上 下
108 / 611
【第四章】ショートシナリオ集パート①

4-26【見えない出入り口】

しおりを挟む
ロングボウを構えたままの俺は、遺跡の出入り口から外の様子を眺めた。

雨が降る森の景色には蛇の尻尾を有した猿の姿は見えない。

あれだけの数が居たのに、何処に隠れたのか不思議なぐらいだ。

「どこに行っちまったんだ、猿どもが……」

とりあえず俺は安心して弓矢を下げた。

俺が飛び込んだ遺跡は、件の初心者ダンジョンがある場所だ。

遺跡は崖のような岩場をくり貫かれて作られた、ダンジョン風の遺跡である。

俺の手元には遺跡内の図面が描かれたマップもある。

たいして広い遺跡でもないし、前回初心者パーティーによって掃除もされたばかりだ。

おそらくまだ新手の住人もほとんど居ないだろう。

本来なら空のはずだが、無警戒に進むわけにも行かない。

万が一ってこともある。

俺は念のためにショートソードを抜いて警戒を怠らない。

「どうするかな~」

まずは濡れた服でも着替えようかな。

ちょっぴり寒いしな。

このままでは風邪を引きかねん。

そうして俺がショートソードを置こうとした時である。

遺跡の奥から僅かな物音がした。

カチャリ、カチャリと歩むテンポで音がする。

風や雨の音ではないだろう。

「何かが居るのかな?」

初心者パーティーどもが掃除を済ましているはずだ。

でも、一週間前の話だしな。

もう、新たなモンスターが巣くったのだろうか?

これは着替えている場合ではないだろう。

俺は忍び足で奥に進んだ。

隣の部屋を覗けばノサリノサリと人影が三体ほど動いている。

「あら、スケルトンだな。しかも甲冑をフル装備だよ。リッチだね~」

スケルトン三体はスケールメイルに丸い盾を持ち、各々が別々の武器を持っていた。

ヘルムやガントレットもちゃんとつけていやがる。

「兵隊の死体だったのか?」

ヤツらの武器は、ロングソード、メイス、ハンドアックスだ。

三体のスケルトンは、部屋の中をひたすらにフラフラと彷徨っていた。

なんだろう?

ただ迷い込んだだけのモンスターなのかな?

「まあ、いいや。やっちまおう。スケルトンぐらいなら軽く絞められるだろうさ」

俺は異次元宝物庫からメイス+2を取り出して左手に持った。

右手にはロングソード+2を取り出して装備する。

「ソードとメイスの二刀流だぜ!」

メイス+2は所有者の腕力小向上に命中率向上だ。

ロングソード+2はアンデットにダメージ特効向上と攻撃速度向上だ。

「どちらともにマジックアイテム+2の二刀流だ。合計+4の二刀流とは豪華絢爛だぜ!」

よし、やるぞ!!

俺は大きく息を吸ってから飛び出した。

速攻である。

俺はスケルトンたちが奇襲を感知する前に背後から駆け寄った。

そしてスケルトンが振り返るころには俺の間合に敵を捕らえる。

「先手、取ったり!」

俺の先手はロングソードを持ったスケルトンの脳天を背後からメイスでぶん殴りつけた。

激音と共にスケルトンが被っていたヘルムがへこんで頭蓋骨が胴体の中までめり込んでしまう。

すると俺の奇襲に気が付いた二体のスケルトンが武器を翳して襲い掛かって来た。

二体目のスケルトンが縦振りにメイスを振るって来るが、俺はメイスを盾にメイスを受け止めると、ロングソードの一突きでスケルトンの顔面を突き破る。

スケルトンの眉間から入ったロングソードの刀身が後頭部まで貫通した。

「おおりゃあ!!」

俺は顔を刺したままスケルトンの体を力任せに振り回し三体目のスケルトンに投げ付けた。

下半身に顔を潰されたスケルトンが当たると三体目のスケルトンはバランスを大きく崩してよろめいてしまう。

そこに俺のメイスがアッパーカットのラインで振り上げられる。

「そりゃ!」

ぱこーーん、っと爽快な音が鳴った。

するとスケルトンの下顎だけが遠くに飛んで行く。

そしてロングソードの横振りで首を斬り落としてやる。

なんともナイスな斬れ味だった。

流石はアンデッド特効だぜ。

三体のスケルトンはどれも動かなくなった。

瞬殺である。

「よし、スケルトン全体を撃破したぞ。チョロイな」

俺はすぐさま動かなくなったスケルトンの死体を漁った。

全部で17Gをゲットしたが、それ以上の物は持っていなかった。

「マジックアイテムはなしか……。ショボイな~」

まあ、雑魚だったから、こんなもんですかね。

俺はそのまま勢いを保ちたかったので、奥を目指すことにした。

濡れた服を着替えるのをやめる。

「直ぐに乾くだろうさ」

やがて直ぐに件の割れ目を発見した。

「ここかな?」

4メートルぐらいの壁に、人が一人通れるぐらいの亀裂が走っていた。

この割れ目にマヌカビーが入って行って消えたのだろう。

割れ目には不振な点は見当たらない。

何気ないただの割れ目だ。

「どれどれ~」

俺はマジックトーチが掛かったショートソードを割れ目に突き入れて覗いてみた。

亀裂の中は部屋のようだった。

床を見れば埃の上に足跡が残されている。

その足跡は、部屋の奥に進んで行っていた。

「あれはマヌカビーの足跡なのだろうか?」

足跡は、この一本しか見当たらない。

部屋の奥は見えないが、長く廊下のように続いている感じがした。

俺はダガーの一本にマジックトーチを掛けた。

それを割れ目の奥に向かって投げ放つ。

魔法で光るダガーは、3メートルほど先で突如消えた。

なんだ!?

消えましたね~??

3メートルほど先から何かが可笑しい。

しかし、視覚的には異常は見付けられない。

俺はゆっくり部屋の中に入ってみた。

部屋の中は今までと大して変わらない。

静かで湿っぽい。

これといって目立った物は何もない。

だが、床の足跡が3メートル先で切れていた。

ここで投げたダガーも消えたのだ。

俺はそこに魔法で光るショートソードの切っ先を進めてみた。

すると光る刀身が消える。

光も消える。

しかし、ショートソードを引き戻してみると、ショートソードの刀身もあるし普通に光ってもいた。

なるほどね。

「ここから先が、別空間になっているのかな?」

人が入っても大丈夫かな?

大丈夫じゃあないよね?

マヌカビーは、ここに入ってから消えたのだからさ。

でも、入らないと話は進まないよね。

怖いけど入ってみるか……。

ちょっとずつ入ってみよう。

俺はまず手を入れてみた。

右手を手首まで入れるが、こちら側からだと、手が斬れているように消えて見えるだけだった。

痛みも何もない。

引っこ抜くと手は元通りに戻る。

「生身でも大丈夫そうだな」

今度は顔を突っ込んでみた。

すると向こう側の世界が見えた。

燦々と日が当たる眩しい世界で、お花畑が広がっていた。

ただただお花畑の平地が広がっているだけだ。

雨のせいで湿っぽい向こうの世界とは全然違った。

空気も暖かいし、花の良い匂いが漂っている。

なんか凄く住みやすそうな気候である。

俺が自分の身体のほうを見れば、こちら側に突っ込んでいる部分しか見えていなかった。

まるで俺の身体が空間から生え出て浮いているような感じだった。

「不思議だな──」

俺は全身をお花畑の世界に入れてみる。

なんともないな。

俺は全身を確認したが異常は何もない。

念のために、もう一回戻ってみた。

「ちゃんと戻れるな」

どうやらここに見えない次元の出入り口があるようだ。

俺はお花畑ステージ内を回って、これからマヌカビーを捜索しようと思う。

これだけ豊かな自然があるのなら、マヌカビーは生きているかも知れない。

水も確保出来そうだし、食料も取れるかも知れないからね。

生存の可能性は十分にあるだろう。

俺は見えない異次元扉がある位置に、目印として、さっきのスケルトンが持っていたロングソードを突き刺しといた。

出入り口が見えないのだ、一度離れたら出入り口を見失いかねない。

だから目印は大切だろう。

「これで出口が分からなくなることはないだろうさ」

マヌカビーが戻らない理由は、出口が分からないからって理由もありそうだからな。

さて、問題は、このお花畑の何処にマヌカビーが居るかだ。

「さてさて、探すか……」

本格的に捜索開始である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

処理中です...