箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

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39・一世一代の一撃

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 数年前――。

 まだ、先代の組長が健在だったころの話である。

 先代オーク族長オズワルド。彼は強かった。戦斧での戦いっぷりは鬼神のようだと恐れられていた。

 コボルトやゴブリンたちにも勿論のこと、リザードマンやトロールにすら負けたことがない。戦斧を震わせれば魔物で一番だと噂されていた。

 そのような強者であるオズワルドには自慢の息子が居た。

 息子の名前はルートリッヒ。若干1歳の若輩ものだったが、成人したオークたちを相手にしても負けないほどの実力を備えていた。
 オズワルドにとって自慢の一人息子出会った。

 ルートリッヒの身長は180センチ。体重は90キロ。オークと言うモンスターは顔が豚である。だから体型も肥えた者が多い。だが、ルートリッヒは脂肪が少ない。代わりに筋肉質だった。

 筋肉だけで太い手足。筋肉だけで厚い胸板。そして、それらの筋肉のように硬い心。彼は戦士として超一流だった。侠気が半端でなかった。

 しかし、強すぎるあまり戦法が屈折していた。真っ直ぐすぎて曲がって見えるのだ。

 強すぎるあまりに武器を使う事を放棄した戦術を好む。素手のみで戦うのである。それで平等だと言い放つのだ。

 例え相手が武装していても素手で戦う。

 例え相手が弓矢で攻撃して来ても素手で戦う。

 例え相手が複数であっても素手で戦う。

 例え相手が攻撃魔法で攻めて来ても素手で戦う。

 例えば、どのような不利な状況でも素手で戦う。何があっても素手のみで戦う。

 それが絶対に揺るがないポリシーだった。

 ルートリッヒには、それを叶えるだけの力量が備わっていた。

 何故に素手で戦うのか?

 それは単純な理由からである。

 ルートリッヒ曰く。

「最強の俺には武器は要らない。素手で戦ってこそ平等だ。弱者が俺に立ち向かうことすら勇気を振り絞っているのに、それを受け止めなければ成らない俺が武装していてどうする。弱者への無礼だろう」

 そう、ポリシーが屈折しているのだ。弱者を弱者と罵っておきながら手加減を見せる。それがどれだけ相手にとって失礼かを理解していない。強者故の傲慢である。

 それがルートリッヒたる漢の人柄だった。


 縦穴鉱山の巣穴奥。オズワルドはリザードマンから強奪した酒を飲みながら息子と話す。徳利に口を付けて酒をがぶ飲みしてから息子に問うた。

「息子よ――」

「オヤジ殿、なんだい?」

 まだ若いルードリッヒは傷だらけの顔面を篝火に揺らしながら問返した。そのような息子に更に問う。

「何故に貴様は武器を取らない?」

「取る必要が無いからです」

 ルードリッヒは答えてから自分の眼前で大きな拳を強く握りしめた。

 その拳には小さな生傷が複数刻まれていた。すべては戦いで相手を殴りつけた際に受けた傷である。相手の前歯などが刺さった傷だろう。

「だがお前は傷だらけだ」

 オズワルドが言う通りルートリッヒの全身は傷だらけである。顔も胸板も拳までもが傷だらけだ。その数は百を超えている。

 武器を使わないだけでなく防具も身に着けないから当然であった。攻撃を直ぐに受けてしまうのだ。

 それは1歳の年相応の戦士とは思えないほどの勲章の数々である。

 ルートリッヒは気合いとパワーは超一流だが、防御術はそれ程でもない。だから対戦相手の攻撃を受けてしまう事も少なくない。故に複数の傷跡を全身に刻んでいる。

 要するにルートリッヒの戦術は非効率である。

 それがオズワルドには心配だった。このような戦法で戦い続ければいつか必ず命を落とすことだろう。戦闘部族であるオークにしてみれば、それも誉なのかも知れない。

 しかし、ルートリッヒは組長として自分の後を継いでもらわなければならない存在だ。一族を束ねて引っ張って行ってもらわなければならない。それが自殺行為にも似た戦い方を行っていては困ってしまう。

 だが、いくら説得しても武装を取ろうとしない。素手での戦いに拘っている。

 そして、そのプライドは父オズワルドが亡くなって世代が交代しても変わらなかった。ルートリッヒは組長を継いでも素手での戦いに拘っていた。以前と変わらない。

 しかし、そのプライドが初めて揺らいでいた。魔王と言う強者の前に揺らいでいた。

 まさかである。素手同士の殴り合いで、ここまで自分と互角に争える者が居るとは想像もしてなかった。素手ゴロ一つで戦い抜ける存在が、自分の他に居るとは思わなかった。世界は広いと気が付く。
 
 ならば、最後まで付き合ってもらいたい。どこまで自分と素手ゴロで戦えるのか試してみたい。そう考えて殴り合っていた。

 居たが――。

 エリクと名乗る全裸の少年は……。
 その背後に揺らぐオーラのイメージ。
 それは魔王――。
 まごう事なく魔王の姿……。

 身長3メートル。背中に巨大な蝙蝠の羽。鋭い瞳が四つ輝き、輪郭が獅子の形。額から角が三本生えていて、分厚い胸板に六つに割れた腹筋。太い腕は六本生えており、太い足と足の間に爬虫類の尻尾が生えていた。

 それが幻だと自分でも気が付いていた。ただのイメージである。

 だが、ルートリッヒには魔王を名乗る少年が、そう見えていた。そう感じてしまったのだ。

 ただルートリッヒは全身に駆け巡る震えを隠すだけでやっとだった。怯えを誤魔化すので必死だった。

 魔王と言う存在の恐怖心。それがここまで強大だとは想像すらしていなかった。

 ルートリッヒは思う。
 この少年は本物の魔王ではないのか――。
 否、本物の魔王である。
 今亡き魔王デスドロフの再来である。しかも、恐怖の大魔王だ。

 ならば……、ならばこそ試してみたい。
 魔王の、強さを試してみたい。
 自分が魔王と戦って、どれだけ通用するのか試してみたい。

 自分は強いのか?
 自分は魔王より強いのか?
 自分は誰よりも強いのか?
 自分は最強なのか?
 その疑問に答えを出したい。

 しかし、そう考えながらも魔王の気迫に押されてしまう。足が後退してしまった。

「幻だブヒ……」

 受け入れがたい事実。己の足が後退してしまった。

 受け入れがたい事実。己の心が怯えている。

 駄目だ。これでは駄目だ。亡くなったオヤジにも顔向けが出来なくなる。

 そう考えたルートリッヒが拳を振り上げる。更に体を大きく捻じる。これから攻撃を繰り出そうとしているのに踏ん張りながらも背中を見せていた。

「ぬぬぬぬ!」

 トルネード投法から全力パンチを狙う。

 素手ゴロで戦うと誓ってから、このパンチで数々の猛者たちを殴り飛ばして倒してきた。

 そう、これがルートリッヒ最大の攻撃だ。全力のパンチこそが必殺技である。何も考えずに全力で殴るから素晴らしいのである。

「これで、決める!!」

 オークの組長ルートリッヒが一世一代の一撃を放つ。

 魂の嵐が吹き荒れた。

 それは気迫。漢の気迫が嵐を巻き起こしたのだ。


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