30 / 47
30【ロバート・イーオー】
しおりを挟む
テーブルを挟んで睨み合う俺たち6名。椅子にふんずり返っている中年冒険者が相手のリーダー格なのは理解出来た。
彼はテンガロンハットを深々と被って視線を隠しているが、帽子の鍔から見える顔はニヒルだった。咥えた紙タバコがよく似合う。
埃っぽい顔肌に深いほうれい線。口元には髭剃りで剃り残したかのような無精髭にはポツリポツリと白髪も混ざっていた。更には首にはスカーフを三角折りにして巻いている。洋風ファンタジーには似合わない西部劇風である。しかし、上半身は分厚い装甲のハーフプレートであった。
店内を見回してみれば、似たような格好の者たちが多く見られた。装備しているのは甲冑なのにテンガロンハットを被っているのだ。おそらく中年冒険者の仲間なのだろう。グループで衣装を合わせているのだと思う。
すると中年冒険者が姿勢を戻すとテーブルの上に置いてあったグラスに手を伸ばす。グラスにはウイスキーのような色合いの酒が注がれていた。それを一気に飲みほしてから中年冒険者が述べる。
「座りなよ、魔法使い。遠慮は要らないぜ」
俺は言われるままにテーブル席に腰掛けた。男と向かい合う。すると中年冒険者がマジマジと俺の顔面を見つめてきた。空っぽの眼底を覗き込んでくる。
「その昔に骸骨の魔法使いが、この街に訪れたって話しがあったが、本当だったんだな。俺はてっきり子供騙しの戯言かと思っていたのによ」
俺は中年冒険者が話す内容を無視して自分が酒場に入っだ目的を音読アプリで語り出す。
『私ハ人々の外食事情ヲ調べたくッて酒場に立ち寄っタのだがね。何カ食べ物ヲ注文してモ構わないかナ』
中年冒険者が俺を睨みながら脅すように述べる。
「ここには人肉料理は無いぜ」
『食事ヲ取るのは私デはない。メイドのチルチルだ』
「この獣人は、人肉を食らうのか」
なんでそうなる。食らうわけがない。チルチルは蛮族と違うがな。可愛らしいキュートな獣人メイドだそ。こいつ、人の話を聞いていないのか、無駄に誤解をするんじゃあねえよ。話がややこしくなるだけじゃあないか。
俺は手を上げて店のマスターを呼び付けた。そしてチルチルになんでもよいから食べるものを注文しなさいと告げる。するとチルチルは店のマスターに肉料理を注文した。
その間も向かいの三人は俺たちを睨みつけている。その時にだ。チルチルが肩から下げている鞄が輝いた。おそらく新クエストの発生だろう。
椅子に腰掛けている俺がチルチルのほうを見ると彼女は鞄の中からウロボロスの書物を取り出して俺に差し出す。俺は受け取ったクエストブックを確認した。
【クエスト005】
ロバート・イーオーと契約を結べ。
成功報酬『障害物魔法・ボーンウォール』。
なるほど、今度は障害物魔法か。名前からして骨の壁を召喚して相手の進行や攻撃を妨害するまほうなのだろう。ファンタジーではしばしば見られる嫌がらせ的な魔法である。
問題は依頼内容だ。ロバートって誰だよ。その人物と契約を結べだと……、それって難しくないか。
もしかして、眼前のテンガロンハットオヤジがロバートさんなのかな。この状況では、その可能性が一番高いかもしれない。
俺は音読アプリを操作して訊いてみた。
『貴方ガロバート・イーオーさンですカ?』
俺の問に中年冒険者は目を見開いて驚いていた。今までにない反応である。すると咥えていた紙タバコをテーブル席に押し付けて火を消した。
その途端であった。チャイナ服の東洋人が跳ねた。中年冒険者の頭を超えて俺に飛び掛かってくる。
「チェェエエエエエ!!」
東洋人の飛び蹴り。それは奇襲である。
普段から暴力的な喧嘩に縁のなかった俺には奇襲が飛んでくるなんて想像にも出来なかった。だから驚きのあまりに体が硬直してしまう。体が避けるも防ぐも反応しなかった。椅子に腰掛けたまま無反応になってしまう。
だが、俺の頭の後ろから鋭い蹴りが伸びてくる。その蹴りが東洋人の蹴り足と激突した。
踵と踵が烈しく激突して鈍い音を鳴らす。途端、東洋人の足がグニャリと曲がる。脛の辺りから変形したのだ。
そのぶつかり合いで東洋人が打ち負けて後方に飛んでいき豪快に壁に激突する。頭でも壁に激突させたのか、東洋人はそれっきり動かなくなった。
俺の頭を超えて蹴りを繰り出したのはワカバだろう。こんなことをするのはワカバぐらいだ。それにあれだけ靭やかで細い足なのに力強いのはワカバぐらいだろう。間違いない。
続いて顔面にバタフライの入墨を入れている長身の男がテーブル席を回り込んで走ってくる。その手には腰から抜かれた鋭利なナイフが握られていた。それをワカバに向かって突き立ててくる。
それに対してワカバは手の中に隠していたダイエットバーを伸ばして応戦した。
瞬時に伸びたステンレス製の棒に入墨顔の男が驚くと、ダイエットバーが右手首を叩いてナイフを払う。
更に続くワカバの反撃。太腿を鞭のように叩いた直後に入墨顔の顎を横殴る。その二打で苦痛に歪む入墨顔の男がグラリとフラつく。その隙をついてワカバはダイエットバーで床を突いて軸を作ると体を縦回転にバク転を見せた。そこからのサマーソルトキック。
顎をアッパー気味に蹴り飛ばされた入墨男が大の字で倒れ込む。その口からは泡を吹いていた。白目も向いている。
ワカバの瞬殺劇。一瞬の間に細身のメイドが二人の男を伸してしまう。
「ちょりぃ~す」
ワカバは満足げに微笑んでいた。俺が向こうの世界から食事を持ってきたときの何倍も嬉しそうに微笑んでやがる。やっぱりワカバはバイオレンスが大好きっ娘らしい。
その瞬殺劇を見ていた中年冒険者が席を立った。そして被っていたテンガロンハットを取って胸の前に添えながら述べる。
「俺がお探しのロバート・イーオーだ。骨の魔法使い殿、何用かな?」
言った直後にテンガロンハットの鍔がポロポロと落ちて刃が露出した。帽子の鍔の下に刃物を隠していたのだ。
彼はテンガロンハットを深々と被って視線を隠しているが、帽子の鍔から見える顔はニヒルだった。咥えた紙タバコがよく似合う。
埃っぽい顔肌に深いほうれい線。口元には髭剃りで剃り残したかのような無精髭にはポツリポツリと白髪も混ざっていた。更には首にはスカーフを三角折りにして巻いている。洋風ファンタジーには似合わない西部劇風である。しかし、上半身は分厚い装甲のハーフプレートであった。
店内を見回してみれば、似たような格好の者たちが多く見られた。装備しているのは甲冑なのにテンガロンハットを被っているのだ。おそらく中年冒険者の仲間なのだろう。グループで衣装を合わせているのだと思う。
すると中年冒険者が姿勢を戻すとテーブルの上に置いてあったグラスに手を伸ばす。グラスにはウイスキーのような色合いの酒が注がれていた。それを一気に飲みほしてから中年冒険者が述べる。
「座りなよ、魔法使い。遠慮は要らないぜ」
俺は言われるままにテーブル席に腰掛けた。男と向かい合う。すると中年冒険者がマジマジと俺の顔面を見つめてきた。空っぽの眼底を覗き込んでくる。
「その昔に骸骨の魔法使いが、この街に訪れたって話しがあったが、本当だったんだな。俺はてっきり子供騙しの戯言かと思っていたのによ」
俺は中年冒険者が話す内容を無視して自分が酒場に入っだ目的を音読アプリで語り出す。
『私ハ人々の外食事情ヲ調べたくッて酒場に立ち寄っタのだがね。何カ食べ物ヲ注文してモ構わないかナ』
中年冒険者が俺を睨みながら脅すように述べる。
「ここには人肉料理は無いぜ」
『食事ヲ取るのは私デはない。メイドのチルチルだ』
「この獣人は、人肉を食らうのか」
なんでそうなる。食らうわけがない。チルチルは蛮族と違うがな。可愛らしいキュートな獣人メイドだそ。こいつ、人の話を聞いていないのか、無駄に誤解をするんじゃあねえよ。話がややこしくなるだけじゃあないか。
俺は手を上げて店のマスターを呼び付けた。そしてチルチルになんでもよいから食べるものを注文しなさいと告げる。するとチルチルは店のマスターに肉料理を注文した。
その間も向かいの三人は俺たちを睨みつけている。その時にだ。チルチルが肩から下げている鞄が輝いた。おそらく新クエストの発生だろう。
椅子に腰掛けている俺がチルチルのほうを見ると彼女は鞄の中からウロボロスの書物を取り出して俺に差し出す。俺は受け取ったクエストブックを確認した。
【クエスト005】
ロバート・イーオーと契約を結べ。
成功報酬『障害物魔法・ボーンウォール』。
なるほど、今度は障害物魔法か。名前からして骨の壁を召喚して相手の進行や攻撃を妨害するまほうなのだろう。ファンタジーではしばしば見られる嫌がらせ的な魔法である。
問題は依頼内容だ。ロバートって誰だよ。その人物と契約を結べだと……、それって難しくないか。
もしかして、眼前のテンガロンハットオヤジがロバートさんなのかな。この状況では、その可能性が一番高いかもしれない。
俺は音読アプリを操作して訊いてみた。
『貴方ガロバート・イーオーさンですカ?』
俺の問に中年冒険者は目を見開いて驚いていた。今までにない反応である。すると咥えていた紙タバコをテーブル席に押し付けて火を消した。
その途端であった。チャイナ服の東洋人が跳ねた。中年冒険者の頭を超えて俺に飛び掛かってくる。
「チェェエエエエエ!!」
東洋人の飛び蹴り。それは奇襲である。
普段から暴力的な喧嘩に縁のなかった俺には奇襲が飛んでくるなんて想像にも出来なかった。だから驚きのあまりに体が硬直してしまう。体が避けるも防ぐも反応しなかった。椅子に腰掛けたまま無反応になってしまう。
だが、俺の頭の後ろから鋭い蹴りが伸びてくる。その蹴りが東洋人の蹴り足と激突した。
踵と踵が烈しく激突して鈍い音を鳴らす。途端、東洋人の足がグニャリと曲がる。脛の辺りから変形したのだ。
そのぶつかり合いで東洋人が打ち負けて後方に飛んでいき豪快に壁に激突する。頭でも壁に激突させたのか、東洋人はそれっきり動かなくなった。
俺の頭を超えて蹴りを繰り出したのはワカバだろう。こんなことをするのはワカバぐらいだ。それにあれだけ靭やかで細い足なのに力強いのはワカバぐらいだろう。間違いない。
続いて顔面にバタフライの入墨を入れている長身の男がテーブル席を回り込んで走ってくる。その手には腰から抜かれた鋭利なナイフが握られていた。それをワカバに向かって突き立ててくる。
それに対してワカバは手の中に隠していたダイエットバーを伸ばして応戦した。
瞬時に伸びたステンレス製の棒に入墨顔の男が驚くと、ダイエットバーが右手首を叩いてナイフを払う。
更に続くワカバの反撃。太腿を鞭のように叩いた直後に入墨顔の顎を横殴る。その二打で苦痛に歪む入墨顔の男がグラリとフラつく。その隙をついてワカバはダイエットバーで床を突いて軸を作ると体を縦回転にバク転を見せた。そこからのサマーソルトキック。
顎をアッパー気味に蹴り飛ばされた入墨男が大の字で倒れ込む。その口からは泡を吹いていた。白目も向いている。
ワカバの瞬殺劇。一瞬の間に細身のメイドが二人の男を伸してしまう。
「ちょりぃ~す」
ワカバは満足げに微笑んでいた。俺が向こうの世界から食事を持ってきたときの何倍も嬉しそうに微笑んでやがる。やっぱりワカバはバイオレンスが大好きっ娘らしい。
その瞬殺劇を見ていた中年冒険者が席を立った。そして被っていたテンガロンハットを取って胸の前に添えながら述べる。
「俺がお探しのロバート・イーオーだ。骨の魔法使い殿、何用かな?」
言った直後にテンガロンハットの鍔がポロポロと落ちて刃が露出した。帽子の鍔の下に刃物を隠していたのだ。
10
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
ステップガ―ルとワイバ―ンの領主
六葉翼
ファンタジー
19世紀舞台はサバトの街ロンドン。一人の心霊現象に悩む英国紳士が訪れた霊能者は美しい少女だった。それは魔女と魔女の開戦を告げるほんの序章に過ぎなかった。サバトの街ロンドンを舞台に繰り広げられる魔女と魔法使いたちの物語今開幕!!!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる