上 下
9 / 41

9・魔物と全裸で遭遇

しおりを挟む
 俺は陶器のワインカップを股間に被せながら森林の中を裸足で進んでいた。その後ろを幽霊のキルルがフワフワと飛びながら付いてくる。
 目指すは狼煙の先だ。

 俺は森の中を全裸のまま裸足で歩いているのだが、不思議と足の裏は痛くもなんともなかった。
 小石を踏んでも木の枝を踏んでも痛くないのだ。
 生前の俺ならば、裸足で森の中を歩くなんてあり得ない行為だっただろう。貧乏だったから裸足には慣れていたが、流石に森の中とかは無理である。
 なのに今の俺は難無く森の中を裸足で歩けていた。痛くも痒くもないのだ。

 異世界転生って凄いよね。足の裏までチート化してやがる。

 俺の背後をフワフワと飛びながら付いてくるキルルが訊いてきた。

『魔王様は全裸でも寒くないのですか?』

 俺は首を傾げながら考え込む。
 そう言えば服を着てなくても寒くも暑くもないな。気温的には丁度良く感じられる。でも、流石に霊安室は少し寒かったと思う。それでも我慢できない程でもなかった。

「うむ、寒くないぞ」

 俺の背後からフアフアと飛びながら追い越したキルルが笑顔で可愛らしいことを言う。

『子供は風の子元気な子なのですね』

「いや、これは魔王の能力だろうさ」

『魔王様の能力ですか?』

 キルルが可愛げに首を傾げた。

「ああ、俺は転生してきた時に、魔王の能力を貰っているのだよ」

『誰にですか?』

「女神からだよ」

『そうなのですか』

「まあ、能力と言うよりも定めだな」

『定め?』

 そうである。これは運命である。

 女神アテナは俺を転生させる前に言っていた。
 俺が授かる最強無敵のチート能力については、本能的に理解できるだろうと。
 その言葉通りに、俺は自分の最強無敵の能力を本能で理解できていた。何か説明文が付いてきていたわけでもないのに大体が理解できていたのだ。

 まず、一つは処女を抱くと死ぬ呪いだ。
 これはむしろ能力と呼ぶよりもペナルティーである。なので魔王の能力から除外しよう。

 俺が女神アテナから貰ったチート能力は大きく別けて三つだ。
 それは、最強無敵の戦闘能力が二種類と、魔王としての支配者の能力が一つである。
 だが、この三つの能力がいかにも不便なのに魔王らしい能力なのだ。

 そう、魔王の能力は、有利と不便が一体化している。

 一つ目は、身体能力の向上だ。
 これは今までの様子を見ていれば分かるだろう。単純な身体能力の向上だからである。
 寒くも暑くもないのは、これの影響だろうさ。

 そして、石棺の蓋を軽々と動かし、ゴーレムを殴り倒して、素手で穴を掘り、素足で森の中を歩けるのだ。
 明らかに身体能力が向上した結果だ。

 ただ、体が中古なのが欠点である。

 更に魔王の能力の大きな特徴は、【無勝無敗の能力】である。
 この無勝無敗の能力が、戦闘を行うのに大問題だった。

 その理由は──。

『魔王様、もうそろそろ狼煙のポイントに到着しますよ』

 俺の前を進むキルルが振り返ると言った。
 そのキルルの手首を俺は掴んで引き寄せる。

「バカ野郎、大声を出すな、キルル!」

 俺も大声になっていることに気付いていない。

『えっ、なんでですか?』

 何事かと戸惑うキルル。
 俺はキルルの唇に人差し指を当ててクールに格好付けながら黙らせた。そして静かに微笑みながら述べる。

「煙の先に居るのが敵か味方かも分からないんだぞ。ここはまず様子見だ。森の中から密かに忍び寄り様子を伺うんだよ」

『なるほど、魔王様もいろいろと考えているのですね!』

「なに、おまえ、俺をバカにしてるのか? 俺が何も考えていないお馬鹿さんだと思っていたのか?」

『いいえ、僕はただ偉いな~って思いまして』

「まあ、とにかくだ。忍び寄って様子を伺うぞ!」

『はい、魔王様!』

 俺とキルルが賑やかに話していた時である。森の奥から声が飛んで来た。

「んん、誰か居るのかワン?」

 早くも気付かれた。

「『もうバレたーー!!」』

 俺とキルルが身を寄せ合いながら驚いていると森の中から三匹の犬人間が姿を現す。
 頭が犬で体が人間のモンスターだ。
 シベリアンハスキー的なヘッドの犬人間だった。
 手に持った鉈で木の枝を切り裂きながら俺らの前に立つ。

「ぐるるるるるっ!」

 三匹の身形はボロボロの短パン一丁である。だが、細マッチョな体はイヌイヌしい体毛に包まれていた。首の辺りだけが特にフッサフサである。
 その犬人間が吠えるように質問を投げ掛けてきた。

「貴様らは誰だワン!?」

「こいつら、人間だワン!?」

「どこから来やがったワン!?」

「でも、全裸の変態だワン……」

 なんだ、こいつらは?
 ワンワンって五月蝿い犬っころだな。それにお前らだって短パン一丁の半裸じゃないか、半裸が全裸を差別すんなって感じである。

 全裸の俺が半裸の犬野郎どもを睨み付けていると、俺の背後に隠れていたキルルが耳打ちしてきた。

『魔王様、コボルトですよ!』

「コボルトって、ファンタジー世界の雑魚キャラのあいつらか?」

 俺もRPGゲームで倒したことがある。その時は指先一つでチョチョイのチョイだった。

 コボルトとは頭が犬で体が人型の雑魚モンスターだ。強さ的にはファンタジー世界の雑魚キャラ代表のゴブリンと同格程度の強さである。

『魔王様が何を言っているか分かりませんが、たぶんそれです!』

「がるるるるるるっ!」

 三匹が威嚇的に牙を剥いて俺らに近付いてくる。
 コボルトの一匹が鉈を俺のほうに向けながら言った。

「なんだ、貴様ら。何をこそこそと話しているんだワン!」

 更に別のコボルトが続いた。

「怪しいワン!?」

「そうだな、凄い怪しいワン!?」

「それよりも、全裸って変態だワン!!」

 一匹だけやたらと全裸にこだわる野郎が混ざってるな。何か全裸に恨みでもあるのだろうか?

 それよりも、警戒するコボルトたちは鼻の頭に深い皺を寄せながら、獰猛に牙を剥いていた。犬の口から涎がタラリと糸を引きながら地面に垂れる。

 どう見ても友好的な態度ではない。いつ襲いかかって来ても可笑しくない雰囲気であった。

 俺はふと疑問を抱く。

「こいつらに噛まれたら、狂犬病とかに掛かるのかな?」

「狂犬病?」

『なんですか、狂犬病って?』

 俺の疑問は皆にスルーされた。どうやらこいつらは狂犬病を知らないらしい。
 なんとも文化レベルが低いのだろう。
 まあ、しゃあないか、ここはファンタジーの異世界なんだものね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

処理中です...