箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

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13・死なない戦い

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 俺は胸に突き刺さった光るシミターを両手で拝むように挟むと真っ直ぐに引き抜いた。
 光るシミターが俺の体から抜けると、胸と背中の傷口から大量の鮮血が流れ落ちる。だが、その傷口も直ぐに塞がり血が止まる。あっと言う間に傷が消えた。

 平然とした表情で述べる俺。

「まあ、この程度の傷なら、このぐらいの速さで回復するんだろうさ」

 胸の傷口を見下ろしていた俺は傷跡が完全に消えると手にある光るシミターをキングの足元に投げ捨てる。
 すると俺に殴られてダウンしていたキングも体をムクリと起こした。
 キングは揺れる頭を振るいながら愛用の光るシミターを拾い上げると立ち上がる。そして、自分の奥歯を指で触りながら言った。

「俺の牙が折れちまったワン……。あれ、折れてないワン?」

 キングは口の中を指で触りながら不思議がっていた。そして、視線を下に向けると折れたばかりの牙を見付ける。

「あれれだワン……?」

 自分の牙が折れて地面に転がっている。
 だが、口の中の歯を舌でなぞれば、すべての牙が生え揃っているのだ。折れた牙は一本も無い。
 しかし、折れたばかりの歯が眼前の足元に転がっているのは事実。摩可不思議な矛盾であった。

「何故だワン……。どうなっているワン……?」

 全裸の俺は青ざめるキングに言ってやった。

「おらおら、犬野郎。そんなことよりも続きを始めるぞ!」

 そう怒鳴ると俺は胸を張って全裸のまま前進を開始する。また、ノーガードでスタスタと歩き出す。

「ガルルッ!!」

 それを見たキングが光るシミターを振りかぶりながら俺に向かって走り出した。

 やはりだ。
 こいつは分かってやがる。
 剣を振り上げてから振るう。
 この攻撃動作が二段階あることを──。
 だから振りかぶりながら攻めてきた。あとは武器を振るうだけ。それで攻撃モーションが一段階に短縮出来る。
 戦い慣れているのだ。
 そう言う相手には初弾からジャブで入ろうとも速度は互角になる。こうなるとリーチの長い武器のほうが素手よりも圧倒的に有利になってしまう。もう小手先の誤魔化しを有した理論的な格闘技術は通じない。
 トリックでどうにかなる状況ではなくなった。

「ならば!」

 俺は拳を後方に振りかぶりながら力を腕に溜めて腰を落とした。大きく股を開いてどっしりと待ち受ける。
 そんな俺に光るシミターを振りかぶったキングが走り迫まった。

「来いっ!」

「ガルルッ!!」

 先に対戦相手を間合いに捉えたのは当然ながら武器持ちのキングのほうだった。素手の俺が先に届く間合いではない。
 俺の射程距離外からキングが光るシミターを袈裟懸けに振るう。

「ぜえぁだワン!!」

「ぐふっ!」

 キングが振るったシミターが俺の鎖骨の辺りから斜めに胸を切り裂いた。その一撃で胸の内部で鎖骨や肋骨が割かれる音が聞こえてくる。
 切られたのは骨だけじゃあない。光るシミターの刀身は肺おも切り裂き俺の心臓も傷付けていた。普通なら致命傷だろう。

「ぐぐぐっ!」

 切られた刹那、刃物の進む圧力によって俺の喉を昇り鮮血が口内まで到達する。それでも俺は歯を食い縛って吐血を耐えた。

「なんの、これしき!」

 吐いていられるか。格好悪い。鉄の味が口に広がる。
 しかし、俺は後ろに踏ん張った足に力を込めて前に重心を流す。そこから全力のフックをキングの顔面に叩き込んだ。
 ボゴンっと音が轟いた。

「おらっ!!!」

「キャイン!!!」

 俺の豪腕フックを顔面に食らったキングの頬が陥没して拳の跡をハッキリと残しながら飛んで行った。頬の骨が砕けた間食が俺の拳にまで伝わってくる。

 そして、錐揉みしながらグルグルと宙を舞うキングが地面に倒れて更にゴロゴロと転がった。
 それからコボルト仲間の足元まで転がって止まる。
 予想するに絶命のダメージだろう。

「どうだい!!」

 俺は勇ましく両腕を上げながら歓喜を口に出した。すると光るシミターで切り裂かれた胸の傷が少しずつ回復していく。

『あわわわ……。今度は胸をバッサリと切られたのに……』

 キルルがオロオロと振る舞う。
 でも、袈裟斬りの傷は既に回復していた。切られた跡は鮮血の痕跡を残して消えている。

「どうなってるワンっ!」

「何故に死なないワン!」

「ふ、不死身だワン!!」

 外野のコボルトたちもオロオロとザワついていた。
 俺は自信満々な表情で口の中の鮮血を飲み込んだ。ゴクリと喉が鳴る。
 傷は回復するが、一度流れた鮮血は元に戻らないようだ。
 もしかしたら大量出血で貧血でも起こすかな?

 俺は自分の周囲を見回しながら考え込んだ。
 俺の周りには傷口から零れ落ちた大量の出血が殺人現場のように散らばっていた。バケツいっぱいのトマトジュースをひっくり返したような酷い有り様である。普通ならば大量出血で死んでいるだろう量に伺えた。

 だが俺は死ぬどころか貧血すら起こしていない。たぶん大量出血で意識が遠退くことすらないのだろう。

「ガ、ガルル……」

 そして、しばらくするとダウンしていたキングが体を起こした。殴られた頬を擦りながら立ち上がる。
 しかし、俺に殴られて砕けた頬は回復していた。俺の切り傷が消えたのと同じようにキングの殴られた跡も消えていた。

「あ、あれれ。頬が砕けて陥没したはずだワン……。なのに……?」

 キングにも陥没の自覚があるようだ。しかし、その陥没も治っている。

 俺は足元に落ちていた光るシミターを持ち主の方向に蹴飛ばした。回転しながら滑るシミターがキングの手前で止まる。

 それから俺は偉そうに腕を組ながらキングに言ってやった。

「まだ、出来るだろう、犬野郎。まだまだ、やるよな?」

 俺がニタリと微笑む。
 全裸の微笑みは変態ぽかっただろう。周りのコボルトたちが引いていた。青ざめている。

「ぅぅ……」

 悔しそうにも歯を食いしばるキングは足元から光るシミターを拾い上げると凛々しく構えて見せた。
 その間も俺を睨んで視線を外さない。まだ戦意は喪失していないようだ。一安心である。

 だが、キングは自信の薄い口調で訊いてきた。

「き、貴様は、死なないのかワン!?」

 俺は禍々しく微笑むと楽しげに答える。

「死ぬか死なぬか、殺せるか殺せぬか、自分で試してみろよ!」

 もうキングは二度ほど俺を斬り殺しているはずだった。なのに俺は意地悪っぽく言ったのだ。

 何故にって?

 戦いが楽しいからである。
 俺は、いつまでも、どこまでも、戦いを続けたいのである。

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