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28【絶世の天使】
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赤い霧と成って消えていくオーガの脇に立つ愛美が周りの様子を見回した。
あちらこちらに消し炭と化したゴブリンたちの死体が転がっている。
生き残ったゴブリンたちは魔の森のほうへ逃げていく。
その数は30匹程度だろうか。
まあ、逃がしても問題ないだろう。
何せ逃げた数の五倍はゴブリンを駆除している。
これに懲りてもう二度と村なんて襲わないだろうさ。
そう愛美は自分を納得させた。
それに村長さんとセンシローも無事のようだ。
村の様子も変わりがない。
ゴブリンに襲われた家は無いようだ。
大きな被害は見て取れない。
ただ知らない子供が二人居た。
黒髪の美少年と赤毛の美少年。
この二人はソドム村の住人ではない。
黒髪の美少年は、いつかの夜に石橋の上で出会っている少年だった。
あの時は岩を投げ付けてしまったから悪いと感じている。
いつか再び会えたら謝ろうと思っていたのだ。
愛美は消し炭の死体を踏み越えて黒髪の少年たちの元に近付いた。
そして、丁寧にお礼を述べる。
「ありがとう。君らが加戦してくれたのですね」
「ふっ」
黒髪の美少年は鼻を鳴らしそっぽを向いてしまうが、赤毛の美少年はニコニコと笑うだけだった。
「それで、君たちはどこの家の子供たちなのかな?」
年上のお姉さんを気取る愛美が丁寧な口調で少年たちに話し掛ける。
そんな愛美に赤毛の美少年が笑顔で返答した。
「僕たちは魔の森に住んでるレディ・ショッターナ様の小間使いで~す。おね~ちゃん、今後ともよろ──」
「黙れ、エン!」
唐突に黒髪の美少年が赤毛の美少年の言葉を遮る。
「なんでだよ~、クロ君……」
しょぼくれるエンの前にクロが一歩前に出た。
殺伐とした気配が漂う。
そして、拳を伸ばしてクロが愛美の腹筋を軽く小突いた。
「なあ、お嬢ちゃん──」
愛美のことをお嬢ちゃんと呼ぶクロの声にはドスが効いていた。
その声色には威嚇が滲んでいる。
それからうつ向いていた黒髪の美少年が頭を上げて愛美を睨み上げた。
その眼光はヤンキー。
眉間に深い皺を寄せて、左右互い違いに見開いた瞳が血走っている。
グツグツと煮えたぎる欲求不満のような闘志が放たれていた。
そして、言葉を続ける。
「お嬢ちゃん、あんただいぶ強いみたいだな」
声色に威嚇が挑戦的に混ざっていた。
それを察し取った愛美は笑顔を崩さずに返す。
「君もかなりの腕前みたいだね。見ていたよ、ゴブリンの群れを一撃で倒していたじゃあないか」
その言葉は素直に褒め称えた意味だったが、周りから見ている者たちには揶揄する言葉にも聴こえていた。
愛美特有の誤解を招いている。
そして、愛美がクロの頭を目掛けて掌をゆっくりとした速度で伸ばした。
ただ頭を撫でようとする。
しかし、クロは頭を低くして掌を避けると攻撃を繰り出す。
「ふん、ふん、ふんっ!」
瞬速の三撃コンボ。
一発目は下段廻し蹴り。
二発目は鳩尾に正拳突き。
三発目は上段廻し蹴りで愛美の頬を蹴りつけた。
下から上に昇るコンボ技。
三光一瞬なのに剛力強打。
これほどの鋭い打撃を食らえば普通はノックダウンだろう。
だが、三撃すべてを食らった愛美は揺るぎもしなかった。
軽々と打撃に耐えしのぐ。
更に反撃。
愛美が本能的に蹴りを繰り出した。
至近距離からのジャイアントキック。
掬い上げるような軌道の蹴り上げが振りきられたが、クロは容易いフットワークで巨蹴りを回避してしまう。
そして、すぐさま数歩ほど下がって距離を作った。
愛美が残念そうに眉をしかめながら言う。
「何をするんですか、頭を撫でて上げようとしただけなのに……」
「けっ。坊っちゃんじゃああるまいし、頭を撫でられて喜ぶ年じゃあないんでね」
まだまだ子供に伺えるクロが悪態を付く。
だが、愛美にはクロがまだまだ幼い少年に見えていた。
なのに生意気を言われて少しショックに思う。
「こう見えても俺は30歳を越える青年でな。お前みたいな生娘に頭を撫でられる年じゃあねえんだよ」
「えっ、おじさんなの。その割には若く見えるわね!」
「この身体はホムンクルスだ。分かりやすく言うと作り物の偽物だ」
「いいな~、作り物でも可愛くて……。私なんてゴリラだよ……」
愛美が俯くとクロは顔を赤く染めながら言う。
「安心しろ、俺には見えている。お嬢ちゃんが可愛らしい天使だってことがさ……」
「えっ?」
首を傾げるゴリラ顔。
近くで話を聞いていたエンも首を傾げていた。
「俺には特殊能力があってな。それは人の真の姿を見抜く力を持っているんだ。その瞳がお前の真の姿を見せている」
「君には私がどんな風に見えているの?」
「天使だ……」
「天使?」
「そう、絶世の天使だよ……」
「ゴリラじゃあなくって?」
「そうだ、美しい天使にしか見えていない……」
本当である。
クロには愛美の姿がキラキラと煌めく麗しい乙女の姿に見えていた。
それは金髪の挑発で、柔らかそうな肌を艶めかしている幼い少女の姿。
なのに年上のように落ち着いた母の如く慈悲深い眼差しをしているのだ。
更に黄金の乙女は背中に白鳥のような美しい翼が生えている。
これで天使と言わずに何であろう。
「ほ、本当に?」
「何度も言わせるな。恥ずかしいだろ……」
「はぁ~~~!」
ここで愛美のゴリラ顔が満面の笑みに輝く。
この異世界にやって来て数日だが、顔のことでは苦労してきた。
誰に会っても怖がられるし、子供たちにはゴリラゴリラと揶揄されるし踏んだり蹴ったりだった。
それをここに来てゴリラ顔の自分を天使と称してくれる人物が現れた。
しかもそれが美少年と来たもんだ。
これは照れずにはいられない状況だろう。
喜ぶなと言われても喜んでしまう。
「も~~う、嬉しいことを言ってくれる男の子ね。ハグしてあげる!」
大きく腕を広げてクロに抱き付こうとする愛美。
だが、突っ込んでくる愛美にクロが打撃技を打ち込んだ。
下からカチ上げる上段前蹴りで顎を蹴り上げる。
ガゴーーーンっと硬い音が響いた。
響いたが歓喜にはしゃぐ愛美は止まらない。
蹴りを放った直後のクロを捕まえて、両腕で締め上げる。
「きゃーー、可愛いーーー!」
ゴギゴギゴギッ!
「ぐごごぉぉ……」
ハグと言うよりもプロレス技のベアーハッグである。
いま聴こえた鈍い音はクロの骨が砕かれた音だった。
抱き付かれたクロが泡を吹いて気絶している。
でも、安心して下さい。生きてますから。
あちらこちらに消し炭と化したゴブリンたちの死体が転がっている。
生き残ったゴブリンたちは魔の森のほうへ逃げていく。
その数は30匹程度だろうか。
まあ、逃がしても問題ないだろう。
何せ逃げた数の五倍はゴブリンを駆除している。
これに懲りてもう二度と村なんて襲わないだろうさ。
そう愛美は自分を納得させた。
それに村長さんとセンシローも無事のようだ。
村の様子も変わりがない。
ゴブリンに襲われた家は無いようだ。
大きな被害は見て取れない。
ただ知らない子供が二人居た。
黒髪の美少年と赤毛の美少年。
この二人はソドム村の住人ではない。
黒髪の美少年は、いつかの夜に石橋の上で出会っている少年だった。
あの時は岩を投げ付けてしまったから悪いと感じている。
いつか再び会えたら謝ろうと思っていたのだ。
愛美は消し炭の死体を踏み越えて黒髪の少年たちの元に近付いた。
そして、丁寧にお礼を述べる。
「ありがとう。君らが加戦してくれたのですね」
「ふっ」
黒髪の美少年は鼻を鳴らしそっぽを向いてしまうが、赤毛の美少年はニコニコと笑うだけだった。
「それで、君たちはどこの家の子供たちなのかな?」
年上のお姉さんを気取る愛美が丁寧な口調で少年たちに話し掛ける。
そんな愛美に赤毛の美少年が笑顔で返答した。
「僕たちは魔の森に住んでるレディ・ショッターナ様の小間使いで~す。おね~ちゃん、今後ともよろ──」
「黙れ、エン!」
唐突に黒髪の美少年が赤毛の美少年の言葉を遮る。
「なんでだよ~、クロ君……」
しょぼくれるエンの前にクロが一歩前に出た。
殺伐とした気配が漂う。
そして、拳を伸ばしてクロが愛美の腹筋を軽く小突いた。
「なあ、お嬢ちゃん──」
愛美のことをお嬢ちゃんと呼ぶクロの声にはドスが効いていた。
その声色には威嚇が滲んでいる。
それからうつ向いていた黒髪の美少年が頭を上げて愛美を睨み上げた。
その眼光はヤンキー。
眉間に深い皺を寄せて、左右互い違いに見開いた瞳が血走っている。
グツグツと煮えたぎる欲求不満のような闘志が放たれていた。
そして、言葉を続ける。
「お嬢ちゃん、あんただいぶ強いみたいだな」
声色に威嚇が挑戦的に混ざっていた。
それを察し取った愛美は笑顔を崩さずに返す。
「君もかなりの腕前みたいだね。見ていたよ、ゴブリンの群れを一撃で倒していたじゃあないか」
その言葉は素直に褒め称えた意味だったが、周りから見ている者たちには揶揄する言葉にも聴こえていた。
愛美特有の誤解を招いている。
そして、愛美がクロの頭を目掛けて掌をゆっくりとした速度で伸ばした。
ただ頭を撫でようとする。
しかし、クロは頭を低くして掌を避けると攻撃を繰り出す。
「ふん、ふん、ふんっ!」
瞬速の三撃コンボ。
一発目は下段廻し蹴り。
二発目は鳩尾に正拳突き。
三発目は上段廻し蹴りで愛美の頬を蹴りつけた。
下から上に昇るコンボ技。
三光一瞬なのに剛力強打。
これほどの鋭い打撃を食らえば普通はノックダウンだろう。
だが、三撃すべてを食らった愛美は揺るぎもしなかった。
軽々と打撃に耐えしのぐ。
更に反撃。
愛美が本能的に蹴りを繰り出した。
至近距離からのジャイアントキック。
掬い上げるような軌道の蹴り上げが振りきられたが、クロは容易いフットワークで巨蹴りを回避してしまう。
そして、すぐさま数歩ほど下がって距離を作った。
愛美が残念そうに眉をしかめながら言う。
「何をするんですか、頭を撫でて上げようとしただけなのに……」
「けっ。坊っちゃんじゃああるまいし、頭を撫でられて喜ぶ年じゃあないんでね」
まだまだ子供に伺えるクロが悪態を付く。
だが、愛美にはクロがまだまだ幼い少年に見えていた。
なのに生意気を言われて少しショックに思う。
「こう見えても俺は30歳を越える青年でな。お前みたいな生娘に頭を撫でられる年じゃあねえんだよ」
「えっ、おじさんなの。その割には若く見えるわね!」
「この身体はホムンクルスだ。分かりやすく言うと作り物の偽物だ」
「いいな~、作り物でも可愛くて……。私なんてゴリラだよ……」
愛美が俯くとクロは顔を赤く染めながら言う。
「安心しろ、俺には見えている。お嬢ちゃんが可愛らしい天使だってことがさ……」
「えっ?」
首を傾げるゴリラ顔。
近くで話を聞いていたエンも首を傾げていた。
「俺には特殊能力があってな。それは人の真の姿を見抜く力を持っているんだ。その瞳がお前の真の姿を見せている」
「君には私がどんな風に見えているの?」
「天使だ……」
「天使?」
「そう、絶世の天使だよ……」
「ゴリラじゃあなくって?」
「そうだ、美しい天使にしか見えていない……」
本当である。
クロには愛美の姿がキラキラと煌めく麗しい乙女の姿に見えていた。
それは金髪の挑発で、柔らかそうな肌を艶めかしている幼い少女の姿。
なのに年上のように落ち着いた母の如く慈悲深い眼差しをしているのだ。
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「はぁ~~~!」
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これは照れずにはいられない状況だろう。
喜ぶなと言われても喜んでしまう。
「も~~う、嬉しいことを言ってくれる男の子ね。ハグしてあげる!」
大きく腕を広げてクロに抱き付こうとする愛美。
だが、突っ込んでくる愛美にクロが打撃技を打ち込んだ。
下からカチ上げる上段前蹴りで顎を蹴り上げる。
ガゴーーーンっと硬い音が響いた。
響いたが歓喜にはしゃぐ愛美は止まらない。
蹴りを放った直後のクロを捕まえて、両腕で締め上げる。
「きゃーー、可愛いーーー!」
ゴギゴギゴギッ!
「ぐごごぉぉ……」
ハグと言うよりもプロレス技のベアーハッグである。
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