回収でもしますかね~。

俺は激しかった戦場の跡地を徘徊してマジックアイテムをかき集めた。

ミニスカチャイナドレス、銀の王冠、狼の盾、ガントレット、プレートのブーツ。

それに、黄金剣だ。

おや、骨粉の中からスクロールが一枚出て来たぞ。

ラッキー。

俺は回収したマジックアイテムを異次元宝物庫に仕舞うと、代わりに骨壺を取り出してセルバンテスの骨粉を手で掬って入れた。

まあ、昔の人だから遺族は見付けられないだろうな。

仕方ないから俺がちゃんと葬ってやるよ。

身代わりの置物と一緒にな。

さて、俺が使ったマジックアイテムも回収しないとね。

あちらこちらに放り投げてあるもんな。

俺はすべてのアイテムを拾うと先を目指した。

これで三体の英雄アンデッドは撃破できたのだから、テイアーの眠れる体まで到着できるだろう。

俺は長い廊下を進むと行き止まりに到達した。

眼の前には巨大な扉がある。

高さ15メートル、幅は7メートルほどの大きな鋼の扉だった。

両開きの扉で、ズシリと重そうである。

表面にはドラゴンの紋章が、豪華に飾られていた。

一目で見るからに、この奥にドラゴンが眠っていそうなイメージである。

さてさて、どうやって開けるんだ?

人力では開けられそうにないサイズと重さだぞ。

たぶんドラゴンなら簡単に片手で開けられるんだろうけれど。

でも、人間の腕力では無理である。

うーん、中を確認してみたいのだが、テイアーの魂が居る部屋に戻って本人にどうにかしてもらおうかな。

んん?

なんかあるぞ?

扉の隅っこに小さな扉が付いてるじゃあないか。

人間用の扉かな?

これなら俺一人でも開けられそうだ。

俺は小さな扉を引いてみた。

少し重たかったが、なんとか開く。

俺は中腰で小さな出入り口をくぐって中に入る。

部屋の中に入るとランタンのシャッターを全開にして室内を照し出す。

そこは野球場のように広い部屋で、その中央には金銀財宝をベッドにしたドラゴンが寝そべっていた。

白いドラゴンだ。

「ホワイトドラゴンなのか?」

テイアーの体は吐息を鳴らしながら熟睡中である。

白銀の鱗を輝かせているドラゴンは、かなり巨大だった。

恐竜とかのサイズじゃあないだろう。

もっともっと大きい。

こいつが人間サイズだと例えるならば、俺はバッタかカマキリのサイズになるだろう。

戦えば、間違いなく勝てないだろうね。

勝てるビジョンが微塵にも湧かないわ。

てか、敵とすら認識されないかも知れないや。

ドラゴンブレスの一息どころか巨大な足で一踏みでペシャンコである。

グラブルやアンたちが何千年単位のドラゴンならば、テイアーは何万年単位のドラゴンだ。

あのドラゴン兄妹とも各が違うのだろう。

俺は興味に引かれてテイアーの身体に歩み寄る。

そして、金塊のベッドを登って白銀の鱗に触れてみた。

「思ったより冷たいな。やっぱり爬虫類なんだね。てか、鱗が硬いな~」

それから俺は自分の足元を見た。

金塊の山だよね。

少しぐらいガメても分からないかな?

バレたら殺されるかな?

んー、ここは欲張る必要もないから手を出さないで置こうか。

それにただの金塊ならば俺は要らない。

俺はマジックアイテムが欲しいのだ。

何よりドラゴンって守銭奴っぽいしね。

お金のやり取りでドラゴンに恨まれたら堪らない。

「いや、待てよ……」

俺は言ってから眠れるドラゴンの顔を見上げた。

「寝てるよな。熟睡中だよね……」

そう、このドラゴンは眠っている。

いや、寝ていると言いますか、魂が抜けているんだ。

これって、もしかして、今なら俺でもドラゴンに勝てるんじゃね?

寝首を刈れば簡単に勝てるんじゃあないか?

そしたらここにある金銀財宝はすべて俺の物になるんじゃあないか?

それにドラゴンを倒した経験値で一気にレベルも上がるんじゃあないの?

「…………」

いやいやいや、待てや。

そんな卑劣なことを主人公の俺がやっていいのかよ?

駄目だろ……。

倫理的にアウトだろ。

もしもそんな卑怯な勝利で財宝を手にしても、何も嬉しくないわな。

うん、最初のプラン通りに大人しくミッションを遂行しよう。

それが良い……。

俺って案外に小心者だな~。

さて、テイアーの部屋に帰って報告しようかな。

それでテイアーをベルセルクの爺さんに謁見させれば仕事は終わりだ。

やっとソドムタウンに返れそうだぜ。

俺はルンルン気分でテイアーに会いに行く。

「テイアー、お待たせ~。三体の英雄アンデッドを全部ぶっ倒して、身体が寝ている部屋まで開通したよ~」

俺が声を張り上げながら部屋に入ると、ソファーセットでお茶を啜っていたテイアーが笑顔で迎え入れてくれた。

今日のテイアーは、マッチョマンスタイルではなく、貧乳美女スタイルだった。

『あら、本当ですか、やりましたね』

んー、なんか俺のほうがテンション高くね?

テイアーは嬉しくないのかな?

『嬉しいですよ。何せ、身体に返れるのは二百年ぶりぐらいですからね』

じゃあ、もっと喜べよ。

『だから喜んでますよ、久々に身体に戻れるのですもの』

二百年ぶりってのが、久々なのね。

てか、心を読むのやめれ!

『じゃあ、ちゃんとお口で喋りましょうね』

はい、分かりました先生!

『それにしても私の本体を見て、少しは謙虚になりましたかな。私が偉大なドラゴンだと分かってもらえたようね』

ああ、本体を見て貧乳なのも分かったぞ。

『嘘はいけませんよ、アスラン。人間がドラゴンの裸体を見て、セクシーかどうかは分からないはずです。それでも私はドラゴンの中ではセクシーでしたけど』

うん、セクシーかどうかは分からなかったが、貧乳なのは見れば分かったぞ。

あと、お前は嘘つきだな。

それも今分かったぜ。

『だーかーらー、私は貧乳ではありません……』

ほら、でもドラゴンボディーなら貧乳も隠せるから良かったな。

『だーかーらー、私はドラゴンの中でも貧乳なんかじゃあないですよ!』

あー、すまん。

例え数万歳でもドラゴンは不老だから貧乳とか言われると乙女心が傷つくのね。

わりーわりー、言いすぎたわ。

『この子は絶対にろくな死にかたをしないわね……』

もう、ここ最近で二回も死んでますがな。

この閉鎖ダンジョン内でも一回死んでるしさ!

どうしてくれるんね!

責任を取ってくれ!

『私に言われましても……』

そりゃあそうか。

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