箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

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29・アイテムの実験

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 下半身半裸の俺はホブゴブリンのローランドたちに鮮血を分け与えるとキルルと二人で霊安室に戻ってきていた。

 下の階ではローランドたち新メンバーたちがワイワイと騒いでいる。ローランドたちも魔王の鮮血での進化変身に感動している様子だった。
 
 自室と化している霊安室で下半身半裸の俺は陶器のワインカップに入れて持ってきた砂を石棺の蓋の上に出す。それから砂で小さな山を作る。その横に外から持ってきた雑草の束、それに枯れ木の棒を並べて置いた。更には近くに落ちていた石を一つ拾い上げて横に並べる。
 石棺の上に、砂山、雑草の束、枝の棒、小石、陶器のワインカップの順で並べたのだ。

 そんな俺の様子を不思議そうな眼差しで見ていたキルルが訊いてきた。

『魔王様、何をしているのですか?』

「これか~。これは実験だ」

『実験ですか?』

 キルルが首を傾げていると霊安室に俺の鮮血で変貌したローランドが入って来る。

「失礼するダ」

 ホブゴブリンのローランドは俺の鮮血で美男子に変身していた。
 ちょっと太ったプロレスラーのような体格だったローランドの体から脂肪がそげ落ちてスマートに変わったのだ。
 しかも顔がイケメンだった。
 乙女ゲーでちょい悪風のバンドマンでもやっていそうなキャラで、イカした金髪ヘアーなのだ。ワイルドな美男子系キャラってやつである。

 それがなんだかムカついた。

 唯一の欠点は尖った耳と緑の肌、それに右瞼に刻まれた傷痕ぐらいだろう。その傷痕だって、人によっては勇ましくも格好良く見えることだろうさ。

「エリク様、言われた物を運んで参りましたダ」

 ローランドは部下のホブゴブリンを連れて複数の武器を運んで来ていた。こいつらが装備してきた武器の一部である。今回の実験のために借りたのだ。

 それとローランド以外のホブゴブリンはスマートなマッチョマンに変貌してはいるが、見てくれはどこにでも居そうな特徴の薄いモブキャラ顔である。

 どうやらホブゴブリン全てが美男美女に変身するわけでもないらしい。ローランドや大木槌双子姉妹が例外のようだった。そんなことに少し安堵する。
 もしも美男美女ばかりに変身するとなったら恨めしいからだ。美女が増えるのは歓迎だが、美男子が増えるのは頂けない。

 下半身半裸の俺は石棺を指差しながらローランドに指示を出した。

「それじゃあ、武器は石棺の横に置いといてくれ」

「はいダス」

 ダス?
 ローランドの語尾に変ななまりがあるぞ。

 おお、このイケメンモンスターは、言葉がなまってやがるぞ!
 よし、イケメン野郎の恥ずかしい欠点を一つ見つけてやったぜ!!
 ちょっと嬉しい。

「エリク様、本当にあとで返してくれるダスか?」

「ああ、実験が済んだら返してやる。しかも高品質に変えてな」

「はぁ……?」

 ローランドは言葉の意味が分からないと首を傾げていた。

「それよりもお前はこれから自分の村に帰って、村に居る女子供をここに連れてこい。そいつらにも俺の鮮血を与えて進化させてやるからよ」

「あ、ありがとうございますダ、エリク様!!」

 するとローランドは仲間と一緒に霊安室を出て行った。墓城を出たら自分の村にスキップですぐさま帰ることだろう。
 あいつらが村の連中を連れてきたら再び鮮血の儀式だ。それまでに実験の準備をすませておかねばなるまい。

 下半身半裸の俺はローランドたちが置いていった武器を床の上に並べる。
 ダガー、ショートソード、ロングソードの順番で並べた。
 その下側に、再びダガー、ショートソード、ロングソードの順で並べる。
 更にそのまた下にダガー、ショートソード、ロングソードの順で並べる。
 それら武器を三列に並べた。三段三列計九本の武器を並べたのだ。

 それから俺はダガーで手首を切るとカップに鮮血を溜め込む。

「よ~し、実験開始だぜ!」

『??』

 キルルが何を始めるのかと下半身半裸の俺を見守っている。

「実験、実験、実験!」

 まずは一列目の武器に一滴ずつ鮮血を垂らす。
 次は二列目の武器にも一滴だけ鮮血を垂らした。
 そして、三列目の武器にはダブダブと鮮血を溢す。
 最後に砂山、雑草の束、枯れ木の棒、小石に鮮血を掛ける。

「よし、終わりっと」

 キルルは鮮血を浴びせた武器を眺めながら訊いてきた。

『魔王様、これはどういった実験なんですか?』

 下半身半裸の俺はドヤ顔で丁寧に答えてやる。

「どうやら俺の鮮血には、モンスターを進化させる力以外に、アイテムを強化する力があるようなんだ」

『そうなんですか?』

「そうなんだよ、キルル君」

『わぁ~、凄いですね~』

「それで、細かいアイテムの変化を探るための実験だ」

『ふむふむ』

「一列目の武器に鮮血を一日一滴だけ垂らす。二列目の武器は朝昼晩と三回垂らす。三列目の武器には一日一回大漁の鮮血を垂らす」

『なるほど。鮮血量による変化の違いを見るのですね』

「正解だ」

 流石は魔王の秘書である。物事の把握が早いな。

「そして、ダガー、ショートソード、ロングソードに分けているのは、武器の大きさによって強化に違いが見られるかを試しているんだ」

『大中小、それに体積量で違いが出るかってことですね』

「そういうことだ」

『それでは、その石とか砂はなんですか?』

「これはどんな物が俺の鮮血に反応するかの実験だ。ほら、武器って鉄じゃん。草でも石でも俺の鮮血を浴びたら変化するのかなって思ってさ」

『魔王様、意外にちゃんと考えているのですね。僕はびっくりですよ!』

「おまえ、俺を舐めているだろ!」

『てへへ』

「可愛らしく誤魔化しても許さないからな!」

『僕は魔王様を褒めているのですよ。格好いいな~って思ってさ』

「そ、そうか~。俺、格好いいか~」

 下半身半裸の俺は照れながら後頭部をボリボリとかいた。おだてられているのは理解できていたが嬉しいのには変わらなかった。やはり美少女に褒められて悪い気になる男はいないだろう。

 下半身半裸の俺がデレデレしていると霊安室にゴブロンが俺たちを呼びに来る。

「エリク様、下で会議の準備ができましたから呼びにまいりましたでやんす」

「ああ、分かった。今行くぞ。それじゃあキルル、行こうか」

『はい、魔王様。ですが――』

「ですが、なんだ?」

『そろそろズボンを穿いたらどうでしょうか?』

「あ、半裸なの忘れてたわ~。通りでチンチロリンが涼しかったわけだ」

 そそくさと俺はズボンを穿くとキルルと二人で下の広場に向かう。
 そして、始めての会議に挑むのだった。

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