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ep4.二度目の転生
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オレはこの日夢を見た。
崖から落ちる夢。結構な人はこの夢経験あると思うけど、実際には落ちてないのに落ちたような感覚に陥って寝ている体が飛び上がるんだ。
そして大抵はそこで夢は覚めるんだけど、なぜがオレは夢の中で永遠に落下し続けている。
夢からだんだん意識が遠のき、現実の体にひんやりとした冷たい下からの風とものすごいスピードで急降下している感覚。
オレはベッドで寝ているはず・・・なのに何が———。
「おお———まじかぁ‼︎」
なんと目を覚ますとオレは雲の上にいて、今まさに地上へとものすごい速さで落下している。
「おいおいおいおいおいっ、ベッドは?城は?えっどこ⁉︎」
急いで手足をばたつかせるが、勿論何の意味もない。
「は?」
だけどその瞬間、オレの視界に肌色の何かが映る。
「手が———肌色?」
普通人間の手は肌色だけど、魔族は誰一人として肌色はいなかった。そしてそれは魔王も例外ではなく。むしろ魔王は全身が黒っぽい色をしていた。
「うそ、また転生?」
そんなことありうるのか?
「あークソ!」
今は状況が状況だけに頭が上手く働かない。よしっ、まずはこの状況からどう生き残るかを模索しよう。
とりあえず、もしかしたらこの体も何かしらの力が使えるかも知れないな。どう考えてもこの状況は普通じゃないし。
「試してみよう」
オレは魔王の体で力を使う感覚と同じ感覚を利用して何とか力を発動させようと試みる。
「うわっ、できたよできた!」
その瞬間、オレの体は全身が黄金の光で覆い尽くされ、なぜか更に勢いを増してそのまま地面へと激突した。
「いってぇ~あれ?痛くない?」
「貴様、何者だ!」
顔を上げると、数十人という立派な鎧を着こなした戦士たちが一斉にオレへと槍を向けている。
「あっいや、えーっと・・・・・」
「答えられないのか?なら、貴様を敵とみなし即刻始末する、やれぇ!」
「やめなさい!」
囲んでいた槍が全てオレへと放たれようとしたその時、どこか懐かしさを彷彿とさせる聞き覚えのあるような声がした。
「ここは神がおられる神聖な城の中よ、例え敵だとしても始末することは許されないわ」
「こっ、これは失礼いたしました聖女様」
「この者に関しては私に一任してもらえますか?」
「はい、仰せのままに」
「貴方、名前は何て言うの?」
長い黒髪を揺らしながら、水色の瞳を持った女性はオレに問いかける。
「・・・・・」
「大丈夫?もしかして名前が分からないのかしら」
「別にそういうわけじゃ———」
おそらくこれは2度目の転生。一度目の転生で魔王だった頃は名前などなくただ単に魔王様と呼ばれていた。
そして今回、この体の名前などオレは知らない。
「まぁいいわ、少し私について来てもらえる?」
そう言われ、オレは尻餅をついていた状態から立ち上がり聖女と呼ばれる女性の後についていった。
「あのぉ、ここは一体どこ?」
「神殿よ。外敵から身を守るための力を神様から授かった者たちが暮らす恩恵の場と言ったところかしら」
「へぇー」
ゲーム内でも神殿と名のつく場所は存在していたが、人が住める場所ではなかった。確かにここは魔王城と同じくらいの規模、いやそれ以上はありそうだな。
まぁ魔王城はどちらかと言えば黒っぽかったけど、ここは白が強く強調されていてどうにも落ち着かないな。
「ついたわ」
またしてもオレの目の前には大きな扉が立ち塞がり、聖女様は扉を軽く2回ノックする。
「入るのじゃ」
扉の先から老人の掠れた声が聞こえた直後、ゆっくりと扉は開き始めた。
「失礼いたします」
部屋へ入り一番始めに視界に飛び込んできたのは老人の姿。
老人は、魔王城で言うところの玉座があった位置に座布団のようなものを敷いてその上に正座している。
「えっ、誰?」
「あの方は神様よ」
「神様って、神殿の?」
「ええ」
神様と言ったらもっとこう、神々しいイメージがあったけど、目の前にいる神様はどう見てもただのよぼよぼなじぃさんにしか見えない。
「彼がそうかのぉ?」
「はい、この目でしっかりと確認しましたから間違いありません。光り輝く柱が天から地上にかかった直後、神殿の中央広間に彼が現れました」
「これで私の役目も終わりじゃな、聖女アリスよ、後のことは君に任せよう」
「はい、長い間見守ってくださりありがとうございました」
「うむ、それではさらばじゃ———勇者よ」
「は?ちょっと待って、じぃさん!」
オレは終始わけもわからず、神様と称えられていた老人は跡形もなく姿を消してしまった。
「ねぇ、これってどういうこと?もう何がなんだが訳が分からないよ」
「落ち着きなさい。しっかりと説明してあげるから」
「分かった。はーっふぅ~」
「落ち着いた?」
「ああ」
「まず、私たち神殿に住む者は神様にそれぞれ戦う力を与えられ、勇者と呼ばれる騎士になるわ。けれど、本物の勇者じゃないの、言ってしまえば勇者と名乗っているただの騎士」
「だけど君は勇者じゃなくて、聖女って呼ばれてたみたいだけど?」
「そうよ、私は騎士でもあり聖女でもあるのよ。生まれたときから特別な力を持っていたからね。まぁ、話を戻すわね。私たちはただの騎士だけど、本物の勇者は別に存在しているの———それが貴方よ」
「オレ?」
斜め上の展開すぎて一瞬声が裏返ってしまった。
ということは、神様が最後に言っていた勇者ってオレのことだったのか。
「そうよ。神様は予言していたの、近い未来、天から伸びし黄金の光に導かれ勇者がこの地に降臨すると。そして貴方は予言の通りに現れた。貴方は私たちの希望になるのよ、魔族を撃ち、この国に平和をもたらす存在」
その話が本当なら、オレは魔王の次に勇者に転生してしまったことになる。
「・・・確認だけど、この話って冗談とか嘘でしたぁとかじゃないよね?」
「当たり前でしょ」
「だよね、そうだよね」
オレはまたしても死んでしまい次に勇者へと転生した、ってことだよな?
「フフッ魔王って死ぬの?どうやって」
「何か言った?」
「いや何も」
もし本当ならプロゲーマーだった頃に妄想していた夢が、早くも2つ目が叶ったことになる。
魔王の次は勇者か、最高じゃないか。
「オーケー、じゃあオレはこれからどうすればいい?」
「とりあえず、みんなに紹介するわね」
その後オレは、巨大な槍が突き刺さった運動場のような部屋へと連れて行かれる。
「ここにいるみんなは何をしてるの?それにあの槍は何?」
「訓練よ、魔族と戦うためのね。あの槍はそのぉ魔族にやられたものよ、士気を高めるためにあのままにしているの」
どう見てもオレが魔王初日に撃ち返した巨大な槍だ。まさか神殿に直撃していたとは、よく神殿は吹き飛ばずに済んだな。
頑丈さだけなら魔王城は遥かに劣る。
「じゃあ早速貴方のことを紹介させてもらうわ」
そう言って聖女様は運動場で訓練に励む騎士たちを一点に集合させ、オレの前へと座らせる。
「紹介させてもらうわ、彼は予言にあった勇者よ、魔王を討ち取れる最強の存在。名前は・・・貴方名前何ていうの?」
「名前?いや、勇者でいいよ。だってよく言うだろ?ほら、名を名乗るほどの者じゃないですってさ」
「何を言ってるの?貴方は名を名乗るほどの者よ」
「そう?うんー・・・・・あっアルゴノゥトだ」
咄嗟に出たその名前は、オレがプロゲーマーだった頃に見かけた勇者キャラの1人が使っていた名前だ。思いつかなったから借りてしまった。
「いい名前ね」
「だろ、自分でも結構気にってるんだ」
「おい!」
突然座っている騎士たちの中から声を上げ立ち上がる1人の男。
「いくら勇者と言えど、今日会ったばかりの者が聖女様に馴れ馴れしくしすぎだとは思わないのか?」
「いや、そんなつもりはなかったんだけど」
「やめなさいカリブ副団長!彼は勇者、これから私たちの希望となる存在よ」
「ですが、貴方は例え騎士と言えど聖女様なのです。適切な距離を保っていただかないと」
要するにあれだな。聖女様に対して好意を抱いているため、オレにあまり近付いて欲しくないと言うことだな。
「ああ、あの、安心していいよ。オレはそのぉ、恋とかよく分からないから聖女様を好きになったりしないし」
「貴様、何と無礼な!」
直後、オレの胸板へと1枚の白い手袋が投げつけられる。
「決闘だ勇者、俺が勝てば地に頭をつけ聖女様に今の非礼を詫びるんだ。いいな?」
オレは何かいけない発言をしてしまったらしい。まぁ謝ることなど今すぐにでもできることだけど、それじゃあ面白くないよね。
せっかくの異世界ライフだもん、楽しまなくちゃ。
「分かった、だけどオレが勝った場合は?」
「貴様への心からの謝罪をしよう」
「オッケー。いいよね?聖女様」
「手加減してあげてね」
「もちろん!」
その後オレとカリブ副団長、聖女様の3人とその他愉快な仲間たち数名は中央広間へと移動した。
「両者位置について」
オレとカリブはお互いに距離を保ち向かい合う。これは1対1の決闘。
ゲームではよくあるシチュエーションだ。まぁ、村人時代は1回も勝ったことなんてないんだけど。
「それでは、始め!」
聖女様の掛け声が放たれ、決闘が開始された。
何度やっても大人数から向けられる刺さるような視線だけは慣れないな。
「よそ見をするとは余裕だな!」
気がつくとカリブがすぐそこまで迫っていた。
だけど遅すぎる。
オレはカリブからの攻撃をあえて待ち、繰り出された鋭い剣の鋒を指先でつまみ初撃を止めた後、軽く握り込んだ拳をカリブの腹部へと打ち込んだ。
「ゴフッ」
すると弾丸のようにカリブは後方に飛んでいき巨大な柱へと激突した。柱は地面へと倒れて大きな砂埃を立てる。
運良く怪我人はいなかったけど、想像以上の力が勇者には備わっているらしい。
聖女様がオレへと多少睨むような視線を向けてくる。
「手加減してと、そう言ったわよね?」
「ああだから手加減したんだけど・・・もう少しした方が良かったかも」
「そう、そうね。もう少し手加減してくれた方が良かったわ。それにしてもとてつもない力ね、正直予想していた以上よ」
「まぁ、勇者だからね」
「ゴホッゴホッゴホッ」
気絶していたカリブが目を覚まして不安定な体をなんとか動かしながら歩き出す。
「約束だ。勇者、先ほどの俺の無礼を許してほしい、すまなかった」
「許すよ、だけどあんまり気にしないでくれよ。オレはこの勇者ライフをただ楽しみたいだけなんだからさ」
「勇者ライフ?」
「そう勇者ライフだ」
「ひとまず仲直りができて良かったわ。じゃあ紹介も済んだことだし、これから貴方の部屋に案内するわ」
そうしてオレは特筆すべき特徴が何もない普通の部屋へと案内された。置いてある家具はベッドと机のみ。その他洗面台にトイレ、お風呂は完備されている。
「早速で悪いのだけれど、明日は大切な話があるからそのつもりでいてちょうだい」
「大切な話って?」
「明日、みんなの前で話そうと思ってるわ。それじゃあ私はもう行くわね」
「ああ、ありがとう」
「その・・・貴方が私たちの下に来てくれたこと、とても感謝しているの、ありがとう」
「全然、それじゃまた明日」
聖女様は部屋を後にし、オレは色々と頭の中を整理するため今日は早めに眠りについた。
崖から落ちる夢。結構な人はこの夢経験あると思うけど、実際には落ちてないのに落ちたような感覚に陥って寝ている体が飛び上がるんだ。
そして大抵はそこで夢は覚めるんだけど、なぜがオレは夢の中で永遠に落下し続けている。
夢からだんだん意識が遠のき、現実の体にひんやりとした冷たい下からの風とものすごいスピードで急降下している感覚。
オレはベッドで寝ているはず・・・なのに何が———。
「おお———まじかぁ‼︎」
なんと目を覚ますとオレは雲の上にいて、今まさに地上へとものすごい速さで落下している。
「おいおいおいおいおいっ、ベッドは?城は?えっどこ⁉︎」
急いで手足をばたつかせるが、勿論何の意味もない。
「は?」
だけどその瞬間、オレの視界に肌色の何かが映る。
「手が———肌色?」
普通人間の手は肌色だけど、魔族は誰一人として肌色はいなかった。そしてそれは魔王も例外ではなく。むしろ魔王は全身が黒っぽい色をしていた。
「うそ、また転生?」
そんなことありうるのか?
「あークソ!」
今は状況が状況だけに頭が上手く働かない。よしっ、まずはこの状況からどう生き残るかを模索しよう。
とりあえず、もしかしたらこの体も何かしらの力が使えるかも知れないな。どう考えてもこの状況は普通じゃないし。
「試してみよう」
オレは魔王の体で力を使う感覚と同じ感覚を利用して何とか力を発動させようと試みる。
「うわっ、できたよできた!」
その瞬間、オレの体は全身が黄金の光で覆い尽くされ、なぜか更に勢いを増してそのまま地面へと激突した。
「いってぇ~あれ?痛くない?」
「貴様、何者だ!」
顔を上げると、数十人という立派な鎧を着こなした戦士たちが一斉にオレへと槍を向けている。
「あっいや、えーっと・・・・・」
「答えられないのか?なら、貴様を敵とみなし即刻始末する、やれぇ!」
「やめなさい!」
囲んでいた槍が全てオレへと放たれようとしたその時、どこか懐かしさを彷彿とさせる聞き覚えのあるような声がした。
「ここは神がおられる神聖な城の中よ、例え敵だとしても始末することは許されないわ」
「こっ、これは失礼いたしました聖女様」
「この者に関しては私に一任してもらえますか?」
「はい、仰せのままに」
「貴方、名前は何て言うの?」
長い黒髪を揺らしながら、水色の瞳を持った女性はオレに問いかける。
「・・・・・」
「大丈夫?もしかして名前が分からないのかしら」
「別にそういうわけじゃ———」
おそらくこれは2度目の転生。一度目の転生で魔王だった頃は名前などなくただ単に魔王様と呼ばれていた。
そして今回、この体の名前などオレは知らない。
「まぁいいわ、少し私について来てもらえる?」
そう言われ、オレは尻餅をついていた状態から立ち上がり聖女と呼ばれる女性の後についていった。
「あのぉ、ここは一体どこ?」
「神殿よ。外敵から身を守るための力を神様から授かった者たちが暮らす恩恵の場と言ったところかしら」
「へぇー」
ゲーム内でも神殿と名のつく場所は存在していたが、人が住める場所ではなかった。確かにここは魔王城と同じくらいの規模、いやそれ以上はありそうだな。
まぁ魔王城はどちらかと言えば黒っぽかったけど、ここは白が強く強調されていてどうにも落ち着かないな。
「ついたわ」
またしてもオレの目の前には大きな扉が立ち塞がり、聖女様は扉を軽く2回ノックする。
「入るのじゃ」
扉の先から老人の掠れた声が聞こえた直後、ゆっくりと扉は開き始めた。
「失礼いたします」
部屋へ入り一番始めに視界に飛び込んできたのは老人の姿。
老人は、魔王城で言うところの玉座があった位置に座布団のようなものを敷いてその上に正座している。
「えっ、誰?」
「あの方は神様よ」
「神様って、神殿の?」
「ええ」
神様と言ったらもっとこう、神々しいイメージがあったけど、目の前にいる神様はどう見てもただのよぼよぼなじぃさんにしか見えない。
「彼がそうかのぉ?」
「はい、この目でしっかりと確認しましたから間違いありません。光り輝く柱が天から地上にかかった直後、神殿の中央広間に彼が現れました」
「これで私の役目も終わりじゃな、聖女アリスよ、後のことは君に任せよう」
「はい、長い間見守ってくださりありがとうございました」
「うむ、それではさらばじゃ———勇者よ」
「は?ちょっと待って、じぃさん!」
オレは終始わけもわからず、神様と称えられていた老人は跡形もなく姿を消してしまった。
「ねぇ、これってどういうこと?もう何がなんだが訳が分からないよ」
「落ち着きなさい。しっかりと説明してあげるから」
「分かった。はーっふぅ~」
「落ち着いた?」
「ああ」
「まず、私たち神殿に住む者は神様にそれぞれ戦う力を与えられ、勇者と呼ばれる騎士になるわ。けれど、本物の勇者じゃないの、言ってしまえば勇者と名乗っているただの騎士」
「だけど君は勇者じゃなくて、聖女って呼ばれてたみたいだけど?」
「そうよ、私は騎士でもあり聖女でもあるのよ。生まれたときから特別な力を持っていたからね。まぁ、話を戻すわね。私たちはただの騎士だけど、本物の勇者は別に存在しているの———それが貴方よ」
「オレ?」
斜め上の展開すぎて一瞬声が裏返ってしまった。
ということは、神様が最後に言っていた勇者ってオレのことだったのか。
「そうよ。神様は予言していたの、近い未来、天から伸びし黄金の光に導かれ勇者がこの地に降臨すると。そして貴方は予言の通りに現れた。貴方は私たちの希望になるのよ、魔族を撃ち、この国に平和をもたらす存在」
その話が本当なら、オレは魔王の次に勇者に転生してしまったことになる。
「・・・確認だけど、この話って冗談とか嘘でしたぁとかじゃないよね?」
「当たり前でしょ」
「だよね、そうだよね」
オレはまたしても死んでしまい次に勇者へと転生した、ってことだよな?
「フフッ魔王って死ぬの?どうやって」
「何か言った?」
「いや何も」
もし本当ならプロゲーマーだった頃に妄想していた夢が、早くも2つ目が叶ったことになる。
魔王の次は勇者か、最高じゃないか。
「オーケー、じゃあオレはこれからどうすればいい?」
「とりあえず、みんなに紹介するわね」
その後オレは、巨大な槍が突き刺さった運動場のような部屋へと連れて行かれる。
「ここにいるみんなは何をしてるの?それにあの槍は何?」
「訓練よ、魔族と戦うためのね。あの槍はそのぉ魔族にやられたものよ、士気を高めるためにあのままにしているの」
どう見てもオレが魔王初日に撃ち返した巨大な槍だ。まさか神殿に直撃していたとは、よく神殿は吹き飛ばずに済んだな。
頑丈さだけなら魔王城は遥かに劣る。
「じゃあ早速貴方のことを紹介させてもらうわ」
そう言って聖女様は運動場で訓練に励む騎士たちを一点に集合させ、オレの前へと座らせる。
「紹介させてもらうわ、彼は予言にあった勇者よ、魔王を討ち取れる最強の存在。名前は・・・貴方名前何ていうの?」
「名前?いや、勇者でいいよ。だってよく言うだろ?ほら、名を名乗るほどの者じゃないですってさ」
「何を言ってるの?貴方は名を名乗るほどの者よ」
「そう?うんー・・・・・あっアルゴノゥトだ」
咄嗟に出たその名前は、オレがプロゲーマーだった頃に見かけた勇者キャラの1人が使っていた名前だ。思いつかなったから借りてしまった。
「いい名前ね」
「だろ、自分でも結構気にってるんだ」
「おい!」
突然座っている騎士たちの中から声を上げ立ち上がる1人の男。
「いくら勇者と言えど、今日会ったばかりの者が聖女様に馴れ馴れしくしすぎだとは思わないのか?」
「いや、そんなつもりはなかったんだけど」
「やめなさいカリブ副団長!彼は勇者、これから私たちの希望となる存在よ」
「ですが、貴方は例え騎士と言えど聖女様なのです。適切な距離を保っていただかないと」
要するにあれだな。聖女様に対して好意を抱いているため、オレにあまり近付いて欲しくないと言うことだな。
「ああ、あの、安心していいよ。オレはそのぉ、恋とかよく分からないから聖女様を好きになったりしないし」
「貴様、何と無礼な!」
直後、オレの胸板へと1枚の白い手袋が投げつけられる。
「決闘だ勇者、俺が勝てば地に頭をつけ聖女様に今の非礼を詫びるんだ。いいな?」
オレは何かいけない発言をしてしまったらしい。まぁ謝ることなど今すぐにでもできることだけど、それじゃあ面白くないよね。
せっかくの異世界ライフだもん、楽しまなくちゃ。
「分かった、だけどオレが勝った場合は?」
「貴様への心からの謝罪をしよう」
「オッケー。いいよね?聖女様」
「手加減してあげてね」
「もちろん!」
その後オレとカリブ副団長、聖女様の3人とその他愉快な仲間たち数名は中央広間へと移動した。
「両者位置について」
オレとカリブはお互いに距離を保ち向かい合う。これは1対1の決闘。
ゲームではよくあるシチュエーションだ。まぁ、村人時代は1回も勝ったことなんてないんだけど。
「それでは、始め!」
聖女様の掛け声が放たれ、決闘が開始された。
何度やっても大人数から向けられる刺さるような視線だけは慣れないな。
「よそ見をするとは余裕だな!」
気がつくとカリブがすぐそこまで迫っていた。
だけど遅すぎる。
オレはカリブからの攻撃をあえて待ち、繰り出された鋭い剣の鋒を指先でつまみ初撃を止めた後、軽く握り込んだ拳をカリブの腹部へと打ち込んだ。
「ゴフッ」
すると弾丸のようにカリブは後方に飛んでいき巨大な柱へと激突した。柱は地面へと倒れて大きな砂埃を立てる。
運良く怪我人はいなかったけど、想像以上の力が勇者には備わっているらしい。
聖女様がオレへと多少睨むような視線を向けてくる。
「手加減してと、そう言ったわよね?」
「ああだから手加減したんだけど・・・もう少しした方が良かったかも」
「そう、そうね。もう少し手加減してくれた方が良かったわ。それにしてもとてつもない力ね、正直予想していた以上よ」
「まぁ、勇者だからね」
「ゴホッゴホッゴホッ」
気絶していたカリブが目を覚まして不安定な体をなんとか動かしながら歩き出す。
「約束だ。勇者、先ほどの俺の無礼を許してほしい、すまなかった」
「許すよ、だけどあんまり気にしないでくれよ。オレはこの勇者ライフをただ楽しみたいだけなんだからさ」
「勇者ライフ?」
「そう勇者ライフだ」
「ひとまず仲直りができて良かったわ。じゃあ紹介も済んだことだし、これから貴方の部屋に案内するわ」
そうしてオレは特筆すべき特徴が何もない普通の部屋へと案内された。置いてある家具はベッドと机のみ。その他洗面台にトイレ、お風呂は完備されている。
「早速で悪いのだけれど、明日は大切な話があるからそのつもりでいてちょうだい」
「大切な話って?」
「明日、みんなの前で話そうと思ってるわ。それじゃあ私はもう行くわね」
「ああ、ありがとう」
「その・・・貴方が私たちの下に来てくれたこと、とても感謝しているの、ありがとう」
「全然、それじゃまた明日」
聖女様は部屋を後にし、オレは色々と頭の中を整理するため今日は早めに眠りについた。
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