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18【赤い悪魔】

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ゴモラ村の村長であるゲドジャッド・ワリーノ・ゴクアクスキー男爵が冒険者パーティーと闇営業の契約を結んだ二日後の話である。

冒険者たちの返り討ち……。

噂は素早く隣村であるゴクアクスキー男爵の元まで届いていた。

それはゴクアクスキー男爵が冒険者パーティーを雇って異世界転生者を襲わせたと言った噂であった。

しかも冒険者パーティーは異世界転生者と戦って完膚なきまでに玉砕したと言うではないか。

「こ、これは不味いぞ……。私が冒険者たちを雇ったとジャッジ伯爵にバレたら大問題だ。それまでに決着をつけなければ……」

ゴクアクスキー男爵はデスクの引き出しを漁ると一枚の羊皮紙を取り出して何やら書き込む。

その書き込んだ文章を眺めながら悪どく微笑んだ。

その微笑みには冷や汗の他に焦りと願望が浮き上がっていた。

ゴクアクスキー男爵が必死なのが表情からも分かる。

そしてランタンを片手に家を飛び出してタプタプの腹を揺らしながら夜の道を進む。

やがて肥満体の男爵は森の中に入って行った。

目指すは呪い屋の魔法使いマ・フーバの塔。

マ・フーバたる魔法使いは如何わしい噂の絶えない魔法使いである。

お金を積めば他者を呪い殺すのだって厭わない悪党だ。

そして、ソドム村の異世界転生者を召喚したのもマ・フーバだと言うのもゴクアクスキー男爵は噂で知っていた。

だからだ。

だからゴクアクスキー男爵もマ・フーバに異世界転生者を召喚してもらおうと考えたのである。

目には目を、歯には歯をである。

異世界転生者には異世界転生者なのだ。

こうなったら博打である。

異世界転生者vs異世界転生者。

同等の戦いでどちらが勝つかは分からなくなるが、一方的に負けるよりはましである。

故にゴクアクスキー男爵は博打に出たのであった。

ドンドンドンっ!

塔の扉を叩く騒音が森の中に響いた。

ゴクアクスキー男爵は扉を叩きながら叫ぶ。

「マ・フーバ殿はおられるか!マ・フーバ殿はおられるか!?」

しばらくすると扉が開いて寝巻き姿の老人が顔を出した。

老人は眠気眼を擦りなから面倒臭そうに対応する。

「なんじゃ、こんな夜更けに……」

「私の名前はゴモラ村の村長ゲドジャッド・ワリーノ・ゴクアクスキー男爵だ!」

「でえ、何用じゃ、こんな夜更けに……」

「マ・フーバ殿にお願いがある!」

「なんぞな?」

「私にも異世界転生者を召喚してもらいたい!」

魔法使いは長い顎髭を枯れ果てた細指でユルユルと撫でながら考え込む。

そして、しばらく考えてから答えた。

「率直に言うぞ、いいか?」

「はい!」

「無理じゃ」

「えっ……」

ゴクアクスキー男爵は脱力に肩を落とした。

そしてトーンの落ちた口調で問い直す。

「な、何故ですか……」

「魔力が足らん」

「魔力ですか……?」

「あの異世界転生者は呪いの結晶じゃ。再び呪いの儀式を行うのに大量の魔力が必要になる。その魔力が回復するのに半年はかかってまうからのぉ」

「は、半年も……」

「だから無理じゃ」

「そ、そんな……」

ゴクアクスキー男爵は項垂れるだけである。

もう、金鉱争奪戦には負けたと悟った。

だが、簡単には諦めが付かない。

金鉱の権利だけでない。

モブギャラコフ男爵との因縁にも敗北するのだ。

それは人生の敗北に等しい。

それが納得出来なかった。

ここで敗北を認めたら、モブギャラコフ男爵とのライバル対決に完全敗北したことに成りかねない。

小さなころからいがみ合ってきたライバルに敗北する。

そちらのほうが屈辱的だった。

それだけは絶対に避けない。

「く、糞……。ならば最終手段だ……」

言いながらゴクアクスキー男爵は懐にしまっていた羊皮紙を取り出した。

それは契約魔法の書類。

「こ、これを……」

「ほほう、それは悪魔契約の書類ではないか。お主、悪魔に魂を売ってまで勝ちたいのか?」

「金ならいくらでも払う。私の魂を媒体に悪魔を召喚してくれ。それでモブギャラコフを呪い殺してくれ!」

マ・フーバは冷めた眼差しで述べる。

「お主が魂を掛けると言うなら儂の魔力は必要ない。だが、御主の人生も終わりだぞ。構わぬのか?」

悪魔召喚とは、それだけの代償が必要だ。

生きている人間の魂を掛ければ絶大な悪魔を驚異として呼び出せる。

それは人一人を呪い殺すには十分な禁術であった。

ゴクアクスキーは冷や汗を浮かべていたが、覚悟の決まった様子である。

「問題ない、やってくれ……」

「では、前金を頂こう。悪魔に魂を売ってからでは金は取れんからのぉ」

「金なら持ってきた」

ゴクアクスキー男爵は懐から金貨が詰まった小袋を取り出すとマ・フーバに手渡した。

全財産だ。

マ・フーバは小袋の重みを確かめてから言う。

「では、上がりなさい。早速魔法の儀式を始めるぞい」

「わ、わかった……」

ゴクアクスキー男爵が魔法使いの塔に入ってからしばらく経つと儀式の準備が終わる。

そして魔法陣の中央に立つマ・フーバが悪魔召喚の説明を始めた。

「いいか、悪魔召喚はこの魔法の契約書を元に儂が悪魔を呼び出す。そして、悪魔が現れたらお前さんが悪魔に願いを告げればよいのじゃ。ただし代償としてお前さんも悪魔の願いを聞かなければならないがのぉ」

悪魔の願い──。

それは魂をくれと言われれば差し出さなければならない。

娘を嫁に貰うと言われても差し出さなければならない。

死ねと言われれば死ぬしかないのだ。

悪魔と契約すると言うことはそう言うことだ。

普通では願いが叶わないが、人生を掛けて願いが一つだけ叶えられるのだ。

そして、悪魔召喚の儀式が始まった。

赤く輝く魔法陣の中央に座るマ・フーバが何やら呪文を唱えている。

その様子を魔法陣の外で見守るゴクアクスキー男爵。

握り締めた拳の中に汗が滲む。

やがてマ・フーバが気合いを吹き出すように力んで言葉を発した。

「ぬぬぬぬぬぬ。悪魔召喚、おいでまっせぇ!!!!」

すると魔法陣の赤い光が溶岩のように吹き上がった。

その光に煽られて室内の家具がガタガタと激しく揺れだす。

まるで天変地異のような異常が室内に吹き荒れていた。

そして漆黒に沈む天井の闇から巨大な影が降りて来る。

悪魔登場であった。

『ぐぉぉおおおおお!!』

けたたましく叫ぶ悪魔。

その全身は赤い肌。

額には二つの鬼角か生えている。

しゃくれた顎には長い牙を列べ、背中には蝙蝠の翼を生やしてお尻には矢印のようなしっぽが生えていた。

悪魔だ。

どこから見ても悪魔である。

赤い悪魔が猫目でゴクアクスキーを睨みながら問う。

『貴様が我と契約を結びたい人間か!?』

怒鳴る音声で威嚇的に問う赤い悪魔の表情は憤怒のごとく怒っていた。

そのような悪魔の態度にゴクアクスキー男爵はただただ怯えるように返す。

「わ、私に力を……。モブギャラコフをぶっ倒せるだけの力をくれ!」

赤い悪魔は即答する。

『よかろう。貴様に人を超越した力をくれてやる!』

すると赤い悪魔の前に真っ赤に輝く深紅の水晶が現れた。

魔法の水晶。

その水晶体から禍々しい魔力があふれ出ていた。

「こ、これは……?」

『深紅の水晶体だ。これを使ってモブギャラコフどころかソドム村ごと滅ぼしてしまえ』

「む、村ごと滅ぼせるのか!?」

『当然だ。悪魔の力を舐めるでないぞ』

「す、凄い……」

予想外だった。

本当はモブギャラコフだけ殺せれば良かったのだ、それなのに村ごと滅ぼせる力を貰えるとはラッキーである。

「この深紅の水晶体があれば勝てるのか……」

ゴクアクスキー男爵は水晶体を受け取るとニンマリと微笑んだ。

その次の瞬間に赤い悪魔がゴクアクスキーに大きな顔を近付けながら述べる。

『では、今度は私の願いを叶えてもらうぞ』

「えっ、いきなりですか!?」

悪魔が願いを述べる。

『早速貴様のアナルを楽しませてもらおうか!』

「「え………」」

しばらく時間が止まった。

ゴクアクスキー男爵もマ・フーバも目が点になる。

そしてしばらくしてゴクアクスキー男爵が訊き直した。

「あの、いま、なんと?」

反芻する赤い悪魔。

『早速貴様のアナルを楽しませてもらおうか!』

再び問い直す。

「い、意味が分かりませんのですが……」

ならばと赤い悪魔が丁寧に説明をしてくれた。

『私は同性愛者の悪魔で、得に人間のモッチリした殿方が好みでの。だから貴様のアナルで一晩じっくりと愛を語り明かしたいのだ』

「丁寧に説明して頂いたのですが、まだ内容の理解が複雑すぎて私の脳では追い付きません……」

『まあ、夜は長い。ゆっくりベッドの中で語り明かそうじゃあないか、人間』

「断ります!!」

『なあ、そこの魔法使い。寝室を一晩借りても良いかな』

「人の話を聞けよ!!」

「儂は構いませんぞ。今日は別室のソファーで寝ますゆえ」

『気を使わせる。人間の魔法使い』

「気なんて使わないでくれ!!」

「では、ごゆっくり……」

「ひぃぃいいいいい!誰か助けてくれ!!!」

『さあさあ、我の金棒を可愛がっとくれ』

「うぅそぉ~~ん。イボイボがついてるのぉん!!」

こうしてゴクアクスキー男爵は赤い悪魔に寝室へと連れ込まれたのである。

そして悪魔サイズで背後からいろいろと愛を語り合ったのであった。

こうして種族と性別を越えたラブロマンスの一晩が始まった。

朝方──。

洋服が激しく乱れたゴクアクスキー男爵がフラフラと寝室から出てくる。

その表情は窶れてげっそりしていた。

そうとう攻められたのだろう。

そして片手でお尻を押さえ、反対の手には深紅の水晶体が握られていた。

水晶体は赤く輝きゴクアクスキー男爵の青くなった顔を照らし出している。

「こ、これでソドム村をぶっ潰してやるぞ……」

まあ、なんやかんやあったがゴクアクスキー男爵の願いは聞き受けられたのだろう。

そして、魔法の塔を出たゴクアクスキー男爵は、ヨタヨタと森の中に消えていった。

お尻を押さえながら。




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