「私からスリーカウント取れたら結婚してあげるね♡」脳筋ゴリラ顔に転生したけれど彼女は戦う乙女です。

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
上 下
15 / 30

14【傀儡の魔女と黒髪の美少年】

しおりを挟む
ソドム村の北側に険しい魔の森が広がっていた。

近隣の者たちは、そこの森を魔の森と呼んで踏み入ることは少ない。

森の中はジャングルのように密林で、大型の猛獣どころかゴブリンやコボルトなのどのモンスターも数多く巣くっているから尚のこと人々は森には入ってこないのだ。

──っと、言われていた。

村では子供たちに、そのように説明している。

だが、事実は若干異なる。

魔の森にはゴブリンたちが巣くっているが、その数は10匹程度の少数。大型の魔物もほとんど居ない。

子供たちが森に入らないように昔っから言われている大人のブラフである。

本当は平和な普通の森である。

そのような森に住んでいる魔女の名はレディ・ショッターナ。

魔女は美しい外見で、人々には傀儡の魔女と呼ばれている。

得意な魔術はホムンクルスの製作。

故に傀儡の魔女なのだ。

そして、彼女は自分そっくりなホムンクルスを製作して200年は若くて美しい姿のまま生きていると言われていた。

だが、噂は偽りである。

彼女の実年齢は40歳。

確かに魔術や魔力で若作りはしているが、ホムンクルスの技術で永遠の命なんて保っていない。

そもそもホムンクルスで、そんなことは出来ないのだ。

故に最近の悩みはほうれい線と垂れ下がってきたオッパイとお尻の肉付きてあった。

魔女とて普通の女性と同じようなことで悩むのだ。

これは美を探究した女性ならば逃れられない悩みである。

老いとは人間である限り平等にも残酷なままに訪れるものであった。

「ふぅ~~」

レディ・ショッターナはヨガマットの上でヨガのポーズを取りながら集中していた。

ヨガに関しては、まだまだ始めたばかりの初心者だったが、お尻の肉が引き上がったと効果のほどを実感している。

なのでしばらくは続けていく積もりだ。

「今日はこのぐらいで終わりにしようかしら」

レディ・ショッターナはヨガのポーズをやめるとタオルで汗を拭きながらテーブル席に付いた。

そして、長い黒髪を束ねていたリボンをほどくとテーブルの上に置かれたベルをチリンチリンと鳴らす。

すると一人の凛々しい黒髪の少年が部屋に入ってきた。

まだ12歳ぐらいの少年は、かなりの美少年だった。

小柄で細身の少年は、黒髪で瞳の色も漆黒。

しかし肌の色は白くてパールのように艶々している。

まるで作り物のような美しい外見をしていたが、眉の角度だけは凛々しい角度を築いていた。

凛と一本芯が通っているのだ。

そして、自分を呼びつけたレディ・ショッターナに不機嫌そうに問いかける。

「なんだよ、呼んだか?」

冷たい眼差しで問い掛ける少年にレディ・ショッターナも冷たい眼差しで注文する。

「クロちゃん、悪いけど紅茶を入れてくれないかしら。それと甘い蜂蜜も付けてね」

黒髪の少年は深い溜め息を吐いてから愚痴るように返す。

「はぁ~、なんで俺がババァのためにお茶をわかさにゃあならんのだ?」

その言葉にレディ・ショッターナが瞬時に沸騰した。

「ババァ言うな。解体するぞ!」

声を怒らすレディ・ショッターナにクロちゃんと呼ばれた少年は袖を捲って怒り返す。

「だいたい俺はお前の小間使いでもお手伝いさんでもないんだぞ、ゴラぁ!」

「なに言ってるのよ。私はあなたを小間使いとして作ったのよ。だからお茶ぐらい入れなさいよ!」

「ふざけんな。勝手にこんなショボい体を器に召喚しやがって。もとのサイズの体に戻しやがれってんだ!!」

「それがホムンクルスが人間様に頼む態度かしら。もう少し前世で礼儀作法を勉強してきたほうが良いんじゃあないの!!」

「元の世界に戻れるんなら戻るわい!!」

切れ長の瞳を更に細目ながらレディ・ショッターナは天井を見上げてから冷ややかな愚痴をこぼす。

「あー、失敗したわー。なんでこんな野郎臭い魂を召喚しちゃったのかしら。外観の製作は完璧な美少年だったのに……」

少年も横を向きながら小声で愚痴る。

「テメーだって外見は美人人妻風だが、生身はクソババァじゃあねえか」

「聴こえたぞ、このクソガキィイイ!!」

「誰がガキだ。俺はもう30歳の青年だ!!」

「なにが青年よ。チンチンに毛も生えてないくせに!!」

「それはテメーの趣味でそう作ったんだろ。このショタコンババアが!!」

「ショタコンで何が悪いのよ!!」

「40歳のババアが10代のチンチンを拵えてよろこんでんじゃあねえよ!」

「なによ、チンチンだけは大きく作ってあげたんだから感謝ぐらいしなさい!!」

「そ、それは感謝する……」

「じゃあ、紅茶を入れて蜂蜜を添えてね」

「分かったよ。ローズティーか、それともダージリンティーがいいのか?」

「今日はローズティーの気分ね」

「はいはい、分かった分かった」

話が落ち着くと黒髪の少年は台所に向かってからお湯を沸かす。

お湯を沸かすといっても竈でお湯を沸かさなければならない。

少年は火口石をカチカチと叩いて薪に火を点けなければならないのだが、それが一苦労だ。

前世の世界では、コンロのレバーを回すだけでお湯を沸かせたのに、この世界では火を点火するのにも原始的で時間が掛かる。

ライターどころかマッチすらない。

だから気軽にお茶を入れてくれと言ってくる魔女に腹が立つのであった。

「畜生。こんな原始人みたいな生活はウンザリだぜ……。火がつけられるエンが羨ましいぞ」

愚痴りながらもティーカップと蜂蜜の準備をする黒髪の少年。

そして、蜂蜜が入った壺の中身を確認した黒髪の少年が呟いた。

「あれ、もう少しで蜂蜜が無くなるな。まあ、あと一回分はあるか」

この世界では蜂蜜は貴重品だ。

養蜂の技術が無いために、蜂の巣を森で見付けて確保しなければならないからである。

しかも、この世界の蜂は大きい。

モンスター級の大きさを有した個体も少なくない。

しかも、この世界では蜂の個体が大きい蜂ほど蜂蜜が旨いとされている。

だから美味な蜂蜜は貴重品なのだ。

そして、ローズティーを入れたティーカップと蜂蜜が入った小壺を御盆に乗せた黒髪の少年がレディ・ショッターナの部屋に戻ってきた。

「ほら、お茶を入れてきたぞ。ババァ」

「ババァ言うな、クソガキ」

二人は淡々とした静けさの中でも口喧嘩を絶やさない。

見えない高さでバチバチとやりあっているのだ。

「ところでババア。蜂蜜がそれで最後だぞ」

「それじゃあ買ってきなさいよ。売ってる場所ぐらい知ってるでしょ」

「朝っぱらから、めんどくさい」

「はぁ~……」

レディ・ショッターナは溜め息を吐いてから袖の中に手を入れて布袋を取り出す。

その袋の中から硬貨を数枚取り出した。

金貨三枚だ。

「これで買ってきなさいよ」

「お釣りは俺のお小遣いでいいか?」

「良いわよ。その代わり無駄遣いはダメよ」

「はいはい、分かってるよママ~」

茶化すような台詞を飛ばして黒髪の少年が魔女の家を出ていこうとする。

しかし、扉の前で立ち止まった。

横の壁を見る少年。

そこには大きな姿見の鏡が下げられていた。

その鏡に映るは少年の全身。

だが、その姿は身長180センチはあるだろう体格の良い青年だった。

単発の黒髪に凛々しく太い眉。

体はアスリートだと分かるほどに鍛えられている。

これが少年の真の姿。

いや、青年の魂だ。

そして、大樹の半場に建てられたログハウスを出た黒髪の少年が螺旋状の階段を下っていくと、大樹の前で掃き掃除を行っている赤毛の美少年とすれ違う。

赤毛の美少年は集めた落ち葉の前にしゃがみ込むと横を過ぎる黒髪の少年に話しかけてきた。

「クロく~ん、どこに行くの~?」

まるで幼い女の子のような可愛らしい喋り方だった。

黒髪の少年は赤毛の少年のほうを見向きもせずに答える。

「買い物だ。ちょっとソドム村まで行ってくるよ、エン」

「あれ、ギンくんも買い物に行かなかった?」

「今ギンはエデン町に行ってるはずだ。俺は蜂蜜を買いに行くんだよ」

「二人ともお使いが出来ていいな~」

「エン。お前も足し算や引き算ぐらい覚えろよ。そうしたら買い物だって行けるんだぞ」

「僕には無理だよ~。お使いも料理も三人にお任せだよ~。だから僕はお掃除だけ頑張ってるんだよ~」

言いながら赤毛の少年は足元にある落ち葉の山に火をつける。

指先に小さな炎を生み出して落ち葉に点火したのだ。

魔法である。

「まあ、俺は買い物に行ってくるから、火の始末には気をつけるんだぞ、エン。前みたいに家事を起こすなよ」

「分かってるよ~、クロく~ん」

背中を向けて歩く黒髪の少年が手を振ると、その背中に赤毛の少年も手を振った。

彼を見送る。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...