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【第二章】最臭兵器スバル編
2-27【薬草採取】
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俺は次の日の早朝に、ソドムタウンの正面ゲート前で、毒ガス美少女のスバルちゃんと合流する。
おっと、毒ガスは言いすぎかな……。
薬師魔法使いのスバルちゃんだ。
彼女はツインテールとピンクのローブを微風に靡かせながら俺を待っていた。
彼女の清々しい笑顔は爽やかだったが、彼女の風下を行き来する人々は卒倒しそうな表情で逃げるように去って行く。
スバルちゃんは、そんな周りの人々の様子には気付いていないようだった。
この子は周りが見えていないタイプのようだな。
鈍感で周囲が見えていないのだろう。
自覚がないとは、実に残念で恐ろしいことだ。
俺はスカル姉さんの診療所を出る前から、丸めた綿を両方の鼻の穴に詰め込んでから来ている。
準備万端だったお掛けでスバルちゃんの体臭を防げていた。
何事も準備は大切だと実感する。
この子の範囲攻撃は、何せキツイのだ。
昨晩スカル姉さんにスバルちゃんのことを知っているかと訊いたら良く知っていると言っていた。
スカル姉さんの診療所に置かれている薬のほとんどが、彼女がおろした品物らしいのだ。
なんでも彼女はソドムタウンでも有名な薬師であるとか。
安くて品質の良い薬草を販売していると、一般人にも有名らしい。
なので直接彼女から薬を購入する一般人も少なくないらしいのだ。
要するに町でも有名な薬師である。
そして町の人々は、薬草を安値で譲ってくれるスバルちゃんに気遣って体臭のことを指摘しないらしいのだ。
そんな彼女が朝から俺を待っていてくれた。
これがデートの待ち合わせなら最高なのだが、現実はただのビジネスだ。
これから二人で薬草取りの旅に出るだけなのだ。
「おはよう、スバルちゃん。またせたかな?」
俺はそう言いながら風上から近づいた。念のためである。
「いいえ、私も来たばかりですから」
「そうなんだ」
「あれ、アスランさん、風邪ですか。鼻声ですよ?」
「いいや、ちょっと鼻が詰まっているだけだよ。心配しないでいいから、仕事には支障ないからさ」
「そうですか、良かった」
ニコリと優しく微笑むスバルちゃん。
なんて可愛い性格だろう。
もしも毒ガス美少女じゃなければ、良からぬ妄想に耽ってしまうところだったぜ。
この子も俺の呪いが発動しない貴重な女性だと分かった。
しかし、分かったが、ぜんぜん嬉しくない。
微妙な気分である。
「それでは出発しましょう。馬車に乗ってください、アスランさん」
そう言うとスバルちゃんは後ろに控えてあった一頭立ての荷馬車に乗り込んだ。
それから手綱を握る。
俺は馬車に乗る前に、馬の顔をマジマジと見た。
この馬は、鼻水をダラダラと大量に垂らしていやがる。
絶対に鼻が詰まってて悪臭を感じていないのだろう。
「アスランさん、どうかしましたか?」
「へぇ~。スバルちゃんって馬車を持ってるんだ」
俺も馬車に乗り込みスバルちゃんの横に座る。
ちょうど風上で助かった。
スバルちゃんが俺の言葉に笑顔で答える。
「これから大量に薬草を取りに行くんですよ。人力だけでは何キロも運べませんからね」
俺がスバルちゃんの話を聞きながら荷台を覗き見れば、大樽二つと麻の大袋が畳まれて何枚も積み重ねられていた。
「もしかして、すっごい量を取るの?」
「ええ、荷台が一杯になるぐらい薬草を取りますよ。アスランさんにも、手伝ってもらいますからね」
「は、はい……」
俺は舐めていた。
貴重な薬草取りとか聞いていたから、勝手なイメージで小袋にちょいちょいっと摘む程度かと思っていたのだ。
そうだよね~。
よくよく考えれば、薬師としてソドムタウンに多くの常連が居る薬屋さんだもの、ちょこっとだけ薬草を摘んできても足りるわけがないよね。
これはもしかして、薬草取りのほうが護衛より苦戦するやも知れないな。
ちょっと覚悟しないとならないかもしれん。
それから俺たちは荷馬車に揺られながらソドムタウンを出る。
こうして三日間を予定している薬草取りの旅が始まった。
スバルちゃん曰く、薬草を取るポイントは二日間に別けて二ヶ所らしい。
初日に向かう場所は安全な森だが、複数の薬草を大量に採取するらしいのだ。
問題は二日目に向かう場所が危険であるとか。
そこは森の中の沼地でリバーボアの生息地らしいのだ。
リバーボアってのは、狂暴な大蛇だ。
毎回遭遇するほどではないとスバルちゃんは言っているが、俺が一緒に行くのに出会わなければ嘘だろう。
話の盛り上がりに欠けてしまう。
むしろ出会いたいぐらいだ。
俺の格好いいところを是非にもスバルちゃんに見せたいものである。
そして俺たちは初日の目的地に到着した。
スバルちゃんは馬車を森の側に進めると、辺りを見回してから停車する。
「じゃあ、この辺にしましょうか」
スバルちゃんが馬車を下りたので俺も飛び下りた。
周囲に気を配るがモンスターの気配は感じられない。
まあ、安全だろう。
「アスランさん、これを」
俺はスバルちゃんから麻の袋を手渡される。
45Lぐらいの大きな麻袋だった。
「いいですか、アスランさん」
「お、おう……」
「アスランさんは、ひたすらこの葉っぱを集めてください」
そう言うとスバルちゃんは側に生えていた雑草の葉っぱを一枚取って俺に見せてくれた。
見たことないが、特徴的な形の葉っぱだった。
これなら分かりやすいから俺でも見分けがつく。
「アスランさんは、この葉っぱを三袋分集めてくださいね」
「三袋も!?」
「はい、三袋分です」
「分かった……」
これも仕事だ、頑張ろう。
「アスランさんは出来るだけ馬車から離れないで、この周辺で採取していてくださいね」
馬車を見張りながら薬草を集めろってことだろう。
「ああ、分かったよ。スバルちゃんはどうするの?」
「私は森の中に入って五種類の薬草を二袋ずつ取ってきますので」
「計十袋かよ。凄いな……」
俺が感心しているとスバルちゃんが、チリンチリンと音が鳴る鈴を腰に括る。
「なに、その鈴?」
「熊避けですよ、森ですからね」
「熊が出るんだ……」
「出るかもの用心ですよ。私は一度も熊になんて出合ったことが無いですけどね」
なんかリバーボアは見たこともないからイメージできないせいで怖くないけれど、熊は知っている分だけ怖く感じる。
そう言えば昔、田舎の爺ちゃんが熊に襲われて、巴投げで熊を投げ飛ばして窮地を脱出したとか自慢してたっけな。
でも、怖いもんは怖いな。
出来れば熊になんて出合いたくないものだ。
「じゃあ、私は森の中に行ってきますから、アスランさんも頑張って薬草を取っててくださいね」
「はーい」
スバルちゃんが森の中に入って行ってから、俺も薬草摘みに励む。
そして、俺が三袋目を摘み終わりそうなころに、森の中からスバルちゃんが帰ってきた音が聞こえた。
俺は草木が揺れているほうに向かって声を飛ばした。
「スバルちゃん、おかえりなさ~い。俺ももうちょっとで三袋目が摘み終わるよ」
「がるぅ……」
え?
がるぅって何さ?
俺は揺れていた草木の場所を凝視した。
あら、まあ……、熊だった。
大きな熊だよ!!
「くーーまーーだーー!!」
「がるるるるるるぅう!!」
俺がびっくりして叫ぶと、熊も驚いたのか後ろ足だけで立ち上り大きく威嚇してきた。
俺は麻袋を投げ捨てると腰のショートソードを引き抜く。
表情を引き締め戦闘態勢に入った。
バトルアックスは作業の邪魔だったので馬車の荷台に置いてある。
それでも問題ないだろう。
熊ぐらいなら剣と魔法だけで、最低でも追い払えるはずだ。
そして、熊も剣を構えた俺に更なる威嚇を見せた。
すっごく鼻の頭に皺を寄せながら牙を剥いていやがる。
これはヤバイな。
確実に戦いになるぞ!
気を引き締めないと!!
その時である。
「アスランさん、大丈夫ですか!」
スバルちゃんが別の方向から走ってきた。
ヤバイな──。
スバルちゃんには逃げてもらいたかった。
だがしかし、スバルちゃんが現れると熊が涙目で鼻を押さえる。
熊は次の瞬間には逃げ出していた。
熊は風下に居たのだ。
もろにスバルちゃんの体臭を食らったのだろう。
「よかったアスランさん。私の声に驚いて熊は逃げて行ったのですね!」
「あ、ああ……。そ、そうだね……」
違うと思うぞ……。
熊の表情と行動からして、強烈な体臭に驚き逃げて行ったのだと思う。
なるほどね──。
彼女が熊に出合ったことがない理由が分かった気がした。
恐るべし、毒ガス美少女だ!!
ある意味で無敵だな。
おっと、毒ガスは言いすぎかな……。
薬師魔法使いのスバルちゃんだ。
彼女はツインテールとピンクのローブを微風に靡かせながら俺を待っていた。
彼女の清々しい笑顔は爽やかだったが、彼女の風下を行き来する人々は卒倒しそうな表情で逃げるように去って行く。
スバルちゃんは、そんな周りの人々の様子には気付いていないようだった。
この子は周りが見えていないタイプのようだな。
鈍感で周囲が見えていないのだろう。
自覚がないとは、実に残念で恐ろしいことだ。
俺はスカル姉さんの診療所を出る前から、丸めた綿を両方の鼻の穴に詰め込んでから来ている。
準備万端だったお掛けでスバルちゃんの体臭を防げていた。
何事も準備は大切だと実感する。
この子の範囲攻撃は、何せキツイのだ。
昨晩スカル姉さんにスバルちゃんのことを知っているかと訊いたら良く知っていると言っていた。
スカル姉さんの診療所に置かれている薬のほとんどが、彼女がおろした品物らしいのだ。
なんでも彼女はソドムタウンでも有名な薬師であるとか。
安くて品質の良い薬草を販売していると、一般人にも有名らしい。
なので直接彼女から薬を購入する一般人も少なくないらしいのだ。
要するに町でも有名な薬師である。
そして町の人々は、薬草を安値で譲ってくれるスバルちゃんに気遣って体臭のことを指摘しないらしいのだ。
そんな彼女が朝から俺を待っていてくれた。
これがデートの待ち合わせなら最高なのだが、現実はただのビジネスだ。
これから二人で薬草取りの旅に出るだけなのだ。
「おはよう、スバルちゃん。またせたかな?」
俺はそう言いながら風上から近づいた。念のためである。
「いいえ、私も来たばかりですから」
「そうなんだ」
「あれ、アスランさん、風邪ですか。鼻声ですよ?」
「いいや、ちょっと鼻が詰まっているだけだよ。心配しないでいいから、仕事には支障ないからさ」
「そうですか、良かった」
ニコリと優しく微笑むスバルちゃん。
なんて可愛い性格だろう。
もしも毒ガス美少女じゃなければ、良からぬ妄想に耽ってしまうところだったぜ。
この子も俺の呪いが発動しない貴重な女性だと分かった。
しかし、分かったが、ぜんぜん嬉しくない。
微妙な気分である。
「それでは出発しましょう。馬車に乗ってください、アスランさん」
そう言うとスバルちゃんは後ろに控えてあった一頭立ての荷馬車に乗り込んだ。
それから手綱を握る。
俺は馬車に乗る前に、馬の顔をマジマジと見た。
この馬は、鼻水をダラダラと大量に垂らしていやがる。
絶対に鼻が詰まってて悪臭を感じていないのだろう。
「アスランさん、どうかしましたか?」
「へぇ~。スバルちゃんって馬車を持ってるんだ」
俺も馬車に乗り込みスバルちゃんの横に座る。
ちょうど風上で助かった。
スバルちゃんが俺の言葉に笑顔で答える。
「これから大量に薬草を取りに行くんですよ。人力だけでは何キロも運べませんからね」
俺がスバルちゃんの話を聞きながら荷台を覗き見れば、大樽二つと麻の大袋が畳まれて何枚も積み重ねられていた。
「もしかして、すっごい量を取るの?」
「ええ、荷台が一杯になるぐらい薬草を取りますよ。アスランさんにも、手伝ってもらいますからね」
「は、はい……」
俺は舐めていた。
貴重な薬草取りとか聞いていたから、勝手なイメージで小袋にちょいちょいっと摘む程度かと思っていたのだ。
そうだよね~。
よくよく考えれば、薬師としてソドムタウンに多くの常連が居る薬屋さんだもの、ちょこっとだけ薬草を摘んできても足りるわけがないよね。
これはもしかして、薬草取りのほうが護衛より苦戦するやも知れないな。
ちょっと覚悟しないとならないかもしれん。
それから俺たちは荷馬車に揺られながらソドムタウンを出る。
こうして三日間を予定している薬草取りの旅が始まった。
スバルちゃん曰く、薬草を取るポイントは二日間に別けて二ヶ所らしい。
初日に向かう場所は安全な森だが、複数の薬草を大量に採取するらしいのだ。
問題は二日目に向かう場所が危険であるとか。
そこは森の中の沼地でリバーボアの生息地らしいのだ。
リバーボアってのは、狂暴な大蛇だ。
毎回遭遇するほどではないとスバルちゃんは言っているが、俺が一緒に行くのに出会わなければ嘘だろう。
話の盛り上がりに欠けてしまう。
むしろ出会いたいぐらいだ。
俺の格好いいところを是非にもスバルちゃんに見せたいものである。
そして俺たちは初日の目的地に到着した。
スバルちゃんは馬車を森の側に進めると、辺りを見回してから停車する。
「じゃあ、この辺にしましょうか」
スバルちゃんが馬車を下りたので俺も飛び下りた。
周囲に気を配るがモンスターの気配は感じられない。
まあ、安全だろう。
「アスランさん、これを」
俺はスバルちゃんから麻の袋を手渡される。
45Lぐらいの大きな麻袋だった。
「いいですか、アスランさん」
「お、おう……」
「アスランさんは、ひたすらこの葉っぱを集めてください」
そう言うとスバルちゃんは側に生えていた雑草の葉っぱを一枚取って俺に見せてくれた。
見たことないが、特徴的な形の葉っぱだった。
これなら分かりやすいから俺でも見分けがつく。
「アスランさんは、この葉っぱを三袋分集めてくださいね」
「三袋も!?」
「はい、三袋分です」
「分かった……」
これも仕事だ、頑張ろう。
「アスランさんは出来るだけ馬車から離れないで、この周辺で採取していてくださいね」
馬車を見張りながら薬草を集めろってことだろう。
「ああ、分かったよ。スバルちゃんはどうするの?」
「私は森の中に入って五種類の薬草を二袋ずつ取ってきますので」
「計十袋かよ。凄いな……」
俺が感心しているとスバルちゃんが、チリンチリンと音が鳴る鈴を腰に括る。
「なに、その鈴?」
「熊避けですよ、森ですからね」
「熊が出るんだ……」
「出るかもの用心ですよ。私は一度も熊になんて出合ったことが無いですけどね」
なんかリバーボアは見たこともないからイメージできないせいで怖くないけれど、熊は知っている分だけ怖く感じる。
そう言えば昔、田舎の爺ちゃんが熊に襲われて、巴投げで熊を投げ飛ばして窮地を脱出したとか自慢してたっけな。
でも、怖いもんは怖いな。
出来れば熊になんて出合いたくないものだ。
「じゃあ、私は森の中に行ってきますから、アスランさんも頑張って薬草を取っててくださいね」
「はーい」
スバルちゃんが森の中に入って行ってから、俺も薬草摘みに励む。
そして、俺が三袋目を摘み終わりそうなころに、森の中からスバルちゃんが帰ってきた音が聞こえた。
俺は草木が揺れているほうに向かって声を飛ばした。
「スバルちゃん、おかえりなさ~い。俺ももうちょっとで三袋目が摘み終わるよ」
「がるぅ……」
え?
がるぅって何さ?
俺は揺れていた草木の場所を凝視した。
あら、まあ……、熊だった。
大きな熊だよ!!
「くーーまーーだーー!!」
「がるるるるるるぅう!!」
俺がびっくりして叫ぶと、熊も驚いたのか後ろ足だけで立ち上り大きく威嚇してきた。
俺は麻袋を投げ捨てると腰のショートソードを引き抜く。
表情を引き締め戦闘態勢に入った。
バトルアックスは作業の邪魔だったので馬車の荷台に置いてある。
それでも問題ないだろう。
熊ぐらいなら剣と魔法だけで、最低でも追い払えるはずだ。
そして、熊も剣を構えた俺に更なる威嚇を見せた。
すっごく鼻の頭に皺を寄せながら牙を剥いていやがる。
これはヤバイな。
確実に戦いになるぞ!
気を引き締めないと!!
その時である。
「アスランさん、大丈夫ですか!」
スバルちゃんが別の方向から走ってきた。
ヤバイな──。
スバルちゃんには逃げてもらいたかった。
だがしかし、スバルちゃんが現れると熊が涙目で鼻を押さえる。
熊は次の瞬間には逃げ出していた。
熊は風下に居たのだ。
もろにスバルちゃんの体臭を食らったのだろう。
「よかったアスランさん。私の声に驚いて熊は逃げて行ったのですね!」
「あ、ああ……。そ、そうだね……」
違うと思うぞ……。
熊の表情と行動からして、強烈な体臭に驚き逃げて行ったのだと思う。
なるほどね──。
彼女が熊に出合ったことがない理由が分かった気がした。
恐るべし、毒ガス美少女だ!!
ある意味で無敵だな。
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