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【第四章】ショートシナリオ集パート①

4-18【トリンドル】

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茨の森とはソドムタウンから歩いて二日ばかりの距離に位置する狭い森である。

そして、ソドムタウンを旅立った俺は、茨の森に到着してから驚いた。

そこは本当に刺々しい茨の森である。

森と言っても背の高い木々は少ない。

しかし、腰の高さ程の茨の蔓がところ狭しと生い繁っているのだ。

ほぼほぼ足の踏み場がないぐらいにだ。

その光景は、まるでグルグル巻きの鉄条網がミッシリと敷き詰められているが如しである。

助走をつけて真っ直ぐに踏み込んだら体がズタズタになること間違いないだろう。

まあ、そんなことをやる奴はいないだろうが……。

そして、300メートルほど先に、今回の目的地である魔法使いの塔が見えていた。

「あそこに依頼主である魔法使いが住んでいるのかな?」

細くて高くて古臭いが立派な塔である。

いかにもザ・魔法使いの塔と呼べる風貌だ。

しかしながら、そこまで行ける道がないのだ。

このまま強引に進めば足がズタボロになるだろうさ。

ズボンがボロボロに破けてパンツまで穴だらけになってまう。

俺のお気に入りのパンツが破けては堪らない。

それだけは避けたい状況だ。

一体あそこまで、どうやって行けば良いのだろうか分からない。

そんなこんなで俺がしばらく悩んでいると、いきなり目の前の茨がモコモコと動き出した。

茨の蔓が生き物のように動き出して二つに割れる。

そして道が開けたのだ。

まるでモーゼの十戒のようだった。

真ん中に塔まで続く道が、ポッカリと出来上がる。

「これは凄いな。魔法の道だろうかな?」

こんな道が出来るってことは、向こうさんも俺の到着に気付いたのであろう。

俺は茨の真ん中に出来た道を進んで行った。

やがて塔の麓までたどり着く。

岩作りで細いが高い塔である。

十数階はあるだろうか。

なんか聳えているな~、ってイメージがした。

ここまで来るまでに感じた感覚だと、この塔に住んでいる魔法使いは、相当の使い手だろう。

ちょっと侮れない。

突然ながら、キィーっと音を鳴らして鉄の扉が勝手に開く。

「自動ドアかよ……」

このまま中に入って来いと言ってるのだろうか。

少し警戒しながら俺はスタスタと塔に入って行った。

塔の中は広くて薄暗い部屋だった。

フロワーには数個の水瓶と沢山の薪が積まれている。

高い天井で、先が暗くて良く見えやしない。

どうやら煙突状態の塔のようだ。

するとユラリとひとつの影が動いた。

「んん、誰か居るのか?」

俺の言葉に影が言葉を返す。

「お待ちしておりました。冒険者ギルドからお越しの御方ですね」

「はい、そうですが」

何だろう。

なんかこの人、ボヤけてるな。

男か女かも分からないぞ。

てか、ほとんど闇人間だな。

奇怪だが脅威ではないから安心か。

直感でしかないが、生き物じゃあないな。

おそらく魔法生物的な存在だろう。

しらんけど──。

「では、主人のトリンドル様がお待ちですので上の階まで御上がりくださいませ」

謎の人物が階段のほうに俺を促す。

自分は上がらず俺だけに上がれと言っている。

俺はボヤけた人物の横を過ぎて階段を上って行った。

「ではぁ、失礼します~」

壁沿いに螺旋を描く長い階段だった。

随分と俺は階段を上った。

長く長く続く階段を進むと、やっと到着地点だ。

「最上階の部屋なのかな。随分と上ったよな~」

俺は蝋燭の灯りが幾つも照らされた部屋に入る。

室内には、いろいろな物が置かれていた。

普通の家具から普通じゃあない禍々しい置物までいろいろとある。

だが、ほとんどは禍々しい部類だろう。

総合するに、この部屋は怪し過ぎる内装だった。

魔法使いの部屋って感じだ。

窓は閉められ薄暗い。

灯りは数個の蝋燭と暖炉の火がついているだけだ。

そして暖炉の周りに怪奇な動物が丸まっている。

犬でも猫でもないが、愛敬は感じられた。

でも、俺は飼わないな。

だって醜いもの。

それにしても、室内からは人の気配がしない。

「誰か居ませんか~」

とりあえず呼んでみた。

すると部屋の隅で何かが動いた。

「誰か居る?」

「来ましたね。冒険者ギルドの勇者様よ」

若い女性の声だったが、露骨にわざとらしい。

なんだろう?

一言で言ったら、作ってる感じがする。

演技臭いのだ。

そして、部屋の隅から現れた影は女性だった。

腰まで長い金髪の女性。

細くて華奢で弱々しい。

でも、貧乳だが美人だ。

正確に言えば病弱美人さんだった。

「俺が冒険者ギルドから回された冒険者アスランだが、仕事の内容を訊きたいのだが」

「なるほど、でもちょっと待ってね……」

「どうした?」

魔法使いは何やらテーブルの上を漁っている。

「どうしたの?」

「ちょっと薬を飲む時間なの。貴方をここまで案内するのに魔力を使いすぎちゃって……」

「そうなんだ」

茨の道を開いたのはこいつの仕業か。

あれで魔力を消費したのかな?

俺が不意に横を見ると、棚の上に使い込まれた小瓶が置いてあった。

飲み薬とラベルが貼ってある。

「薬って、これじゃあね?」

「あ、それそれ、ありがとう。探してもないはずだわ~。そんなところにあるんだもの~」

なんだろう。

急に和やかになったな。

「はいはい、じゃあここに座って待っててね」

「はい……」

俺がテーブル席に座って待っていると魔法使いの女が薬を飲み終わって戻って来る。

魔法使いの女は急に引き締まった口調に変わっていた。

「どうも、私が茨の森の魔法使いトリンドルです」

喋りがクールだな。

でも演技だと分かる。

自己紹介をする彼女は二十代後半ぐらいの女性だった。

もしかしたらもっと若いかも知れない。

何せ、病弱のようだから若干老けて見えるのだ。

「えーと、アスランくんって言いましたっけ?」

「はい」

「今回、貴方に依頼したいのはヒッポグリフを倒してもらいたいの」

「ヒッポグリフって、あのグリフォンと馬との間に産まれるっていう、あれか?」

ヒッポグリフとは、今俺が述べたとおりグリフォンと馬との間に産まれるって言うモンスターの一種である。

グリフォンってのはチャリオッツの引き手として使われることのあるモンスターで、馬の体に鷹の頭と足と翼を有した飛行生物だ。

故に、同じチャリオッツを引く馬を敵視することが多い。

しかし、牝馬は別で、見つけると犯すとされている。

牡馬は殺して、牝馬は卑猥にも襲うのだ。

そして襲われた牝馬から産まれたのがヒッポグリフとなる。

「そう、その雑種を殺してもらいたいのよ」

「なんで?」

「この茨の森の茨をムシャムシャと食べちゃうからよ」

「そんなのアンタが倒せばいいじゃあないか? この茨の森を管理している魔法使いなんだから、そのぐらい自分で始末を付けろよ」

なに、もしかしてこの人は弱いの?

「それが出来ないから依頼を出したのよ」

「なんで?」

「だって私は殆んど攻撃魔法が使えないもの」

やっぱり弱いんだ。

ヘッポコ魔法使いなのかな?

「なるほど、大魔法使いって訳じゃあないのね」

「大魔法使いかどうかって述べれば将来的には大魔法使いだけれど、今は先代の茨の大魔法使いだった師匠様の遺品整理で大変なのよね~。だからヒッポグリフなんて相手にしている暇がないのよ」

なんか、ポンコツ臭が漂ってきたぞ。

「アンタもしかして、この塔の主じゃあないのか?」

「いやいや、ちゃんとした主ですよ。ほとんどは先代の物ばかりだけれとね~。ここにある物で私が持ち込んだのは自前の薬ぐらいかしら」

あー、やっぱりそうか……。

この女魔法使いは大したことがないぞ。

雑魚だな。

なんかここまで来る間に、だいぶビビらされたけれど、こいつは間違いなく三流の魔法使いだ。

確定だ。

間違いないな。

なんか会話のトーンも崩れて来たし、ここからはホチャラカパターンのストーリーに突入だろう。


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